ネパール評論 2006年7月


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2006/07/31

「国王ギャンブル」記事の品格

谷川昌幸(C)

朝日新聞(7/31)が国際面で「ネパール国王ネットギャンブルの日々」という囲み記事を堂々と掲載している。朝日の品性が疑われる。

1.朝日旧聞に社名変更を
第一に,これはすでにネットで出回っている周知の「旧聞」であり,朝日「新聞」が権威ある国際面に載せるほどのものではない。ネットの単なる後追いなら,社名を「朝日旧聞」に改称すべきだ。

2.自分の頭で分析を
第2に,立憲君主制か共和制かが大問題になっているとき,こんなくだらないゴシップ記事を載せるセンスがなっていない。

4月24日を境に,共和制万歳報道一辺倒になった。こういうときこそ,社会の木鐸たる朝日は,ネパールにおける王制の意味を多少なりとも掘り下げて分析し,浮かれている世間に警鐘を鳴らすべきだ。

こんなことをやっていると,戦意高揚記事をまた書くことになる。かりに自衛隊が平和構築のためネパールに派遣されるようなことがあれば,きっと「現地住民,自衛隊を大歓迎!」と,ネットの後追い記事を掲載するだろう。

3.原理的議論の不在
ネパールで政治的議論がいっこうに深まらないのは,原理的対決をする勇気を持った思想家がいないからだ。4月24日,国民総転向! なぜ一人くらい,堂々と王制弁護論をはらないのか?

ギャネンドラ国王が専政を恣にしているときは,おべっかを使い,記念写真を撮っていたくせに,権力を失うと「失意の日々」を嘲笑する。品性下劣だ。

3.民主主義のギャンブル
ネパール国王のネットギャンブルは,せいぜい王家の財産をスルくらいだが,民主主義のギャンブルとなると,人民の生命・財産を根こそぎ破壊してしまう。

アメリカを見よ。共和制民主主義国アメリカの共和党のブッシュ大統領は,イラク人民とアメリカ兵の命を民主主義ギャンブルにかけ,何万人も犠牲にし,いまも日々死者が増えている。

そのアメリカが全面的に支援する共和制民主主義国イスラエルは,これまた民主主義ギャンブルでレバノンを攻撃し,国連施設さえ意図的に爆撃している。

4.民主主義の無差別大量殺戮志向
民主主義は,他のどの体制よりも大量無差別殺戮に走りがちだ。大日本帝国の中国都市爆撃は決して免責されないが,それやルワンダなどいくつかの例外を除けば,非人道的無差別大量殺戮の大半は,共和制民主主義国の仕業だ。

広島・長崎への原爆投下,東京大空襲,ドレスデン爆撃,こんな悪魔も目を背けるようなことは,純粋な民主主義者にしかできない。

粛正や「大躍進」で数千万人もの犠牲者を出したスターリンや毛沢東も,共和制人民民主主義者だった。いや,あのヒトラーですら,大衆の歓呼で圧倒的に支持された民主主義者であった。

5.トクヴィルの英知に習う
こんなことは,先進諸国では周知のことだ。民主主義は,強力な「反民主主義論」で批判され,選挙は様々な非民主主義的制度によりその欠陥を補正されている。

ネパールのような民主化途上国にとって,そのような「反民主主義論」に耳を傾ける余裕はない,というのは事実であろう。それは理解できる。

しかし,民主主義は劇薬である。アメリカですら使いこなせず,害毒を世界中に振りまいている。

民主化は時の流れ。私もネパールの民主化は大いに応援したい。しかし,それは『アメリカの民主主義』のトクヴィルに習うような,民主主義の悪を見据えた上での応援でありたいと願っている。

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2006/07/30

対ネ外交の日中比較

谷川昌幸(C)

中国と日本の外交団が7月末,あいついでネパールを訪れた。

中国は武外務次官以下10名。1億RMB(16億3千万円)の援助の引き換えに,コイララ首相とオーリ外相から,一つの中国,台湾独立反対,ネパール国土を反中国活動に使用させない,との言質をバッチリ取り,意気揚々と帰国した。「ネ中マオイスト共同宣言」はなかったが,大成功といってよい。

塩崎外務副大臣一行は,シンガポール,インド訪問のついでに,ちょっとカトマンズに立ち寄り,810万ドル(9億2千万円)の手みやげを渡し,それで,さて何を得たのだろうか?

かつて森首相は,歓迎行事中に居眠りし,一瞬にして日本嫌いを激増させた。今回は,まさかそんなことはなかったであろうが,アメリカの提灯持ち,との印象は拭いきれなかったのではないだろうか。

* 「人民日報」7月29日;eKantipur, Jul.29

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2006/07/28

人間の安全保障の危険性

谷川昌幸(C)

民主主義と同じく,「人間の安全保障」や「平和構築」も危険だ。

それらは,非軍事的支援が軍事的介入とセットになっており,必要な場合には軍隊を使うことが当然の前提になっている。ここを見誤ると,市民やNGOの善意の平和貢献は新帝国主義に取り込まれ,いいように利用されるだけとなる。

日本政府が「人間の安全保障」を日本外交の基本方針の一つにしたのは,おそらく自衛隊の海外派兵(=派遣)にとって,これが絶好の大義名分だと思われたからであろう。

防衛庁が防衛省ないし国防省に格上げされ,自衛隊も晴れて国防軍と改称され,海外派兵(派遣)は日本国防軍の本体業務(本来の仕事)となる。

「人間の安全保障」も「平和構築」も,国家(政府)に任せておくと,特に日本にとっては,危険きわまりないものとなる。国民監視が必要だ。

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2006/07/27

国家安全保障から人間安全保障へ

谷川昌幸(C)

