時 評 | 谷川昌幸 ネパール協会HP同時掲載 |
2004年d (→Index)
041101 | 朝日の無責任論説 |
041030 | 「自己責任」封殺と「甘え」の悲劇 |
041029b | 違憲石原知事の天皇非難 |
041029 | 象徴天皇・象徴国王,万歳! |
041028 | 報道の自由度,世界第160位 |
041020 | NCの「テロ取り締まり処罰法」改悪反対運動 |
041019 | 拘留中の日本人,ケンカで死亡 |
041015 | ダサイン停戦 |
041012 | 「テロリスト」呼称,英特使が批判 |
041009 | アメリカの良心――外国援助法改正 |
041008 | 迷走政治と「歴史」の不在 |
041004 | 衣の下に鎧の米大使会見 |
041002 | 人災の天災化 |
040926 | 何も学ばず,何も忘れず |
040920 | 協会「追悼」声明の勇気 |
040919 | 米ボランティア撤退開始 |
040914 | 米大使館員家族撤退へ |
040910b | アメリカンセンター爆破 |
040910a | 暴動で友人も負傷 |
040909b | 悪魔よ,悪をなすなかれ |
040909a | マッラ・ホテル爆破,35企業閉鎖追加要求 |
040907 | 王国軍株式会社 |
040905 | モスク襲撃の衝撃 |
040904 | NC=M共闘,平和大行進 |
040903 | 悪魔とパウエル長官 |
040902b | 暴動鎮圧後の政党の責務 |
040902a | 人質殺害=劇場型テロのめざす宗教感情動員 |
040901b | モスク攻撃,外出禁止令発令 |
040901a | 12人惨殺――誰が殺したのか? |
041101 朝日の無責任論説
またまた発熱させてしまって申し訳ない。今回のイラク人質事件への日本社会全体の対応を見て,たとえ怒られても孤立しても,これは言っておくべきだと少々力が入りすぎたことは事実です。反省。叱られついでに,発熱を悪化させるかもしれないが,補足を一言。内戦中の外国との関わり方という点では,ネパールとも大いに関係があるので,ご辛抱ください。
朝日新聞の――
「(被害者は)自衛隊とはかかわりのない民間人です」(天声人語10/30)
「通りすがりの若者を人質に取り・・・・」(社説11/1)
といった,こんな無責任な論説は絶対に許せない。
日中戦争について,中国の人々が「日本国民は侵略戦争責任者とは別です」といって,日本国民を弁護してくれた。当時の日本は民主主義ではなく,日本国民は中国人民同様,日本軍国主義の犠牲者だったからだ。
しかし,もし日本国民が立場をわきまえず,「日本国民は,帝国陸海軍とはかかわりのない民間人です」と主張すれば,中国の人々は決してそれを許さないだろう。日中戦争において,日本国民は,被害者であると同時に加害者だった。その二面性を忘れてはならない。
今回のイラク人質事件に対する日本社会の対応が許せないのは,日本側からは決して言うべきではないことを平気で言ってはばからないからだ。
フセイン独裁の犠牲者であるイラク民間人10万人の非人道的大量虐殺に加担していながら,そのことに頬被りして,日本全体があたかも犠牲者であるかのごとく声をそろえて「日本市民は自衛隊とはかかわりのない民間人です」と訴える。
フセイン独裁と米日反テロ戦争の犠牲者であるイラク庶民が,日本政治の非民主性をよく理解し,日本人民と日本政府は別だから民間日本人には責任はないと弁護してくださるのなら,あるいは武装勢力は自分たちとは無関係であり,人質作戦は許さないと弁護してくださるなら,それは感謝して好意に甘えたい。
あるいはまた,形成されつつある国際社会が,国際人道法に従い,人質という許されない非人道的行為を非難し,即時釈放を求めるのなら,それは正当であり,国際社会の一員としてその要求には参加したい。
しかし,残念ながら,国際刑事裁判所に対し,米国は反対し米国民の人道犯罪を免責してしまっているし,日本も米国に追従し同条約には署名すらしていない。つまり,日本人は他国人に対し人道違反を告発する重要な根拠の一つを自ら放棄してしまっているのだ。自国民の人道違反を免責しておいて,どうして他国民の人道違反が告発できようか。
その上,今朝(11/1)の朝日社説の「通りすがりの若者を人質に取り・・」は,被害者を愚弄するものだ。24歳の青年が,戦地に「通りすがり」で行くはずがない。なのに彼を子供扱いするのは,ジャーナリズムとしての朝日の責任逃れのためであり,彼の道徳的人格を否定することに他ならない。
041030 「自己責任」封殺と「甘え」の悲劇
ネパールのような様々な危険(厳しい自然,病気,内乱等々)があるところへ行くには,それなりの準備と覚悟がいる,これは常識だが,日本ではそうでもないらしい。
昨年,タイ航空で偶然,顔見知りの若い女性と一緒になった。聞くと,一人旅で,タライやポカラ周辺を歩くそうだ。何の準備も予備知識もないようなので,現状を話し,計画(あって無きが如きもの)の変更を勧めたが,老人の繰り言は歯牙にもかけず,プラリと行ってしまった。
この種のネパール冒険談は少なくないが,これはいわば穂高にスカート,サンダルで登るようなもの。天気が変われば(山では常態),遭難は必至。そこで登山では「自己責任」が原則になっている。
ところが,不幸なことに,海外旅行では「自己責任」論を人権派が封殺してしまった。前回のイラク人質事件で政府の責任追求に焦り,人権派は本人,NGO,市民社会の責任を棚上げにした。政府が人質の「自己責任」を言い立てるのは政府の責任逃れだが,それに反発するあまり,本来,自ら厳しく問わなければならないはずの自己責任を,NGOや市民社会は自ら封殺してしまったのだ。例外は,「ペシャワール会」などの本物のNGOにすぎない。
