時 評 | 谷川昌幸 ネパール協会HP同時掲載 |
2002年b (→Index)
021227 | ネパール「難民」 |
021219 | 「国民の思い」とは何か |
021215 | まだテロリストでなかった |
021212 | バッタライ博士の憲法論 |
021210 | 地雷でバス大破 |
021130 | 親王制=反M? |
021115b | ジュムラ/ゴルカ攻撃、42人以上死亡 |
021115a | リシケシ・シャハ氏、死去 |
021029 | テロ、エスカレート |
021019 | 新内閣――成り行き注視の世界世論 |
021014 | 党利党略のUML決定 |
021012c | カトマンズ爆弾テロ、死者1、重軽傷7 |
021012b | 国王指名のNC包囲内閣 |
021012a | 究極の選択、チャンド内閣 |
021005 | 国王「クーデター」、国王=マオイスト連立なるか? |
021002 | スクールバンダは正しいかも? |
020925 | 『キュー』―怪著か快著か |
020917 | 厳戒下のバンダ |
020912 | ネパールは危険か? |
020910 | 緊張疲れか運命論か? |
020906 | マオイスト小説、発禁ですか? |
020903 | 1村10ゲリラ |
020829 | 人民政府パスポート |
020815 | 苦笑突破できるか |
020808 | 解散合憲判決――最高裁の政治化 |
020804 | 明/暗 |
020723 | インドから見たマオイスト――『世界』記事 |
020720 | またまた和平提案 |
020715 | 陛下のために10票ほど |
020713 | 本当か? |
020711 | マユツバの米ネ「大本営発表」 |
020708b | Crownの権威 |
020708a | アカはアカか? |
020706 | NC爆破はマオイストか? |
021227 ネパール「難民」
ネパリタイムズ(123号)によれば、このところ毎日のように大量のネパール人がインドへ脱出しているという。
中西部を中心に、乳児から老人まで、1日数千人。ネパールガンジ国境だけでも、12月4〜11日の1週間で8千人が脱出。農閑期のインド出稼ぎではない。内乱状態で危険になり、村を捨ててインドに避難せざるをえないのだ。離村すれば、田畑は荒廃するし、インドに職のあてがあるわけでもない。それでも脱出せざるをえない。
難民条約等によれば、難民とは「政治的圧迫、戦災、自然災害などで生活の根拠を失い、故国や定住地を逃れ出た者」である。この定義からすれば、ネパール脱出者は「難民」といってよいだろう。
幸いインドは大国であり、その気になれば、たとえ2300万人がインドに脱出しても、鷹揚に吸収してくれるだろう。が、その気にならず、入国規制を強化すれば、たちまち「ネパール難民」が表面化するだろう。脱出ネパール人にとっては、いっそのこと難民認定を受け、国際的保護の下に入った方がよいかもしれない。
021219 「国民の思い」とは何か
12月19日付朝日新聞が「国難重なるネパール」という特集記事を載せている。個々の部分は特に問題はないが、全体としてみると、どこか違和感を感じる。
特集では、ギリジャ・コイララ、ダマン・ドゥンガーナ、クリシュナ・ハチェトゥら、もっぱらコングレスかコングレス系の人々の国王=チャンド内閣批判を紹介しているのに、中央の大きなデモ写真はUML系のものだ。
しかも、この写真のキャプションは「ギャネンドラ国王による前首相解任に抗議するために集まった市民ら」だが、写っているのは「市民ら」ではなく、UMLの学生・青年部が動員した人々だ。なぜこの写真が UMLデモの説明もなしに、NC系の人々へのインタービューで構成されたこの記事で使用されているのか。
チャンド内閣には、いまや元UMLや元マオイスト系の人も大臣として入閣している。一方、マオイストはUMLの国王接近を非難し、NCに急接近している。反国王で、マオイスト=NC共闘だってあり得ないことではない。
ネパールでは、「議会民主制」が「議員特権」擁護であることは、周知の事実だ。この国では、「民主主義」「議会制」といった言葉を使う場合、それがどの党派利益を代弁しているかをつねに考えなければならない。
記事は「国民の思いが反映されるとは考えにくい状況だ」と結ばれているが、ここでいう「国民の思い」とは何だろうか。まさか、国民=NCではあるまい。
021215 まだテロリストでなかった
訪ネ中のアメリカ国務省・南アジア担当次官補クリスチナ・ロッカさんによれば、アメリ
カは、マオイストがこれ以上ポルポト的実力闘争を続けると、彼らを「テロリスト・リス
ト」に載せることになるかもしれないという。
驚いた。もうとっくに「テロリスト・リスト」に載っていると思っていたのに。アメリカ
は案外寛容だ。本当のところ、米マ関係はどうなっているのだろう?
