2006年12月  ネパール評論


2006/12/30 国王代替マーチン閣下にチャッカリ
2006/12/28 ネパール情報洪水に流されて
2006/12/26 コーラでメリークリスマス,マオイストは?
2006/12/23 グルカ退役兵が停戦監視
2006/12/20 3極から2極ガチンコ対決へ
2006/12/18 改正教基法,防衛省法と自衛隊派遣
2006/12/17 暫定憲法記事も,東京・読売>朝日
2006/12/15 停戦監視員36名申請,自衛隊は?
2006/12/13 コンテナ詰めの経済と政治
2006/12/11 やはりネコババ?
2006/12/10 ククリ武装PLA兵:経費・人員水増し請求
2006/12/07 自衛隊派遣要請? 桃色化「朝日」の右傾化
2006/12/06 イラクを他山の石に,国連の本音ポロリ
2006/12/04 文民派遣要請,M軍解体,国連の貧乏くじ
2006/12/03 政府・マオイスト「停戦監視協定」
2006/12/02 処罰か和解か: HRWと真実和解委員会
2006/12/01 ネパール紛争利用の自衛隊派兵

2006/12/30

国王代替マーチン閣下にチャッカリ

谷川昌幸(C)

国連事務総長特別代理イアン・マーチン氏によれば,国連監視員6名が12月28日,ネパール着任。国籍はカナダ,グアテマラ,インドネシア,ヨルダン,ウルグアイ,イエメン。彼らは,軍事顧問4名(フィンランド,ノルウェー,スイス)と合流し,1月7日から監視作戦を開始する。国連監視団は最終的には150−200人となる。

一方,国連は,グルカ退役兵からなる暫定軍の編成を計画している。以前にも書いたように,これは名案だ。世界最強のよく訓練された元グルカ兵がいるのに,わざわざ外国人傭兵を雇う必要はない。国連の下にグルカ暫定軍を編成し,停戦監視,治安維持を任せたらよい。

これは名案だが,そうなると,ネパールは国連統治になり,マーチン氏は事実上ネパール統治者となる。代替国王だ。

すでにRPP2派が,暫定憲法起草に参加させてもらえなかったとか,ポカラでRPP派が襲撃されたとか,不平・苦情を自国のコイララ首相にではなく,マーチン閣下に申し出ている。

亡国の悲哀。主権喪失とは,かくも悲しく情けないことだ。牛を食っている(であろう)外国人に,大半がヒンズー教徒のネパール人が軍事と政治の決定権を握られ,おそるおそるお伺いを立てる。マーチン閣下にチャッカリ,チャッカリ。右翼的にいうなら(左翼的にいっても同じだが),国辱ものだ。

一時的緊急避難なら,まぁ辛抱できる。問題は,ネパール政治文化の核心にあるといわれている運命論的権威主義。ビスタが指摘したように,決定は上へ上へとあげ,責任を回避する。この権威主義がある限り,下手をすると,ネパールの主権喪失状態は永続化しかねない。

国連介入を早くから強硬に主張してきたのがマオイスト。いかにもネパール的ではないか。7政党は国連介入に消極的だったが,国王が失脚したとたん,お伺いを立てるべき権威を失った7政党が国連に駆け込んだ。そして,今度はRPP。極左から極右まで,運命論的権威主義に隷従している。自分たちのことを自分たちで決める気概がまるでない。

異文化外国人を代替国王にするくらいなら,いくら暴君でも,自国の国王の方がまだましだ。アナン国連事務総長ですら,フセイン治下の方がまだましだった,とつい本音を漏らしたではないか。

12月30日,フセイン氏は絞首刑に処せられたが,フセイン独裁打倒のためのイラク戦争そのものは明らかに失敗だった。そして,フセイン死後,いまの内戦状態を収束させるため,フセイン独裁以上の専制政治が始まる可能性すら感じられる。

ネパールが同じようなことにならないことを切に願っている。王政を打倒してみたものの,諸政党や官僚や軍が当事者意識を持たないくせに(持てないからこそ),屈折したナショナリズム感情・国辱意識を鬱積させ,そして,ある日突然,本物の軍事独裁者を人民の歓呼の声で諸手をあげて歓迎するような事態だけは回避してもらいたいものだ。

* eKantipur, Dec.29; nepalnews.com,Dec.29.



2006/12/28

ネパール情報洪水に流されて

谷川昌幸(C)

今年もあとわずか,ますますあわただしく忙しかった。それでネパール理解が深まったかと言えば,むしろ逆,認識も予測・実践もますます難しくなった。なぜか?