安全保障が,「国家」中心から「人間」中心へ移行しつつある。世界社会がまず考えるべきは,「国家」ではなく個々の「人間」の安全だということ。これは,まっとうな考え方であり,その実現に努力すべきだ。

しかし,問題がないわけではない。「人間の安全」のために介入するのは,もっぱら先進国。人間安全保障は,先進国が途上国に介入する絶好の口実になっている。逆はない。途上国がアメリカ愛国法に介入したり,日本政府による人殺し(死刑)に介入したりはしない。

こうした先進国の身勝手は十二分に警戒しなければならないが,人間安全保障が21世紀の世界社会の基本的指針の一つであることはいうまでもない。

国家安全保障と人間安全保障については,大芝亮氏の図(「人間の安全保障と人道的介入」p.110)を拝借し,少し私なりに修正すると,次のようになる。


     人間の安全保障

        高い
         |
   [2]    |  [1]
         |
         |
 低い――――――――― 高い 国家安全保障
         |
         |
   [3]    |  [4]
         |
        低い


[1]民主的な安定国家
   国家も人間も安全

[2]非近代国家,安定した地域社会
   近代民主国家は不在だが,地域は安定し,人間の安全も保障されている。

[3]破綻国家
   国家が破綻し,人間の安全も保障されていない。

[4]抑圧的な安定国家
   国家は強力だが,人間の安全は保障されていない。

現在のネパールは,[1]を目指しているが,現実には[2]に近い[3],または[3]に近い[2]といったところか。

ここで言えることは,人間の安全保障としては[2]の選択肢もありうるということだ。また怒られるが,人間の安全にとっては,民主主義でなくもよいということ。

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2006/07/26

石油値上げ,ポピュリストは直視できるか?

谷川昌幸(C)

このところの石油急騰は,日本など先進国よりも途上国にとって深刻だ。7党政府は,マオではなくオイルのせいで倒れるかもしれない。

eKantipurの表を補足すると,次のようになる。(単位=ルピー)

         NOC損失(/l) 対印価格差   税
ガソリン      9.90       -14.36       26
ディーゼル油   11.10       -3.87       11
航空燃料    5.80       -16.97       10
灯油        8.21        -         3
LPG      189.25(/cyl)     -        200

ネパールの石油類は政策的に低価格に設定されているが,これではもたない。政権を王様,7党,マオイストの誰が担当しても同じこと。

7党に問題を直視する勇気があるだろうか? ポピュリストの政権担当能力が問われている。

* NOC=Nepal Oil Corporation
* eKantipur, Jul.24

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2006/07/25

中国外交使節団,ネパールへ

谷川昌幸(C)

人民共和国・中国の外交使節団(10人)が,7月27日,人民共和国を目指すネパールにやってくる。和平過程に関与する目論見だ。

絶妙のタイミング。うまいなぁ!

もしこれで,ネパール・中国「マオイスト共同宣言」でも発表できるなら,中国外交は文句なしに世界一。

* eKantipur, Jul.24

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プラチャンダ,怒りの国連宛書簡

谷川昌幸(C)

プラチャンダ議長が,先のコイララ首相のアナン国連事務総長あて書簡(7/20記事参照)を厳しく批判する書簡を総長あてに送った。

国軍が圧倒的に有利な状況ならコイララ書簡のような一方的武装解除要請も考えられないではないが,2勢力が拮抗している現状では,これは先述の通りマオイストが受け入れるはずがなく,したがって国連も仲介には入れない。

もちろんマオイストをテロリストと再確認し,多国籍軍を送り込み,「平和強制」をやるのなら話は別だが,そんな割に合わないことはどの国もやりはしない。

コイララ首相ほどの人がそんなことも分からず総長宛書簡を送ったとは思えない。とすると,コイララ書簡の目的は,ズバリ引き延ばし策。

以前(2002年10月頃)から指摘しているように,NCにとって,解散議会の復活,できることならその永続化が望ましい。選挙は困る。だから,現状がNCにとっては理想状態なのだ。

NCにとって,制憲会議も代議院選挙も,出来るだけ先延ばししたい。選挙を経ずに議員特権を棚ぼた式に獲得した現議員の多くも,徐々にそのように考え始めたようだ。

ネパールの会議,対話は,多くの場合,決定を先延ばしするためにある。国連書簡も同じではないか?

--------------------------------------

H.E. Mr. Kofi Annan

Secretary-General of the United Nations
New York.



Dear Mr. Secretary-General,

This is to draw your attention to the letter sent to you by the Government of Nepal on 2 July 2006 and to register our strong protest and disagreement over certain crucial points of the letter.

Firstly, the letter was written & sent unilaterally and secretively without any consultation with us in utter violation of the spirit of ongoing negotiation between the Government of Nepal and the C.P.N (Maoist). We came to know about the letter through the media after nearly three weeks, and hence this delay to register our disagreement over it.