このとき,根本で誤った。そこで,今回のイラク人質事件では,日本全体が官も民もそろって根本的な錯誤に陥っってしまった。朝日の天声人語(10月30日)に,痛ましい国民的錯誤を代弁させると――
●「(被害者は)自衛隊とかかわりのない民間人です。」
なんたる罪深い錯誤か! 今回は,政府もマスコミも関係者も,皆そろって,こんな日本国内でしか通用しないウソをしゃべり散らし,自己欺瞞を欺瞞とも意識せぬ醜態を世界にさらした。
これは真っ赤なウソだ。日本は民主主義国であり,自衛隊は主権者国民,つまり人質本人や私が派遣している。専制君主国なら,私には関係ないと言えるが,民主国日本では,自衛隊は私が派遣しているのだ。
自衛隊派遣の本人は私であり,その結果への責任は自衛隊員というよりは,むしろ私にある。私は「かかわりのない民間人です」というのは,無責任な甘えであり,倫理的にも政治的にも許されることではない。自衛隊派遣責任を民間人にも問うという点では,イラク武装集団の方が大甘日本人よりはるかに論理的・民主的だ。(国際人道法上の問題はあるが,イラク民間人10万人を殺害したのは私たち自身であることを忘れてはならない。)
では,誰が誰に甘えているのか? 民間は自己責任論を封殺して政府に甘え,政府は自衛隊派遣責任をとらないことで国民と国際社会に甘えようとしている。日本全体がどっぷりと「甘えの構造」にはまりこんでいる。
そこから,誰が被害を受けるか? マスコミや人権団体が自己責任論を封殺し,甘えられるという幻想を流布させると,当然,すべき準備をせず,行動の慎重さを欠き,「いざとなれば何とかなるさ」と甘えて行動する人が増える。そうした人々が,甘えられない現実に直面したとき,悲劇が生じる。
今回の人質事件と自己責任論封殺の因果関係は直接的には実証できないが,人権団体や良識派ジャーナリズムが,民主主義のイロハを忘れ,「甘え」幻想を作り上げてしまったことが,今回の人質事件の大きな要因の一つであると,私は推察している。
人権団体,NGO,良識派マスコミの責任は重い。人権とは相性が悪く,気が重いかもしれないが,民主主義の世の中なのだから,民主主義についても学習していただきたい。
そして,ネパールについても,政府と民間の区別という人権派の手前勝手な甘え願望は,許されなくなる兆しがある。マオイスト関係情報を見ると,ビン・ラディン氏や,イラク武装勢力の闘争方法を評価する議論が散見されるようになった。要注意だ。
041029b 違憲石原知事の天皇非難
29日夜,TVニュースを見ていたら,今度は,石原都知事が天皇の国旗・国歌発言に怒っている。驚いた。
おそれおおくも天皇を非難し,お言葉には従わないという。なんたる不忠!
私は,断固,天皇陛下を支持する。日本国民の多くも,違憲の石原知事ではなく,憲法遵守の天皇陛下を支持するはずだ。
ネパール国王も,憲法遵守を宣言され実行されば,国民の支持は拡大し,国政も安定するに違いない。
041029 象徴天皇・象徴国王,万歳!
10月28日夜,TVニュースを見ていたら,天皇の国旗・国歌発言があり,ビックリ仰天した。
国旗・国歌は,ネパールでも微妙な問題だ。国王賛歌を国歌とすることには反対も多い。国旗も,いかにもヒンズー教的で,これまた異論が少なくない。
国旗・国歌はそれほど微妙な政治問題なのに,28日の園遊会で,東京都教育委員会の米長邦雄委員は,天皇に向かって――
「日本中の学校で国旗を掲げて,国歌を斉唱させることが私の仕事でございます」
と直接話しかけた。
東京都教育委員会は,石原知事の下,君が代斉唱に同調しない教員の大量処分をしている。思想統制,ファシズム的大弾圧といってよい。だから,米長発言は,明らかに意図的な準備されたものであり,天皇に憲法禁止の「国政に関する権能」の行使を強要するものだった。世が世なら不敬罪だ。この挑発に天皇はどう答えるべきか?
(1)それは結構なことです。頑張ってください。
(2)あっ,そう。
(3)・・・・・・・(無言)
(4)強制になることがないことが望ましいと思います。
(5)それは,いけない,やめてください。
天皇は偉い。瞬時にして(4)を選択し,返答した。側近の助言に従ったという説もあるが,TV画面では天皇の即答であった。
これからは,石原知事,米長教育委員をはじめ陛下の忠良な国民はすべて,国旗・国歌については自己の良心にのみ従えばよい。一切の強制は,陛下のご聖断に反し,不忠,不敬だ。
天皇は,小泉首相や他の政治家・官僚以上に,憲法を忠実に守ろうとしている。99条遵守だ。それが,天皇制存続の必須条件だということを,天皇はよく理解されており,だからこそ卑劣な天皇利用のワナを瞬時に見抜き,回避された。立派な名君だ。
ネパール憲法も,立憲君主制が大原則だ。憲法遵守が王制存続の必須条件だという拙論を,前国王はたいそう喜ばれたと人づてに聞いたことがある。現国王も,憲法を遵守され,全国民に敬愛される国民統合の象徴となられることを願っている。
041028 報道の自由度,世界第160位
「国境なき報道家たち(RWB)」が26日発表したレポートによれば,報道の自由度で,ネパールは167カ国中,堂々の160位(KOL,Oct27)。
恐ろしくて天皇批判できない日本よりも,平気で国王批判できるネパールの方がはるかに下位だとは到底信じられない。日本は,上品に自己規制しているだけで,今日(28日)の朝日社説を見ても,座標軸の欠如は甚だしく,ズルズルとイラク派兵容認に事実上社説を移動させている。
ネパールが,上品な自己規制の日本や,挙国一致反テロ報道時の米国より,報道の自由度が狭いとは言えない。160位は,先進国の偏見だ。