最大の理由は,情報過多。小さな国なのに,文字,数字,音,映像など,ありとあらゆる情報が激増し,何がなにやら分からなくなった。つい10年ほど前は,じっくり情報を吟味する余裕があった。いまそんなことをしていると,パソコン少年に負けてしまう。

著作権も無きに等しく,切り貼り御免,著者責任は溶解しつつある。インターネットと,近代的「主体」否定ポストモダンのおかげで,author=著者,本人,創始者は洪水情報に埋もれて見えなくなるか,あるいは故意に身を隠し,こうして匿名無責任化された情報がネットから世界を支配するようになった。

ネットにおける情報の量的拡大と匿名化が,認識と予測・実践を難しくした諸悪の根源だ。CIAにお願いして,すべての情報に発信者識別番号を付加してもらいたいくらいだ。

かつて匿名情報は,専制や腐敗や人権侵害を告発する弱者の武器だった。いまもまだその役目はある。しかし,それ以上に匿名情報激増の悪は大きく,責任性をむしばみ,文明・文化を劣化させている。

2007年も,ネパール情報は急増し,あすますあわただしく消費され,そしてネパールの認識も予測・実践もますます難しくなるだろう。因果な時代になったものだが,これも宿命,諦めるしかあるまい。



2006/12/26

コーラでメリークリスマス,マオイストは?

谷川昌幸(C)

コーラ帝国主義とクリスマス帝国主義をマオイストは許容できるか?

カンチプルによれば,マオイスト系労組が臨時雇用や解雇を理由にコカコーラ工場を閉鎖した。コーラはいうまでもなく米帝の尖兵。マオイストはいずれ物取り主義を越え,以前のコーラ帝国主義粉砕路線に戻るはずだ。

そして,その思想からすれば,クリスマス帝国主義はもっと許せないはずだ。UWBによれば,クリスマス・パーティはいまやコーラと同じくらい普及したという。たしかにヒンズー教徒の友人たちから,クリスマスカードが何枚も送られてくる。その都度,私は仏教徒だから,クリスマスは祝わない,と断り状を返送している。

ヒンズー教徒も仏教徒も,なぜ,こんなに卑屈になってしまったのか? 禁酒ブラーマンがコーラでメリークリスマス! この経済的・文化的帝国主義支配に抵抗できるのは,いまやマオイストのみ。頑張れ,マオイスト!

(追加)コカコーラとサンタクロース
蛇足ながら,クリスマスにつきもののサンタクロースは,コカコーラ社がでっち上げた宣伝キャラクター。コカコーラ社の公式HPは,自慢たらしく,堂々とこう書いている。

1931年にコカ・コーラ社のクリスマス用の広告を制作したハッドン・サンドブロムはより温かみのある人間的なサンタクロースを創り出そうと考え、赤の衣装のサンタクロースにコントラストが鮮やかで親しみの湧く白い立派なひげと福々しい体格を与えました。今ではサンドブロムの“サンタクロース”はセント・ニコラスのシンボルとして、世界中の国の人々に愛され続けています。」(コカコーラ社公式ホームページ

何のことはない,コカコーラはサンタをでっち上げ,キリスト教を商売に利用しているのだ。本来なら,クリスチャンは,サンタの商業利用に怒るべきだ。まあ,それはキリスト教の内部問題だから,仏教徒の私が干渉することはない。

問題は,このコーラ帝国主義の尖兵たるサンタクロースを,こともあろうにヒンズー教徒や仏教徒たちが,禁酒までしてコカコーラを飲み飲み誉めたたえていることだ。コーラを飲んで経済植民地になり,クリスマスを祝って文化植民地になる。その両植民地主義を象徴するのががサンタクロースだ。

どうしてマオイストはもっと本気で怒らないのだろう? 禁酒運動はコーラ普及のためだったのかな? そういえば,くそまじめピューリタンも禁酒運動をしつつ,資本主義化のために身も心も捧げ尽くした。

神は金儲けを汝の義務とした,ということであれば,コカコーラ社はキリスト教(ピューリタン)の教義に忠実と言うことになる。マオイストは,精神的態度としてはピューリタンにごく近いので,案外,コーラ帝国主義を心地よく感じているのかもしれない。  そうだとすれば,マオイストにも期待できないかもしれない。残念ながら,コーラ帝国主義に完敗か?

* eKantipur, Dec.25; UWB,Dec.24.

 



2006/12/23

グルカ退役兵が停戦監視

谷川昌幸(C)

政府とマオイストは,マーチン国連事務総長特別代理の同席を求め,グルカ退役兵111人を人民解放軍兵器・兵員監視員に任命することに同意した。国連の兵器・兵員監視員35人,選挙監視員25人の着任は1月中旬の予定。

これは名案だ。常任理への1票がほしい日本の自衛隊よりも,100倍はよい。できるだけ外国の介入を回避すること。これは,7政党とマオイストの国民に対する義務だ。

* nepalnews.com, Dec.22.