Secondly, and more importantly, the content of the letter, particularly as stated in points nos. 3 & 4, is in complete violation of the 12-point Understanding of 22 November 2005 and 8-point Agreement of 16 June 2006 reached between the two sides. For your kind recollection, clause-3 of the 8-point Agreement clearly states: "To request the United Nations to assist in the management of the armies and arms of both sides (emphasis added) and to monitor it for a free & fair election to the constituent assembly". Against this, the said letter self-professedly and provocatively talks of "Assist in the monitoring of the combatants of the Maoists and decommissioning of their arms" and "Monitor to assure that the Nepal Army is inside barracks" etc. Such arbitrary and unilateral application of two different yardsticks to the two armies is highly objectionable and totally unacceptable to us. Particularly any talk of "decommissioning" of arms of only the PLA before the election to the constituent assembly is just unthinkable. As everybody knows, the so-called Nepal Army is still loyal to the autocratic monarchy and its democratic restructuring and keeping under credible international monitoring is more imperative & important for free & fair election to the constituent assembly.

We would like to reiterate our appreciation to the United Nations and to you personally for the positive role played so far in favour of democracy, peace and progress in Nepal and expect the same in future. We shall be happy to co-operate in any manner with the UN team planning to visit Nepal soon.

Please accept, Excellency, the assurances of our highest consideration.



……………………
Prachanda
Chairman
Communist Party of Nepal (Maoist) 24 July 2006

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2006/07/24

首相,神の化身へ

谷川昌幸(C)

王制を弁護するたびに友人・知人が去り,アクセスが減る。それでも,軽薄な共和主義者どもの権力もてあそびは,看過できない。

これまた敬愛するマックス・ウェーバー先生は,政治(権力)を悪魔にたとえ,「老獪な悪魔とかかわるには,政治家は責任を覚悟せよ」と警告された。軽薄な共和主義者のどこに,悪魔と手を結ぶ覚悟があるのか。

1.首相,パシュパティナート守護者に
軽薄議会は,先週(日付不明),パシュパティナート寺院守護者(パトロン)を,国王から首相に替え,王妃役を文化情報観光大臣に替えた。

これは何を意味するか? 恐ろしいことだ。名目的にはパシュパティナートが上だが,実際上は,もちろんパトロンの方が上だ。パシュパティナートを礼拝する内外のヒンズー教徒は,これからは世俗の首相(ギリジャさん)を礼拝することになる。

これまでは,国王という神秘的存在だったから,まだ神秘のもやに包まれパシュパティナート礼拝の政治的意味がぼかされていた。ところが,これからは単なる俗人がシバ神を守護している。もしプラチャンダ同志が首相になれば,マオイストがパシュパティナートを礼拝し,人民がパシュパティナートに権威づけられたマオイストを礼拝するという悲喜劇となる。

それはあんまりだ,ひどい! ということであれば,解決策は二つ。一つは,「人民の友」が唱えている世俗国家化。国王も首相も観光大臣も,パシュパティナート寺院には一切関与しないこと。完全な政教分離。そうなれば,パシュパティナート寺院も,他の多くの寺院と同じく急速に没落して行くであろう。

もう一つの方法は,国家元首(首相)自身を正式に神にすること。スターリンは事実上神だった。毛沢東も神だったし,いまも形式的には天安門などで礼拝されている。

「権威」というものは,世俗共和主義者が考えるほど軽いものではない。弄ぶと神罰を受ける。

2.先進国の二枚舌とワナ
先進国の多くも,実際には,政教分離など,実現していない。イギリスは,女王陛下が国教会の長だし,日本は天皇を象徴としている。靖国神社もある。

アメリカは,共和制民主主義のチャンピオンだが,聖書なしには,大統領も就任できない。

これらの国々は,政治と宗教,権力と権威の間の微妙で危険な関係を,長年かけて築き上げてきた。それでも,たとえば日本では首相や大臣が靖国神社を参拝するなど政教一致の愚行を繰り返しているし,イギリスでも王家のスキャンダルが続発している。先進諸国でも,政治と宗教の関係をまだ調整しかねている。途上国からの収奪で経済的に余裕のある先進国ですら,この有様なのだ。

世俗化は,極論すれば,世俗市場社会化によりもっと儲けようとねらっている先進諸国のワナだ。神々礼拝,神々への寄進では儲からない。そんな暇とカネがあったら,賃労働で働き,労賃で商品を買え! ということだ。

3.象徴としての国王の心構え
ネパール国王も,もちろん民主化に対応しなければ生き残れない。

ギャネンドラ国王は,ビレンドラ国王の財産をごっそり相続し,いまではビックリするような大金持ちだそうだ。
  ・ソルティー・グループ(ネパール第3位)  1億ドル
  ・預金(スイスの銀行)          数億ドル
  ・金地金(外国のどこか)          9トン
  ・土地(全国各地)            多数

民主主義時代における国王・王族は,こんなに財産をもっていてはいけない。全部,国庫に寄贈すべきだ。

4.国王の儀式
いま国王は,政治的権限を全部剥奪され,儀式三昧らしい。もしここで全財産を自主的に放棄されれば,国民は喝采し,国王を見直し,王制は今後100年は安泰であろう。

国王は,どのような儀式をしているのか? ウワサでは,各種香料を焚き,煙を浴び,超人的能力を獲得するための儀式を,毎日やっているらしい。大いに結構ではないか。

これもウワサでは,国王は失望のあまり自殺するのではないか,という人もあるらしい。とんでもない話しだ。神の化身が自殺などしてはいけない。世俗財産,世俗権力など,思い切って放棄し,権威を維持するための儀式に専念すれば,再び国民は国王を求めるようになる。これは予言してもよい。

事実,いまネパール政治が何とか崩壊を免れているのは,皮肉なことに,国王が存在するからだ。国王存在のありがたさをいま最も感じているのは,共和主義者どものはずだ。

交渉や計画がうまくいかなければ国王の暗躍,意見が対立すれば国王に漁夫の利を与えるな。――何と便利な道具か。国王がいなくなれば,全部自分たちの責任。本当に耐えられるか? 