ネパールのジャーナリストは勇敢であり立派だが,政府の姿勢は時代遅れで非現実的。感心しない。RWBレポートによると,昨年,治安当局はジャーナリスト約100人を逮捕,勾留,拷問,脅迫した。マオイスト側も,軍スパイを理由にジャーナリスト1人を殺害,数十人を脅迫した。
・政府側による殺害=Binod S. Chaudhary
・マオイストによる殺害=Ganendra Khadka
いまや情報は天上からもWebからも日夜休みなく降り注ぐ。事実も虚偽も,エロもテロもナンセンスも。地上でもカンチプルTVなどの民放局,多数の地方局,そしてマオイストの「ラジオ共和国ネパール」。とても権力や暴力で規制しきれるものではない。
それでも,どうしても規制するというのであれば,真綿で首を絞めるようにジャーナリストを脅迫し自己規制させている日本の上品な方法に学ぶべきだ。ハードの時代は終わった。これからは,ソフト・パワーの時代だ。
041020 NCの「テロ取り締まり処罰法」改悪反対運動
政府は「テロリスト・内乱(取り締まり処罰)令」(TADO)を改正(改悪)し,10月13日公布,施行した。
第9条によれば,治安当局は容疑者を1年以内(改悪前は90日以内),予防拘禁できる。当初6カ月は当局の判断で,さらに6カ月延長の場合は内務省の許可を得る。
とんでもない悪法だ。G・B・パンデ内務大臣によると,「これで,郡長官は(法と秩序を乱す恐れありと認める)者を6カ月間予防拘禁し,さらに内務省の許可を得れば,あと6カ月拘禁を延長できる」。
改悪以前のTADOも十分恐ろしかったが,改悪後はまさに恐怖の治安維持法だ。行為ではなく「恐れ」は要するに「可能性」だから,こんな便利な法があれば,官憲はやりたい放題,「おい,こら! ちょっとこい」で予防拘禁できてしまう。
NCは,TADO改悪反対を最優先課題とし,反政府活動を展開することにしたが,これは当然だ。
さて問題は――UMLがTADO改悪を認めるか? また,NCの反政府運動が,いつものような党利党略から脱皮できるか否か? 注目されるところだ。(Nepalnews.com,Oct.4&19)
(041021 「テロリスト」指定解除の可能性)
アディカリ副首相は,10月20日,もしマオイストが和平交渉テーブルにつけば,「テロリスト」指定を解除する,と述べた。
和平交渉開始合意以前か以後か,意見は分かれているだろうが,合意以前の一方的解除の方がよいだろう。
副首相や副首相所属のUMLだけでなく,政府全体がこの線で意思統一できると,和平交渉に入りやすいのだか。
(041026 HRWが改悪批判)
人権NGO「人権監視(HRW)」が,「テロ取締法」改悪を厳しく批判している(KOL,Oct26)。
先述のように,これは恐ろしい治安維持法であり,こんな悪法を許しておけば,ネパールは暗黒の恐怖政治になる。
国家人権委員会(NHWC)の公式報告ですら,治安当局により拘束され所在不明になったものの大半は,尋問後,殺されていると述べている。
行政権が,司法の場(公開の場)に出すことなく,テロリスト容疑者を密かに予防拘禁し,消してしまう。これはほんものの恐怖政治だ。
041019 拘留中の日本人,ケンカで死亡
昨年4月,日本人3人が大麻(ハッシシ)を持ち出そうとしてトリブバン空港で逮捕され,拘留されていたが,1週間前,パタンの拘置所内で2人がケンカし,1人が頭に怪我,手術を受けたが,17日死亡した
(KOL,Oct.18)。
詳細は不明だが,不幸な事件だ。
(041019 疑問と要望)
(1)刑は確定か? 逮捕された3人は,カトマンズ地方裁判所で麻薬取引罪で有罪判決を受け,ナク刑務所(拘置所?)に収容されたらしいが,上訴しているのか? もし裁判中なら,被告人の権利は守られるべきだ。
(2)大麻は依頼されて持っていた荷物内にあったのか? これは反証が難しい。解明は慎重に願いたい。(他人の荷物を預かることの危険性を改めて再認識させられた。)
(3)ダンベルで殴ったのは,本当に友人か? 300人収容とはいえ,隔離された刑務所(拘置所)内での事件。捜査は被疑者の権利を守り,慎重に願いたい。
(4)事件の経過を継続的に報道してほしい。知らされないと,ネパール官憲への不安や恐怖が生じる恐れがある。
041015 ダサイン停戦
マオイストがダサイン停戦を発表。 10月20日〜28日の期限付き停戦だが,これを好機に,和平に向かって欲しい。
(041017 UMLも停戦支持)
統一共産党(UML)もダサイン停戦をデウバ首相に要望した(KOL,Oct17)。 ほんの9日間だから,やってみたらよい。両軍ともメンツが立ち,神の導きにより,本格停戦となるかもしれない。
(041018 他政党も賛成)
NC,NC-D,RPP,NSP(アナンダ・デビ派)――こぞって停戦賛成(Nepalnews.com,Oct17。やはり神々は偉大だ。
(041019 政府は攻撃停止)
18日,政府はマオイストの停戦宣言期間中,攻撃を停止することを発表。停戦ではないところが,ちょっと引っかかるが,交戦停止となれば,実質的には同じだから,歓迎したい。(KOL,Oct19)
(041022 アナン事務総長,停戦歓迎声明)
アナン国連事務総長が10月21日,ダサイン停戦歓迎の声明を発表した(KOL,Oct21)。
「事務総長は,この停戦を緊急課題である和平交渉再開への第一歩であると考える。」
「ネパール国民が切望する平和と安定を実現するため,ダサイン以後も停戦を継続すること」を両当事者に強く要望する。
「事務総長は,ネパール紛争の平和的解決のために,あらゆる支援をする用意がある。」
アナン氏は米国の後押しで事務総長になったが,選任後は,米国単独行動主義に抗してよく頑張っている。世界中がアナン事務総長に続き停戦歓迎,延長・和平交渉再開要望を出せば,これは大きな力になる。
ところで,わが日本政府は停戦歓迎コメントを出したのかな?
そして,わが協会は?