2006/12/20

3極から2極ガチンコ対決へ

谷川昌幸(C)

4月「人民運動U」で,ネパール政治は「国王vs議会派諸政党vsマオイスト」の3極構造から「議会派諸政党vsマオイスト」の2極構造になり,その成果が「暫定憲法草案」成立(12/16)により法的にも確認された。

3極構造は無責任になりやすいが,安定性は高い。2極は,責任の所在は明確だが,左右のガチンコ対決で,逃げ場がない。

さっそく十数名の大使推薦(12/18,駐日大使Ganesh Yonjan氏)で,これに反対のマオイストが12月19日,バンダを決行。そして,もし撤回要求が入れられなければ,12月31日,1月1日と2波のバンダを予告している。逃げ場がないぞ。大丈夫か?

今のところ,国連が国王の代替物となりつつある。でも,国連に国王代理がつとまるか? もし国王の次に国連を追い出すようなことがあると,正真正銘のガチンコ対決。そのようなことがないことを願っている。

* eKantipur, Dec.18-20



2006/12/18

改正教基法,防衛省法と自衛隊派遣

谷川昌幸(C)

改正教育基本法と防衛省法が12月15日成立した。愛国心強制と軍事化をセットで進めるとは,さすが安倍政権。薄気味悪い反動の始まりだ。

これで,ネパール自衛隊派遣も決まりか。ヒマラヤの自衛隊は断然かっこよい。門出を少しでも明るくしたい「防衛省」の初仕事だ。

被爆地ナガサキでも,反動政府のごり押しで国民保護計画を策定中だ。ピカッと光ったら,光から目をそらし,ハンカチを口に当てて逃げるのだそうだ。光よりも速く,放射能を受けずに・・・・。

保守の真価は現実性だ。その保守がこんな観念論を唱えるようでは,もはやそれは保守ではない。後ろ向きの暗〜い反動だ。

2006/12/17

暫定憲法記事も,東京・読売>朝日

谷川昌幸(C)

8党代表が12月16日「暫定憲法」に署名した。公布は,国軍とマオイスト軍(両軍!)が国連監視下に入った後になるが,暫定憲法そのものは確定した。とりあえず,おめでとう。

面白いのは,日本の新聞各紙の評価。見出しは――

東京新聞(カトマンズ=共同)
暫定憲法最終案で合意,ネパール国王は元首

読売新聞(カトマンズ)
ネパール暫定憲法,政府・7政党と毛派が最終草案合意

朝日新聞(ニューデリー)
「元首は国王」明記せず,ネパール暫定憲法案合意

記事本文は短く,また暫定憲法そのものもまだ公布されていないので断定は出来ないが,印象としては,「国王はまだ残った」という趣旨の東京,読売の方が,「名実ともに国王離れ」を強調(期待)する朝日よりも事実に近い感じだ。記事を読み比べてみていただきたい。

世界的に見ると,ネパール・マオイストは,南米を席巻する反米左翼政権化の流れに通ずるところがある。

いよいよ,世界左翼の希望の星マオイストが世界最高峰エベレスト(むろんネパール領サガルマータ)に赤旗を立てるのだから,左派代表の朝日新聞も世界革命の中心地カトマンズに記者を派遣すべきではないか。このままでは右派読売新聞に連戦連敗だ。

2006/12/15

停戦監視員36名申請,自衛隊は?

谷川昌幸(C)

KOL(15Dec)によれば,停戦監視員(軍人)として,8カ国が36名を申し出た。

インドネシア(6), ヨルダン(6),マレーシア(6),ノルウェー(6),イエメン(6),スイス(3),ウルグアイ(2),パラグアイ(1)。

国連は日本にも派遣要請しているが,今のところ名簿には出ていない。むろん,自衛隊は派遣すべきではない。

一方,国連は文官の派遣要請もしているが,費用派遣国負担のため,スウェーデンの2,3名以外には申し出はない。日本政府は,この非軍事分野にこそ積極的に協力すべきではないだろうか。



2006/12/13

コンテナ詰めの経済と政治

谷川昌幸(C)

今日のKOL(13Dec)に,PLA武器保管用コンテナ(鉄またはアルミ製)の写真が出ている。立派な巨大コンテナ70台をはるばるインドから搬入するそうだ。

ネパールで何かをすると,なぜいつも,このようになるのか? 武器保管なら,民家を借り,カギをかけ,監視人をおけば済むこと。あるいは,国軍とPLAの武器を広場に集め,テレビ中継も入れ,火を放てば完璧だ。1万ルピーもあれば,十分。

