2006/05/30

ビシュヌの死

谷川昌幸(C)

『アウトルック・インディア』(6/5)に刺激的な見出しの記事が出ている。マノジュ・ダハール「ビシュヌの死:ネパールはいまやヒンズーではなく世俗の国。RSSのいうようにキリスト教の陰謀か?」。内容は,際物ではなく,なかなか面白い。(宗教関係用語は難しい。誤りがあればご指摘ください。)

1.ビシュヌの死
7党議会は,一撃の下に,ビシュヌ化身=国王を普通の死すべき人に変え,国王を人定法の上に置く半年前の最高裁宣言を否定して,すべての神権を国王から奪ってしまった。ビシュヌの死だ。

2.キリスト教=アメリカの陰謀
この世俗国家化は,インドRSS(民族奉仕団)=ネパールHSS(Hindu Swayamsevak Sangha,ヒンズー奉仕団)を怒らせ,反議会活動に走らせるのではないか,と危惧されている。著名なヒンズー学者ゴビンダ・トンドンは,Hindutva(ヒンズー主義者)ではないが,それでも,こう述べている:

「キリスト教会はカネを使ってネパール政治に大きな影響を与えてきた。ネパール世俗国家化は,(それと)切り離しては考えられない。・・・・国家がすべての宗教を平等に扱うべきことはいうまでもない。ネパールは(ヒンズー教国家ではあったが),国家として,決して極端な宗教政策を採ってこなかった。ムスリムは国費でハッジ(巡礼)に送られた。もしネパールが不寛容なヒンズー教国家であったなら,そのようなことが果たして可能であっただろうか。」

アメリカの陰謀かどうかは別にして,たしかに世俗国家への要求は強い。

・「この国は宗教的自由を認め,国民に自ら選択した宗教を持つ権利を保障すべきだ。」Dr. K.B.Rokaya, National Council of Churches
・「なぜ(ヒンズー国家)なのか? ネパールは,仏陀生誕地だから,仏教国であってもよいではないか。」Modanath Pasrit, SPA
・「ダリット以下の扱いを受ける人々がいるような国は,世俗化されるべきだと思う。」Swami Ananda Arun, Osho Mission
・「(世俗国家化されたので)いまやすべての民族集団,すべての個人が国民(nation)への帰属感をもつであろう。」Amik Serchan

3.改宗禁止規定の廃止
こうした考え方が広まると,現在の改宗禁止規定は廃止されることになるだろう。そうなると,著者によれば,宗教が政治化され,宗教対立が激化する。

・「世俗国家ネパールでは,宗教活動が激化し,この国の多様な諸集団間の伝統的調和が危なくなるだろう。」Chintamani Yogi, principal of Hindu Bidhyapith
・「世俗主義の考え方は支持するが,それが(世俗主義の)熱狂を呼び起こし,寺院破壊や牛屠殺に走らせる恐れもある。」Sanjeev Uprety, TU

4.RSSと王室
こうした世俗化の動きは,当然,ヒンズー主義者を刺激する。

実は,ネパールのヒンズー国家宣言は,44年前のマヘンドラ国王クーデタのときであり,このとき首相になったのが,RSSのツルシ・ギリ博士であった。以後,RSSと王室の関係は深まり,政党側はこれを警戒するようになった。

1990年革命が成功し,革命派がいまと同じく世俗国家憲法を要求したのに対し,RSSはビレンドラ国王に圧力をかけ,政党側憲法案を拒否させた。

2002年,政党側が世俗主義に傾き始めると,これに対抗しVHM(Vishwa Hindu Mahasanga)が,ギャネンドラ国王に「世界ヒンズー皇帝」の称号を授けた。

2005年2月クーデタ後,ギャネンドラ国王は,真っ先にVHP(世界ヒンズー協会)指導者のアショク・シンガルを招待し,これに応えてシンガルは世界のヒンズー教徒に国王支持を訴えた。

このRSS=王室関係は,4月民主化運動の高揚に対抗するため一層強化され,国王政府はバラート・ケサリ・シムハ率いるVHMに490万ルピーを供与した。

VHMビルガンジ大会には,VHPのサドゥが何人か招待されていた。国王も大会に出席しており,これによりヒンズー主義者(ヒンズートバ)の世俗国家化反対の立場が鮮明になった。

5.反世俗国家化暴動
こうした状況の中で,世俗国家宣言が出されると,印ネ国境付近を中心に,ヒンズー主義者の暴動が起こった。

ウッタルプラデッシュ州のマハラジ・ガンジ=ゴラクプル地方では,BJPのマハント・アディチャナト議員が,ネパール世俗国家化反対デモを行った。数日後,ビハール州の近くのビルガンジでは暴動が発生し,群衆は「わが国民アイデンティティに対する陰謀だ」と叫んでいた。

6.触らぬ神にたたりなし
神は気むずかしいものであり,安易に触らぬ方がよい。どうしても触らねばならないときは,出来るだけそっと触るのが,大人の知恵だ。著者のマノジュ・ダハール氏が,結論で,世俗国家化は慎重にやれ,と忠告しているとおりだ。

* Manoj Dahal, "The Death of Vishnu: Nepal is a secular--not Hindu--state now. Christian conspiracy, as the Rss alleges?," Outlook India, Jun5

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2006/05/28

政府・マオイスト「25項目合意」調印

谷川昌幸(C)

7党政府とマオイストの「25項目合意」(下記)は歓迎すべきことだが,遵守には相当の努力が求められる。

1.没収財産返却(第18,19項目)
当事者にとって最も切実なのは,没収財産の返却と,郷里への帰還。革命の実利的成果の取り消しだから,これは難しい。没収財産を持っていたのは,むろん半封建的・半資本主義的反革命分子。

2.強制寄付の禁止(第15項目)
マオイスト・ゲリラの生活をどうするか? 政府が給与を支給するのか?

3.軍事行動の停止(第3項目)
マオイストの党活動と徴兵活動との区別は困難。一方,外国からの軍事援助禁止は規定されていない。

この3項目だけでも,合意の遵守がいかに困難かは明白。ガラス細工といってよい。

幸い,「25項目合意」は国際停戦監視団の受け入れを明言している。国際社会は,いまこそネパール平和構築のために協力し,積極的に関与すべきだ。いまなら,インドも国際社会の関与に正面から反対することは難しい。国際社会による平和構築のチャンスといえよう。

人民戦争は10年以上に及び,物心両面の傷を一気に癒すのは無理だ。財産返却でも,おそらく没収財産に対する既得権が出来ており,急げば,失敗する。ここは,国際社会が停戦維持のために関与し,無理のない形での社会関係の修復をはかっていくべきではないかと思う。

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Code of Conduct


Guarantee of fearless civilian life

1. To not to give any public statement that could agitate one another or carry out any such act.
2. Both the sides will not mobilize, display or use armed military such as to spread terror among the people.
3. Not carry out attacks or destructive acts against the army or security organ of one another, not to carry out acts such as setting up mines or ambush and not to make any new recruits in their respective army and not to carry out spying.

4. Both the sides would support one another in maintaining law and order.
5. Carrying out discussion and understanding as per need on the basis of mutual agreement on matters relating to the management of arms and ammunition and the army.

DEVELOPMENT OF AN ENVIRONMENT OF TRUST AMONG THE PEOPLE

6. Both the sides will not be present in combat dress or with arms and ammunition while holding public gathering, meeting and conferences, functions or political activities.
7. Both the sides will not make any kind of obstruction or exert any mental or physical pressure against political party workers and members and individuals of social institutions who will go to any part of the country and publicize their views, hold meetings and conferences and organizational works.

In relation to basic services and development construction works of the people

8. Not hold programs like bandh or chakka jam throughout the cease-fire period. But meetings and processions can be held peacefully.
9. Allow basic services and facilities for the people to run smoothly.
10. Any obstruction would not be laid in carrying out the regular work of public interest and development construction works peacefully ahead.
11. Not prohibit and obstruct the transportation of foodstuff, medicine, development construction materials and daily essential goods.

Operation of educational institutions, hospitals and industrial establishments

12. Both sides shall create an environment for regular operation of schools, colleges, universities, hospitals, and health centres and industrial establishments.

Co-operation from the media for the peace talks

13. Disseminate information supportive of the cease-fire, the code of conduct and the peace process and use polite and courteous language while carrying out political publicity works.

14. Nobody shall make statements in the media that are likely to have adverse impact on the talks and the peace process.

Not to raise donation and funds forcibly

15. Donations and financial assistance in cash or kind or service shall not be collected and mobilized against anyone's willingness.

Release and rehabilitation

16. The charges, accusations and cases levelled by both sides on different individuals shall be withdrawn and the detainees shall be gradually released.
17. The status of the disappeared citizens shall be made public as soon as possible.
18. Assist the individuals displaced from their homes to go back to their homes and lead a peaceful, normal and dignified life and their rehabilitation.
19. The property belonging to the political party leaders and cadres and to the general public, seized or locked out or prevented from being used during the time of the conflict, shall be returned back to the individuals or families concerned to be used by them. Any problems arising regarding the procedures for returning the property shall be resolved through mutual consensus.

Talks facilitation

20. Obstruction of any type shall not be created in the travel and activities of individuals from both sides involved in the talks.

Monitoring

21. Get the national and international monitoring teams to monitor the cease-fire on the basis of the mutual consensus of both sides.

Miscellaneous

22. Any disputes regarding the interpretation of the code of conduct shall be resolved through consensus between both sides.
23. Changes, additions and amendment can be made in this code of conduct with the consent of both sides as per the spirit of the preamble.
24. This code of conduct shall come into force immediately after its signing.
25. The code of conduct shall be made public after its signing.

* ekantipur, May26


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2006/05/27

反体制「思想」弾圧の兆し

谷川昌幸(C)

7党政府が「強い措置」「法と秩序」を唱え始めた。あれ,つい先日まで陛下の政府が言っていたことと同じではないか?