たぶん出さないだろう。平和よりも「中立」を愛する協会だから。
041012 「テロリスト」呼称,英特使が批判
K.G.ブルムフィールド英特使が10月10日,ポカラ開催のロータリークラブ・プログラムに出席し,ネパール政府の無定見を批判した(Nepalnews.com,Oct11)。
ネ政府は,マオイストを「テロリスト」と呼んだり「反逆者(rebels)」と呼んだりしているが,軍事的解決は不可能だから,内輪もめはやめ,協力して平和解決に当たるべきだ。
英特使は,テロ対策専門家だそうだが,この発言は先週のドナルド・キャンプ米国務副長官補に同調するものだ。米英でネパール政府に圧力をかける作戦だろう。
041009 アメリカの良心――外国援助法改正
米上院が,ネパールへの軍事援助を停止できる改正「外国援助法」を採択した(Kathmandu
Post, Oct7)。
「人権監視(HRW)」のピーター・ブカート氏によると,「ネパール政府が人身保護違反に対処せず,国家人権委員会(NHRC)の王国軍基地・拘置所への無条件立ち入りを認めないときは,米政府は軍事援助の中止を検討する」ことが期待される。
また,ブカート氏は,「ネパールの人権状況は劣悪(terrible)になった」ことを指摘し,国際世論がネパールを見捨てることのないよう訴えた。
ネパールの人権状況については,EUや英国は深い憂慮の念を示してきたが,米国とインドはほとんど沈黙している。だから,「ネパール人はこう思い込んでいる。米国は無条件に軍事援助をしている,と」。
ブカート氏がP.J. タパ将軍にあって尋ねると,彼は
「1996年の反乱開始以降の拘置件数は38件だけだ」
と答えたという。まさに,非歴史的な証言だ。
このHRWの強烈な批判に対し,翌10月8日,南アジア担当国務副長官補D.キャンプ氏は,人権と軍事援助の両立を唱え,「王国軍援助を継続する」と明言した(Nepalnews.com,Oct8)。
人権は,それを守る権力(暴力)なくしては空虚だが,人権無視の権力は裸の暴力にすぎない。
改正「外国援助法」の実効性は定かでないが,米国の良心に期待したい。
041008 迷走政治と「歴史」の不在
ネパール政治は不可解であり興味深い。「なぜ分からないか」の理解が理解への第一歩と思い,M・ウェーバーの『ヒンドゥー教と仏教』を読んでいたら,面白い指摘があった。
インド文明では,数学,文法論,解剖学,音楽,天文学等が高度に発達したが,「歴史科学(歴史学)は全く欠如している」。
「現世の現実そのものに対しては無関心に対峙し,その彼岸で,グノーシスによって,これから解放されるために必要不可欠であったものだけを追求した」。
たしかに,そうだ。ネパールには「歴史」はない。そして,だからこそネパール政治は理解できない。
もちろん,ネパール政治はネパール人のものであり,「歴史」があろうがなかろうが,それは彼ら自身の問題だ。歴史内政治が非歴史的政治に勝るともいえない。
むしろネパールの非歴史的政治から学ぶべきは,"Manifest Destiny" を掲げ,世界中で「歴史的使命」を誰かに(たぶん神様に)頼まれて遂行している国や,信じたふりをしてそれに追従している無信仰国家かもしれない。
041004 衣の下に鎧の米大使会見
モリアーティ米大使が,カトマンズポストの独占インタビューで,慎重ながらも軍事援助追加を表明した(KOL,Oct4)。
大使によれば,和平交渉開始は3条件の充足が前提だ。
(1)合法諸政党の団結
(2)国際世論の和平圧力
(3)国軍には勝てないと認識させること
米国自身は,この3条件からして,まだ和平仲介の時期ではないと見ているが,他国の和平仲介には反対しない。
また米国は,王室と国軍も民主主義の脅威とは見ていない。王室は政党なしでは存立しえないと自覚しており,立憲君主制を支持している。
追加軍事援助については,状況が改善されなければ,12月までに実施する。
――以上の会見内容からは,米国自身,政党対立に手を焼いている様子がうかがえる。和平3条件のうちの最も基本的な(1)ですら,めどが立たないのだ。
(2)は,米国がイラク問題でブチ壊してしまっており,米政府が旗を振ってもなかなか信用されないだろう。
そこで,最悪の手である(3)しか米国には残らないことになる。しかし,(1)(2)抜きで(3)のために軍事援助を追加しても,状況を悪化させるだけだ。
そもそも(3)の考え方自体が,実際には無意味だ。マオイストは国軍に勝利する必要はない。負けなければよい。そして,それは正規戦からゲリラ戦に戦術変更すれば,容易に実現できる。逆にいえば,王国軍はマオイストに戦意がある限り,軍事力では絶対に勝利できない。
しかも,非正規戦に追い込めば,暴力は四散しコントロールを失う。まだ地雷の多くは遠隔操作で爆発させているが,追い込まれれば,埋設放置型になることは目に見えている。
リード線付き地雷の方が,埋設放置型より,一般市民(と外国人)には安全だ。
(041006 団結を,とアーミテジ副長官も)
アーミテジ国務副長官が10月5日,アディカリ副首相と会談し,諸政党の団結を求めた(KOL,Oct6)。外から見れば,やはりそれが常識だろう。
041002人災の天災化
島原温泉で合宿と称して楽しく遊んで帰ってきたら,カトマンズではまた不気味な事件が起きていた。
島原でも普賢岳噴火で大きな被害が出たが,これは天災。人災のネパール内戦とは別だ。
たとえば,9月30日,ブタニルカンタで地雷が爆発し,東ネパール作戦強化中のP.B.ラナ大佐夫人と運転手が負傷した。翌10月1日には,正体不明の一団がラジンパトで銃を乱射し1人負傷(KOL,Oct1)。
この程度ではもはや大事件ではないのか,報道はごく簡単。人災の常態化が進み,やがて天災と観念されるようになるのでは?
040926 何も学ばず,何も忘れず
マオイストのカトマンズ封鎖にイラク人質殺害コミュナル暴動。どちらか一つだけでも,それ黒船来襲と挙国一致,小異を捨て大同につくはずなのに,この国ではそうはならない。台風一過,以前の構図がそのまま再現される。
かの国では,過去から何も学ばず何も忘れなかった高貴な人々は,消滅した。この国でもそうなるのか?