日本ですら,小泉首相(安倍次期首相)の靖国神社参拝をやめさせるのに,昭和天皇の権威を利用している。姑息な危険な手段だが,権威とは,それほど強力なものなのだ。困った時の神頼み。

ネパールの共和主義者たちに,困った時に頼るべき神(権威)なしに政治をやる覚悟はあるのか? 神の加護なしに,「悪魔と手を結ぶ」覚悟はあるのか?

* Marty Logan, "King Depressed or Scheming?," IPS, Jul.21.

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2006/07/23

選挙への妄信と空論

谷川昌幸

選挙の悪口をいうたびに読者が離れていく(7/6付等参照)。アクセスを考えるなら,小泉流ポピュリズムで「選挙万歳!」というべきだが,そんなくだらないことはしたくない。だから,選挙原理主義には,断固,「ノー!」と言い続けるつもりだ。

1.民族代表の空論
UWBがシュリ・シュレスタ「代議院への代表」を掲載している。在米の方らしい。議論は真面目で論理的だが,それだけにかえって選挙の無意味さが浮き彫りになってしまう。

シュレスタ氏は,「各民族代表により新議会を構成する」ことを当然の前提とし,次のような提案をされている。

(1)75郡14ゾーンの維持。
(2)各郡から上院へ1議席。
(3)各郡ごとに10万人で選挙区を画定。
(4)選挙区は地理的区分とはしない。
(5)選挙区は民族的(ethnic)区分とする。
(6)10万人ごとに1議席。
(7)10万人未満の民族にも,1議席を割り振る。
(8)小さな民族集団には分配しない。
(9)公平な下院の議席配分  Chhetri 36; Brahmin 29; Magar 16; Tharu 15; Tamang 13; Newar 12; Muslim 10; Kami 9; Yadav 9; Rai 6; Gurung 2; Dhanuk 2; Musahar 2; Sherpa 1; Thakur 1; Rajbansi 1.
(10)5万人以上10万人未満の諸集団は,まとめて1議席配分。

2.選挙の原理的誤解
シュレスタ氏の提案は真面目だが,根本が間違っている。民族代表,宗教代表というなら,なぜ職域代表がないのか? 農民代表,自営商店主代表等々。あるいは,宗教代表をいうなら,なぜ仏教代表,キリスト教代表がないのか? 全く説明できない。

もし,こうした利益代表を目的とするなら,全国1区,完全比例代表制以外にはない。なぜ,そんな単純なことが分からないのか?

それよりも,もっと根本的な誤りは,「選挙」の目的を完全に見誤っていること。選挙は地域代表,民族代表を選ぶことではない。選挙は「国民代表」を選ぶのが目的だ。そんなことは,小学校でも習っている。

3.国民代表としての議員
わが敬愛するエドマンド・バーク先生は,「諸君はブリストルから代表を選ぶが,選ばれた議員はブリストルの代表ではなく,イギリス国民の代表である」と,国民代表の理念を高らかに掲げられた(うろ覚えなので,引用はご確認ください)。

そう,選挙は,たとえ現実には利益代表的な要素が大きいとしても,少なくとも建前としては国民代表の理念が共有されていてはじめて,まともに機能する。いまのネパールにそんなものがあるのか?

ない! アフガンにもイラクにもなかったように,ネパールにもない。だから,選挙なんかやっても,ダメなのだ。

4.選挙と戦争
しかも,たんに選挙で大金がムダになるだけでなく,選挙は危険でもある。選挙は争点を明確化して戦う政治的論戦である。民族,カースト,宗教等々が,自分の集団的利益を際立たせ,相互に攻撃しあい,相手の撃滅を目指す。
  Bullet or Ballot
これは,投票用紙が紙の銃弾でもあることを意味している。「国民代表」観念のないところでは,選挙は大衆を動員し,和解不可能なまでに利害を対立させ,そして,結局は,紙の銃弾を鉄の銃弾に変えてしまう。アフガンやイラクのように。


5.選挙妄信からの解放を
だから,アメリカ選挙原理主義にたぶらかされ,選挙なんかやってみても,ろくなことはないだろう。

シュレスタ氏は,No.9の議席配分をもって「議会における人民の公平な代表」と考えているが,どこが公平(fair)なのか?

議会での裁決においても,この比率通り裁決するつもりか? くだらない! 馬鹿げている。

* Shree Shrestha, "Representation in the House of Representative," UWB, Jul.22

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2006/07/22

ネ中マオイスト接近?