1.思想統制を求めるメディア
United We Blog(5/26)の見出しは,「宗教感情を利用して社会を不安定化しようとする輩に対し,強い措置を執るべきだ」である。

同じく,記事中に引用のカトマンズ・ポスト社説によれば,ブトワル,ビルガンジ,カトマンズで大規模なアナーキー状態が発生,医者が殴られ病院が破壊され,カンチプル紙1万7部が焚書にされた。

社説は,暴動責任者の特定は難しいとしながら,王党派かマオイストの関与を疑っている。そして,誰にせよ,「そうした反社会的分子は直ちに効果的に封じ込められるべきだ」と要求している。

2.政府:原理主義者に強い措置を執る
これを受け,シタウラ内相は5月26日,政府は,宗教原理主義を利用し民主主義を破壊しようとする輩には,強い措置を執るだろう,と語った。「原理主義思想により民主主義を破壊しようとする輩が見逃されることはない,と私は確約する。」

3.政党:原理主義者を逮捕せよ
さらに統一共産党のB.バンダリ議員も,「なぜ政府は,BK.シンのようなヒンズー原理主義者や,反自由主義的なSS.ラナ前軍総司令の逮捕をためらうのか」と詰問している。

4.政府=政党=マスコミ=正義の危険性
7党政府が,反革命を気にするのは当然だが,用心しないと,国王政府と同じか,それよりももっと危険なことを始めることになりかねない。

政府=政党=マスコミが一体化し,正義=民主主義を掲げたら,何が起こるか? すでに,犯罪行為そのものではなく,「反社会的分子」の「原理主義思想」や「反自由主義」を取り締まれ,といった論調が現れている。

たしかに,それが手っ取り早い。反体制思想を持つ輩を,その思想のゆえに逮捕し,あるいは力で押さえ込んでしまう。そうしたい気持ちはよく分かる。

5.原理主義の弾圧は逆効果
しかし,もしこの論理でヒンズー原理主義を弾圧すれば,それは火に油を注ぐようなものだ。ブッシュ大統領が大々的に実証した,あの救いようのない悪循環がネパールでも始まる。

そして,もしこの文脈で安易に国王を排除すれば,国王の評価は一転,ヒンズー教の大義に殉じた聖者となり,ネパールにおける宗教対立の激化,永続化の大きな要因となるだろう。

政治の民主化,世俗化が望ましいことは,多くの人が認めている。問題は,ネパールにおけるその進め方にある。ネパールに小ブッシュ現る,などといわれないようにしてもらいたいものだ。

* United We Blog, May26; Kathmandu Post, May25-26; nepalnews.com, May24

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2006/05/25

世俗国家論,UWBは面白いが・・・・

谷川昌幸(C)

United We Blog(5/23)のデイーパク・アディカリ「世俗国家ネパール,全宗教の平等」はなかなか面白いが,残念なことに,少々楽観的すぎるし,いくつかの矛盾も見られる。

1.寛容の国ネパール
記事は,ネパールが世界でもまれな寛容の国であると力説する。

「南アジア最古のこの国民国家(ネパール)は,世界でもまれな調和の歴史をもっている。隣のインドではクリスチャンがブラウンの『ダビンチ・コード』を涜神的と非難している。スリランカでは,コミュナル暴力が猛威をふるっている。パキスタンでは,少数派ヒンズー教徒とクリスチャンが抑圧されている。これに対し,ネパールは,異なる諸宗教の人々にとって安全の天国であり続けてきた。」(Deepak Adhikari)

「わが国のヒンズー,ムスリム,クリスチャンは....相互によく融和している。....これまでネパールには宗教問題はなかった。ここに,他の国とネパールとの大きな違いがある。」(Dinesh Wagle)

2.寛容の宗教文化
ネパールがこのように宗教的に寛容である理由は,記事によれば,次の点にあるらしい。

「私は,他の諸宗教をひとしく尊重し,神はただ一つだと考えている。キリストであれ,シバであれ,ビシュヌであれ,あるいはムハンマドであれ(みな同じ神だ)」(Wagle)。このような「神」理解はネパールではかなり一般的らしく,私自身,同じような説明をしばしば耳にしたことがある。

「ネパールは,多様な信仰を持つ人々が調和して生きてきた歴史をもっている。われわれ自身の生活スタイルと文化的態度がわれわれをネパール人としている。だから,ネパール人であること自体が一つの宗教なのだ。そればかりか,多くの階級,カースト,言語が共存することによって,この国を世界でもまれな多様性豊かな国にしている。」(Adhikari)

3.国家世俗化の必要性
このようにネパールは寛容の国であるといいつつ,記事は,国家の世俗化,政教分離の必要性と安全性を力説する。

「世俗主義は,各人それぞれの宗教を尊重する方法だ。....国家は,特定の宗教を優遇すべきではない。....宗教は政治を支配してはならない。」(Wagle)

「ネパール人民の大半は,伝統的にヒンズー教徒であり,今後,何世紀もそれは変わらないだろう。世俗主義宣言をヒンズー教への脅威と考える理由はない。」(Wagle)

「世俗主義の開始は,ネパールの少数派にとって,よい知らせだ。」

4.いくつかの問題点
しかし,以上の議論には,いくつかの重大な難点がある。

(1)ヒンズー教徒の数。いまの統計はヒンズー教に有利に操作されており,ちゃんと調査をすると,ヒンズー教徒は激減する可能性がある。

(2)神概念のあいまいさ。ヒンズー教側がシバもキリストも同じ神だといくら言っても,クリスチャン側は決してそんな考え方は認めない。また,ヒンズー教自身,状況により,不寛容となる。インドでは,たとえばアヨディアにおけるヒンズーの不寛容は目に余るし,あのガンジーを暗殺したのもヒンズー原理主義者だ。

(3)論理矛盾。最大の難点は,この議論が論理矛盾だということ。ネパールは寛容だから,寛容を認める世俗国家にせよ。?? 不寛容だから,世俗化し寛容を実現せよ,というのなら分かる。ところがそうではない。おそらく,ネパールは寛容の国だが,世俗化して,もっと寛容にせよ,ということだろう。そうだとしても,説得力はあまりない。

5.寛容の条件
革命派世俗国家論の最大の欠点は,寛容の条件を全く考えていないことだ。

ネパール歴代統治者が,もちろん民主的ではなかったにせよ,もっとも苦心したのは,いかにして「4カースト・36民族(colors)」(R・バラール)を平和的に共存させるかであった。封建的,抑圧的であったことはむろんだが,少なくとも宗教的・民族的寛容に関しては,彼らの政策がかなり成功したからこそ,いまネパールは宗教的に寛容だと言われているのだ。

その寛容の成立条件を無視し,安易に宗教問題に手をつけのは極めて危険だ。

宗教的・民族的寛容を実現するには,強力な国家権力と,断固たる宗教問題への政治介入が不可欠だ。たとえば,多数派宗教が少数派宗教を抑圧する場合,国家は介入し少数派宗教の自由を守らなければならない。あるいは,経済的に圧倒的に優位な国の宗教が,経済力を背景に貧しい住民に改宗を迫るような場合,国家は,そんな卑怯な布教活動は規制せざるを得ない。

宗教の自由を守るには,国家は宗教問題に介入せざるを得ない。それなのに,国家を世俗化し,宗教問題への政治的介入を止めれば,寛容が生まれ,信教の自由が得られるなどと,のんきなことを言っている。そうではない。国家は諸宗教の平和的共存の条件を権力を行使して構築し,維持しなければならないのだ。

6.ネパール国家の世俗化
政教分離,国家世俗化は,方向としては正しい。特定の宗教が,政治権力を使って,信仰の維持強化を図ることは間違っている。ネパール国家は世俗化すべきだし,せざるを得ないだろう。

しかし,政治と宗教を単に切り離せばよい,といった安易な発想では,必ず失敗する。多民族・多宗教の共存を可能にしてきた歴史的英知に学びつつ,政教分離は進めていくべきだ。

ネパールの寛容は,誇るべき歴史遺産だ。いくら革命とはいえ,ガラス細工のような寛容社会の構造を見境もなく破壊してしまうと,ネパールは他の多くの途上国に見られるような泥沼の宗教紛争に引きずり込まれてしまうだろう。

* Deepak Adhikari, "Nepal as a Secular State: All Religion Eaual," United We Blog, May23.

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2006/05/23

Royalよりこわい National Army

谷川昌幸(C)

早くも,7党国民軍の恐ろしさが,チラチラ見え始めた。上品な王室軍よりも,はるかに怖いぞ,これは。

わが畏敬するUnited We Blog!が,国軍広報記事「マオイストが強制連行,マオイストが寄付強要,マオイストが略奪:ネパール軍」を掲載している。内容は:
 ・NC活動家宅爆破(5/22)
 ・5青年強制連行(5/21)
 ・実業家に暴行(5/20)
 ・各地で実業家に寄付強要(5/20)
 ・商人,店主に寄付強要(5/20)
 ・教師,学生,公務員,知識人,地域住民に寄付強要(5/20)
 ・バザール一帯で寄付強要(5/19)

国軍が誰の味方をしたがっているかは,明白だろう。もちろん,王様ではない。それは,あなた,そう主権者たる「ネパール国民」なのだ。

ライジング・ネパールも,さかんにマオイストの逸脱行為を書き始めた。

しかし,マオイスト人民解放軍,1〜2万人も人間であり,メシを食わねばならない。悪の親玉,国王をやっつけさえすれば,解放してやった国民がメシを食わせてくれると思い,生命を賭して解放戦争を10年以上も戦ってきた。それなのに,革命成就のとたん,おまえらのメシの食い方はケシカラン,おまえらは「国民の敵」だ,「非国民」だと言われ始めた。「国民の正義」は早くも国軍に移りつつある。

「国民の正義」を手にした国軍は,何でも出来る。手製爆弾なんて,いい加減のものではない。近代兵器が山ほどあるし,早くもアメリカは軍事援助再開の意向を表明している。先進国提供の最新兵器で,バタバタと面白いように,不要な苦痛を与えることなく,人道的に,非国民たるテロリストどもを排除できる,これが,民主化され国民軍なのだ。

UWBの国軍広報記事の一つ前の記事「叛徒との遭遇:ネパールのマオイスト・ゲリラ」を見よ。人民解放に向けた純粋無垢の兵士たちの使命感あふれる姿。感動なくしてみられようか。

マオイスト幹部たちは,数万にも及ぶ正義感あふれるネパール人民を革命に動員した。

7党幹部たちも,数十万におよぶ善良な庶民を民主化のために動員した。4月以降のおびただしい住民蜂起の写真も,涙なくしてみられない。なんて純粋な正義感あふれる人々なのだ!