021212 バッタライ博士の憲法論
「それはクーデタだ」――近著「ネパール:力の三角関係」において、バッタライ博士は10月4日政変を、こう断罪した。論旨明快。既成諸政党の愚劣な憲法論など足元にも及ばない。さすがイデオロギー政党の理論的指導者だけのことはある。
バ博士によれば、反革命派知識人たちは、10月政変を秩序回復のための「不快だが必要な措置」「暫定的移行措置」とみなし、複数政党制議会制民主主義を覆すものではないと主張しているが、それはこのクーデタの本質を隠蔽するものだ。ルイ・ボナパルトからパキスタン軍事独裁者、そしてマヘンドラ国王まで、独裁者たちは憲法の「あいまいな両刃的規定」を利用し、「デモクラシーを可及的速やかに回復するため」と称してクーデタを正当化してきた。だが、われわれは、彼らの「言葉」ではなく、実際の行為を見て、判断しなければならない。ギャネンドラ国王は、内閣の助言を無視して首相を解任し行政権を掌握した。これは明白なクーデタであり、絶対王政への強権的復帰だ。そして、現内閣は「王室の意のままに踊る操り人形内閣」にすぎない。90年憲法の成果は葬り去られた。
バ博士の見るところ、現体制は「複数政党制パンチャヤット制」であり、本質的には以前の「非政党制パンチャヤット制」と何ら変わるところはない。
実に明快。レトリックも冴えている。バ博士からすれば、拙論(「会報」175号)などまさしく反動憲法学の典型で、反革命の走狗だろう。バ博士論文を読むと、バ博士こそが真の「護憲派」のように思える。
本当に、ぜひそうであってほしい。バ博士が現にそうされているように、たとえブルジョア憲法であったとしても、憲法は本来権力を縛るものであり、マオイスト運動の武器ともなりうる。憲法闘争に徹すれば、公平に見て、マオイストの方がはるかに有利だ。正義も利もマオイスト側にある。しかし、もしそれが出来なければ、バ博士の憲法論は、自らの行動によって裏切られ、根底から崩壊してしまうだろう。
時(prescription)が、どのような条件の下で正統性を生むかは、難問。別の機会に論じたい。
021210 地雷でバス大破
12月8日、カトマンズ発シンズリ行の夜行バスが、シンズリ手前で強力な地雷に触れ大破、20数名が死傷した。直接狙われたのは乗車していた兵士だろうが、犠牲者には学校教師や商人もいる。
民間バスで兵士を輸送し、それをマオイストが狙う。両者ともルール違反だ。
シンズリには行ったことがないが、爆破地点はおそらく幹線地方道であろう。つい先日イラム方面に行ったHさんも夜行バスですぐ近くを通ったに違いない。そんな道路に大型バスを大破するほどの強力地雷が埋められるとは、おそろしい。
政府は、マオイストに地雷を使わせないように、またマオイストは少なくとも無差別殺傷の可能性の高い地雷は使用しないように、自制してほしい。
021130 親王制=反M?
親王制がそのまま反マオイストとなるとは思えません。もしそうなら、親王制派、
親国王派がもっと激しく狙い撃ちされているはずです。
某氏がつい口を滑らせたように、ひょっとしたらコングレスの方が本気で共和制
樹立を目指すかもしれません。なんせビッグ・ブラザーは共和制ですから。M派
はそんなことも考えていると思いますよ。
いずれにせよ、戦われているのは人民「戦争」ですから、最低限、戦時国際法は
守っていただきたい。
021115b ジュムラ/ゴルカ攻撃、42人以上死亡
14日夜、マオイストがジュムラとゴルカを同時攻撃し、警官ら42人(インド紙では72人)以上が死亡した。首都バンダを押さえ込まれた仕返しか?
いずれにせよ、新政府にとって深刻な事態。このままでは国家破綻になってしまう。
021115a リシケシ・シャハ氏、死去
11月14日、リシケシ・シャハ氏が亡くなられた。77歳。民主主義運動家・人権活動家として著名で、国連ではハマーショルド事務局長事件の調査委員長をつとめられた。
パンチャヤット期には、1962年憲法の起草委員会委員長であり、国会議員も2回つとめた。
他方、「彼はマオイストのイデオローグであるバブラム・バッタライ博士を尊敬し、励ました」(Kiran
Chapagain, Kathmandu Post Nov. 15)という。もちろん、これは人民戦争開始以前、たぶん90年民主化運動の前後のことだろう。
10年前、お宅を訪問したことがあるが、いかにもネパールらしい紳士という感じだった。カトマンズ・ポストがいうようにバッタライ氏と関係があったのなら、人民戦争のことが聞いてみたかった。
021029 テロ、エスカレート
27日午後、タメルの商業ビルや王宮近くの映画館などが連続爆破された。タメルのビル爆破は午後2時38分。映画館の方は、90人がスパイダーマンを見ていたときだというから恐ろしい。また、容疑者200人逮捕というのも、ゾォーとする。
27日夜には、Rumjatar 空港がマオイストの大攻撃を受けたが、周辺に地雷が敷設されていたため、軍や警察は自由に動けなかったという。これも恐ろしい。
詳細は不明だが、旅行者は安全とはいえない状況になってきた。
021019 新内閣――成り行き注視の世界世論
チャンド内閣成立から1週間過ぎたが、祝意を伝えた(承認した)のは中国、モルジブ、ブータン、バングラデッシュだけだ(KantipurOnline,
Oct.18)。
欧米諸国、インド、そして日本も、「憲法を守れ」というだけで、新内閣(=国王)を支持するとも不支持とも明言せず、様子見の状態だ。
これは、現状では賢明な選択だ。127条の国王と128条の政党を比較すれば、憲法的には明らかに国王側に分がある。が、この国王親政が長引き強権化すれば、先述(No.2837)のように、それはクーデターとなる。世界世論は、それを強く警戒し警告を発しつつ、成り行きを見守っているのだ。
もちろん、政党側が抵抗権を行使し90年憲法体制を回復するか、革命権を行使し新憲法体制をつくるというのであれば、それはそれで筋は通るが、現状は抵抗権行使の状況(微妙だが)でも、革命権行使の状況でもないと思う。
