時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2003年a (→Index

030326 平和「声明」を広めよう!
030316d ブダニルカンタ校
030316c 自由選挙の難しさ
030316b UMLの二股膏薬
030316a ロータリーから信号へ
030315 365日銀行
030312b 左翼大連合発足
030312a 平和声明配布しました
030311b 先進国は怒るでしょうね
030311a 平和構築を求める声明を配布します
030310 両刃の剣の知的所有権
030309 平和貢献としての食糧援助
030308b 戦災民への食糧援助
030308a 憂鬱の春
030304 朝日のマオイスト会見
030214 バブラム首相?
030131 ネオ・パンチャヤト
030130 憲法制定会議開催なるか
030117 国家テロ
030118 信号:うれしいやら悲しいやら
030117 テロルにおびえる人民
030107 66%でした
030102 Re:Re: 識字率60%?
021229 識字率60%?


030326 平和「声明」を広めよう!

この協会HPにネパールの平和構築を求める「声明」が掲載されている。

ネパールでは、人民戦争が停戦になり、和平交渉が始まったが、期待されたほどは進展していない。下手をすると、前回と同じく停戦破棄、戦闘再開ということになりかねない。そうならないように、私たちも、平和を訴え、ネパールの人々の平和実現への努力を側面から応援したいと思う。

協会の「声明」は、そのような私たちの平和への願いを簡潔に代弁している。「声明」は広く流布すればするほど効果が大きくなる。このHPの「声明」をコピーし、メールやチラシで配布することは、誰にでもできる和平応援の効果的な方法の一つだ。自分のHPへの転載も、協会は大歓迎されるに違いない。(「声明」の転載禁止は考えられない。)

協会の平和「声明」を皆でコピーし、広めよう!

「声明」をコピーして作成したHPの実例(クリック)


030316d  ブダニルカンタ校

3月14日,郊外にあるブダニルカンタ校を見学した。山麓の広大な敷地に美しい校舎が配置され,塵一つなく清掃管理されている。プールに清潔な無料診療所、舎監付きの学生寮、全学生が寮に住み,約3割が学費免除。授業をのぞいてみると,各種測定機器を使用し,授業をしている。

生徒は全国から選抜される。丁度これから教員が各地に出張し、入学試験を実施する。競争は厳しく,したがって皆相当優秀らしく,多くの卒業生が奨学金を取り海外の大学へ進学している(昨年度の日本政府留学生は1人だった)。

こんな整備された学校なら日本から留学してもよいし、教育学部生の実習先にしてもよい。事実,マレーシアから教育実習生が来ていた。

それから興味深かったのは、設立支援したイギリスの政策だろうが,入学生は全員苗字の使用を禁止される。学生番号とファーストネーム,たとえば123番サパナが、学校での名前になる。だれも他人の苗字を知らない。

立派な教育哲学だ。王族も多数学ばれたそうだが,やはり同じ扱いだったのだろうか? 

ケシカランとお怒りの向きもあろうが,エリート教育は美しい・・・・残念ながら。


030316c  自由選挙の難しさ

和平交渉ではいくつかの選挙が問題になる。憲法制定会議を開くのであれば代表をどう選出するか。現行憲法なら、マオイストが選挙に同意するか。

いま自由選挙をやって一番有利なのは地方組織の強いUML、ついで分裂しているNC。小選挙区制だから、まともにやってマオイストには勝ち目はない。比例制に変えても、それほど多くは望めまい。こんな負けるに決まっている選挙にマオイストがすんなり同意するとは思えない。

自由選挙が無理だとすれば、水面下の交渉で暫定政府や憲法制定会議のメンバーをきめ、権力の分配を選挙に関係なくあらかた決めてしまう事が必要になる。この非公式交渉は、国王の独壇場。諸政党はあれこれ文句を言いながらも、結局は国王会見を望み、誰が誰よりも30分長かったとかいって、一喜一憂している。国王に一番依存しているのは既成政党だ。国王のご聖断がなければ、何も決められない。国王は「われわれ人民」であり、ナショナリズムの体現者なのだ。

だからこそ和平は「ナショナリズム」に基づき交渉する事になった。つまり、NCでもUMLでもなく、国王がマオイストと交渉するのだ。

マオイストは既成政党のように国王依存ではない。実力を持っているからだ。が、惜しい事に、まだ自由選挙では勝てない。そこで、国王を利用してとりあえず版図を確保する作戦に出ているようだ。水面下交渉かパンチャヤット型選挙で権力に参加し、体制内化すれば、じょじょに自由選挙に移行するのではないだろうか?


030316b  UMLの二股膏薬

統一共産党(UML)の二股膏薬はひどい。UMLは、喧嘩別れしたマイナリ氏の左翼11党連合に参加表明しマオイストとの連携を宣言した翌日、今度はNCとの共闘を発表した。国王=左翼11党連合が成立しても、NCが巻き返しても、UMLはちゃっかり権力の中枢に入るという作戦らしい。こんなNC=UML共闘ができるのなら、人民戦争なんかとっくの昔に解決できていたはずだ。

UMLの無定見を見透かしたかのように、国王政府とマオイストは3月13日、和平のための22項目に合意した。マオイストは、交渉相手を「国家」から「政府」に変えたが、同じこと。マオイストはチャンド内閣は相手にしないといいながら、プン大臣と交渉している。つまり、プン大臣は、事実上の国王側代表なのだ。

この和平枠組みは米英印(そして日本)が認めているらしいから、NC=UMLが反和平闘争を激化させなければ、これにより和平実現となる可能性が高い。

だが、あまりにも露骨な毛沢東主義君主制だと西側諸国やインドがイヤな顔をするので、NCやUML、つまり議会も入っています、という形にするのではないか? 近日中に国王がインドに行って許可を得てくれば、おそらくそうなるだろう。