こうした善良な人々の期待にマオイスト幹部,7党幹部たちは本当に応えられるのだろうか? 人民の感情を動員した責任を,彼らはきちんととる覚悟があるのだろうか?

革命は,これからが本番。今のままでは,革命の成果を幹部だけがつまみ食いしてしまう。上品な王室軍よりも,民主的な国民軍の方が,はるかに冷酷無慈悲だという結果になりそうだ。

そうさせないために,われわれは何をすべきか。成熟した思考と行動が求められる。

* United We Blog!, May21-22.

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2006/05/22

取り扱い注意,宗教と財産

谷川昌幸(C)

4月革命が「議会宣言」通り進行すれば,これはいわば「ネパール名誉革命」であり,90年革命の精神の再確認と一部改良ということになる。穏当なところだが,展開によっては,2つのタブー,宗教と財産に触れることになり,要注意だ。

1.ヒンズー原理主義
一つは,いうまでもなく国家の世俗化宣言。これについては,内外のヒンズー教団体が反発している。

シバ・セナ・ネパールのアルン・スベディ会長は,「自称議会の決定は,世界の9億人のヒンズー教徒の信仰を傷つけ,ネパール聖戦のきっかけとなるかもしれない」などと,物騒な警告をした。また,インドBJPのマルホトラ副党首は,ヒンズー教と君主制は必ずしも関係はないと批判した。

RSSやVHPは,今のところこの件については沈黙を守っているし,シバ・セナ・ネパールもそれほど大きな組織ではない。しかし,宗教感情は何かきっかけがあれば,一気に燃え上がる。政教分離,国家の世俗化は正しい方向だが,これは「取り扱い注意」事項なのだ。

たしかに,これまでネパールは宗教的に寛容とされてきたが,それはヒンズー教国家が長い歴史の中で培ってきた歴史的英知にほかならない。それを,革命は弊履のごとく捨て去ろうとしている。

もしこのまま世俗化されれば,おそらく布教の自由が認められ,改宗禁止を定めた憲法第19条も廃止されるだろう。自由はつねに強者のものであり,これはキリスト教にとって布教のチャンス。新体制の下で,もしキリスト教が教会ばかりか学校,NGO活動等を通して勢力を急拡大すれば,必ずヒンズー原理主義が台頭する。それがイスラム教であっても同じことである。国家世俗化が宗教の力関係を急変させ,宗教紛争を惹起する恐れがある。

国家世俗化をやるのであれば,宗教紛争を引き起こさないような細心の配慮が必要である。

2.王室財産
もう一つの難問は,王室財産の扱い。「議会宣言」では課税することになっている。もし王室を完全に廃止してしまうのであれば,王族はすべて市民になるのだから,これでよい。王室財産を徹底的に査定し,厳正に課税する。

しかし,もし王制を残すのであれば,これはまずい。象徴国王が株や不動産投資をやっていれば,品位に関わる。最善の方法は,王室が全財産を放棄し国有財産とし,そのかわり必要な王室経費を国家予算から支出するようにすることだ。王族の範囲を限定すれば,これが一番合理的である。

3.宗教と財産
結局,ヒンズー教も王室財産も,既存秩序と緊密に結びついており,どこまで革命を進めるかは,革命体制の主導権を握っている人々が自らの既得権をどこまで断念できるかにかかっている。

王室財産を査定するとなれば,かならずコイララ家の財産を査定せよ,ということになる。そんなことをされたら一大事。あやしい財産がごろごろ出てくる。ましてや,王室財産の国有化など,出来はしない。

ヒンズー教にしても,本気で国家の世俗化をやると,統治機構,社会秩序も近代化され,不合理な既得権は保持できなくなる。本当にそんなことが出来るのか?

改革や革命をやるな,といっているのではない。M・ウェーバーが繰り返し力説しているように,政治家たるもの,予見しうる結果を可能な限り考え,最善の結果を得るように努力する政治的義務がある。ネパールの政治家たちに,そうした厳しい結果責任の自覚はあるのだろうか。

* "Hindus criticise Nepal's secular status," Times of India, May20; SD Pradhan, "Hindu groups criticise declaration of Nepal as secular state," Outlook India, May20.

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2006/05/21

反骨のサムライ,ネパリタイムズ

谷川昌幸(C)

武勇の国ネパールには,やはりサムライがいた。

われながら小心で恥ずかしいが,金を取られそうで最近ネパリタイムズを読んでいなかった。しかし,ネパール・ジャーナリズム(と日本ジャーナリズム)があまりにもひどいので,おそるおそるネパリタイムズ(#298)を開いてみたら,ここにサムライがいた。

記事は,武士階級の立場から書かれており,内容に全面的に賛成するわけではないが,その反骨精神は,アメリカに買収されたような凡百のジャーナリズムとは雲泥の差,レベルが違う。要旨を紹介しよう。

(注:ソ連崩壊後,アメリカは政府,人権・民主主義NGO,シンクタンク等を総動員してロシア周辺諸国の民主化(アメリカ化)に取り組んだ。そのあからさまな「善意」が4月第2革命にも感じられる。)

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プラビン・ラナ
「これは始まりではない,政治家はあらゆる可能性を考えよ」

「これは終わりではない。終わりの始まりですらない。おそらく始まりの終わりだろう」と,対独戦争を英雄的に指導したW・チャーチルはいった。

われわれはいま,困難で危険な時に直面している。4月の街頭のあの未熟な情緒的行動を見よ。リーダーたるもの,薄い表層の下にどんな恐ろしいものが潜んでいるか,よくよくわきまえていてしかるべきだ――絶対的貧困,階級・カースト・ジェンダー・民族差別,絶望的失業率,貧弱な教育,救いようのない統治行政。

4月革命は,これらの悪魔(demons)を街頭に連れ出し,放任した。破綻寸前のネパール社会にとって,これは,長期的に見ると,決してよい結果は生まないだろう。

ネパールの将来を考えるなら,この運動のリーダーたちは,マオイスト交渉を絶対に成功させなければならない。さもなければ,教育,保健,科学技術,統治,外国投資,商業の改善は望めない。そして,忘れてはならないのは,これらのことは,華々しい抗議活動や「みんな王様」政治ではなく,良い統治,健全な経済運営,強力なリーダーシップといった忍耐のいる日々の地道な努力によってのみ達成できるものなのだ,ということである。

一般にエリートは軍事を軽視する。4月革命のエリートの中にもそうした人々がいる。しかし,市民社会活動家や政治家には,必要な時には軍事力をもってしてでも民主国家を守る覚悟がなければならない。

B・フランクリンは,優勢なクエーカー平和主義に抗してペンシルバニアで民兵隊を組織した。なぜなら,誰もが他人に何かをしてもらおうとばかり考え,安全を守るため自分では何もしようとはしなかったからである。

ネパールの知識人,活動家,政治家たちは,対話,政治的取り決め,ノルウェー人あるいは他の第三者が,安全を守り永遠の平和を実現してくれると信じ,マオイストを野放しにし続けるつもりなのか。

リーダーたちは,民主化すれば自動的に平和になるといった幻想を持ち続けるのだろうか。停戦がまた裏切られたら,制憲会議はどうなるのか。万が一の場合は,軍事行動を再開せざるを得ないことを,大衆に告げておく必要がある。他の多くの民主国は,みなそうして自らを守ってきたのだ。

首相らは,マオイスト問題解決のため,あらゆる平和的手段を考えるべきだが,同時に,強力な軍事力も保持していなければならない。それが出来ないようでは,チャーチル,フランクリンの勇気から何も学ばず,ヒトラーと交渉できると信じたチェンバレン,ダラディエの宥和政策の轍を踏むことになるだろう。

* Pravin Rana, "Not the beginning: Politicians will be wise to keep all options open," Nepali Times, #298 (19 May 06 - 25 May 06)

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2006/05/20

米脚本・演出,コイララ主演「7党民主化芝居」か?

谷川昌幸(C)

リチャード・バウチャー南アジア・中央アジア担当国務省副長官が5月17日,米議会委員会で次のように証言した。

「われわれは,今回の政情不安の以前に,民主化支援の様々な基礎を築いていた。・・・・2006年度だけでも,選挙管理委員会,平和事務所,国家人権委員会,腐敗オンブズマンを強化するため,援助をしてきた。われわれは,諸政党への参加を拡大し,政党内の民主化を図ってきた。・・・・5月2日,私はコイララ首相に,ネパール政府から要請があれば,治安部隊を支援する用意がある,と伝えた。」

そうか,そういうことだったのか。アメリカは,諸政党を手なずけ,国家諸機関をアメリカ化し,7政党政府をつくらせた。そして,治安部隊の支援さえ約束していた。

道理で,今回政変は,ネパール離れした手際の良さだった。いかなギャネンドラ国王といえども,アメリカ軍を出すぞ,とほのめかされたら,恐れ入るしかあるまい。

アメリカ脚本・演出,コイララ主演「7党民主化芝居」だったのではないか。

もしそうなら,次の第2幕は,マオイスト分断,強硬派=テロリスト殲滅となるはずだ。

それにしても,アメリカ人は開けっぴろげで,大好きだ。根暗イギリス人は,こんなアケスケに自分の手柄を自慢したりしない。

目論見通り行けば,ギャネンドラ国王は第2の昭和天皇,ネパールは第2の日本となる。アメリカ民主主義,万歳!