ピカピカの巨大コンテナを四苦八苦してジャングルに搬入するのは,日本資材による道路建設よりも愚劣だ。コンテナは,経費浪費それ自体,あるいは見せ物効果を目的としていると考えざるをえない。

マオイストは,ククリ所持者を正規兵と主張するようだ。むろん,ゲリラ戦からいえば,これは正論だ。

ところが,国連=「国家」連合は,いまだに主権国家の正規戦に囚われている。ポスト近代の「新しい戦争」は,宿営地に閉じこめられる「正規兵」やコンテナで管理される「武器」で戦われているのではない。国連は,圧力鍋やスリコギを集めコンテナを満杯にするつもりなのか。あるいは,農民男女や生徒を宿営地に収容し,兵士手当を支給するつもりか。

マオイストは,国連のはるか先を行く。マオイストは,国連の近代的「正規戦」論理とポストモダンの「新しい戦争」論理を巧みに使い分け,勢力拡大を図っている。宿営地は給料目当てのにわか「マオイスト」,外では本物マオイストが選挙キャンペーン(=戦争)といったことになりかねない。マオイストが「戦意」を失わなければ,これはマオイストの勝ちだ。

■「新しい戦争」については下記参照
ネグリ=ハート「マルチチュード」(1) グローバル帝国の解剖
ネグリ=ハート「マルチチュード」(2) 
人民とマルチチュード ネグリ=ハート「マルチチュード」(3) 帝国



2006/12/11

やはりネコババ?

谷川昌幸

KOL記事(11Dec)によれば,マオイスト宿営地の大量の新兵は月給をもらっていないそうだ。1億7千万ルピーはネコババではないか?

宿営地では,新兵は塹壕掘りなどでこき使われる一方,国連の「戦闘員」調査に備え,上官や幹部の名前を暗記させられている。こんな調子では,本当にテッポウが撃てるかどうか,実地試験が必要だろう。

こんなでたらめマオイストのために,国連は「戦闘員」認定の汚れ役を引き受け,大金を投入し,ネパール軍事化(国軍倍増計画)を支援するつもりだろうか?

2006/12/10

ククリ武装PLA兵: 経費・人員水増し作戦

谷川昌幸(C)

朝日新聞以下,内外マスコミが絶賛する一連の「和平協定」は,当初から指摘しているように,金の使途規定,兵員規定のないザル協定だ。水は漏れ放題。

1.マオイスト強奪の継続:マハト蔵相
マハト蔵相によれば,政府はすでに1億7千万ルピーをマオイストに供与したが,マオイストによる強奪は全国で依然として頻発している。そもそもこの金が誰に支払われ,どのように使用されているか,少なくともマスコミを見る限り,全く分からない。

170000000ルピー÷ 5000人= 34000ルピー/人
170000000ルピー÷10000人= 17000ルピー/人
170000000ルピー÷35000人= 4857ルピー/人
170000000ルピー÷100000人= 1700ルピー/人

1億7千万ルピーは,「戦闘員」何人の,何ヶ月分の経費なのか? 「つかみ金」として幹部のポケットに入ったとすれば,すでに資金不足。5千人に分配なら3カ月もつが,3万5千人なら1月ももたない。いったいどうなっているのだ。

こうした最も基本的な数字も示さないまま,マハト蔵相は,追加資金の供与を検討するという。1億7千万ルピーの会計報告を蔵相は受けているのだろうか? ネコババされたのではないのか?

援助国は,くだらぬ武器管理(保管庫のカギは1本か2本かといった)の議論は三百代言屋にまかせ,カネの使途を厳重に監視すべきだ。自衛隊なんか出すより,行政支援の方が先決だ。

2.兵力確定作業は「悪夢」:JB・プン
そうしたなか,ようやく,人民解放軍(PLA)は何人か,という議論が出始めた。JB・プン「PLA兵力の確定は悪夢となろう」(ネパリタイムズ#326)によれば,状況は深刻だ。

INSECによると,マオイストは全国で新兵勧誘を継続し,入隊者には国軍相当の階級を与え(統合後はその階級の国軍兵),「2年前に入隊」というように命令されているという。また,年齢は調べようもない。ゲリラには王国政府の住民登録は無いし,あっても信用できない場合が少なくない。