勇ましくはないが、おそらく世界世論は中庸をえているのだろう。
021014 党利党略のUML決定
先にUMLは「今のところ断固反対ではない」と書いたが、UML常任委は10月12日、6党提案を無視しチャンド内閣を任命した国王の行為を違憲とし、抗議運動を始めると決めたようだ。
6党によれば、憲法127条による国王指名内閣は違憲であり、これに代えて128条による「主要政党の代表者からなる内閣」を任命すべきだという。
しかし、128条はパンチャヤット制から90年憲法体制へ移行するための経過規定であり、こんなものがいま使えるはずがない。
UMLは、なぜこんな違憲見え見えのごり押しをするのか。UMLは。NC分裂後、第1党となり、6党推薦となれば、当然、UML首相、悪くてもUML主導内閣となる。
こんなUMLの党利党略を、他党がすんなり容認するとは思われない。
021012c カトマンズ爆弾テロ、死者1、重軽傷7
10月12日朝、カトマンズ市内の交通の要所カリマチ・チョークで爆弾が爆発、死者1,重軽傷者7の被害がでた。かなりの規模の爆発のようだ。犯人はマオイストらしいが、まだ分からない。
目下、情勢はきわめて流動的。諸勢力が、新政府の瀬踏みをしようとしている。もはや、脅しのためのニセ爆弾ではない。本物の爆弾による無差別攻撃だから、防ぎようがない。情勢がある程度安定するまで、用心しないと危ない。
021012b 国王指名のNC包囲内閣
(1)国王=RPP=NSP=少数諸民族
チャンド内閣は、反NC色が鮮明だ。RPPとNSPは早々に支持を表明。UMLは有力者入閣で、お得意の日和見ながら、今のところ断固拒否ではない。エスニック・グループも山地とタライから入閣しているから、支持に近いだろう。
この布陣に対し、マオイストはどうでるか。何らかの形で体制内に入り人民戦争終結に向かえば、国王の賭は成功。継戦なら失敗。NCが巻き返すだろう。
(2)国王は「人民」である
またまた世の人権主義者や民主主義者に、あるいは怒られ、あるいは嘲笑されるだろうが、少なくとも現時点では、憲法上、国王は「われわれ」であり「人民」である。国王以外に「人民」を象徴し代表するものはいない。議会はデウバ氏が自ら壊してしまった。上院は残っているが、下院解散中は、国王の補佐的役割しか果たさない。スレスレ、ギリギリとはいえ、人民代表――正確には「国民」代表――は、国王しかいないのだ。
先進諸国は、「憲法を守れ」とネパールに圧力をかけているらしいが、それはつまり唯一残った正統性の象徴である国王を守れということに他ならない。他のどの勢力であれ、この状況で権力を握れば、事態は収拾がつかなくなると恐れているのだろう。
人権は複数(human rights)であり、当然、優先順位がある。いま何を最優先すべきかは、「人民」代表が当然考えるべき義務である。(天皇陛下のご威光の下で平和に暮らしている日本人には、また別の現時点における優先順位がある。)
賢明な国王は、「われわれ」のものである主権を憲法の精神に従って行使されるに違いないし、そうされることを期待している。
021012a 究極の選択、チャンド内閣
(1)こけにされた政党
デウバ首相の違憲助言に端を発した国王「クーデター」(No.2837参照)は、10月11日ついに国王がチャンド氏を直接首相に任命し、チャンド内閣を発足させるに至った。
デウバ氏の違憲助言は、あまりにも「できすぎ」で本心かどうか怪しいが、それはともかく、デウバ首相解任後の諸政党の右往左往ぶりは惨めで情けない。
デウバ首相を解任した国王に、5日以内に大臣候補を出せといわれて、あたふたと会議を開き、これを拒否したものの名案はなく、6党が雁首そろえて国王会見を申し入れても6時間待たされ、結局あえずじまい。さればと請願を出すも、これがメチャクチャ。
(2)違憲上塗り請願
10月8日の請願書で、6党は国王の行政権掌握は違憲であり、行政権は「人民」に戻すべきだと主張した。
しかし、「人民」とは誰か? まさか自らの選んだデウバ首相の解散権行使で「ただの人」になってしまった元議員ではあるまい。ましてや諸政党が「人民」でないことは、もっと明白。
現時点で憲法上「人民」を代表するのは、「われわれ」である国王だけだ。だから、行政権は戻すまでもなく人民(=国王)の手中にある。「人民」でもない「ただの人」に行政権を渡せば、まさしく違憲の上塗りだ。
次に、6党請願は、政党の推薦する人を首相に任命せよと言っている。もうメチャクチャ。すんなり6党合意で首相候補が出せるなら、こんな事態には決してなっていなかったはずだし、そもそも憲法上、どこにもそんな規定はない。理論的にも現実的にも不可能な提案を苦し紛れにしたとしか思えない。
(3)先進諸国の国王支持
この憲法危機に当たって、アメリカ、EU諸国の動きは活発だ。これらの国の最大の危惧はマオイスト問題だから、今の時点での選択肢は国王支持しかない。これら先進国(日本を除く)は、主要政党の指導者たちと次々に会い、マオイストに対抗するため当面は国王と協力すべきだという線で説得したようだ。国王親政の長期化は許容できないが、非常事態下の緊急措置としては、国王の行政権掌握を容認するという考え方だ。
(4)チャンド氏任命
国王はおそらくそうした先進諸国の姿勢を読んでいたのだろう。これに対し諸政党は、10月11日になってもまだ、新政府に政党を入れよと要求するため、国王との「団交」を求める有様。国王はそんな「団交」など一蹴し、バラバラに接見したそうだ。
国王は、おそらくそんな情勢を見透かし、チャンド氏を自ら首相に任命したのだろう。
(5)国王−6党−マオイスト
しかし、国王にとっても事態は予断を許さない。チャンド内閣に対し、6党とマオイストがどう動くか。6政党が反国王に回った場合、マオイストはどうでるか。
6政党のこの数日の動きが、今後の展開を決することになるのではないだろうか。
021005 国王「クーデター」、国王=マオイスト連立なるか?
