長崎大学教育学部 公開授業「国際理解教育」

教育とフェアトレード

(特別講師)
  サパナ・シャルマさん(ネパール教育ボランティア)
  土屋 春代さんネパリ・バザーロ代表)

(日 時)11月2日(金)14:30〜16:00
(会 場)31番教室(長崎大学教育学部
(連絡先)谷川研究室(095-847-1111 内線2409)

 途上国には生活苦のため学校へ行けない子供がたくさんいます。フェアトレードは、公正な交易を通して途上国の経済的自立を支援する運動であり、誰にでも出来る教育協力の1つとして注目されています。
 この公開授業では、「教育とフェアトレード」の豊かな経験をお持ちの2人の講師をお招きし、ネパールの具体例を中心に、お話しをしていただきます。
 講演後には、ご出席の皆様との意見交換も予定しています。ぜひ、ご参加ください。
サパナ・シャルマさん:小学校、高校の教員を経て、セーブ・ザ・チルドレン、ピースコックなどでボランティアとして活躍。途上国ネパールの現状を教育とフェアトレードを通して改善することを目指す。
土屋春代さん:「ネパールの女性の自立と子どもの育成支援の会」のトレード部門として1992年に設立された日本の代表的フェアトレード団体「ネパリ・バザーロ」の代表として活躍。

平和のための開発協力↓ 



   平和のための開発協力

                          谷川昌幸(長崎大学)
 アメリカでの「同時多発テロ」(2001年9月11日)は、伝統的な軍隊による安全 保障がいよいよ非現実的となってきたことを示す象徴的な事件である。
 古典的な主権国家間の戦争は、近年のグローバル化の進展により勃発の危険性が 目に見えて小さくなってきた。ところが、これに反比例して、グローバル化は貧富 の格差を拡大し、不満を高め、グローバル秩序に対する様々な実力攻撃を誘発する 社会的経済的状況を世界のあちこちに生み出した。グローバル化が現状通り進行す れば、テロの危険性は今後ますます増大するであろう。
 こうしたテロは、世界秩序の側からすれば当然「犯罪」であり、警察や国際刑事 裁判所の管轄である。軍隊は、いかに強大であれ、今回のテロを見れば分かるよう に、この種の「21世紀型戦争」から社会を守る能力はない。
 また、軍隊には「21世紀型戦争」の抑止力もない。この種のテロは犯人を特定 しきれない場合が多く、軍隊で報復攻撃すれば、庶民を犠牲にし、憎悪をかき立て、 かえってテロを激化させるだけだからである。
 もし軍隊に「21世紀型戦争」に対する防衛力も抑止力もないとするなら、これ に対抗する手段は、日本国憲法前文の求める積極的平和への努力しかありえない。  しかし、残念ながらこの努力はこれまでのところ必ずしも十分ではなかった。た とえばアフガンの1人当たりGDPは227ドル、平均寿命46歳、識字率23% (いずれも概数)。私たちは、この100倍の1人当たりGDPをもち、2倍近く の寿命を享受しているにもかかわらず、彼らが「恐怖と欠乏から免れる」(憲法前 文)ための開発援助にはそれほど熱心ではなかった。
 アフガンだけでなく、不公正なグローバル化とともに貧困や差別のような構造的 暴力は、世界中に拡大している。途上国の人々は、先進国のつくりだした構造的暴 力により、そっと優しく文明的に、日々真綿で首を絞められるように、攻撃されて いる。耐えきれなくなって、反文明テロに走る人が出ても不思議ではない。
 私のフィールドであるネパールでも、生活水準はアフガンと大差ない。にもかか わらずグローバル化の波はこのヒマラヤの奥地にまで押し寄せ、格差を急拡大させ、 緊張を高め、とうとう6月には王族殺害テロまで引き起こすことになった。中国・ インド・パキスタンの緩衝地帯であるネパールがこれ以上混乱すれば、世界の危険 地帯・南アジアはいよいよ不安定化し、世界の安全は大きく損なわれることになる。 ここでも構造的暴力との闘いは喫緊の課題なのである。
 構造的暴力との闘いは、古典的な軍隊による戦争ほど華々しくも勇ましくもない が、しかし、21世紀における平和への道は、おそらくこれしかないであろう。グ ローバル化のもとでは、一切の戦争と戦力の放棄を定めた憲法第9条は、理想では なく、もっとも現実的な選択である。戦争放棄に聖人君子の高尚な理念はいらない。 私たちは、冷静な損得計算により戦争放棄を選択し、その代償として憲法前文の求 める構造的暴力との闘いのためのコストを払う。  9条の代償としての開発協力――とりあえずは、これでよいのだと思う。                                (2001.10.13)