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The United States and South Asia: An Expanding Agenda

Richard A. Boucher, Assistant Secretary for South and Central Asian Affairs Statement before the House International Relations Committee Subcommittee on Asia and the Pacific Washington, DC May 17, 2006

(.........) Nepal is at a juncture both hopeful and uncertain, with the potential for a dramatic move toward democracy and peace. Demonstrations in April against the King's autocratic rule and in favor of the restoration of democracy finally forced the King on April 24 to retreat from his stubborn attempt to assert autocratic rule. Parliament convened for the first time since 2002 with G.P. Koirala of the Nepali Congress Party at the helm of a new government of national unity. The new government and the Maoists declared a cease-fire.

The people of Nepal have shown they are not prepared to live under an autocratic monarch. Their success in forcing a return to democracy has created a broad spirit of optimism for the future. We are looking at ways in which we can further strengthen democracy and, through greater public participation in the political process, strengthen the momentum for peace.

I traveled to Nepal earlier this month with my National Security Council counterpart to assess the situation firsthand and to emphasize U.S. support for the new government. We found normally fractious party leaders of the 7-party coalition ready to cooperate. The army, which had largely stood apart from Nepal's recent chaotic transition, is ready to follow a civilian leadership in the new democratic setup.

The Administration stands ready to support the aspirations of the Nepali people for democracy. We laid the foundations for this support before the recent unrest when USAID refocused its assistance programs on democracy, governance and conflict mitigation. In FY 2006 alone, we are using U.S. assistance to strengthen the Election Commission, Peace Secretariat, National Human Rights Commission, and corruption ombudsman. We have sought to broaden participation in political parties and make them internally more democratic.

Areas in which we feel we can make a positive difference include technical assistance and equipment to the Parliament and to a constitutional reform process, assisting reintegration of internally displaced persons, and funding election monitors. In addition, we want to assist the Nepali people with projects that can promote economic recovery, especially in rural areas.

The U.S. supports the new government痴 efforts to bring peace to Nepal. The cease-fire is holding and the new government has made clear its readiness for peace. I told Prime Minister Koirala on May 2 that we stand ready to provide assistance to security forces if his government were to make a request. This offer includes our ongoing commitment to improve the human rights record of Nepal's security forces.

The alliance between the political parties and the Maoists, based on their mutual antagonism to the King and his autocratic ambitions, is based on a "12 Point Understanding." According to this agreement the government will support elections to a constituent assembly, a long-standing Maoist demand. In exchange, the Maoists have accepted a commitment to support multi-party democracy. In keeping with the high hopes and expectations of the people of Nepal, the government is moving forward to implement this agreement with the Maoists -- but we remain wary. The Maoists have been an exceptionally brutal insurgency, and their forces have become accustomed to control over the countryside exercised through terror. They must renounce violence and the instruments of control, such as extortion, that have terrorized Nepal. Should they lay down their weapons, end their use of violence and intimidation and accept the rule of law, and accept the will of the Nepali people through the democratic process, there will be a place for them in Nepal's political arena. Until the Maoists take steps to change their character, we will not be convinced that they have abandoned their stated goal of establishing a one-party, authoritarian state.

We stand ready to work with other governments to ensure the realization of Nepal's democratic gains, and the benefits of peace. The international community has an important role to play. During the period of royal misrule and usurpation of power a number of donor governments withdrew or reduced their assistance. We hope that these governments will join us in supporting democracy, good governance and human rights as they evaluate how best to support Nepal over the longer term.

Those of us who watched images of Nepalese from all sections of society, young and old, demanding democracy in their largely non-violent demonstrations last month can only be inspired by the faith and hope they have placed in their future. We have no interest in prescribing the shape of Nepal's democracy; it is for Nepal to decide. We stand behind the people's right to make their own choices through a free, fair and open process.

(http://www.state.gov/p/sca/rls/rm/2006/66374.htm)

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2006/05/19

弾よけとなった玉,玉虫色議会宣言

谷川昌幸(C)

「議会宣言2063」の最大の問題点は,国王の処遇の不明確さ。主権は議会(議会主権)にあるので,実質的には共和制だが,国王の位置づけがはっきりしない。(「人民主権」ではない。)

国王廃止を宣言していないので,王制は残すのだろう。国歌も変え,人民賛歌かヒマラヤ賛歌のようなものにするとすれば,国王はどうするのか?

あっさり王制廃止宣言をしておれば,それはそれでスッキリしていたが,玉虫色であり,またまたもめそうだ。

ここで王室は,変な色気を出さないことだ。クーデターをにおわせると,一気に王制廃止となる。まな板の鯉となり,じっと待っておれば,”牙を抜いたのだから,残してもよかろう”ということになりそうだ。

政治権限を一切放棄してしまえば,かえって国民統合の象徴として,また貴重な観光資源として,価値が高まる。共和国アメリカの人々にとっても「国王」や「貴族」は最高のあこがれの的だ。権力を捨て権威を得る。21世紀型王室の残された唯一の存在理由であり,これこそネパール王室の賢明な選択だ。「議会宣言2063」はネパール国王にとって,またとないチャンスなのだ。

もちろん以上は,きれい事。7政党が人民主権を排し,議会主権を選択し,バランサーとして国王を玉虫色で残したのは,7政党の既得権益(いかに理不尽・不合理かはいうまでもない)を擁護し,さらに拡大するためである。

90年民主化で,民主主義は儲かることを知った政治屋たちが,もう一段の儲けをねらって王党派既得権の破壊をねらった。しかし,やりすぎると,自分たちの既得権も危なくなるので,弾よけとして国王を残した。

この「議会主権」の目論見を,「人民主権」を要求するマオイストが容認するか? おそらく,無理であろう。マオイストからの弾よけとして,国王は案外珍重されることになるかもしれない。

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Highlights of the House of Representatives Proclamation 2063

Related to legislature:

1. The House of Representatives (HoR) will exercise all legislative powers of the country.

2. The HoR will decide the process towards moving to the Constituent Assembly.

Related to the Executive:

3. The entire executive authority of the state of Nepal shall reside in the council of ministers. His Majesty’s Government will henceforth be called as the “Government of Nepal.”

A person, who is not a member of the HoR, can also be appointed as a member of the cabinet. Related to the Army:

5. The name of the Royal Nepalese Army has been changed as “Nepali Army”

6. Existing provisions related to the National Security Council have been scrapped. A National Security Council will be constituted to control, use and mobilize the Nepali Army under the chairmanship of the Prime Minister.

7. The council of ministers will appoint the Commander-in-Chief of the Nepali Army.

8. Existing provisions related to the Supreme Commander-in-Chief of the Army have been scrapped.

9. The organization of the Nepali Army will be of inclusive and national in nature.

Related to the Raj Parishad:

10. Existing provisions related to Raj Parishad have been abolished. Necessary activities being carried out by the Raj Parishad will be undertaken as managed by the HoR.

Related to the Royal Palace:

11. House of Representatives will have the right to formulate, amend or annul the law related to the succession to the throne.

12. The HoR will decide about the expenses and privileges of the king.

13. Tax will be imposed on the private property and income of the king in accordance with law.

14. Questions may be raised in the court and HoR regarding the activities of the king.

15. The existing Royal Household Service will be made part of the civil service.

16. The security of the royal palace will be managed as stipulated by the council of ministers.

Miscellaneous:

17. Nepal will be a secular state.

18. An alternative arrangement will be made so as to change the existing “national anthem.”

19. All organs and agencies of the state shall remain dutiful towards the HoR and exercise their right by realizing that their right emanates from the HoR.

20. Existing provisions of the Constitution of the Kingdom of Nepal 1990 and other laws ? that are in contravention with the HoR Proclamation?will be declared null and void to the extent they contravene with this proclamation.

21. HoR will take decisions to resolve any problems that may come across towards implementing this proclamation.

* nepalnews.com, May18

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House of Representatives Proclamation 2063

In respect of the sacrifices and participation made by the Nepalese people in the peaceful joint people's movement,

In due attention to the fact that the people had shown keen interest through the peaceful joint people's movement that took place some time back, on establishing that people are the sole source of state power of the independent and sovereign Nepal, as the people are the sole source of state powers and sovereignty,

With determination to fulfilling the peoples' mandate given by the Nepali people as per the roadmap of the seven political parties and the 12-point understanding between the seven political parties and the CPN-Maoist in the peaceful joint people's movement to restore a inclusive state by restructuring the state by formulating new constitution and to restore sustainable peace through democracy, and constituent assembly,

Internalizing the greater responsibility of the sovereign Nepali people for strengthening the country's national integrity, indivisibility and national unity,

As the fact that the House of Representatives (HoR) established on the support of the people's movement is sovereign and fully authorized has been realized in the king's declarations on April 24, 2006 that the Nepali people are the source of state power and Nepal's sovereignty and state power rests on the Nepali people and the people's aspirations exhibited in the present peoples' movement and on the basis of the road map of the seven political parties for resolving the violent conflict continuing in the country,

Makes the following declaration through this House of Representatives that this House of Representatives is sovereign for the exercise of all the rights until another constitutional arrangement is made to take the responsibility to gear ahead in the direction of full-fledged democracy and make an end to the autocratic monarchy by institutionalizing the achievements of the present peoples' movement, while safeguarding the achievements of the 1990 people's movement:-

1. LEGISLATIVE

1.1 All the rights regarding the legislative body of Nepal shall be exercised through the House of Representatives. The procedures for formulating laws shall be as specified by the House of Representatives.

1.2 The procedures for moving on the path of Constituent Assembly shall be as fixed by the House of Representatives.

1.3 Calling of the session of the House of Representatives and its conclusion shall be as follows:-

a The calling of the session shall be by the prime minister and will concluded by the speaker on the recommendation of the Prime Minister.

b. The speaker shall fix the date for the session or meeting to hold within 15 days if request is made before the speaker by one fourth of the total members at the moment in the House of Representatives citing that it is appropriate to call a session or a meeting when the House of Representative is not being held or if the meeting is stalled.