(1)国王「クーデター」
10月4日(金)午後10時45分のTV放送で、ギャネンドラ国王は、デウバ首相を解任し、行政権を国王が掌握したことを宣言した。憲法127条が根拠だが、これは一種の「クーデター」だ。(本格的なクーデターになるかどうかは、今後の推移による。)
(2)選挙実施断念
「クーデター」の引き金は、11月13日の総選挙実施が困難になったことだ。
選挙手続きとのかねあいもあり、11月13日に選挙を実施するかどうかの決定は、10月4日までに出さねばならなかった(選管委員長談)。4日をすぎると、選管は立候補届を受け付け、実質的に選挙運動が始まってしまう。 主だった政党も、デウバ首相に、選挙延期か議会再開かの選択を迫った。
そこでデウバ首相は、3日、選挙延期を決断し、1年後の来年11月19日選挙実施をするよう国王に助言した。
この助言の根拠は憲法127条だが、この条文は実質上憲法の最後の条文であり、憲法の精神に従い補足的に使用されるはずのものだ。にもかかわらず、憲法施行の障害があるとき国王は必要な命令を発することができるという曖昧な規定を利用して、デウバ首相は良く言えば「超憲法的」な助言をした。
憲法57条では、議会なしの統治は最大限6ヶ月だから、これは明らかに憲法違反の助言であり、国王がこれに従えば、とんでもないことになる。デウバ首相は、議会なしにさらに1年間、通算で1年半にわたって政権を維持することになる。明らかに憲法違反であり、首相クーデターといってもよい。これは、どの政党も――選挙延期を言ったりしているものの実際には――容認できない。
(3)渡りに船のデウバ助言
超憲法的行為をせよとのデウバ助言――これを国王は待っていたのではないか。
助言後、国王は各政党の主だった人々の意見を聴取、そこでおそらく「クーデター」は容認されるという感触を得、首相解任、権力掌握の挙にでたのではないだろうか。
たしかに諸政党にとって、議会なしのデウバ独裁と国王独裁のどちらがよいかとなれば、デウバ氏では国が治まるはずもなく、国王独裁の方がよりましということになろう。すでに諸政党の意向もある程度受けたデウバ首相の選挙延期の超憲法的助言を、国王は受けている。「議会なし政治」は国王の発意ではなく、むしろ首相の助言だ。しかも、諸政党の意見を聴取するに、デウバ氏ら政党人では「議会なし政治」は無理だ。もともと「議会なし政治」の本家は国王だから、ここは国王自らがその任を引き受けよう――おそらくそういうことだろう。
「クーデター」で権力奪取した国王は、5日以内に、クリーンで、次の選挙に出ない人々を大臣に指名し、この政府の下で選挙を実施すると宣言した。王の下の内閣――伝統的な、あるいはパンチャヤット型の内閣だ。
これは非常事態下の臨時措置であれば、ぎりぎり合憲といえなくもないが、国王宣言には次の選挙実施日は示されていない。ズルズルこの体制が続くようだと、これは本物のクーデターだ。
(4)国王=マオイスト連立政府なるか
「クーデター」王政にとって、最大の課題は、もちろんマオイスト問題。強権政治で徹底掃討に向かうか、それとも新政府内に取り込み、国王=マオイスト連立政府となるか。どちらに向かうかは数日中に分かるだろうが、可能性としては、後者の方が大きいと思う。
人民戦争はゲリラ戦であり、これを力で鎮圧しようとしても、まず無理だ。米英の大規模な軍事援助を得て、国を焦土と化してもマオイストを抹殺するというだけの覚悟があれば、やってやれないことはないだろうが、賢明な国王はそんな選択はしないだろうし、インド、中国も許さないだろう。とすれば、「クーデター」王政は、マオイストを政府内に取り込む以外に方法はない。
マオイストを体制内に入れよ、というのはほぼ全党の共通する意見だ。ところが、政党政府にはこれができなかった。政党という同一レベルにいるからだ。
国王であれば、国民統合の象徴として一段高いところにいるわけだし、緊急事態に超法規的命令を出す権限もあるわけだから、法的には数千人を殺した殺人犯集団を、その重罪を帳消しにして、体制内に入れることができる。そんなウルトラCが政党にできるわけがない。
議会諸政党は、自ら政治責任を返上し、国王に救いを求めたのだ。デウバ首相の選挙1年延期助言は、国王「クーデター」をクーデターと見せないためのお膳立てだろう。国王は、「もう国王しかいない」と皆が納得する状況を待っていた。そのシグナルがデウバ助言だ。だから、国王「クーデター」は、合意による「クーデター」といってよいだろう。
(5)議会政治への復帰なるか
国王が、比較的短期間でマオイストを体制内に取り入れ、人民戦争を終わらせ、政治を安定させることができるなら、賢明な国王は、当然、議会政治に復帰されるだろう。そうなれば、国王の権力掌握は適切な合憲的緊急措置として賞賛され、歴史に残るだろう。
しかし、万が一、政治を安定させることができず、国王親政が続くようであれば、それはパンチャヤット制への後戻りであり、10月4日はクーデターの日として記録されることになるだろう。
私は、世の民主主義者には非難されるだろうが、ギャネンドラ国王の権力掌握を、今の段階では、クーデターとして断罪するつもりはない。それが、本物のクーデターになるか否かは、今後の国王の政治姿勢如何にかかっていると思う。
021002 スクールバンダは正しいかも?
スクールバンダって、全学ストのことですか? なつかしい。<p>
でも、公立校・私立校の格差は拡大の一方で、この問題については理屈の上ではMの方が断然正しい。
こんないびつな教育制度は、誰が見ても長続きしそうにない。しかも、それが幼小中学校から大学(短大)
以上にも及び始めている。<p>
この9月、キルティプールに行ったが、まともに授業なんかやっていないように見えた(短期間の観察
なので、間違っていたら訂正してください)。<p>
アジア開発銀行かどこかの巨額融資(か援助)で日本の大学も真っ青なピカピカの豪華校舎が出来でいたが、
はや内部は汚損が始まり、授業もチラホラ(休みだったか?)。<p>
他方、最近急増の私立大学(短大)に行くと、事情はまったく逆。私学はTUに上納金を出せば、
堂々と、正式の大卒(短大卒)免許が出せるらしく、皆大いに張り切っていた。<p>
こちらは授業料は高いが、実にきっちり授業をしている。日本の大学よりはるかに厳しい。キャンパスは
きれいで設備もかなり整っているし、教師の給料もよいらしい。この調子では、しばらくすると優秀な教
師と金持ち学生は皆私学に行くようになるのではないか。<p>
でも、そんな自由化、グローバル化がこの国で可能だろうか。Mの唱えるスクールバンダが、ますます説
得力を増すだけではないだろうか?