谷川昌幸(C)

マオイストが中国から武器を買ったという記事は7月11日付ブログで紹介したが,続報がないのでこれはガセネタかもしれない。

しかし,ネ中マオイスト接近のウワサをこのところよく耳にする。そして,これは権力政治的には理にかなっている。

中国は外交大国。しばらく静かだったが,いまマオイストを先物買いすれば,マオイストが体制内化したとき,中国は強力なコネを新政府内に確保することになる。そして,マオイストにとっても,本家マオイストのお墨付きをもらうことは,願ってもないことだ。

まだウワサにすぎないが,最小限の負担で最大限の効果を引き出す中国外交からすれば,ネ中マオイスト共同声明は決して考えられないことではない。国王がダメならマオイストがあるさ,といったところか。

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2006/07/20

コイララ首相の国連宛書簡

谷川昌幸(C)

これまで内容がよく分からなかった国連総長宛書簡が公表された。マオイスト人民解放軍の武装解除を国連に依頼する,一方的な虫のよい要請であり,マオイストは到底これは飲めないだろう。ということは,国連も調停に入れないということ。

この状況では,国連による「平和強制」はもちろん無理。困った依頼書簡だ。ザッと見ただけなので,もう一度読んでから,コメントします。 (2006.7.20)

<コイララ首相の要請>

1.人権高等弁務官事務所による人権監視の継続
2.停戦中の行動綱領監視
3.マオイスト戦闘員監視,およびマオイスト武装解除
4.国軍基地内駐留監視
5.制憲会議選挙監視

問題は,やはりNo.3。マオイストとの連名なら国連も動けるだろうが,紛争当事者の一方だけの要請では難しい。

それに,これだけの広範な監視活動には大金がいる。誰が出すのか? 日本? まさか。

油も出ない小国に,軍隊を出すとすれば,領土的野心からだけだろう。(2006.7.21)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

(Letter to the UN)

July 2, 2006



Dear Mr. Secretary-General,

I have the pleasure of informing you that the government of Nepal has taken a decisive step to consolidate achievement of the successful people's movement that restored democracy and made the people of Nepal supreme and sovereign once and for all. This has set in motion Nepal's determination for real and lasting peace based on the national unity and reconciliation and move towards stability by strengthening and institutionalizing the democratic process in the country.

On June 16, 2006, the Seven Party Alliance and Communist Party of Nepal (Maoist) concluded an eight-point agreement covering steps that are needed to create conducive environment to elect a Constituent Assembly to ensure permanent peace in the society. Earlier, on May 26, the government reached an agreement with the CPN (Maoist) on the 25-point code of conduct to be observed during the ceasefire between two sides.

In view of the firm commitment of the United Nations to promote sustainable peace and security, economic and social development and human rights around the world on the basis of fundamental principles of respect for sovereignty of nations, mutual cooperation and peaceful resolution of conflict, the government of Nepal decides to request the United Nations for the following:

1. Continue monitoring of Human Rights through the Office of High Commissioner for Human Rights (OHCHR) in Nepal.

2. Assist to monitor the code of conduct during the ceasefire.

3. Assist in the monitoring of the combatants of the Maoist and decommissioning of their arms in order to ensure a free and fair election to the Constituent Assembly.

4. Monitor to assure that Nepali Army is inside barrack and is not being used for or against any side in order to ensure free and fair elections to the Constituent Assembly.

5. Observe the election process to the Constituent Assembly.

As we plan to hold the election of the Constituent Assembly by end of current Nepali year (mid-April 2007), I will be grateful if you could start extending the necessary support of the United Nations on the above mentioned issues at your earlier convenience.

I would like to take this opportunity to express sincere appreciation and gratitude of the government of Nepal to the United Nations and to you personally for the consistent support for a democratic process and continued interest in the peace-building in Nepal. Please accept Excellency the assurances of my highest consideration.

Girija Prasad Koirala Prime Minister

H. E. Kofi Annan Secretary-General The United Nations New York

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マオイストの観光資源化

谷川昌幸(C)

ネパール・マオイストは,世界に希有な珍種だ。先日大攻勢を敢行したインド・マオイストとも文化がまるで違う。それは,Nayan Tara,"007: Bring your SLR (guns) and SLR (cameras)"を見るとよく分かる。

マオイストは,どこでも根暗イメージだが,ネパールでは違う。あっけらかん,まるでMテーマ・パークだ。こんなところがカトマンズ日帰り圏にある。

和平実現後は,地方根拠地をMパークとし,実射体験ツアーなどを企画すれば,日本からも大挙押しかけるだろう。村興しになり,人民政府税も必要なくなる。

冷酷無慈悲に「人民の敵」を殺してきたマオイスト兵と,楽しそうに兵隊ごっこをするマオイスト青年男女。この落差をどう理解するか?

ネパール政治文化は謎だらけ。西洋や日本の基準で理解しようとしても無理だし,ましてや拙速な善悪判断は控えるべきだ。

ネパール政治はユニークであり,その特性を特性に即して内在的に理解する。難しいが。それしかあるまい。

* Nayan Tara,"007: Bring your SLR (guns) and SLR (cameras)," Philano.com, Jul.19

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2006/07/19

ポイントの山の上で会議は踊る

谷川昌幸(c)

バブラム・バタライ同志の長文インタビューがカンチプルに掲載されている。内容もさることながら,ネパール文化健在なりを強く感じさせるのが,ポイントの山の上で会議が踊る様。これぞネパール!