それとも,19世紀以来範としてきた英国の英知にいまこそ習うのか? 英国上流階級は,頑固なくせに進歩的。革命はイヤだが,改良は,進歩派を出し抜いてすら断行する。アメリカ独立を認めたのも労働者参政権を認めたのも,高貴な保守主義者だ。
マオイストやコミュナリズムを前に,なぜNCとUMLは大同団結できないのか? 事情通には当たり前かもしれないが,遠くから見ている者には不思議でならない。
やはり政治文化の違いか? 歴史意識,合理的行為,責任倫理。今さらの感なきにしもあらずだが,単なる事象の後追いでは仕方ない。やはりこの辺から始めざるをえないだろう。
040920 協会「追悼」声明の勇気
日本ネパール協会が9月某日,イラクで殺害されたネパール人犠牲者への追悼声明を出した(このHPにも掲載)。責任者名はないが,たぶん会長であろう。
この声明は,政治的効果を狙った大胆な声明だ。
●「テロリスト達(terrorists)のこの残虐で非人道的な行為を強く非難する」
声明は,人質殺害者たちを「テロリスト達」と断言している。勇気ある宣言だ。ブッシュ=小泉連合は反テロ戦争にのめり込み引くに引けなくなっているが,世界世論は「ちょっと変では?」と気づき始めた。
反イスラエル闘争を続けるパレスチナ人を「過激派」とは呼んでも,「テロリスト」と呼ぶ人は少ない。マオイストですら,アメリカが「テロリスト・リスト」に載せ,軍事援助をくれるから,やむなくネパール政府は「テロリスト」と呼んでいるだけで,本音では,「過激派」くらいにしたいはずだ。
もちろん数学ではないから,テロと非テロとの厳密な線引きは難しく,私自身,マオイストをテロリストと呼んだり,その行為をテロと言ったことがあるかもしれない。もし言ったとすれば,それは残虐非道な具体的行為について,それはテロだ,そんなことをする者はテロリストだ,という風に言ったはずだ。
協会声明は,これとは違い,明らかに反テロ戦争の文脈の中で「テロリスト達」という用語を使用している。ネパール協会は反テロ戦争に参戦したのだ。
言いがかりだ,極論だ,という反論はあるかもしれないが,「テロリスト達」という用語が現在どう使用されているか,見ていただきたい。ざっと拾い出しただけだが,この用語はブッシュ派以外は公式にはほとんど使用していないようだ。
<イラク反体制派の呼称(ネパール人殺害前後)>
●「イスラム過激派」「過激派組織」
=共同8/31, 産経8/31, 京都8/31, 西日本8/31
●「武装グループ」「武装集団」「武装組織」
=ロイター8/31, AFP9/16, ANN9/5, 朝日9/5,18, 読売9/16,
日経8/23, 産経9/2
マスコミは「反テロ戦争」と距離を取り,「テロリスト」という政治的価値判断を含んだ用語の使用をやめた。「過激派」にはまだ少し価値判断が含まれるが,radicalは必ずしも悪い意味ばかりではない。
「武装集団」ともなると,完全に価値中立だ。世界のマスコミは早々と,イラク戦争から距離を取り,米軍(および日本軍)とイラク武装集団を価値的には同じレベルに置いたのだ。
つまり,人を殺してはいけない。当たり前だ。ネパール人殺害は残虐非道で許されない。もちろん。では,米軍(と日本軍)は,女性・子供・老人を含む市民を殺してよいか? それは残虐非道ではないのか? どちらが,無実の市民をより多く,より残虐に虐殺したか? 爆撃でレンガの下敷きになり,頭がつぶれ,手足がちぎれて四散した残虐影像を,なぜ米日のテレビは流さないのか?
武装勢力が米軍協力者を爆殺すると残虐非道なテロとされ,仕返しにその何倍もの市民(その何人がテロリストか?)が殺される。アメリカ軍が結婚披露宴にミサイルを撃ち込み数十人を惨殺しても,「あ,ごめん。誤爆でした」で許される。
その大きなウソに,マスコミは気づいた。だから安易に「テロリスト達」とは呼ばなくなった。敬愛すべき産経,日経,読売でさえ,見た限りでは「テロリスト達」とは呼んでいなかった。
それなのに,社団法人・日本ネパール協会は,公式に日英両文で「テロリスト達」と決めつけた。たいへん勇気ある声明だ。
私も協会の一員だが,この声明には参加しません。
040919 米ボランティア撤退開始
アメリカンセンター攻撃,「平和部隊」活動休止を受け,米系ボランティアが引き上げ始めたようだ。
米国務省は,すでに大使館員家族の出国を認め,「アメリカ市民の不要不急の訪ネ中止」を勧告している。
平和部隊は現在90名位らしい。そのほぼ全員がこの数日で帰国するのではないか?
9月17日 26人が出国
18日 58人が出国予定
さすがにアメリカは危機管理がしっかりしている。丸腰民間人が国内にいれば,アメリカはマオイストに手出しできない。2〜30人位人質に取れば,2万の人民解放軍でも米軍と対等に闘える。この危険を見越して,アメリカは民間人の引き上げを急いでいるのだ。
が・・・・?? 危険覚悟で援助に赴く民間人の崇高さ,偉大さを称えたのは誰だったかしら? イラクにはもっと行け,もっと行け,と尻をたたき,「行くな」と言った日本政府を叱りつけたのは,国務省の偉い人ではなかったかしら?
煽られて,イラク民間協力に行ったネパール人は人質になり殺された。人質救済にアメリカは何をしてくれたか?
イラクに比べれば,いまのネパールははるかに安全。それなのに,民間人には行くな,平和部隊ボランティアは撤退! なぜなのか――石油がないから,悪の帝国ソ連が崩壊してしまったからか・・・・?。 (Nepalnews.com,Sep13,15,17)
040914 米大使館員家族撤退へ
3日ほどわが寒村で過ごし、昨夜戻ってネットを見たら、ネパールはやはり混乱していた。やれやれ。
●アメリカンセンター攻撃への対応
米大使館は、ネパールへの平和部隊派遣を中止。さらに、大使館員家族も引き上げの方針。そのかわり、軍事援助は百万ドル追加決定。(KOL,Sep13)
●聖ヨセフ校爆破
ゴルカの私学、聖ヨセフ校が12日夜、爆破された。同校は閉鎖。(KOL,sep13)
●バグマチ橋で爆発
12日午後4時頃、バグマチ橋で自転車に仕掛けられていた爆弾が爆発、11人が負傷。
「しかしながら、橋には爆発のダメージはなく、交通は平常に戻った」。(KOL,Sep13)
この最後のコメントは、すさまじくも悲しい。日本では、こんな記事はおそらく誰にも書けないであろう。
040910b アメリカンセンター爆破
10日午後5時半頃、アメリカンセンター駐車場が爆破された。マオイストの犯行らしい。(KOL,Sep10)
私自身、カトマンズ滞在時には、ちょくちょくアメリカンセンターに通っている。恐ろしい。
アメリカも、米系企業に加え政府機関まで攻撃されたら、黙ってはいられまい。マオイストは、本気で、アメリカに介入させるつもりだろうか?
それとも、アメリカの介入を願う別の勢力の仕業か?