020925 『キュー』―怪著か快著か
神々の国ネパールでは、ビシュヌ神化身の国王像がマルクス・レーニンと仲良く並んで飾られていたり、道端で王室カレンダーと毛沢東カレンダーが並べて売られていたものだが、この9月にはそのような微笑ましく好ましい風景は目にしなかった。カレンダー、ブロマイド類はシーズンオフかと思い、本屋にマオイスト本を探しに行ったが、やはりなかった。
No.2788で述べた、P.R. Ryan, Kew, The Nepal
Maoist Strain も、むろんない。 遅まきながらもネパールが思想統制を始めたとすれば、ちょっとさびしい。
ところで、そのライアンさんの本だが、これは大変な怪著。アメリカ女性が、プラチャンダ議長の弟と結婚し、人民戦争に従軍、夫が爆死すると、「ネパールの慣習に従い」プラチャンダ議長のもの(妻、愛人)になり、優れた戦闘指揮能力もあり、マオイスト軍のリーダーの1人になる。が、そこにアメリカのかっこいい人権活動家があらわれ、中国毛沢東派の対米細菌テロ作戦への加担を強要され、悩んでいた彼女を救出し、ハッピーエンドとなる。
ストーリーは荒唐無稽だが、「プラチャンダ会見録」やカトマンズポスト記事など、資料が多数使用され、また CIA、FBI、ISI、王族殺害事件、チベット独立運動、対米同時多発テロなど危ない話し、いわくありげな面々が次々と登場、どこまでが事実で、どこまでがフィクションかわからない。 そもそも「小説」と必要以上に念押ししているところが怪しい。「小説」だよ、と予防線を張りながら、実はある「事実」を伝えたい――もしそうであるなら、これは快著である可能性がある。もう一度、よく読んでみたい。
020917 厳戒下のバンダ
今日9月16日はバンダ(ゼネスト)。街は古き良き時代のように静かで、排ガスのない初秋の空気は爽やかだが、重苦しい不安の気配が至る所で感じられる。
(1)爆破威嚇
昨日はバンダ参加をねらってか、各地で電力、放送、通信施設や有力政治家宅が爆破され、カトマンズでもエベレスト・ホテル前など数箇所で爆発物らしきものが見つかった。カトマンズの場合はまだ脅しが多いが、いつ本当に爆発するかしれない。
これだけ脅されているから、今日のバンダも大半の人は参加せざるをえないことになる。
(2)踏み絵
地方ではもっと厳しいが、カトマンズでも庶民は踏み絵を踏まされることが多くなった。体制側は、手先を私服で巡回させ「もし営業しなければ、後でひどい目にあわせるぞ」と脅す。しかし、もし体制側の脅しに屈し、店を開けようものなら、投石で店を壊されたり、後でマオイスト側からひどい報復を受ける。シャッターを開けるか閉めておくべきか、悩む所だが、結局は大半がより安全な閉店を選ぶことになる。
(3)バンダ破り
バンダでは、リキシャ以外の車は使用禁止となる。ときたま通る車を見ると、報復を逃れるため、前後のナンバーを隠している。報道関係は許されているらしく、ナンバー部分に「PRESS」と表示した車も走っている。
私自身、数年前、バンダ破りをしたことがあるが、バクタプール付近で投石を受け、恐ろしかった。バンダ破りには、決死の覚悟がいる。
(4)バンダの街を見学
バンダの実情を見るため、タメル租界から街に出かけた。すべて徒歩で、タメル→王宮前・ダーバーマーグ→バグバザール→シンハダーバー→スンダリチョーク→ニューロード→インドラチョーク→タメル、と数時間見て歩いた。車が走っていないので、快適そのもの、道路上をのんびり歩いていった。
(5)準戒厳令状態
街では、兵士と警官が至る所で警戒していた。
十数人の兵士が緊張した面持ちで路地を一つ一つ探索してまわり、要所では数名の兵士が銃を腰に構え警戒していた。特にガソリン・スタンドは厳重で、20人位で守っていた。
また、数名の兵士を乗せ機関銃をすえたトラックや、窓から銃口を向けている兵士数名を乗せた小型ワゴンが、町中を走り回り、一方、警察は、最近導入したらしいスズキ、ホンダの白バイ隊や、警官を満載した警備車を巡回させていた。
(6)バンダの浸透
タメルなど、一部観光地を除き、バンダはほぼ完全に守られ、店はまったく開いていなかった。見事というほかない。
そのかわり、いつもは商店に客を奪われ、天敵の車には蹴散らされ悲哀を味わされていた露天商が繁盛していた。マルクス、レーニン、ガンジーから恋愛小説まで道一杯にならべている人、衣類や時計を売る人など、あちこちで思い思いに店開きしていた。
一方、役所関係は、メンツもあり、文部省も中央郵便局も開いていたが、人の出入りは少なかった。また、不思議だったのは、VISAなどの現金支払機が稼動していたこと。マオイストが軍資金でも引き出しにくるのだろうか?
(7)庶民への配慮
マオイストの統制はよく取れていて、庶民生活に最低限必要な活動は許されているようだった。救急車、病院関係の車は走っていたし、薬局も開店していた。
リキシャや露天商は稼ぎどきだし、庶民への配慮もあるから、下層民にとってはバンダもそれほど悪くはないかもしれない。
(8)バンダ下のデモ
過激派の集結地の一つ、スンダリチョークに行くと、案の定、デモ隊が行進の準備をしていた。警察はこわごわと見守るだけ。以前、ここでデモ隊と警官隊の乱闘に巻き込まれかけたことがあった。不穏な状況下では、来る所ではないが、恐いもの見たさに、また来てしまった。幸い、今日は乱闘にはならなかった。
(9)歩道橋建設の倒錯
街中が歩行者天国になったので、近代の愚挙、歩道橋の倒錯に改めて気づかされた。
バンダで車が来ないのを確認すると、私はすぐ車道の上を歩きはじめたが、ネパール人の多くは狭い歩道を歩いていた。これは驚異の体験だが、更に進むと、歩道橋の下に来た。何と、ネパール人は上を歩いている!
カトマンズは今、歩道橋建設ラッシュ。どこの援助か知らないが、まさか歩道橋撤去運動の進んでいる日本ではあるまい。
歩道橋の下を歩いてみると、この近代的合理性がいかに倒錯しているかがよく分かる。強者(車)の効率と利益のため、弱者(車に乗れない人、老人、子供、妊婦など)が上を歩かされる。おまけに、街の景観が醜く害される。カトマンズにこんなものを作ってはいけない。
今日歩いてみて、この街は歩くのに適当な大きさ、急ぐときでも自転車があれば十分なことがよくわかった。
(10)外資の横暴
すべての店がシャッターを降ろしているので、外資支配のすさまじさが、一目瞭然であった。シャッターは、コダック、コニカ、LG、SUMSUNG、コカコーラなど外資の宣伝で埋め尽くされている。外壁や立て看板にはなぜか東芝が急増中。バッタライ同志でなくとも、外資支配に怒らざるをえない。特に
90年民主化運動以後がひどい。経済自由化を強要してきた先進国の責任は重い。
●今回のバンダでは他にもいくつか気付いた事があるが、それらについてはまた後で報告させていただくことにする。
020912 ネパールは危険か?