1.4 The House of Representatives shall formulate and implement the House of Representatives regulations.
2. ON EXECUTIVE

2.1 All the executive rights of Nepal as a state shall rest on the Council of Ministers.

'His Majesty's Government' shall be termed 'Government of Nepal' from now onwards.

2.2 Persons who are not the members of the House of Representatives can also be nominated in the Council of Ministers.

2.3 The Council of Ministers shall be responsible towards the House of Representatives. The Council of Ministers and the ministers collectively and for the works of their ministries shall be personally responsible towards the House of Representatives.

The administration, army, police and all the executive organs shall be under the purview of the government that is responsible towards the House of Representatives.

2.4 The allocation and transaction of business of the government shall be presented at the House of Representatives after its passage from the Council Of Ministers.

3. ON ARMY

3.1 The name "Royal Nepal Army" shall be changed to "Nepalese Army".

3.2. The Existing provision regarding the National Security Council has been repealed. There shall be a National Security Council under the chairmanship of the Prime Minister in order to control, use and mobilize the Nepalese Army.

3.3. Chief of the Army Staff of the Nepalese Army shall be appointed by the Council of Ministers.

3.4. The existing arrangement of Supreme Commander of the Army has been revoked.

3.5. The decision of the Council of Ministers on mobilizing the Nepalese Army, must be tabled and endorsed within 30 days from the special committee assigned by the House of Representatives.

3.6. The formation of the Nepalese Army shall be inclusive and national in nature.

4. ON RAJ PARISHAD The existing provision of Raj Parishad has been revoked. Necessary works being performed by the Raj Parishad shall be as per the arrangement made by the House of Representatives.

5. ON ROYAL PALACE

5.1. The right to make laws, amend and nullify regarding the succession to throne shall rest on the House of Representatives.

5.2. Expenditure and facilities for His Majesty the King shall be as per the decision of the House of Representatives.

5.3. The private property and income of His Majesty the King shall be taxed as per the law.

5.4. Acts performed by His Majesty the King are questionable in the House of Representatives or in court.

5.5. Existing Royal Palace Service shall be made part of the civil service.

5.6. The security arrangement for the Royal Palace shall be as per the arrangement made by the Council of Ministers.

6. THE EXISTING PROBLEM REGARDING CITIZENSHIP SHALL BE INSTANTLY RESOLVED.

7. THE EXISTING "NATIONAL ANTHEM" SHALL BE CHANGED BY MAKING ALTERNATIVE ARRANGEMENT.

8. NEPAL SHALL BE A SECULAR STATE.

9. MISCELLANEOUS

(a) All the state organs and bodies shall exercise their rights as having been authorised by this House of Representatives and with full faith towards it.

(b) Specified officials holding public posts shall take oath of office from the House of Representatives in specified manner. Officials who ignore receiving oath of office shall be relieved of their posts.

(c) The inconsistent legal arangements of the Constitution of the Kingdom of Nepal-1990 and other prevailing laws, with this declaration, shall be nullified to the extent of inconsistency.

(d) Any difficulty that may come while implementing this declaration shall be removed by a decision of the House of Representatives.

(e) A committee shall be there in the House Of Representatives for the purpose of implementation of sub-clause (c) and (d) above.

* ekantipur, May18

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2006/05/18

ヒンズー教国家消滅,世俗象徴君主国へ

谷川昌幸(C)

18日午後,コイララ首相が議会に「議会宣言」を提出した。このまま承認されれば,ネパールは世界唯一のヒンズー教国から,ごく普通の象徴君主国となる。日本の象徴天皇制とほぼ同じ。

「議会宣言」の採択手続はまだ分からない。審議すれば,大もめにもめ,混乱するだろう。それを避けるため,いまのうちに全会一致で採択,となるかもしれない。

これでマオイストは和平テーブルに着くか? 頭から拒否はしないだろうが,この枠組みでの体制内化は微妙だ。

もっと難しいのが,7政党。これまでは,都合の悪いことは国王のせいに出来た。これからは,7党政府が「人民」を弾圧することになる。すでに昨日,政党政府はデモ禁止命令を出した。もはや逃げ場がない。

つい1年前まで,マオイスト(地方住民)大弾圧を繰り返してきたのは政党政府であった。同じことが,もっと残酷な形で起こる危険性がある。人民が人民を弾圧するのだから,弾圧される人民は「非人民」(非国民)ということになる。

そのようなことにならないように,よく監視していなければならない。

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「議会宣言」要旨

議会  最高,全行政権行使 
  *議会主権であり,人民主権ではない。
軍指揮権  内閣。議会が承認
王室会議常任委員会  解散
国王の自由裁量権  剥奪
王位継承  議会決定
国王無答責  剥奪。議会,司法裁判所で国王問責可能
議会招集権  国王から剥奪。首相の助言で下院議長が招集
          特別会は議員25%以上の要求で招集
王室財産  課税対象。王室予算は議会決定
現行法令  「議会宣言」に抵触するものはすべて無効
ネパール国家  世俗国家(政教分離の国家)

* nepalnews.com, May18

--------(追 加)---------

「議会宣言2063」が採択された。要旨は下記の通り。

Declarations of the House Proclamation

The name His Majesty's Government of Nepal changed to Nepal Government

Nepal becomes a secular state

National anthem to be changed

Name of Royal Nepalese Army changed to Nepal Army

The post of Supreme-Commander-in-Chief of the army held by the king and the constitutional provision regarding the mobilisation of the army scrapped

Army and all other security limbs of the state brought under the direct control of the HoR

Council of Ministers to appoint the Chief of Army Staff

Rajparishad scrapped, its duties and responsibilities will be exercised by the HoR

Parliament to formulate, amend, and annul the laws deciding the heir to the throne

All executive rights of the state vested only in the Council of Ministers

Prime Minister will summon the House session and Speaker will end the session on PM's recommendation

Parliament to decide Royal Palace expenditures and other facilities

Private property and income of the king to be taxed as per the existing laws

Questions can be raised in parliament and in a court of law against the king's unconstitutional and illegal actions

The Royal Household Service scrapped, civil servants to replace Royal Household Service employees

The Council of Ministers to decide the security arrangement of the Royal Palace

The provisions of the Constitution of Nepal 1990 and other laws which contravene the House Proclamation will be null and void to the extent of contravention

* ekantipur, May18

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2006/05/17

日本にも武士はいないのか?

谷川昌幸(C)

ネパール君主制は風前の灯火だ。ギャネンドラ国王,パラス皇太子には多々問題があり,退位を迫られても不思議ではない。Hindustan Timesによれば,悪政の数々は下記のとおり。

しかし,それと制度としての君主制は一応べつものだ。象徴君主制に改め,場合によっては,現国王,皇太子は退位し,新国王を迎えて,存続させるという手も悪くはない。

それなのに,ネパールでは反君主制一辺倒。これは健全ではない。民主化運動に水を差すと叱られるかもしれないが,こんなときこそ,反対意見が必要だ。ネパール国内で難しければ,日本から,象徴君主制(儀式的君主制)の存在理由を冷静に語りかける。

あるいは,義理人情からでも武士の誠からでもよい。つい数ヶ月前までは,ネパール王室は日本でモテモテ。多くのネパール関係者がお近づきになろうと走りより,にじり寄り,お言葉を賜り,記念写真を撮らせていただいた。彼らからは,一言あってしかるべきだ。

政治理念ばかりか,義理人情も武士の誠も失ってしまえば,日本には大勢追従の卑俗しか残らない。ギャネンドラが勝てば陛下万歳,コイララが勝てば議会万歳,マオイストが勝てば人民万歳,そして,軍事クーデターが成功すればR将軍万歳!

やせ我慢のできる武士は,日本にもいないのか。

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ギャネンドラ国王の悪政

GDP成長率   5.1%(2002) → 1.8%
インフレ率  4%(2002) → 8%
王室費  Rs 126.3m(2002) → Rs 751m(本年度9ヶ月分のみ)
国王/皇太子外遊費  Rs 1.72b(親政15ヶ月)
パンデ外相外遊費  Rs 13.3m
治安予算  Rs 12.08b(2002) → Rs 18.99b(現在)
ヘリ購入/兵員4万人増強費   Rs 1.42b
デモ鎮圧費  Rs 1b(2006)
内務大臣デモ対策費   Rs 500,000(1日当たり)
地方選(2月)   Rs 280m
メディア対策(買収)費  Rs 23m
ネパール石油公社損失  Rs 1b
歳入不足  Rs 8b

* "Nepal axes King's plans to splurge on arms," The Hindustan Times, May16, 2006.

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2006/05/16

本物の武士はいないのか?

谷川昌幸(C)

デウバNC-D党首が,国王の軍指揮権を残そうと画策しているというが,本当かな? 何度もコケにされ,赤恥をかかされた国王を,時局も弁えず弁護するとも思えないが。

かりにデウバ発言が事実だとすると,これはとんでもない愚策だ。国王を残したいのであれば,政治権限を一切除去し,純粋なシンボルにすべきだ。王族の人数も最低限に削減する。もし国王や王党派がこれを望まないのなら,共和制も仕方あるまい。

世界を見ると,君主制よりも共和制の方がはるかに多く,いまも君主制は減少しつつある。ネパールが共和制になっても,どうということはない。

ただ,安全性,安定性を考えると,相対的に君主制の方がまし,というだけであり,もしネパール王室が自らのこの現代的役割を考えないのであれば,王制廃止もやむを得ない。米印も日本も,おそらくそう考えているにちがいない。

ネパールには,生命を賭して国王や王党派を諫める本物の武士はいないのだろうか?