040910a 暴動で友人も負傷
人質殺害後のカトマンズ暴動については、心配しながらも、自分自身の身近な問題と言うほどの切迫感はなかった。
ところが、ほんの数人しかいない私の友人の一人が、この暴動に巻き込まれ、肋骨を折られていた。
ごく普通の中年のオジサンで、ノンポリ。暴動に参加するはずもなければ、野次馬で見に行く年でもない。状況は詳しくは分からないが、所用先に行く途中で運悪く暴徒に襲われたらしい。
友人の負傷で、カトマンズ暴動は、不幸にも、私自身の身近な問題になってしまった。
040909b 悪魔よ,悪をなすなかれ
Ajay P. Nath, "Maoist Strategy
and Tactics"(kantipur Online,
Sep.9)は興味深い論文だ。著者のナース氏のことは全く存じ上げないが,相当の学識と筆力を持った方のようだ。だから,この論文は面白い。
柱となる論理は2つ。
●悪魔は見捨てられ,力を失った。だから,力を使うな。
●悪魔よ,おまえは悪そのものだ。だから改心して,善をなせ。
見事な論理だ。論証を見ていこう。
「マオイストはいわゆる”カトマンズ封鎖”から敗退した。・・・・ウソ八百のプロパガンダで得ていたわずかばかりの支持も完全に失われた。カトマンズ市民はついに目覚め立ち上がったた。・・・・人民は結局,自由に生まれ,自由に生きることを欲するのだ。」
「マルクス主義,毛沢東主義の時代は終わった。・・・・普遍的正義,自由を愛する人々,自由民主主義が勝利した。ソ連解体と鉄のカーテンの崩壊で,善の体制が悪の体制に勝利した。息の根を止めるトドメの一撃だった。」
「マオイストは,独自の軍事力を持つ政治組織として国内でも国際社会でも正統性を得ることを直近の目的にしている。・・・・そのため,彼らは様々な戦術を使っている。」
「もしマオイストが被抑圧人民のための政治運動であるのなら,行いを根本的に改め,方針を変えるべきだ。暴力の放棄。これこそが,人民の支持や共感を得る第一歩だ。様々な勢力が,ネパール内政への介入を虎視眈々と狙っている。もしそれを望まないのなら,マオイストは武器を捨て,体制内に入り,協力して国民の統合と独立を守るべきだ。立憲君主制と多党民主制はネパールには不可欠だ。」
立派な議論だし,美文調の原文にはもっともっと印象的な叙述が多数ある。感動的とさえ言える。
が,どこか変だ。マオイストは時代錯誤であり完全に支持を失ってしまったと言っておきながら,独立政府としての国際的承認を求めるほどの実力を認め,武器を捨てれば支持が増えると助言し,協力さえ申し入れる。
つまり・・・・
▼悪魔は無力だといいながら,悪魔におびえる,その滑稽さ
▼悪魔は支持を失ったと喜んでおきながら,ご親切にも支持拡大の方法を教える,その滑稽さ
▼悪魔との協力を唱える善人の,その滑稽さ
そして,極めつけは,アメリカ民主主義,自由市場主義の勝利を善の勝利と讃えることだ。もしそうなら,悪魔(テロリスト,マオイスト)は善から生まれたことになる。
▼自分で生んだことを忘れ,わが子に「バカだ」「人でなしだ」となじる親の,その滑稽さ
結局,この論文から受ける感じを一言で言うなら,
●悪魔を前に説教をたれる無邪気な道学者
ということになる。
もちろん,慧眼な著者には,そんなことは百も承知に違いない。著者は,ひょっとすると悪魔以上に老獪かもしれない。だから,私のこんな論評は,それこそ釈迦に説法であろう。そして,著者自身とともに,この「滑稽さ」を楽しめる読者諸賢にも,この拙論は無用である。
ANFTUは,労働者搾取,不当逮捕,王室投資などを理由に,8月16日から,主要12企業に対し閉鎖を要求。今回同様,爆破警告後閉鎖されたソルティ・ホテル(5星)をはじめ,Surya
Nepal(タバコ),Makalu Transport(バス), Bottlers Nepal(コーラ), Yeti
Fablic, Shanghai Plasticなど。8月28日には印ネ合弁のNepal Lever工場が爆破され,閉鎖。翌日には,コルゲートやAlcoca
CSIも閉鎖(9月5日再開)。
9月7日には,さらに35企業に対し9月10日からの閉鎖を要求。対象は各業種,各地域に及び,観光客とも関係の深いものも少なくない。ホテルでは今回爆破のマッラ・ホテル以外にも,Fishtail
Hotel(ポカラ), Hotel Tigar Tops(チトワン)などがあり,小売業らしい名前もある。
夕刻のマッラ・ホテル爆破からして,単なる脅しとも思えない。本気だとすると,今度はネパール産業に直に,これまで以上の打撃を与えるだろう。(Nepalnews.com, Aug16,18,28,30,Sep6,7)
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(再説)「健全」報道の不健全さ
こうした論評は,テロリストを助ける「不健全」な記事だ,という批判はあり得る。モシン情報相だけでなく,観光業を中心にネパール経団連(正式名称失念)が情報規制の声を上げる可能性がある。
むろん注意は要するが,現にホテルが爆破されているのに,まるで何もなかったかのような「健全」報道をする方がもっと怖い。過剰報道があれば,事実をもってそうでないと反証報道するのが筋だ。
大本営発表の日本,アルジャジーラを黙らせようとしたアメリカ,北オセチア学校テロ報道を統制しているロシア――そんな「健全」報道社会は,ウワサやデマのはびこる不健全社会,神経を失った無神経不健康社会だろう。
040907 王国軍株式会社
外出禁止令が解除され,ひと安心。責任追及をはじめ政治課題の解決は現実主義的なステーツマンシップで取り組んでもらいたい。
さて,アメリカの産軍複合体は有名だが,これに負けじとわが王国軍が会社設立や企業買収を始めるらしい。
KOL(Sep1)やNepali Times(210)によると,政府は規則改正で軍福祉基金(AWF)の財産(70億ルピー)を営利目的で投資できるようにした。自分で会社を設立してもよいし,企業買収でも,合弁事業でもよい。
殿様商売より上の王様商売だから,単独事業より,おすすめはやはり外資合弁。となると,やはりアメリカ資本か? コーラあたりはすでにやっているらしいが,これからは堂々とコーラ・ロゴに王国軍マークを配することが出来る。コーラ帝国主義+ネパール王国軍主義!
もっと有利なのは,兵器産業。これなら需要はいくらでも創り出せるから,絶対に損は出ない。たしか,どこかで爆薬工場(化学工場)か何かを経営しているはずだが,これの大拡張も有望だ?
CK・ラルは,パキスタンやタイの失敗例をあげ,軍人商売はやめ,学校,病院,訓練校,退役軍人自活支援などに活用すべきだと勧めているが,いまいち迫力がない。
ロビン・サヤミのイラストに描くように,そのうちこんな国軍商店が楽しめるかもしれない(少々,アレンジした)。
観光客: コーラちょうだい。
M16携帯迷彩服国軍兵店員: は〜い,ロイヤル・インペリアル印コーラ,100ルピー!