2791を読まれた方から「ネパールは危険か」とのご質問をいただきましたが、滞在わずか3日の一旅行者の経験では、残念ながら何ともいえません。専門スタッフをおき常時キッチリ情報収集されている日本大使館の危険情報が最も信頼性が高いはずなので、それをご覧になり、ご判断下さい。
もともと危険性の判断は何を基準にするかにより異なります。人民戦争では外国人が直接攻撃対象にされ殺された事は確か一度もなく、交通事故死1万人の日本社会や遭難死の多い日本の冬山よりもはるかに安全といえます。
一方、入国3日にして2回、脅しとはいえ爆弾騒ぎに遭遇するというのは異常であり危険極まりないともいえます。この数日の爆弾騒ぎはいずれも特殊な場所でなく、庶民の行き交う街角で、これはもう警戒のしようがない。脅しに止まる事を祈るのみです。
また、地方に行けば、戦闘に巻き込まれたり、見誤りで攻撃されたりする(中国人が攻撃されたことがある)可能性もあります。
それに、外国人を攻撃対象にしないという方針からして、いつ変更されるか分からない。私自身を含め外国人こそが諸悪をネパールに持ち込んでいる張本人だから、理屈からすれば外国人排除の方が理にかなっている。また、日本国はマオイストをテロリストと認定し、対テロ戦争に正式に加担しているのだから、マオイストから見れば日本人は敵国の国民です。政府と人民は別といった甘えがいつまでも許されるとは思えません。
結局、旅行を中止するほど危険かどうかは、残念ながら、一概には言えないという事にならざるをえません。それに、そもそも危険は何かをする場合の判断基準の1つにしかすぎません。若者に危険だから車に乗るなといっても無駄だし、山男に危ないから登るなといってみても仕方ない。どんなに危険でもやりたい事が人にはあるのです。リスクをとる、とは恐らくそういう事でしょう。
ご計画中のネパール旅行は、信頼すべき日本大使館の情報などを収集され、危険性を相対的に評価し、危険に見合うだけの意味があるかどうかで、判断されるとよいと思います。
020910 緊張疲れか運命論か?
8日夕方、RNAでカトマンズ着。マオイスト問題に加え、9.11直前なので、さぞ緊張しているもの
と覚悟していたら、なんと、あの昔懐かしいネパール的混沌の雰囲気が新ピカ空港に戻っていた。金属探知器が
ピーピー鳴っても係員はいないし、荷物はフリーパス。悪人さえいなければ、実に人間的。
ところが、翌日新聞を見ると、その頃シンズリでは警官隊がマオイスト部隊に包囲攻撃され、49人が死亡。
パタンでは、真っ昼間に爆弾で交通遮断(麻袋の中身はチョコレートだった)。
9日午前、タクシーでデリィーバザールに向かうと、今度は本物の爆弾発見で、交通遮断。野次馬で道路は一杯
だった。アフガンのように、おとり爆弾、本格爆発となったら、大惨事だ。と心配していたら、今日はアルガ
カンチで警官と兵士が65人戦死。
10日には、サネパの某氏訪問中に、すぐ近くでまたまた爆発物。これで、2日連続で爆弾との二ヤミスだ。状況は
緊迫しているはずなのだ。
しかし、街には3月訪問時のあの緊迫感はない。あちこちにいる警備兵も、3月には違和感があり、極度の緊張を
強いられたのに、今はすっかり街に溶け込み、自然の風景となっている。地方では連日戦闘で大量戦死、街では
爆弾テロ続発というのに、この緊張感の無さは全く不可思議だ。緊張疲れか、それともこれがあのFatalism
なのだろうか。
Ps. マオイスト攻撃部隊は、シンズリ1500人、アルガカンチ3000人だというから、これだけで4500人。
政府側の戦力は、シンズリ73人、アルガカンチ310人だから、マオイスト部隊に完全包囲され、十数時間にわたって
攻撃されたら、その惨状は想像に難くない。マオイストは、どうしてこのよう大戦力の動員や補給が可能なの
だろうか。
020906 マオイスト小説、発禁ですか?
Paul Ryder Ryan さんが、マオイスト小説 "Kew,
The Nepal Maoist Strain" を出した。興味を引かれるのですが、英文小説は大の苦手だし、内容も見当がつかない。
どなたか、既に読まれた方、感想をお聞かせください。この方面に強い文筆家の藤本さん、もう読まれましたか。それともネパールでは、発禁本ですか?