*ekantipur, May16

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2006/05/15

ラジカルUWBの含意

谷川昌幸(C)

United We Blogは,ラジカルなのに(だからこそ),不思議なバランス感覚を感じさせる。

国王専制を糾弾し民主化運動を讃える一方,マオイストの残虐への告発の手もゆるめない。

これはジャーナリストのものだ。運動の立場からは,味方に不利なことはいわない。目的が手段を正当化する。含意なしの単眼思考。

UWBは複眼的であり,つねに含意を感じさせる。マオイスト集会の迫力ある写真は,革命後そうなるかもしれない社会と二重写しになる。

あるいは,"Painting The Royal Away: We Will Never Forget This" (May14)も面白い。

Artists today deleted the word ‘royal’ from a sign board at Nepal Association of Fine Arts (NAFA) this afternoon. NAFA functions under, well, we too delete the word here, _ _ _ _ _ Nepal Academy.

Royalがそんなに簡単に消せるのなら,そこにPeopleを入れるのも簡単だ。「星」か「プラチャンダ」を入れてもよい。

そんな含意を感じさせるところが,UWBの記事や写真の面白さだ。(意図的かどうかは分からないが,記事へのコメントの平板さと好対照をなしている。)

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2006/05/14

UWB,改憲論へ軟化の兆し

谷川昌幸(C)

畏敬すべきラジカル・ブログ,United We Blogの論調が最近かなり変化し,革命から改憲に少しずつ軟化してきたようだ。

13日付記事,"Parliament Will be Supreme: King in Nepal Will be Under Tax and Law"は象徴君主制に好意的であり,これは私の考えに近い。

この記事は,復活議会が準備している改革案「代議院宣言2063」の骨子説明。それによると,国王は完全な象徴となり,主権は議会に移る。国軍指揮権も議会(首相)が握る。

これが通れば,90年憲法はこの方針にしたがって改正され,日本国憲法とほぼ同じもの(9条を除く)となる。

これは憲法3原理の闘争だ。
 ・立憲君主制(イギリス憲法型)King in Parliament
 ・象徴君主制(日本国憲法型)
 ・共和制

メディアによる評価も注目される。ekantipur(Kathamndu Post), nepalnews.com(Mercantile), Nepali Timesなど。そして,もちろんライジング・ネパール!

ネパールは,憲法論としても,メディア論としても,いま最も注目される(べき)地域である。

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2006/05/13

90年憲法か人民裁判か

谷川昌幸(C)

7党政府が12日,国王親政政府のタパ内相,SS・ラナ情報通信相,パンデ外相,ダカール行政相,NS・ラナ保健副大臣を,人民運動弾圧を理由に逮捕した。

1.逮捕の法的根拠?
これら5閣僚に十分な犯罪容疑があれば,逮捕は当然だ。日本でも田中角栄元首相が逮捕され,裁かれた。法の前の平等を大原則とする近代法治主義とはそのようなものだ。

では,ネパールの元閣僚5人の容疑は何か? 逮捕の具体的な法的根拠はどこにあるのか? 報道を見る限り,よく分からない。

2.現行法の適用?
現在,1990年憲法はまだ有効であり,7党政府もこの憲法により成立している(正統性は十分ではないが)。近代法治主義の原則からいえば,5閣僚は現行憲法とそれを根拠とする法令により裁かれなければならない。

現行憲法は,立派な民主的憲法であり,大臣であれ誰であれ,訴追は十分に可能である。それなのに,もし現行憲法により成立している7党政府が憲法無視の権力行使をやれば,それは国王の無法政治と同じであり,法治主義の大原則は崩れる。

3.人民裁判?
もし現行憲法によらないのであれば,マオイストがいうように,7党政府を解散し,暫定政府が人民裁判をやるしかない。

革命は旧憲法秩序を否定し新憲法秩序を樹立するもの。もし現行憲法で違法でない行為について,政治責任以上のものを追求するのであれば,それは革命政府による人民裁判たらざるを得ない。

現行憲法による裁判か,それとも人民裁判か? どちらをとるかは,もちろんネパール人民が決めることだが,保守主義者の私としては,現行憲法による責任追求の方が,より公平,より安全ではないかと思っている。

4.人民裁判と報復合戦
人民戦争の10年間に,主要勢力は皆手を汚してきた。国王親政開始以前の長期にわたるマオイスト大弾圧,住民大量虐待は,すべて政党政府の責任だ。それらが厳しい国際的非難を浴びてきたことをよもや忘れたわけではあるまい。そしてまたマオイストの方も,無数の人権侵害,残虐行為を続けてきた。全部,現行憲法下の犯罪だ。

人民裁判で王党派の人権侵害,権力犯罪だけを裁き,自分たちの犯罪行為を免責にしてしまえば,それは著しく公平に反し,本当の和解にはならない。王党派の恨みを買い,反革命で仕返しをされる可能性大だ。

5.ジャングルの掟より法の支配を
そんな不毛な報復合戦はやめた方がよい。立派な90年憲法があるのだから,その憲法の下で,適正な法手続に従い,刑事責任,民事責任を明らかにし,厳正に法を適用していく。政治責任については,政治の場で決着をつければよい。

状況により革命やむなしの場合もあるが,それは最後の手段。いまあえてジャングルの掟に戻るよりも,文明的な法の支配の下で,事態を改善していった方がよいように思う。

* ekantipur, May12

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2006/05/12

7党旗,エベレストを民主化

谷川昌幸(C)

ライジング・ネパール(!)によれば,「民主エベレスト遠征2006」登山チームが,赤旗を立てると先に宣言していたマオイストを出し抜いて,7党旗をエベレストに立てる計画という。

登山チームは,すでに7党旗をMK・ネパール統一共産党書記長から託され,首尾よく旗を立てよと激励されている。

これだから民主主義は大嫌いだ。なぜこんな卑俗な形で霊峰を政治化するのか。サガルマタは,皆が民族,政治信条に関わりなく虚心に仰ぎ見ることが出来るからこそ,ネパール統合の象徴であり,世界の霊峰なのだ,

民主主義は,己の限界を知らぬ未熟な欠陥思想である。

* "Team set to take parties' flags to Mt. Sagarmatha," Rising Nepal, May12.

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2006/05/11

CPN-Mはマオイストか?

谷川昌幸(C)

ネパール・マオイストは,変なマオイストだ。中国の改革・開放路線を非難しながら,自分たちも同じことをしている。社会革命をやる気がないのだ。

1.没収財産の返却
マオイストは,支配下の地方では,地主,高利貸しどもの土地,財産を没収し,共同体所有にしたり,一部は各家族に配分したと伝えられていた。えらい! と感心していたのに,何と,それらを返却するという。もちろん戦術だが,そんな姑息な手段は執るべきではない。

マオイストに土地・財産を没収され,カトマンズに避難してきた7党有力者は,無数にいる。お気の毒だとは思うが,そんな特権的な財産は正義に反する。没収されて当然だ。

それなのに,マオイスト幹部は,この没収した財産を7党有力者に返すことにより,体制内化し,権力の分け前に与るつもりなのだ。

しかし,7党地主,高利貸しが村に帰ってくれば,元の木阿弥。平党員はおそらくそんなことは許さないだろう。

2.都市ブルジョア容認
それともう一つ,不可解なのが,都市部のブルジョアどもの財産について,マオイストが何もいわないこと。一定以上の財産は,王族を含め,例外なくすべて没収すべきだ。これをいわないのも,マオイスト幹部どもが体制内に入りたいからにちがいない。

3.やめられない革命
しかし,その一方,幹部の停戦命令にもかかわらず,平党員たちは階級敵への攻撃をやめていないらしい。それはそうだ。10年以上の戦いで,革命体制をある程度つくってしまったのだから,幹部が停戦といっても,そう簡単には止められない。没収財産や階級敵からの税金で生活している平党員の生活はどうなるのだ。

4.紛争体制脱出の難しさ
和平交渉への足並みは,7党内と同じく,マオイスト内でも,そう簡単には揃いそうにない。

* Parliamentarians accuse Maoists of intensifying extortions," ekantipur, May11

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2006/05/10

国連軍への転換,プラチャンダ第二の道

谷川昌幸(C)

プラチャンダ議長が7日の電話インタビューで面白い提案をしている。

1.国軍・M軍を国連監督下に
プラチャンダ議長は,これまでの展開を受けて,次のような新政府樹立手続きを提案をした。

国王の議会復活宣言(4/24)→7党,人民(民主化)運動停止(4/25)→マオイスト,人民戦争停止(4/26)→議会復活(4/28)→コイララ首相就任(4/30)→7党内閣成立(5/2)→政府停戦発表(5/4)→マオイスト,対政府対話開始受諾(5/4)
-----------(以上,現在まで。以下,プラチャンダ提案)
→現行憲法破棄,現政府解散
→暫定憲法制定,暫定政府樹立
→国軍と人民解放軍を共に国連または国際機関の監督下に置く。
→制憲議会選挙
→制憲議会開催
→制憲議会の決定により,新国民軍を組織。

2.「傭兵」の伝統を生かす
国軍とM軍をまとめて国連指揮下におく――これは主権放棄に近い大胆な,面白い提案だ。

ネパールには,グルカ兵,PKO部隊といった「傭兵」の長い伝統があり,他者の指揮下に入ることになれており,国連指揮下に両軍が入ることにも,それほど抵抗がないのかもしれない。そうだとすると,これは案外現実的な提案かもしれない。

3.国連ネパール軍への転換
もしプラチャンダ提案通り国軍とM軍を国連指揮下に入れることに成功したら,ここからは議長の考えから外れるのだが,新生ネパール議会は国連の指揮権をそのまま永続的に認め,ネパール軍を国連軍にしてしまうとよい。

プラチャンダ議長は,制憲議会の決定には忠実に従うといっているのだから,議会が決定さえすれば,国連ネパール軍は問題なく成立する。

これは国連にとってもよいことだ。グローバル化が進めば,国連が常備警察力を保有するにいたることは必然だし,それは米軍支配よりも望ましい。ネパールは,率先して国軍を国連に提供し,世界に範を垂れる栄誉を得ることができる。

プラチャンダ提案は,革命的であると同時に,よく見ると,極めて現実的である。ネパールが自分で軍隊を保有する必要はない。国連ネパール軍がネパールに駐留しておれば,どの国も侵略できないし,ネパール国民の軍事費負担も大幅に軽減される。誰にとってもハッピーだ。

4.これこそトランセンド
プラチャンダ提案は,国家は国軍を保持するものだという固定観念を超越し,新しい人間安全保障への扉を開くものだ。第二の「プラチャンダの道」といってよい。

これは,日本国民のモデルともなりうる。9条違反の自衛隊を放棄し,国連警察軍としてしまうのだ。

マオイストが,このプラチャンダの第二の道を目指すのなら,おおいに応援したいと思う。

* "Who is Richard Boucher?" Maoist supremo asks, nepalnews.com, May8.