つまり,「協定」の戦闘員認定基準の「2006年5月25日以前入隊」「1988年5月25日までに誕生」のいずれも,実効性はないということだ。

3.ククリ兵を認めよ?
プン氏の記事から推測すると,PLAの実数は,国際基準で算定すれば,やはり数千人,多くて1万余りのようだ。

これを自称3万5千人にするため,マオイストは新兵狩りを継続し,ククリ(小刀)所持者を「戦闘員」として認めよ,と要求しているらしい。そんなことをしたら,2千数百万人が国費救済されるべき「戦闘員」ということになる。バカらしくて,話しにもならない。

プン氏の記事は,まるで私の以前の文章の翻訳だ。むろん,そんなことはあり得ないが,それは常識さえあれば,誰でも当然考えるはずのことを,プン氏が文章にしたということだ。

4.出来レース?
だから,マオイストと7政党の場合も,それを分かった上でやっていると見てよい。停戦・和平=平和構築は,学校・道路建設よりもカネになる。「平和」を計画したり,宿営地にいてゴロゴロしているだけで,カネがもらえる。

国際社会は,こんな平和構築プロジェクトに金を出しても,金銭的腐敗と軍事拡大が進行するだけで,大多数の人民の生活向上の役には立たない。十数万もの巨大軍隊,RPP系からマオイストまでの寄合弱体政府,民主化幻想を植え付けられた人民大衆――反革命軍事クーデターへの道まっしぐらだ。

* JB. Pun, "Accurately assessing the size and strength of the PLA will be a nightmare," Nepali Times, #326, Dec.8-14, 2006.
* "Maoists continuing extortion despite receiving govt fund: Finance Minister," nepalnews.com, Dec.9,2006

自衛隊派遣要請? 桃色化「朝日」の右傾化

谷川昌幸(C)

今日の朝日社説(12/7)は,実に怪しい。自衛隊ネパール派遣を要請しているらしい。

1.朝日の桃色化
このところの朝日の変調は,桃色化からも見て取れる。九州・長崎版の広告(全面広告が多い)の低俗化は極限まで来て,そこまでしなくても,と哀れさえ覚える。それが,最近では本体にまでおよび,こんな広告を載せるようになった。

石原真理子が告白「25年目の真実」
私を通り過ぎた「ふぞろいの男たち」
玉置浩二の暴力で男性依存症になった私は大物アイドルK,お笑いスターのS,人気歌手Kと次々と結ばれ・・・

これがなんと『週刊朝日12月15日号』の宣伝(朝日新聞12/6)なのだ。紙面の下1/3以上を使い,巨大活字で印刷されている。(文字は黒地に白。記事は未読。内容が石部金吉なら,お詫びし,この部分を取り消します。)

朝日が「赤化」したのなら,頑張れ,と応援もしたいが,「桃色化」では哀れとしか言いようがない。しかも,『ポスト』『現代』などのように,エロと権力批判がセットになっているのなら,フェミニストに叱られても,「その志よし」と応援するにやぶさかではない。ところが,朝日は,「右傾化」とセットの「桃色化」だ。救いようがない。

2.社説で自衛隊派遣要請?
以上を念頭に置いて,社説「ネパール:今度こそ根付け民主制」(12/7)を読むと,その執筆意図が透けて見えてくる。

68行に及ぶ長い社説だが,そのうちの65行は,無意味。小学生でも読むインターネット記事を要領よくまとめた例の朝日調「お説教」にすぎない。こんな作文が答案なら,評価はまちがいなく「可(60点)」だ。

しかし,そんなことは社説執筆者は分かった上で書いている。本音は,最後の3行――

「日本は長い交流の歴史を持つ。国連の武器監視活動に協力することなどを通じて,和平の動きを後押ししたい。」

これが言いたいがために,だらだらと65行もお説教をしてきたのだ。むろん,もろに「自衛隊を出せ」とは書いてない。しかし,この朝日社説を見て大喜びしたのは,「防衛省」に格上げされ,海外派兵を「本務」とすることになる防衛庁=自衛隊と,応援団の防衛族,財界だ。朝日は,非軍事の「長い交流の歴史」を歪曲し,それを自衛隊派遣に利用しようとしているのではないか。

残念ながら,これで自衛隊ネパール派遣に弾みがついた。「民の声を天の声」とする良識派朝日が「行け」というのだから,自衛隊は日章旗を掲げ粛々とネパール進軍を敢行せざるをえないことになるのではないか。



2006/12/06

イラクを他山の石に,国連の本音ポロリ

谷川昌幸(C)

1.内戦より独裁
アナン国連事務総長が,ついに禁句を口にした。イラクを「内戦状態」と断言し,

「一般国民が,残忍な独裁者がいても,いまよりましだったと考えるのは理解できる」

と述べたのだ(朝日,12/6)。国連外しで煮え湯を飲まされてきたアナン事務総長としては,禁句とは分かっていても,ことここに至っては言わずにはいられなかったのだろう。その心情はよく理解できる。