020903 1村10ゲリラ
本当にどちらが優勢なのか、まるで分からない。連続爆破事件もそれなりに統制はとれているが、9月中旬がどうなるか、心配だ。
ある報告によると、人民政府は25郡に設立され、国土の25%を実効支配しているという。また権威ある国軍推計によると、マオイストの戦力は5〜6千人で、退役グルカ兵が訓練しているという。強いはずだ。
財政も結構豊からしい。「人民の敵」からの没収に加え、住民からは給与の5%、または月1日分の収入を住民税として徴収しているらしい。さらに各村にはそれぞれ10〜12人のゲリラ兵の面倒を見ることも義務づけられているという。
事実だとすると、人民政府の統治は想像以上に浸透していることになる。
020829 人民政府パスポート
人民政府が根拠地への「外国人」入国監視や住民の移動規制をしていることは周知の事実だが、どうやら最近、出入国管理のためパスポートを発行し始めたようだ。そのうち入国ビザ発行も始まるかもしれない。
このような人民国家形成への動きを「王国政府」はどこまで許容できるか。またまた難しくなりそうだ。
020815 苦笑突破できるか
なかなか面白い風刺ですね。批判が許されないか、批判しても効果のないところでは、風刺が現れ、権力をたじろがせる。
ただ、用心しないと、風刺は「ガス抜き」として利用される。ガイジャトラの時期には、日本なら名誉毀損か猥褻物陳列で間違いなく逮捕されるような、かなりきわどい権力者風刺が出回るが、実際には、お祭りの無礼講、庶民のうっぷん晴らしとして利用されているような気がします。
でもそのうちに、権力者が激怒し、だが権力者たるもの小人のように怒りを表に出せず、もだえ死ぬ、といったスゴイ風刺や、ガス抜きのつもりで大目に見ていたら本当に爆発してしまった、といった危険な風刺が出るかもしれませんね。この国には。
020808 解散合憲判決――最高裁の政治化
8月6日、最高裁がこの5月の議会解散を合憲と判定した。
首相の議会解散権行使はよほどのことがない限り合憲で、私も5月解散は合憲と思うが、だったらアディカリ元首相の解散はなぜ違憲だったのか? ネパール最高裁はあまりにも政治化しすぎている。
これに比べると、日本最高裁は慎み深く奥ゆかしい。日本最高裁は、肝心のことになるとたいてい統治行為=政府責任で逃げ、おかげで9条がありながら自衛隊も日米安保も、アフガン参戦も有事法制=非常事態(国民総動員)体制も、全部行政府の思うまま。日本から見ると、ネパール最高裁の勇敢さがうらやましい。が、・・・・
それにしてもネパール最高裁は少々やりすぎ。議会解散のような高度に政治的な事柄については、主権者国民の判断を仰ぐことにしないと、最高裁が政治化・党派化してしまい、国民の信頼を失ってしまう。
ついでにいえば、シンボルマークの「木」の使用も、選管と最高裁はデウバ派NCに認めるのだろうか。そうなれば、コイララ派57人衆は怒り狂い、地上に出たがっているマオイストに代わって、選挙ボイコットなんてことになりかねない。
まさかそんなことはないと思うが、ネパール政界には、負けそうになると土俵から降り、外から攻撃するという長い伝統があるので、絶対ないとも言い切れない。そこが難しい。
020804 明/暗
明暗はもちろん立場によって逆転する。以下は、憲法理念の側からの記述です。
<明>
人民戦争の一方の主戦場で、バッタライ人民評議会議長のお膝元のゴルカは、そもそも王家発祥の地でありカトマンズに近いこともあって、国軍のマオイスト掃討作戦に力が入り、治安がかなり回復してきた。
ゴルカのマオイスト勢力は、ゲリラ正規兵178,民兵80、支援者400だったが、掃討作戦で地域幹部多数を失い、補給をたたれ、今では勢力は半減している。劣勢になるにつれ、バッタライ派と反バッタライ派の内紛も激化した(M派は否定)。
閉鎖されていた学校も再会され、道路・橋は補修されている。バンディプルのノートルダム校(日本支援)も再開されたそうだ。
もう少し西のMyagdi方面でも、治安回復の兆しが見える。ややマユツバだが、マオイストは政府施設、私学、小規模発電所(タトパニなど)の破壊だけでなく、寺院を冒涜し牛肉食を強要したため、村人が離反し始めたという。この地方のマオイストは50人だそうだから、村人が結束すれば、十分に対抗できる。
<暗>
西部のマオイスト支配地域では、早くも食糧危機が生じ始めた(No.2707参照)。
ある保健婦が病気の子供を連れてきた母親に「食後に飲ませてね」と薬を渡した。2日後、母親に尋ねると、「まだ飲ませていない」という。子供は2日間、ご飯を食べられず、薬を飲めなかったという。村の女性と子供と老人には、薬よりも何よりもまず食料なのだ。
政府とマオイストの狭間で、どこに逃げることも出来ない村人たちが飢えと恐怖におののいている。
飽食日本の私には、その辛さは想像もつかない。おそらく虚栄の市カトマンズの政官幹部にも、優雅な避難地インドの革命英雄たちにも、ご飯がなく薬も飲めない病気の子供の辛さ、母の悲しみは、実感できないのではないだろうか。
(Nepali Times, #102,103)
020723 インドから見たマオイスト――『世界』記事
『世界』8月号に、ネルー大学M・ラマ教授の「マオイズム運動とは何か」(野津治仁氏訳)が出ている。面白いが、疑問もある。お読みの方、ご感想をお聞かせ下さい。
(1)「単純な理由と期待によって彼らはマオイストの仲間に入り、確固たる支持者となった」(p206)===いくつかの調査や報道によると、むしろ「絶望の結果」であり、「確固たる支持者」とは思えないのだが?
(2)「今日のマオイストの興隆は、ネパール共産党(統一マルクスレーニン主義)の呪縛から解放されたことによる」(p209)===地方のUML支持層とマオイストは重なっているところもある。これをどう見るか?
(3)「幹部主導の運動ではない」(p207)===この種の運動としては統制がとれており、幹部主導の運動と見た方がよいのでは?
(4)「首相や大臣のポストをカースト差別にしたりすることを禁止する憲法上の規定は残念ながら無い」(p212)===これは明白な誤りだと思うが?
(5)「かつてネパールの全政党が30年近くにわたって闘った王室」(p213)===全政党ではなく、諸政党(もちろん非合法)は国王派と反国王派に分かれていたのでは?
(6)「堅固な連邦構造か、あるいは連邦制度に準じた構造をとる以外に選択肢はない」(p213) ===一つの選択肢ではあるが、多民族混在の現実を考えると、狭い邦になればそれだけ少数派抑圧がひどくなる一方、全体としてはネパール解体となる危険性が大きいのでは?