040905 モスク襲撃の衝撃
5日も暴動はなく,外出禁止令はさらに緩和されるかもしれない。
さて,今回のモスク襲撃については,論評自体慎重を要するが,イスラム圏,とくにパキスタンの報道に無関心でいると,状況判断を誤る恐れがあり,非常に危険である。
大手通信社や日本のマスコミは抑制的であるのに対し,パキスタンのWebニュースの見出しにはセンセーショナルなものが多い。
「ネパール暴動vsムスリム」(New
York Post)
「カトマンズ放火の背後にヒンズー過激派」(The News)
「カトマンズ暴動におけるRAWの暗躍」(Dawn)
これらの記事を読むと,今度の暴動は,計画的なイスラム攻撃であったという印象を強く受ける。攻撃先は,パキスタン大使館,エジプト大使館,パキスタン航空,カタール航空,サウジアラビア航空。
このうち,エジプト大使館には群衆が押しかけ,警官隊と衝突し,大使館前で1人が射殺された(arabicnews.com, 040902)。どの程度緊迫していたのか分からないが,万が一,乱入されていたら一大事だった。
もっと危なかったのが,ネパールガンジ。ムスリムの住宅9軒が放火され,カシミリ・モスクが襲撃された。学生中心の約300人が乱入し破壊,放火した。そして,イマーム(導師)を引き出し,「殺せ!」と口々に叫んでいたが,結局,解放された(Independent,UK,Sep2)。本当だとすると,まさに危機一髪。危ないところだった。
カトマンズのジャマ・モスク襲撃についても,モスク運営委員会事務局長モハマド・アシュラフ氏の発言を引き,センセーショナルに報道されている。「何百冊ものコーランが路上に投げ捨てられ,何冊かは焼かれた。これはイスラムへの重大な侮辱だ。物的被害なら回復できるが,これは象徴的な被害だ」(TheNews,Sep3)。
そして,重大事件の際には必ず出てくる最も危険な定説,RAW陰謀説。
「外交筋の見解によれば,インド情報局RAW(Research and Analysis
Wing)はネパールの首都に秘密組織を作り,それを通して近隣諸国の国益を害する邪悪な活動を実行している。
水曜日の事件も,RAWがパシュパティ・セナを使ってやらせた事件だ。ネパールを動揺させているいわゆるマオイストも,首謀者がインドで公然と生活しているのを見れば明らかなように,RAWが資金と装備を与え全面的に支援しているのだ。
水曜日の事件は,パキスタンとネパールの友好関係を破壊しようとするインドのたくらみだ。在パ・ネパール大使も,事件の背後にそうしたインド関係者がいたという感触を得ていた。」(Muhammad
Saleh Zaafir, The News, Sep3)
「ネパールにおける水曜日の反ムスリム事件とアラブ,パキスタン関係機関への攻撃は,インドの支援したものだ,と政府高官が木曜日の当地(イスラマバード)での会見で述べた。情報機関の報告を引用しながら,彼は,暴動の背後にはテロリスト集団パシュパティがいる,と語った。彼によれば,『パシュパティはヒンズー原理主義組織シバ・セナの兄弟組織であり,ネパールでRAWの積極的支援を受け活動している』。彼によれば,この組織(パシュパティ・セナ)が反ムスリム・リーフレットなどを配布し,暴動の下地を準備していた。」(Dawn,Sep3)
この陰謀説は,前述のように,大事件の際には,いつも出てくる。論拠が「外交筋」「政府高官」と不明瞭だし,在パ・ネパール大使もそんな不用意な発言をするとは思えない。
しかし,それはそれとして,パキスタンを中心に,そうした報道がなされているという事実,そしてまた,暴動のなかで相当危険な局面がいくつもあったという事実は,しっかり記憶しておくべきだろう。
040904 NC=M共闘,平和大行進
4日(土)も暴動なし。が,外出禁止令はもう限界,休日あけの明日は解除せざるをえないだろう。どうなるか?
さて,首都暴動に気を取られていたら,ダイレクでは,奇妙な共闘が始まっていた。即時停戦を求めるコングレスとマオイストの共闘だ。(KtmP,Sep2)
平和行進をリードしたのは,コングレス長老のゴル・ウパダヤ,ラクシマン・グルン両氏。
この行進に,マオイストが1家族1名,1村700〜1000人を割り当て大量動員,総勢4万人となった。なかには4日も歩いてきた村人もいたそうだ。
短信で詳細は分からないが,本当だとすると,いよいよNC=Mの夢の共闘実現。ネパール政治力学では十分あり得るが,でも本当かなぁ・・・・。
こんな「不健全」な記事を書くから,カトマンズ・ポストは誰かにそそのかされた暴徒に襲われるのではないか? それでも頑張るのであれば,立派だ。
040903 悪魔とパウエル長官
3日(金)も外出禁止令で,暴動はなかったようだ。扇動者たちが,ナショナリズムや宗教の危険性を自覚して自制すれば,とりあえず騒動は収まるだろう。自制できなければ,どうしようもない。
ところで先日,パウエル長官がデウバ首相に電話し,人質殺害への哀悼の意を表明した。その中で彼はこう述べた。「武装集団がイラク再建支援の民間人を殺害した。これこそ,彼らがイラク人民を侮辱している何よりの証拠だ。」(WashingtonPost,Sep2)
長官の苦悩は察するにあまりある。
パウエル長官は,ブッシュ政権の良心。対イラク戦争を不正な戦争と知りつつ,もし自分が政権から離脱したら,アメリカは先制攻撃,報復攻撃にとりつかれ,本物のファシスト国家になる。ナチスも軍国日本も核はもたなかった。もしアメリカがファシスト国家になったら,世界は破滅する。だから政治家として自分は政権内にとどまる。
対アフガン,イラク政策を弁護する長官の苦悩に満ちた表情からは,彼の良心と決意が見て取れる。
彼は「悪魔と手を結ぶ」(M・ウェーバー)選択をしたのだ。悪魔を彼がコントロールするか,彼が悪魔に利用されるか?
イラク支援民間人の殺害がイラク人民の侮辱になるとすると,イラク独裁政権を支援し,次に,これを自分の都合で倒すついでにイラク人民を大量殺害した国は,イラク人民を尊重しているのか?
また,伝統的地域経済やインド=ネパール型社会主義を破壊し,大量の失業者を生み出し,海外出稼ぎに出ざるをえなくした国は,ネパール人民を尊重しているのか?
それを隠し,イラク支援民間人の崇高な使命を称える。先進国の石油確保のための危険な労働に「復興支援」「復興協力」の美名をつけ,失業者を,自発的と錯覚させて(つまり自己責任を押しつけて),送り込む。
パウエル長官は,やはり悪魔に利用されているのではないか?