要するに,フセイン政権の方がましだということ。これは,選挙民主主義の敗北宣言だ。この論理を認めると,独裁であっても,ある種のもの,たとえば「開発独裁」は次善の体制として是認されることになる。

2.アフガン,イラクの選挙と内戦
開発独裁は別に論じるとして,ここでまず確認すべきは,繰り返し指摘してきたように,多文化社会における選挙の有効性だ。

イラクのあの歓喜に満ちた選挙(暫定議会2005.1.30,国民議会2005.12.15)は何だったのか? 日本政府はこう述べている。

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麻生外務大臣談話 イラク国民議会選挙について 平成17年12月16日

1.12月15日(木曜日)、イラク国民議会選挙が、大きな混乱なく実施された。わが国は、これをイラクの政治プロセスの極めて大きな進展として歓迎するとともに、イラク移行政府とイラク国民に対して祝意を表する。

2.わが国は、宗派や民族を超えた協調の下に、イラク新政府が早期に発足することを期待する。
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アメリカ選挙原理主義への追従だが,結果は「談話」の逆になった。イラクでは,選挙は何も解決しないどころか,差異を拡大再生産し,状況を悪化させたのだ。

アフガンについても,テオ・ゾンマーがNATO軍の苦境を語っている(朝日,12/6)。ソ連崩壊で「失業」の危機に直面したNATOは「外に出る」ことを選択し,アフガンに出た。ところが,いまや「アフガニスタンのイラク化という妖怪」にNATOはおびえている。

アフガンの晴れやかなあの選挙(大統領選2004.10.9,議会選2005.9.18)は,いったい何だったのか?

3.戦争としての選挙
このように,開発途上の多文化社会では,多くの場合,選挙は国民統合には寄与しない。それは,選挙戦というように,選挙は戦争(キャンペーン)だからだ。

様々な集団が,自己の主張を掲げ,他集団を批判・攻撃し,票を争う。彼我の違い,差異を拡大させ,自己の優越性を最大限言い立てる。こんなことをすれば,集団間の反目が拡大再生産され,統合どころか,分裂・対立を生み出すのは当然だ。

4.フェアプレーとノーサイドの精神文化
選挙が有効なのは,たとえばラグビーのようなフェアプレーとノーサイドの精神文化がある程度育っているところだ。

試合中は全力で真剣勝負するが,ルール(審判)には従う。そして,試合が終了すれば,ノーサイドで敵味方はなくなり,結果を「男らしく」受けいれる。

このフェアプレーとノーサイドの精神文化が育っていないところで選挙をやると,集団間の相互不信,憎悪を駆り立てるだけで,何の解決にもならない。

ネパールは,典型的な多民族・多文化社会で,フェアプレーとノーサイドの精神文化が育っているとは残念ながらまだ認められない。また,国民が選挙の争点について十分な情報をもち,合理的に判断できる状況にあるとも思えない。そのネパールで選挙をやってみても,解決できることはごく限られている。

5.政治家とメディアの責任
むろん,選挙はまったく無意味,といっているのではない。選挙で解決できることもある。政治家やメディアには,選挙で出来ることと出来ないことをよく見極め,人民に説明する責任がある。

その説明もせず,制憲会議選挙で万事解決といった幻想を振りまいていると,アフガン,イラクの二の舞になる。選挙は高度な統治手法であり,使いこなすには,相当の政治的成熟が必要だ。ネオコンの選挙原理主義に惑わされることなく,もう一度,平和のために何が必要かをよく考えてみるべきだ。

ギャネンドラ国王独裁の方がまだましだった,などということがないように。



2006/12/04

文民派遣要請,M軍解体,国連の貧乏くじ

谷川昌幸(C)

協定の類は,運用次第でどうにでもなるが,もし「兵器・軍管理監視協定」がその文言通り運用されたら,国軍は無傷どころか逆に強化され,マオイスト軍は解体される。いくつかの意味で,これはすごい協定だ。

1.派遣要請は「文民」
まず驚いたのは,協定では,要請されているのは「国連文民監視員」だ。目を疑ったが,    

   "qualified UN civilian personel"

と明記してある。誤訳? まさか。もしネパールが「文民」派遣を要請している――当然そうあるべきだ――としたら,自衛隊派遣などと,ヤラセをやっているのは,いったい誰だ。

「文民」派遣なら大賛成。自衛隊派遣には絶対反対。ネパールは,神聖な大地を外国軍に踏ませるべきではない。それが本物の愛国者というものだ。頑張れ,ネパール愛国者同志!