020720 またまた和平提案
マオイストが、プラチャンダ議長声明(7/18)で、またまた和平を提案した。
仏様のように寛大な提案だ。立憲君主制を容認し、憲法制定会議も招集しなくてよい。選挙のための暫定政府をつくり、その政府の下で11月選挙を実施せよ(そうすれば地上に出て、選挙に出る)、ということのようだ。
「また、そんなことを言って!」と端から相手にしない人も多かろうが、状況からみて、今度は本気かもしれない。
(1)王族殺害事件から1年たち、とりあえず新王制が軌道に乗り、危機を必要としなくなった。
(2)カシミール危機に対処するため、印米中がネパールの安定を必要とし、本気で圧力をかけ始めた。インド国内のネパール・マオイスト系 集団の取り締まり強化。アメリカの対ネ援助強化。中国の「ネパール・マオイスト非難」声明。
(3)内戦による消耗。人民戦争の犠牲者4700人の相当数がマオイストだとすると、戦争継続が困難になってきた。政府宣伝ほどではなく とも、マオイストがかなり消耗しているのは事実。
和平提案の真意が何であれ、とにかくまず停戦し、和平交渉を始めてほしい。まだ、手遅れではないと思う。
020715 陛下のために10票ほど
「国王陛下の外遊出発日と帰国日をすべて国民の休日にすべきか?」――このアンケートに、イエスを10票ほど投票した。(Yes
13.1%, No 85.9%; Nepalnews.com, July 15) 王制はもともと非合理なものだから、儀式は非日常的・非合理的でなければならない(No.2727
参照)。
教育が阻害される? いいではないか。ネパール近代教育は、近代型カースト制をもたらした。理数科の成績、英語能力によって、ネパール青年たちは見事に階層化されている。伝統型カーストなら、「ケシカラン」と怒ることも、「宿命だから仕方ない」とあきらめることも出来たが、近代型は「能力」と「努力」という内面化された合理的根拠に基づいており、すべてが自己責任で、逃げ場はなく、したがって抵抗もあきらめも出来ない。貧困は神の責任ではなく、すべて本人の責任にされた。国民の9割ほどが、鉄鎖のごとく無慈悲な罪意識を強制されようとしている。
それが歴史の必然なら対応せざるをえないが、わずか10数年でこんな急変が起こったら、たいていの人には耐えられないだろう。抵抗もあきらめも出来ず、不満だけが加速度的に増大していく。この人民の不満を、誰が満たしてくれるのか。
その見通しが立つまで、非合理の儀式により王冠の神秘を維持することが、ネパールにとっては、賢明(prudent)だと思う。たとえ真理(true)ではないにしても。
貧困と差別を教育不足のせいにしてはならない。近代教育こそがはるかに過酷で罪深い貧困と差別を生み出すのだ。
020713 本当か?
キラン・グルン氏逮捕の件は、気にはなったが、直感的に「これは変?」と思い、続報を待つことにした。(nepalnews.com
July 11以外に、続報はありますか?)
このグルン氏(宛先のグルン氏は別か?)が日本に数年住み、妻も日本人なら、日本の麻薬密輸検査の厳しさは十分知っているはず。なのに、98kgものハッシシを新聞紙に包んで送る! まるで逮捕してください、と言っているようだ。
立証責任は、権力者の場合は権力側にあるが、非権力者の場合は権力(国家)側にある。有罪確定までは被疑者・被告人は「無罪」と推定される。グルン氏が「やった」かどうかはまだ分からない。それを法的に判定するのは裁判所だ。
日本がらみだから、当然、日本警察も捜査するだろうから、その結果を待ちたい。裁判所ですら「疑わしきは被告人に有利に」といっているのに、世論が先走ると、今度は日本人も含めた冤罪事件になりかねない。
020711 マユツバの米ネ「大本営発表」
朝日新聞(7/11)が、アフガン攻撃報道の検証をしている。91年の湾岸戦争発表の大嘘にだまされ、いいように利用された苦い経験があるのに、マスコミは今回も同じ過ちを繰り返したようだ。
米軍「アルカイダ千人を殺害」と発表するも、地元当局の確認遺体は数十。「誤爆」については銃剣で脅し取材拒否。7月1日の結婚式「誤爆」で100人以上死亡の大惨事も、「敵」殲滅に成功しておれば、「敗残兵一掃の大戦果」となっていただろう。
これに比べれば、ネパール政府の戦果発表の方が信頼度が高く、マユにツバする余裕もある。米国ほど現代的に洗練されていないが、ネパール報道も「大本営発表」には違いない。用心したい。
020708b Crownの権威
藤本さんの下記記事によれば、7月7日、国王誕生日が盛大に催されたそうだが、国王の権威回復のためには、これは大切であり、まことに結構なことだと思う。そもそも、かつて権威なくして永続した国はなく、いまの議会に権威樹立の望みがないとすれば、当面は国王に期待する以外にない。
権威は、もともと外見であり、儀式は付き物だ。イギリス女王の儀式は、「おもちゃの兵隊さん」をはじめ、アナクロニズムとも子供だましともいえようが、なかなかどうして、それらこそが王冠の威厳を支え、連合王国の統合を可能にしている。
はるか海の向こうのカナダやオーストラリアが、いまだ英国から離れず、エリザベス女王を「元首」に戴いているのは、極論すれば、あの「おもちゃの兵隊さん」のおかげだ。王冠恐るべし。
ネパール国王にも、英国を見習い、大いに儀式をやり、Crownの威厳を高め、もって暴力使用を抑止してほしい。
しかし、もう手遅れか。ネパールは既に近代化の「禁断の実」を食べてしまったのか。国王の努力の帰趨を見守りたい。
020708a アカはアカか?
NC本部爆破犯は、DangDangさんのおっしゃるとおり、マオイストの可能性が高いが、証拠もはっきりしないのに、マスコミの大本営発表をそのまま鵜呑みにするのは、ちょっと躊躇する。NCをはじめ、ネパール諸政党は、激しい実力闘争の歴史をもつ。武闘派はマオイストだけではない。
赤色メガネをかけると、白も赤く見える。たとえば、マオイスト撃滅の戦果報道。毎日のように3人、5人と殺されているはずなのに、「マオイスト」はいっこうに減らず、人民の大海から湧いてくる。外国の一観察者としては、「殺されているのは本当にマオイストか」との疑念を禁じ得ない。
020706 NC爆破はマオイストか?
7月5日午前11時頃、コングレス党本部ビルが爆破され、10名が負傷。このビルにはよく遊びに行ったので、驚いた。
新聞(朝日を含め)はマオイスト犯人説一色だが、本当か? 標的にされているNCの警戒は厳しいはずなのに、真っ昼間に侵入し、タクシーで逃走するとは、あまりに大胆。
党分裂時の流血は、ネパール政治につきもの。今の段階で、マオイストと断定するのはやや早計のように思う。
それにしてもアメリカの反応は早かった。事件後すぐ、アメリカ大使館は「テロリスト」非難声明をだした。デウバ政府にとっては何よりも心強い支援であろう。