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2006/05/09

宗教と政治と金儲け

谷川昌幸(C)

5月5-6日,日本の宗教戦争の中心地,島原・天草を訪ねた。長崎市→島原・原城趾→口之津港―(フェリー)→天草・鬼池港→本渡・切支丹館→崎津天主堂→大江天主堂→富岡城趾→長崎市

1.キリシタン大弾圧
この地で戦われた天草・島原の乱(寛永14-15年,1637-38年)では,幕府軍12万5千人に対し,天草四郎(16歳)率いる一揆軍は3万7千人,1638年2月28日の原城落城でほぼ全員が殺された。幕府側の戦死は千数百人。

戦力だけを見ると,現在のネパール王国軍,マオイスト人民解放軍に近い数字だが,残虐さの点では当時の日本はネパールの比ではない。女,子供,老人を含め,3万7千人を皆殺しにしている。なぜそこまでしたのか?

2.キリシタン信仰への警戒
最大の理由は,キリシタン信仰と,その背後の西洋諸国への恐れである。天草,島原の農民たちは,領主の圧政に耐えかね,救いをキリスト教に求め,一揆を起こした。総大将の天草四郎はキリシタンであり,キリシタン陣中旗(切支丹記念館所蔵,重文)を掲げて一揆軍を指揮した。

これに対し,幕府はキリシタンを邪宗と見なし,宗教戦争特有の残虐さをもって一揆軍を皆殺しにしたのである。

3.隠れキリシタン
しかし,キリシタン信仰は,その後も,明治6(1873)年切支丹禁制撤廃まで,260年の長きにわたって,天草でひそかに続けられた。「隠れキリシタン」である。

「隠れキリシタン」の信仰生活は,想像を絶する厳しさであった。隠し十字仏,マリア観音,経文消し壺など,工夫と想像の限りを尽くして,キリシタンたちは信仰を守り通した。それらを見ると,本物のキリスト教信仰の強靱さに驚嘆すると同時に,それを恐れた幕府のキリスト教理解の「深さ」にも感心する(弾圧の是非は別)。

4.仏教のキリシタン弾圧加担
幕府は,キリシタン弾圧に仏教をさんざん利用した。各地に寺院を建立し,宗門改(踏み絵,寺請け)で厳しい宗教弾圧を続けた。

密かにキリシタンをかくまった寺もあるにはあったが,日本が宗教的に寛容だとか,仏教は平和的な宗教だというのは,単なる思いこみにすぎない。

5.キリスト教の観光資源化
ところが,今回,島原・天草を回ってみて驚いたのは,さんざん弾圧されてきたキリスト教が,観光・村おこしの時流に乗り,今度は卑俗な形で,神社や仏教を疎外する側に回っている場合が少なくないことである。

島原・天草にとってキリシタンは観光資源であり,関連施設はかなりよく整備されている。これに対し,神社や仏教関係となると,見捨てられ,哀れを誘うものが少なくない。

事情はよく分からないが,少なくとも見た限りでは「これはひどい!」と思ったのが,崎津の「チャペルの鐘展望公園」である。

崎津天主堂の山手50m位のところに金刀比羅神社がある。崎津は漁村だから,古くからあったのだろう。その金刀比羅神社の裏山の頂上に奥社がある。いきさつは分からないが,その奥社の側に,「チャペルの鐘展望台」がつくられている(クリック)。

つまり,金刀比羅神社の一の鳥居をくぐり,中間の二の鳥居をくぐって登っていくと,このグロテスクな十字架と愚劣な鐘のある公園に着くわけだ(グロテスク・愚劣は私個人の印象)。そして,そのコンクリート製の公園の外側の草むらの中に,見捨てられた哀れな奥社がある。もともとこの参道も,この見晴らしのよい高台も,神社のものだったろうに,観光資源と化した「キリスト教らしきもの」に乗っ取られてしまったのだ。

おそらく,これは崎津教会の事業ではあるまい。しかし,こんな形で十字架が使われていることを知ったら,亀の甲羅に十字架を見,窓枠に十字架を見,壁の中に塗り込めた十字架を心で透視し,260年にわたって弾圧に耐え抜いてきたキリシタンたちは,どう思うであろうか。

これは金刀比羅神社に対する侮辱だし,キリスト教会自体の堕落である。どうして,こんなものを歴史ある崎津教会が許しているのだろうか。

同じようなことが,本渡市立天草切支丹館など,他の観光資源化したキリシタン関係施設についても多かれ少なかれ言える。

6.宗教とどう関わるか?
日本では,仏教も神道もキリスト教もさんざん他の目的のために利用されてきた。この宗教とどう関わるか? これは,ヒンズー教を国教とするネパールや,靖国問題,中東問題などを見ても分かるように,いまもってなお未解決の難問なのである。

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2006/05/08

朝日社説の大勢追従と思い込み

谷川昌幸(C)

朝日社説(5/8)「ネパール 王室の存廃,国民に問え」は,おくればせの大勢追従,思い込みの選挙原理主義,手抜きの外務省批判といわざるを得ない。

1.大勢追従
この社説全体が,気が抜けたおくればせの大勢追従,大勢翼賛であることは明白。こんなことを今頃いってもあまり意味はない。

2.選挙原理主義
思い込みの方もひどい。「国民に問え」と要求するが,どの国民に,どう問うのか? 

朝日は,世論調査で9条について「国民」に質問し,その結果を5月3日付朝刊1面最上段に大々的に掲載した。「変える43%,変えない42%」。ところが,この調査は,質問・集計に問題があり,改憲への世論誘導ととられても仕方ない,と批判されている。自分ではこんな簡単な質問ですらできないのに,よくもまあ無責任に「国民に問え」などと言えたものだ。

ネパールのような多民族,多文化途上国では,選挙の有効性はごく限定されている。これは常識だ。

3.毛派と選挙
毛派(マオイスト)への思い込みもはなはだしい。掌を返したような毛派評価。「国土の半分以上を支配する毛派」。本当か? 本当だとすると,その支配はどのような形でなされているのか? 選挙民主主義とは無縁の毛派支配の下で,公平な選挙など出来るのか?

今のネパールでは,選挙(特に小選挙区制)では決着のつかないことの方が多い。イラク,アフガンを見て,頭を冷やすべきだ。

4.憲法事大主義
「しっかりした憲法を」というのも,思い込み。ネパールには民主的な憲法がいくつもあった。現行1990年憲法も,立派な民主的憲法であり,ちゃんと守りさえすれば,問題はない。

問題は憲法の文言よりも,遵法精神の育成。これは一朝一夕にはいかない。その本当の問題を見ずに,新憲法を作れば問題解決といった安直な発想が,ネパール政治を誤らせるのである。

5.外務省批判の手抜き
外務省批判も,手抜きだ。人道支援以外の開発援助を停止すべきだったという批判にはたしかに一理あるが,これには内政干渉の問題や庶民生活への打撃なども複雑に絡むので,一刀両断とは行かない面もある。 

これに対し,申し開きの出来ないのが,昨夏のパラス皇太子歓迎。パラス皇太子の行状や国王専制化が国際的に厳しく非難されているさなか,外務省は天皇一家を総動員して,パラス皇太子を大歓迎,全面的にネパール王室を応援した。儀礼としても度を超しており,これは明らかに日本外交のミス。

朝日は,なぜこの外交ミスを批判しないのか? 朝日は天皇家が大好きなので,たとえ天皇家が政治的に悪用されていても,そうしたことには触れたくないのか? それとも,つい半年前のことでも調べるのが面倒だったのだろうか? どちらであれ,手抜きにはちがいない。

朝日新聞のために。半年前の対ネ皇室外交を再録しておく。とくとご覧あれ。

・皇太子殿下来日と日ネ協会(2005.6.5)
・ODA凍結要求と皇太子殿下歓迎会(2005.6.12)
・皇太子殿下訪日の政治的意図(2005.6.17)
・天皇,皇后両陛下と会見へ(2005.7.4)
・目に余る天皇の政治的利用(2005.7.5)
・天皇との会見写真(2005.7.8)
・皇族,日ネ協会に大歓迎される皇太子ご夫妻(2005.7.12)
・協会HP閉鎖の時代錯誤(2005.9.10)



2006/05/07

日ネ憲法共闘の可能性

谷川昌幸(C)

いろいろ批判しつつも,表現の自由を筆頭に,ネパール憲法闘争から学ぶべきものは多い。ネパールは国民としてまだ若く,老化著しい日本から見ると,その押さえきれないエネルギーの奔出はうらやましいかぎりだ。

1.静かな憲法記念日集会
5月3日は憲法記念日であり,憲法集会に出席した。大ホール一杯の出席者なのに,あまり熱気を感じられず,なぜかなぁと周りを見回すと,年寄りばかりだった。日本では,登山と同じく,こうした集会にくるのは老人ばかり。これでは元気が出ないのは当然だ。

2.憲法改悪の危機
それをよいことに,自民,民主の若手(!)を中心に,憲法改悪の動きが急になってきた。最大の目標は,言わずとしれた9条。これを改めて軍隊を正式に保持し,軍事力で大いに「平和」貢献するつもりらしい。