バタライ同志は,マオイストと7党は「12ポイント合意」「8ポイント合意」「25ポイント行動綱領」に従うという。
  12+8+25=45
こんなにポイントがたまると,クジラでも山頂飛行チケットをもらえる。

というわけで,7月21日にはポイントをため込んだ両派が「山頂会談」を開くそうだ。会議また会議。禁酒,禁煙ならエライが,どうせ庶民とは縁遠い豪華ホテル開催だから,経過は分かりはしない。雲上で踊る会議を,下から庶民は見上げるばかり。

内容的に面白いのは,カネの取り合い。バタライ同志は,山頂会談で先に発表された予算を撤回させ,マオイスト予算と差し替えさせるそうだ。たしかに,たいした減額もなく王室予算が認められる一方,人民解放軍には予算が付いていないのだから,バタライ同志からすれば,当然の要求だろう。

さて,どうなるか。庶民は山頂会談を見上げているしかあるまい。

* eKantipur, Jul. 17 

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2006/07/18

翻訳とビジネスモデルの優劣

谷川昌幸(C)

昨日の問題文をつかい,自動翻訳の性能比較をしてみた。グーグルに比べるなら,他のサイトはどれもはるかに優秀。

ただ,ビジネスモデルとしては,グーグルが圧倒的にうまい。あとは翻訳ソフトの改良だけだから,すぐ追いつき,抜き去るだろう。

富士通など,自動翻訳ソフト開発に相当の投資をしてきたはず。囲い込んでしまうと,投資がムダになる。グーグルみたいに,3歳児みたいなへたくそ英語でも平気で公開し,みんなで直そう,というのが,これからのネット社会のあり方だろう。

(グーグル翻訳)
Q1. I am the Japanese.
Q2. My friend is the Nepal person.
Q3. As for that house, there is Katmandu.
Q4. There is a beautiful mountain in Nepal, the many travelers go to Nepal in mountain-climbing.
Q5. As many as 100 or more there is a political party in Nepal.
Q6. Those political parties have been opposed, always, mutually.

(ニフティ翻訳)
Q1. I am a Japanese.
Q2. My friends are the people from Nepal.
Q3. His house is located in Katmandu.
Q4. There is a beautiful mountain in Nepal and many travelers go to Nepal to climb a mountain.
Q5. There is a political party in Nepal 100 or more.
Q6. Those political parties are always opposed to each other.

(ヤフー翻訳)
Q1.  I am a Japanese.
Q2.  My friend is a Nepalese.
Q3.  There is his house in Katmandu.
Q4.  There is a beautiful mountain in Nepal, and a lot of tourists go to Nepal for mountain climbing.
Q5.  There is a political party in Nepal more than 100.
Q6.  Those political parties are always opposed each other.

(OCN翻訳)
Q1. I am a Japanese.
Q2. My friends are the people from Nepal.
Q3. His house is located in Katmandu.
Q4. There is a beautiful mountain in Nepal and many travelers go to Nepal to climb a mountain.
Q5. There is a political party in Nepal 100 or more.
Q6. Those political parties are always opposed to each other.

(Excite翻訳)
Q1. I am Japanese.
Q2 . My friend is Nepalese people.
Q3 . His house is in Katmandu.
Q4 . There is a beautiful mountain in Nepal, and a lot of travelers go to Nepal to climb a mountain.
Q5 . In Nepal, 100 or more also has the political party.
Q6 . Those political parties are always conflicting mutually.

(Livedoor翻訳)
Q1. I am a Japanese.
Q2. My friends are the people from Nepal.
Q3. His house is located in Katmandu.
Q4. There is a beautiful mountain in Nepal and many travelers go to Nepal to climb a mountain.
Q5. There is a political party in Nepal 100 or more.
Q6. Those political parties are always opposed to each other.



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2006/07/17

自動翻訳で英語ページ

谷川昌幸(C)

グーグル自動翻訳サービスで,英語ページを設置した。HPの場合は右上のEnglish,ブログの場合は「ホーム」のNepal Reviewをクリックしてください。

自動翻訳は,まだ3歳児くらいの言語能力で,実用にはならないが,激励のため,しばらく設置しておきます。

以下,グーグル自動翻訳に対する試験問題。出来るかな? ニフティの方がはるかに賢いらしいが,負けるな! 答えは,Englishページでご覧ください。

Q1. 私は,日本人です。
Q2. 私の友人は,ネパール人です。
Q3. 彼の家は,カトマンズにあります。
Q4. ネパールには美しい山があり,たくさんの旅行者が山登りにネパールに行きます。
Q5. ネパールには,100以上も政党があります。
Q6. それらの政党は,いつも,お互いに対立しています。

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2006/07/15

没収財産返却,元「人民の敵」へ

谷川昌幸(C)

ネパールに平和が戻りつつあるのは良い知らせだが,メディアにとっては面白くないらしく,このところめっきりネパール記事が減った。ほとんどない。現金なものだ。

ネパールに重要ニュースがないわけではない。たとえば,15日,「没収財産返却委員会」が組織された。憲法起草委員会よりも,むしろこちらの方が重要かもしれない。

人民戦争中に没収した財産の返却。これは大変なことだ。こんなことが本当に出来るなら,マオイストに政権を渡しても大丈夫だ。

田畑,家屋などが返却できれば,次は,当然,「生命」の返却だ。生命こそがpropertyの中核。財産返却は,必然的に,奪った生命をどう補償するかということになるだろう。

「人民の敵」から没収した財産を,元「人民の敵」に返却する。「人民の敵」として処刑した人々の生命を,元「人民の敵」の家族に補償する。「人民の友」から見れば,これは「人民」に対する裏切り行為だ。

これは新憲法のでっち上げよりも,はるかに難しい。「委員会」の健闘を期待したい。

* eKantipur, Jul.15

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2006/07/14

連邦制も

谷川昌幸(C)

バダル同志が,共和制だけでなく連邦制も強硬に要求した。

途上国ゲリラの多くは国権掌握を望んではいない。自分たちの支配地域の権力確保がベストだ。

これに対し,プラチャンダらのマオイスト幹部は,中央権力への参画,つまり自らの体制内化を狙っている。

マオイストのリージョナリストとナショナリストへの分裂もありうる。

* eKantipur. Jul.14

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2006/07/13

王室予算45%カット,マオイスト思いやり予算?