2.正規兵選抜
次に驚いたのが,冷酷なエリート選抜。宿営地に入れるのは,M軍正規兵に限定される(4.1.3)。

 (1)資格要件
  ・2006年5月25日以前のM軍正規兵
  ・1988年5月25日までに生まれた者

 (2)登録,身分証明書発行
  ・年齢,名前,階級,任務,入隊日を調査し,身分証明書を発行(つまり正規兵)

さて,ここで問題は,いったい何人いるのか,ということ。その肝心のことは,協定には何も書いてない。3万5千人? まさか。では,誰が強権的に振り分けるのか? ネパールでは,年齢ですら,正確にはわかりはしない。 その汚れ役は,おそらく国連にやらせるつもりだろう。

3.正規兵の特権
めでたく人民解放軍正規兵の身分証明書を手に入れると,しめたもの,宿営地に入り,様々なおいしい特権を手にする。

まず,ネパール政府が(もちろん諸外国の援助で)食料と他の生活用品を供与する(4.1)。

つぎに,正規兵は「治安部隊に統合される」。めでたく国家公務員として採用されるわけだ。

4.惨めな非正規兵
これと対照的に,惨めなのが登録を拒否される大多数の非正規兵。
 ・宿営地から追放。
 ・国軍,治安部隊には統合されない。

むろん,そうした非エリート非正規兵への援助も書いてはあるが,そんなことは誰も信じないだろう。惨めな非正規兵。

5.貧乏くじは国連?
カネが余るほどあれば,マオイスト正規兵は10万人になるかもしれない。無ければ,6千〜1万数千人になるだろう。

カネは無いに決まっているから,大多数のマオイストは,宿営地→国軍,という出世コースには乗れない。 この場合,再び負け組へと逆戻りしてしまうこれらのルンペン・マオイストが,はたして武器をおくだろうか? 疑わしい。

結局,国連が貧乏くじを引き,悪者にされるのではないか。「協定」を見ると,むろん運用にもよるが,国連はその気になれば強大な権力を行使できる。その強大な権力を行使しなければ,国際社会は莫大な負担を強いられ,逆に,権力を行使すれば,多くのネパール人に恨まれる。まさに,貧乏くじだ。国連の力量が試されるといってよい。



2006/12/03

政府・マオイスト「停戦監視協定」

谷川昌幸(C)

政府とマオイストが,アイアン(イアン)・マーチン国連事務総長特別代理(Personal Representative)の立ち会いのもと,「兵器および軍の管理監視協定」を締結した。

これまた,長い。あまりにも長い。長すぎる。ということで,コメントは暇なときに追加します。

武器および軍の管理監視協定(全文)

2006/12/02

処罰か和解か: HRWと真実和解委員会

谷川昌幸(C)

人権監視(HRW)が,正義の回復を訴えている。内戦中に政府とマオイストが行った様々な人権侵害を調査し,訴追し,責任をとらせるべきだというのだ。

まず,連行後の行方不明者がまだ1000人以上もいる。調査を早急に実施すべきだ。これには異論はない。

しかし,それだけでは不十分だとBA.アダムズHRWアジア局長はいう。「ネパール人民は,一貫して正義(裁判,処罰)を求めてきた。」

たしかに,そうだろう。内戦中の政府,マオイスト両派による生命・身体・財産に対する侵害が司法によりまともに裁かれたことはほとんどなかったと言ってよい。被害者やその家族が責任者の処罰と補償を要求するのは,当然だ。

しかし,マオイストが早くから主張していたように,もし人民戦争が国際法上の「内戦」なら,「敵を殺す」のは権利であり,どの程度残虐に殺したら罪になるか,その線引きは微妙だ。民間人でもスパイという場合もあっただろう。反証は実際には非常に難しい。

人権侵害は処罰され,「正義=法」は回復されるべきだが,正義=法は普遍的なものだから,国軍動員以前の政党(特にNC)政府による住民大弾圧も当然,処罰されなければならない。7党の中に,住民弾圧の責任がない政党はあるのだろうか。

HRWは,人権宗家アメリカの高みから,人権侵害を処罰せよと要求しているが,政党,マオイストとも同程度に手を汚しており,これは実際には難しい。むろん国王と王国軍高官(もちろん責任はある)を人身御供にする手はあるが,その場合であっても,7政党とマオイスト側の処罰抜きであれば,勝者による敗者の報復的処罰と受け取られる。

もちろん,4月政変を革命と見なせば,勝者が反革命の敗者を一方的処罰しても,正義は革命側にあるから,処罰は正当である。しかし,HRWは絶対にそんな危険思想は容認しないはずだ。