またそれと関連して,お上の命令どおり国民を動員するため,「公共」重視を謳い,国民の「義務」を大幅に強化するという。

3.教育基本法の改悪
その憲法改悪の露払いが,教育基本法改悪。眼目はもちろん愛国心。教室で愛国心を教え,試験で採点する。

これが通れば,大学は愛国学生ばかりとなり,非国民教員は糾弾され,追放されるだろう。

4.共謀罪の新設
もう一つ,日常生活と関係が深く,こんなブログを書いていると捕まりそうなのが,共謀罪。これは,治安維持法の現代版であり,実際に犯罪を犯さなくても,たとえば上司に叱られた部下たちが「あんな奴,海にたたき込んでしまえ」などと憂さ晴らしをしていると,殺人共謀で捕まるかもしれない。

この刑法改悪が実現すると,住民運動,労働組合活動,学生運動などは,危なくて何も出来なくなる。共謀罪は,心の中で考えただけでも処罰できる可能性のある思想取締法である。丁寧な熨斗をつけて某国陛下に進呈したいくらいだ。

5.国民保護法による動員
すでに悪法が制定され,実行に移られているものもある。たとえば,国民保護法(2004年制定)による自治体の国民保護計画。

計画には,核攻撃の際は「閃光を見るな」「風下を避け,手袋,帽子,雨合羽で被爆を抑制せよ」などといった注意事項が列挙され,これらにしたがって避難訓練することになっている。

「くだらん」と誰でも思うだろうが,政府は大まじめ。地方自治体を脅し,避難訓練をさせている。

実は,政府の真の目的は,国民「保護」ではなく国民「動員」にある。だから,小学生にバカにされようが,大人に冷笑されようが,全く平気。アメとムチで住民をかり出し,動員に慣れさせ,国民総動員態勢のようなものを構築しようとしている。

6.日ネ憲法共闘に向けて
このように見てくると,日本の憲法状況もまた深刻である。ネパールの人々は,たとえ動員されたにせよ,反政府・民主化運動に参加した。ところが,日本の若者の多くは,平和活動や民主主義運動には動員すらされない。一方,政府による動員には,冷笑しつつも,おとなしく服従する自治体住民が増えてきた。

いま立憲主義は,日本でもネパールでも危機にある。社会状況が異なるので,危機の態様も大きく異なるが,だからこそ相互学習,相互批判を通して学ぶことも多いはずだ。日ネ憲法共闘は可能だし,大いに有意義ではないかと思う。

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ネパールの動き

4/28 下院再開
4/30 コイララNC党首,首相就任
5/02 コイララ首相,7閣僚任命
5/03 政府,2月地方選無効決定
5/04 政府,対マオイスト停戦発表,マオイストのテロリスト指定解除
   プラチャンダ議長,政府との対話受諾発表

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2006/05/03

宴の後の7党内閣

谷川昌幸(C)

7党連合7人内閣の成立,まずはめでたい。いつものようにゴネ得で,40人,50人にならないようにして欲しい。

1.「人民」のウソ
それにしても,ネパールの政党や活動家たちは,なぜこれほど「人民(国民)」や「民主主義」が好きなのだろう。カンチプルやUWBは大好きだが,「人民は失望した」なんてしょっちゅう書かれると,「人民」とは誰だ? それは「あなた」のことではないか? とつい茶々を入れたくなる。なぜ「私は失望した」と正直に書かないのか?

「人民が立ち上がった」のではない。彼や彼女がそれぞれの理由でデモに参加しただけ。そのそれぞれの理由を確かめるのが面倒なので,いもしない「人民」をでっち上げ,手抜きをしているのだ。

これは,私自身よく使う手だ。「国民は怒っている!」なんて書く。ウソだと分かっているので後ろめたいが,プロパガンダには便利だ。

2.「民主主義」のウソ
もう一つのウソが「民主主義」。社会学に有名な「少数支配の鉄則」がある。鉄則というくらいだから,鉄のように固く冷たい法則だ。一言で言えば,民主主義を唱える連中こそが少数支配をやる,という悪魔の呪いのような法則だ。私は寡聞にしてこの鉄則を免れた事例をまだ知らない。

3.「人民民主主義」の大ウソ
そこで,この「人民」のウソに,「民主主義」のウソをかけると,「人民民主主義」という大ウソができあがる。この大ウソがウソということは,統治をやってみると,すぐ分かる。すでに歴史上,何回も実証されている。

運動はプロパガンダで人々を動員しなければ成功しない。「人民」は民主主義教の「神」のようなもの。使徒たちが「人民」を神に祭り上げ,「民主主義」のマントラを唱えて街中を練り歩き,最後に広場に集まり,集団憑依の没我状態で「民主主義万歳!」と叫ぶ。民主化運動は,民主主義教の一大祭典だ。

4.ウソも方便
むろん,これは民主主義が間違いだと言っているのではない,君主制も貴族制も同じく信仰だ。問題は,君主,貴族,人民のどれが現代人向きか,どの神をどのように祭るのがより安全か,ということだ。

民主主義教は第一次大戦で勝利し,これがいちばんよい市民信仰だと言うことになった。

ただ,民主主義教の伝統の長い西欧は,それを信仰しつつも,それは方便だということをよく自覚している。美しいウソだと重々知りつつ,無信仰よりはましだと考え,打算で民主主義を信仰している。西欧人はずる賢く,そして偉い。

民主主義を信仰しつつ,一方では「これはウソだよ」とつねに自己批判する余裕。そうした政治的成熟への努力が,日本にもネパールにも必要ではないかと思う。

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Cabinet Members (May 2)

Girija Prasad Koirala
Prime Minister

KP Sharma Oli (UML)
Deputy PM and Foreign Minister

Krishna Prasad Sitaula (NC)
Home Minister

Ram Sharan Mahat (NC)
Finance Minister

Mahanta Thakur (NC)
Minister for Agriculture and Cooperatives

Gopal Man Shrestha (NC-D)
Minister for Physical Planning and Works

Prabhu Narayan Chaudhari (ULF)
Minister for Land Reforms and Management

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2006/05/02

たかが紙切れ憲法

谷川昌幸(C)

ネパールでは,憲法をめぐって大混乱,多くの生命・財産が失われた。たかが憲法,人殺しをするほどのことではない。

1.改憲の必要性
1990年憲法はよくできた憲法であり,遵守されておれば改正の必要はないが,王権乱用への警戒がやや弱く,結局,今回のような事態を招いてしまった。したがって,28条(王位継承),29・30条(王室財産),33条(国歌),42条(首相任命権),115条(非常事態),119条(国軍指揮権),127条(障害除去大権)等を改正し,国王から一切の政治的権限を取り除き,国王を完全な象徴にしてしまう方が,たしかに望ましいといえる。

2.遵法精神の欠如
しかし,それが意味を持つのは,憲法が守られるかぎりにおいてである。当たり前のことだが,実は,これは大変なこと,一朝一夕に出来ることではない。日本ですら,憲法9条は,完全に無視されている。

ネパール憲法を改正して,たとえ国軍指揮権を首相に与えても,首相や国軍幹部に憲法を守るつもりがなければ,何の意味もない。現在だって,国軍が本当に国王の命令で動いているかどうか怪しいものだ。

3.不文憲法国イギリス
憲法の本家,民主主義の祖国イギリスは,だから紙切れにすぎない成文憲法など持っていない。多くの憲法的規定は成文化されているものの,憲法そのものは,イギリス政治の慣習,憲政の常道にすぎない。紙切れ憲法など,イギリス人はバカにしている。

4.世界最大成文憲法国ネパール
この正反対がネパール。インドと並び,ネパールは世界最大の成文憲法を持つ紙切れ憲法大国だ。憲法以外にも,法律,条例,命令の類は無数にある。ありすぎるくらいあるが,まともに守られているものは少ない。

議会で決めたことを街頭政治(バンダ)で覆すのも,日常茶飯事。こんなことでは,どんな憲法を決めても,議会で延々何時間審議し決議しても,ほとんど意味はない。

たかが憲法。殺し合いをするほどのことはない。

5.されど憲法
されど,憲法はやはり国家構成基本法(constitutional law)であり,国民生活にとって極めて重要であることはたしかだ。

一方で「憲法なんか紙切れにすぎない」と頭を冷やしつつ,人殺しをしない程度の熱意を持って,憲法改正に取り組んでもらいたいものである。

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2006/05/01

象徴の適格性

谷川昌幸(C)

1.ゴルフと事故と象徴
4月29日午後6時頃,パラス皇太子の車列が事故を起こした。カンチプルによれば,皇太子はゴカルナ・ゴルフからの帰途で,皇太子自身の運転する車か(被害者証言),警護の車(警察発表)が結婚式送迎バスに衝突したという。

ケガもなく事故はたいしたことはなさそうだが,この状況下,自分で運転してゴルフに行くという神経が不可解だ。皇太子は象徴君主制の重要な一翼を担っており,次期国王でもある。誰を国王,皇太子にするかは,主権者たるネパール人民が決めること(天皇と同じこと)だが,一般的にいって,こうした愚行を繰り返す人は,象徴にはふさわしくない。

国王,皇太子個人は,制度としての王制とは別とは言え,生身の人間が象徴の場合,その行為は制度の正統性を大きく左右する。

2.非難され,また非難され
パラス皇太子については,昨夏,天皇一家を利用し大歓迎した人々をさんざん批判し,その方面から非難された。

いま,共和制大合唱の中で,あえて象徴君主制を擁護し,つい半年前私を非難した人々から,また非難され始めた。その最中,皇太子にこんな事故を起こされると,困ってしまう。日本の一市民が困ろうがどうしようが,そんなことはネパール王族にはどうでもよいことかもしれないが,私のような考えの人はネパールにも少なくないはずである。

この愚行のせいで,ぎりぎり象徴ならよいと思っていた相当数の人々が,象徴君主制を見限ってしまったのではないか

3.人民象徴君主制
イギリス王室のような世界に冠たる君主制であれ,王族の不行跡で,その存続が揺れている。近代以前であれば,武力で王制を維持することも出来たが,いまではそれは不可能。人民が支持し権威を認めてはじめて,王制は維持できる。

この状況下でのゴルフ,車の無謀運転,事故責任回避は,象徴としての不適格性を示していると見ざるを得ない。

* ekantipur, Apr30.