谷川昌幸(C)

2006/07年度予算(案?)が発表された。

王室費は対前年度比45%カットの2億2千万ルピー。多いか少ないか? 他の費目に潜り込んでいないか? カネのことはよく分からないが,王室維持にそんなにカネはかからないはずだ。

国の象徴が金儲けに手を出すのはよくない。王家財産は全部国有化し,儀礼に必要なものだけ残し,税金で維持するのがよい。

江戸時代の天皇家は,経済的には悲惨なものだった。清貧に耐え,権威だけは維持した。ネパール王家も,1食抜くくらいの覚悟でないと,卑俗の21世紀は生き残れないだろう。

マオイスト思いやり予算はなかった。怒っているだろうな。これでは,人民政府税の取り立てはやめられないだろう。

→2006/07年度予算演説

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2006/07/11

マオイスト,中国から武器購入?

谷川昌幸(C)

マオイストは中国から武器・弾薬を買いカブレ基地で軍事訓練をしている,とNC議員が非難した。

発言したのは,シタウラ内相批判を強める反主流派のゴビンダラジ・ジョシ議員。小さな記事なので,ガセネタかもしれないが,もし本当なら大変なことになる。

そもそも休戦は,人民解放軍にとっては大変だ。武器・弾薬,衣食,給与など,戦争をしておれば,堂々と敵から調達できるが,休戦となると,そんなことは出来ない。いつまでもつか?

そこに,武器・弾薬購入のニュース。ネパール・マオイストは目下「改革・解放」路線に転換中で,中国マオイストのお友達になるわけだから,ありえない話しではない。本当だろうか?

* eKantipur, Jul.11

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2006/07/10

天皇は第4位

谷川昌幸(C)

ライジング・ネパールが国王誕生日祝辞を披露している。

堂々の第1位は,胡錦涛主席。さすが外交大国,うまいものだ。

第2位は,大英帝国のエリザベス女王。まあ,順当なところか。

第3位は,タイのブミボン国王。大健闘! 最近のブ国王の大活躍にあやかりたいということか。それとも,儀礼君主制派のコイララ首相を治療してくれたお礼か。

そして,アキヒト天皇陛下(His Imperial Majesty)は,なんと第4位。強権独裁を非難されていたときも,支援したのに,それはないだろう。ひどい。

少々の軍事援助と口先介入で堂々の第1位を確保した中国。国王専制はケシカランと祝辞を拒否したらしい米国(ラ紙リストにはない)。ともに立派だ。

それにくらべ,天皇外交と巨額援助をしながら4位とは,中途半端だなあ。所詮,日本なんか味方としても敵としても相手にされていないのだろう。

* Rising Nepal, Jul8.

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2006/07/09

軽やかな「運動」と闇権力の不気味

谷川昌幸(C)

外国の安全圏にいるから言えることだが,外から見ていて不気味なのは,やはり王族殺害事件を手際よく実行した闇権力の存在。

軽やかな「人民運動2006」の躁気分に同調できないのは,冷酷無慈悲に,機械のように正確にビレンドラ国王一族を皆殺しにした勢力がどこかに潜んでいるのではないか,という疑念を拭いきれないからだ。

部外者にはまるで想像もつかないが,ネパールの各界有力者にはもちろん見当がついているに違いない。夏の王族殺害の重苦しさと,春の「運動」の軽やかさとの落差はあまりにも大きい。

民主化は,おそらく王族殺害事件に頬被りして進めることは出来ないだろう。民主化が闇権力のあぶり出しに向かうとき,何が起こるか。他人事ながら,恐ろしい。

春の宴は終わりつつある。夏の嵐を乗り切り,秋の収穫に入れるかどうか?

それにしても,共和制は難しい。実質的には共和制はすでに始まっているが,早くも前途多難を思わざるを得ない。

共和制とは権力と権威を人民自身(人民代表)が担うこと。いまやギリジャ首相が国家の元首(権力)であり象徴(権威)だ。先日の大結婚式も,元首にして象徴としてのギリジャ首相を頭首とするコイララ家の儀式だ。素直に祝えるかな?

プラチャンダ氏が元首になっても同じこと。国王のかわりにプラチャンダ像を礼拝するだけ。ごりごり共産主義者であっても,マルクス(権威)礼拝はやめられない。

共和制は,一身に権力と権威を集中させることになり,その分,操縦が難しくなる。責任をなすりつける他者としての悪役がいなくなる。

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2006/07/07

コイララ天皇と違法結婚式

谷川昌幸(C)

斜陽のシャハ家にかわり,コイララ家が王家になりそうな勢いだ。

7月6日,ギリジャ首相の孫娘の結婚式が,エベレスト・ホテルで,各界の著名人3500人を招待し,挙行された。

ネパールの「社会行動改革法1976」は,招待客を51人以下と定めているそうだ。変な法だが,法は法だ。

コイララ天皇は,もちろん法の上の人,3449人くらい上限を上回っても,どうということはない。

世俗国家の元首,「法の支配」を要求している政府の長のlegal mindは,所詮この程度のものだ。

* eKantipur, Jul7

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2006/07/06

「選挙」も,ない

谷川昌幸(C)