040902b. 暴動鎮圧後の政党の責務
外出禁止令のおかげで,2日は暴動はなかったようだ。軍の実力を示すと同時に,明日以降が心配だ。
現代化した巨大都市は脆弱であり,長期の外出禁止令は不可能。それを忘れ,軍が自分の力を過信すると,本当の悲劇が始まる。
不謹慎な表現だが,十数人の虐殺写真なんかネパールの庶民は見慣れている。内戦ですでに1万人以上が殺され,残虐きわまりない虐殺写真が新聞や雑誌に何度も掲載された。首相の「無能力」も国王により公式に認定済みだ。
ところが,ナショナリズムに加え,禁断の宗教の意味づけをしたとたん,この大暴動だ。この大本の原因は軍の手には負えない。
政党は,優先順位をちゃんとつけ,政治的解決を図らないと,シャハ大王の遺産を台無しにしてしまうだろう。
040902a 人質殺害=劇場型テロのめざす宗教感情動員
ネパールは,人質殺害事件を宗教紛争に持ち込もうとするイラク武装勢力側の策謀に乗せられてはならない。マオイストのイデオロギー戦争に宗教紛争が絡んだら,もう手の着けようがない。
宗教的に危険なことは,人質自身がよく自覚していたらしい。おそらく彼らは,仏教徒の方が安全だと思い(あるいは,聞かされていて),自分たちをヒンズー教徒ではなく仏教徒だとけんめいに訴えたに違いない。犯行声明が「仏陀を神と信じ,・・・・イスラム教徒と戦い,ユダヤ教徒とキリスト教徒に奉仕するために,自分の国からやってきた12人のネパール人に対し,神の裁きを執行した」(KtmP,Sep2) となっているのは,そのためであろう。
武装勢力側が,人質の釈明を信じたかどうかは不明だが,この声明が世界中の宗教感情をあおり立て,彼らの戦いに動員しようとしていることは明白だ。
BBCも,この構図をはっきりと視覚化し,伝えている(Sep1)。記事上段には,群衆に襲撃され黒煙を上げているジャマ・モスクの写真。中段には,虐殺された人質12人の無惨な遺体写真。そして,下段には,嘆き悲しむ遺族の写真。強烈なイメージだ。この記事を目にした両派の抱く感情は,容易に察せられる。
ネパールの都市部は情報化しており,報道を意識した犯行情報の流入は防げない(現に,いまもインターネットは健在)。流入したセンセーショナルな情報は,さらに単純化され,今度は口コミで欲求不満のつのる庶民に広がっていく。宗教紛争の火薬庫に火を近づけるようなものだ。
デウバ首相は,テレビで火消しに躍起だ。「テロリストは宗教もカーストももっていない。ネパール人の皆さん,テロリストの残虐非道な行為に動転して特定の宗教に怒りを向けるようなことは絶対にしないで戴きたい」(WashingtonPost,Sep1)。センセーショナルな報道の前ではあまり説得力はないが,首相としてはこういうより仕方ないのであろう。
本来なら,ここは国王の出番だ。建国の父プリトビ・シャハ大王は,諸宗教の調和を説き,統一ネパールの基礎を築いた。現国王はその継承者のはずだが,政治に介入し権威を失墜させてしまったため,国民統合の維持という本来の憲法的義務を果たせない。まことに残念だ。
1日の暴動は,外出禁止令発令後,夕方にはとりあえず沈静化したようだ(WashingtonPost,Sep1)。が,宗教的に意味づけられた虐殺写真はあまりにも強烈であり,またモスク,アラブ系航空会社,人材会社,政府機関など多数が襲撃されており,今日2日がどうなるか,心配だ。
まず第一にすべきことは,事態の沈静化。デウバ内閣の責任追及は,そのあとでよい。
それと,外出禁止令発令中は,「見つけしだい違反者は撃つ」と警告されている。撃たれてから,知らなかったと言ってみても,後の祭り。くれぐれもご用心ください。
040901b . モスク攻撃,外出禁止令発令
人質殺害に怒った群衆数百人が,ジャマ・モスク攻撃。死傷者はない模様だが,タイヤに火をつけたり封鎖したりで街は緊迫,外出禁止令が発令された(BBCnews,Sep1)。
強者アメリカがイラク庶民を攻撃し,その反撃として急進派が弱者ネパール人労働者を攻撃し,その報復としてネパール庶民が弱者・少数派のネパール・ムスリムを攻撃する。万国共通の抑圧移譲の心理だが,悲しい。
また,このときとばかりに,政府を攻撃し,デウバやめよと叫ぶ輩がいるが,少なくともこの件に限定すれば,ネパール政府に出来ることはごく限られていた。混乱に乗じて,政府攻撃して,何になるのか?
いまネパールのメディアの力が試されている。BBCは,「(ネパール人労働者は)ムスリムと戦い,ユダヤ人とクリスチャンを救うためにネパールからやってきた」と殺害者が語ったといった記事を,ネパール向けに垂れ流している。背景説明なしに,こんな危険なニュースを流すのは,災害時のデマと同じで,無責任だ。
ネパール・メディアは,BBCなんかに負けず,本当の国益,ネパールの庶民のために,事件の全体的真実を伝えて欲しい。がんばれ!
040901a . 12人惨殺――誰が殺したのか?
ネパール人人質が1人は首を切り落とされ,他の11人は銃で撃たれて殺された
(WashingtonPost=AP,Aug31)。いったい誰が殺したのか?
もちろん対テロ戦争。アメリカはハイテク兵器で「自分は死なない戦争」「テレビ観戦できる戦争」をめざし,それでも自軍に死者が出ると,街や村をほとんど無差別大量攻撃,何倍,何十倍ものイラク人を殺してきた。その残虐さは,人質殺害の比ではない。
戦国時代の刀で敵を切り倒し返り血を浴びながら首を切り取るのが,原爆投下やミサイル発射より,どうして残酷と言えるのか?
人が目前の人を殺す殺人には,いかに残虐非道であれ,まだしも人間味が感じられる。ところが,ハイテク兵器攻撃では,人を殺すことへの人間的恐怖がまるで感じられない。どちらが残酷か?
しかも,アメリカは戦争のローテク部分を自由市場化=アメリカ化強制の犠牲者に分担させている(国際貢献論)。その結果,反テロ戦争への反撃は,ハイテク兵器で守られた主敵は無理なので,このローテク分担者――本来なら彼らと同じ犠牲者――に向けられてしまう。
被害者と被害者を反目させ,戦わせ,そこから巨利を得る人や企業や国,それが結局は12人のネパール人労働者を殺したのだ。