そうしたことも考えてか,HRWは和平協定5.2.5の「真実和解委員会」に言及しているが,文面からは,あまりこの方式は評価していないようにみえる。やはり人権=正義は絶対という立場から,人権侵害の調査,責任者の訴追,処罰を要求していくのだろう。

ここは難しいところだ。失われた「正義」は回復されるべきだが,もし勝者の「正義」だけを回復したら,それは「報復」にすぎず,いずれ反動が生じ,報復合戦になる。これを避けるには,訴追,処罰だけでなく,南アフリカの「真実和解委員会」の経験にも学ぶ必要があるのではないかと思う。

* Human Rights Watch, "Nepal: After Peace Agreement, Time for Justice: Army, Maoists Must Account for Killings, 'Disappearances'," New York, Dec.1, 2006.

* 真実和解委員会については,図書紹介:永原陽子「和解と正義――南アフリカ「真実和解委員会」を越えて,参照



2006/12/01

ネパール紛争利用の自衛隊派兵

谷川昌幸(C)

1.日本産軍複合体のネパール派兵
自衛隊のネパール派遣は,日本軍国化のためのネパール紛争利用が目的である。何であれ,物事には多面性があるが,突き詰めて根本を見れば,自衛隊派遣は善意ではなく,日本産軍複合体の利益のために他ならない。こんな火事場泥棒のような卑怯な行為を,日本国民は,とくにネパールを愛する人々は,断じて許してはならない。

2.自衛隊法改悪
前回(11/29)指摘したように,安倍政権は日本軍国化のために「自衛隊法改正案」を提出,これが民主党の裏切り(本音回帰)により,11月30日衆院で可決され,今国会で成立する見通しとなった。軍国化のソフトが教育基本法改悪,ハードがこの自衛隊法改悪だ。

自衛隊法の関係改訂部分――
「2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。

 一 我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動

 二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動」

つまり,この自衛隊法改悪により,日本政府は世界中どこへでも「平和」「安全」「国際協力」のために自衛隊を派兵できることになる。防衛庁は「防衛省」に格上げされ,防衛大臣のもと,本来の任務として,自衛隊が「自衛」の範囲をはるかに超えて,世界中に派遣される。これがいかに恐ろしいことか。

3.ニッポン兵とグルカ兵
これは,自衛隊のミニ米軍化,いや正確には米国の傭兵,ニッポン兵の出現だ。「自由」「民主主義」そして「平和」のために,アメリカ軍が世界展開しているように,自衛隊も「平和」「安全」「国際協力」のために,世界展開する。むろん,アメリカ傭兵,ニッポン兵として。

そんなニッポン兵を,グルカ兵の苦い歴史を持つネパール人民が本心から受け入れるはずがない。

ましてや,帝国主義支配を厳しく非難し,グルカ兵を糾弾してきた「勇敢な」英雄,プラチャンダ議長の率いるネパール共産党毛沢東主義派は,ニッポン兵の停戦監視参加を断固拒否するにちがいない。もし歓迎するようなことがあれば,マオイストは,ニセモノであり,ネパール人民に大嘘をついたことになる。

4.ヤラセをやらせないために
しかし,そこは世界に冠たるヤラセ大国日本,根回しをして,ネパール政府に自衛隊派遣要請,派遣歓迎をやらせるにちがいない。「貧困」をネタに,援助要請をやらせ,ぼろ儲けするのと同じ手口だ。

これは日本人自身の問題だ。ネパールを愛する日本人民は,
 ・自衛隊は,軍隊であり,違憲であること
 ・自衛隊員は,まともな人権・民主主義教育を受けていないこと
 ・シビリアン・コントロールは利かないこと
 ・自衛隊は,米軍支配下にあること
 ・アジア侵略の過去を引きずっていること
 ・軍国主義的傾向を持つこと
をネパール人民に訴え,派兵反対の声を上げてもらうべきだ。

日本国家がしでかそうとしている過ちを,ネパールの人々にお願いして未然に防止していただかざるを得ない。まったくもって面目ない次第だが,日本国人民には自分たちだけで日本産軍複合体の軍国主義化を止めることが,もはや困難になりつつある。

(補足)日本政府,自衛隊派遣要請を認める
共同通信配信記事がガセネタでないことは,国連関係者や日本政府関係者が認めたことにより,ほぼ明らかになった。先の共同記事(International Herald Tribune, Nov.27)でも,外務省のキタ・マサヒコ氏が「今すぐには」要請を検討することはない,国連が決議すれば「派遣を検討するだろう」と述べているのであり,これはいまから「ヤラセをやりますよ」ということを示唆したとみてよい。朝日新聞「国連,ネパールPKOを打診,日本政府検討へ」(ニューヨーク発記事,12月1日)


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