またか,と叱られそうだが,「選挙」などというものもない。「選挙で制憲会議」は不可能だ。

つまり,抽象的な「選挙」ではなく,具体的などのような選挙をするかが決定的に重要ということ。

 ・完全小選挙区制(現行)
 ・全国区完全比例制
 ・開発区比例制
 ・中選挙区制

 (クオーター制,議席割当制)
 ・女性50%,男性50%
 ・民族人口比による分配
 ・その他

難しいのは,どの方法でも問題解決とはいかないことだ。比例制は公平なように見えるが,民族的・文化的少数派は永久に少数派で,選挙は何の解決にもならない。たとえば,こんなことが主張されている。

「諸民族は自分の言語,宗教,伝統を認められるべきだ。政府と諸政党にはその責任がある。」(KB. Grung)

「エスニック・グループは自分たち自身の土地をもち,自分の言語を保持し,母語と自文化による教育を求めている。」(Padma Ratna Tuladhar)

いずれももっともな要求だが,果たしてこれが選挙で解決できるか?

他ならぬPR・トラダール氏によれば,マオイストでさえ,春のカトマンズ大集会の,おびただしい数のどのポスターにもネワール語を使わなかったという。民主主義とはそういうものだ。

「選挙で制憲会議」はごまかしである。どのような選挙をするつもりか,具体的にいわないと,選挙は出来ない。

* Nepali Times, #304, Jun30, 2006

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2006/07/05

「人民」連呼のイデオロギー

谷川昌幸(C)

ライジング・ネパール社説「レーニン・プラチャンダ・モリアーティ」(7/4,執筆Geja Sharma Wagle)が,7党の立場から,モリアーティ大使を批判し,「人民」を連呼している。

モリアーティ大使が,レーニンを引き合いに出して,「ネパール10月革命」の危険性を示唆したのに対し,社説は,現状では暴力革命は無理であり,マオイスト参加の平和革命しかないと力説する。そして,もしこの平和革命が成功すれば,それは「共産主義運動史上初の先例」となると自画自賛している。

社説のいうとおり,平和革命は可能かもしれない。ただし,それは幹部たちが人民戦争を戦ってきた地方の農民や労働者を切り捨てることに成功した時だけであろう。どうやって切り捨てるか? むろん「人民」の名により人民を切り捨てるのだ。

社説によれば,「人民運動2006」の下した命令は,マオイスト問題の制憲会議による平和的解決である。この「人民運動の命令」「人民の希望」「人民の判決」には,マオイストも従わなければならない。

「人民は,多党制民主主義,人民の主権,法の支配,人権のために戦ってきたのであり,人民民主主義や絶対的共産主義体制のために戦ってきたのではない――このことをマオイスト幹部は理解すべきだ。」

本当だろうか? 私は,農民,労働者,少数民族,下位カースト,女性らは,7党のものであれマオイストのものであれ,念仏のような抽象的理念のために戦ってきたのではないと思う。自分の家族が日々食べるメシと住む家と耕す土地のために戦ってきたのだ。カスミのような理念では腹はふくれない。具体的な日々の必要を満たすために,それが可能な社会をつくるために,すなわち社会革命のために,命をかけて戦ってきたのだ。

それなのに,7党もマオイスト幹部も,その肝心のことを棚上げにし,権力の分捕り合戦に没頭しているようだ。こんな宮廷革命,政治革命など,昔から繰り返し繰り返しやってきたことだ。役者が少し現代風になったにすぎない。

人民は「人民」にだまされてはならないし,ジャーナリズムは「人民」で人民をだますような政治革命に加担してはならない。手抜きをせず,ちょっと調べさえすれば,「人民」などいないことはすぐ分かる。

「人民」などと,まともなジャーナリズムなら,気恥ずかしくて書けないはずだ。

* Rising Nepal, Jul4.

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2006/07/04

移行期の不安

谷川昌幸(C)

現在のネパールが1990年憲法体制から,次の,または以前の体制への移行期にあることは,間違いない。飛行機と同じく,国家体制も離着陸時が最も不安定であり危険だ。

ニュースでは,コイララ首相が7月3日入院したとのこと。一方,同じ3日,議会では1990年憲法の50箇条,31項(各条項の全部または一部)が,満場一致(!)で無効とされた。

権威(国王)も権力(首相)も合法性(議会)も,あやしくなってきた。一度に国家権力存続のための根本的3原理が動揺している。

こんなとき「人民」などという空念仏は止めるべきだ。「ネパール人民」は「日本国民」と同じくどこにもいない。それは,街頭の「国民の声」を流すTVと同じくらいインチキだ。

「人民」などとバカなことを言わず,どのグループの誰が,何をしようとしているのかを,見る努力をすべきだ。

これは日本にいてはよく分からない。もう何年もネパールに行っていないので,現場感覚も薄れてきた。

うわさではマオイストへの転向者も出始めたようだ。こんな不思議はもうとんと分からない。マオイストは中国マオイストを攻撃していたあのマオイストではないからマオイストに転向して中国マオイストとニーハオしアメリカにもいずれ理解してもらえれば2倍おいしい利権にもありつけそうだ,ということかな?

ネパールの秩序が根底から溶解し始めているのではないか?

* Rising Nepal & ekantipur, Jul3.


→→Review Index