しかし、政党外しが露骨すぎると、今度はNC過激派とUML過激派が「議会」のための民主主義戦争を始める恐れがある。3月13日、NC過激派が、TUキルティプール校の図書館を襲撃し、破壊し、封鎖した。ネパールでは、マオイストだけが過激派ではないのだ。


030316a  ロータリーから信号へ

カトマンズでは、ロータリーが次々に撤去され、信号に置き換えられている。タメル入り口の文部省前も信号になった(施工は大林組らしい)。これは文化的激変だ。

ネパールの伝統的交通規制は慣習法だった。ネパールに行くたびに感動をもって体験したが、狭い交差点で車が角突き合わせ動かなくなったとき、「これはどうにもならん」と絶望的になったものだが、ネパール人たちは先へ先へと車を進めながらも、しばらくすると、何となしに動き出し、そのうちに通過できている。なぜか?それは、明文的な規則はないかわりに、彼らの間に暗黙の交通ルールが出来ているからだ。相手の動きを見ながら、自主的に最低限の自己規制をし、渋滞の解除を図る。

これはロータリーの精神だ。交差点にロータリーを置くことにより、運転者が相互の動きを自主的に判断しながら、事故がないように、運転することが期待されている。どこが発祥地か知らないが、自発性と慣習法の国イギリスではないか。もしイギリスだとすると、ネパールにロータリーが多かったのはよく理解できる。

ところが、昨年ころから、そのロータリーが撤去されはじめた。なぜか? 公式の説明は、おそらく交通量が増え、ロータリーでは捌き切れなくなったからだ、ということだろう。本当だろうか? どうも、それだけではないような気がする。

一つには、ロータリーを機能させていた自生的秩序(無秩序の秩序)が衰退した事。相手がどう動くかが予測できるからこそ、ロータリーは機能する。ところが、相手が見知らぬ他人になると、行動の予測が出来ない。当然、事故(衝突)が起こる。昨日も、ネパール人が「走って」車を避けようとして、別の車にはねられるのを目撃した。運転者にとって、そんな行動はここでは予測できなかったのだ。こうした事故を防ぐには、人間関係に依存しない非人格的な客観的ルールを人為的に作って万人にこれを守らせる以外に方法はないということになったようだ。

もちろん、痛い目にあって学べば、そのうち秩序が出来てくるだろうが、状況はそんな悠長な事を許さない。車と流入人口の急増に自生的秩序形成が追いつかない。そこで、一見明白な信号を設置して、万人にこれを守らせよう、という事のようだ。

ロータリーは人格関係だから、ぎりぎりのところでは強者(こわそうな者)が優先通行する。不公平といえば不公平だ。これに対し、信号は人格関係ではなく万人に公平にみえる。が、実はそうではない。信号無視の歩行者がひき殺されれば、絶対的に歩行者の方が悪い事になってしまうのだ。

信号は弱者保護のように見えて、実は信号をつくり強制している強者の利益を守っている。信号がないところでひき殺せば、運転者が多かれ少なかれ非難される。ところが、信号があるところでは、車が信号を守っておれば、車の方が正しい。とくにネパールは大変な権威社会だ。いったん信号や他の交通規制が権威をもって定められたら、規則無視の歩行者をひき殺しても、運転者は免責されてしまう恐れが大いにある。

信号導入で、車速が上がる事もあいまって、交通事故は残念ながら増加するように思う。これからは、ネパールに行ったら、くれぐれも日本以上に信号を守るよう、ご用心されたい。

<交通規制を遵守するネパール人>
(1)ヘルメット着用=バイクに乗る際、ヘルメット着用が義務づけられると、あっというまに着用率ほぼ100%になった。これは、世界的にも希有な事だという記事が出ていた(どの新聞か失念)。

(2)シートベルト着用も最近義務づけられた。これも、結構速く浸透している。ネパールでタクシーの助手席に乗ったら、シートベルトを締めよう。シートベルトをせず事故で怪我をしても、それはあなたが悪いという事になりかねない。ご用心ください。


030315  365日銀行

昨年、警備員つき「無人現金払出し機」が登場したのに続き、今度はとうとう年中無給の365日銀行が出現した(以前からあったかもしれないが、今回初めて気付いた)。

カード式公衆電話があちこちに出来ているし、ロータリーを撤去して信号が設置された。後発国の技術的優位。しがらみがないから、変化は目が回るほど速い。ネパール人が日本に来て、「なんだネパールより遅れているじゃないか」と感じるのも、もうすぐだ。僕自身、以前イギリスに行ったとき、旧式の設備を見て、「イギリスはまだこんなものを使っているのか」と妙な優越感を感じたものだ。

365日銀行、ケイタイ電話、インターネット、ファーストフード。部分的には、すでに日本より進んでいる。この「合理化」「自由化」の動きは、もう止められないだろう。そして、それは強力な文化破壊力を持つ。

365日働くとすると、伝統的宗教行事はどうなるのだろう。1社が抜け駆けで始めたら、すぐ他社も追随し、いつもお祭りの、あの古き良き伝統はすたれ、いずれネパール人は日本人以上の働き蜂なるだろう。

365日銀行に入ると、空気がまったく違う。以前のネパールのオフィスは、どこに行っても、有り余る時間を持て余していた。時間はふんだんにある。職員もお客も、およそ時間を気にする様子はなかった。

ところが、365日銀行は合理化され、無駄な時間はなくなった。365日、1日の無駄もなく働くだけでない。職員も無駄なく働いている。両替を頼んだときのことだ。旅行者と見て、わざわざ少額紙幣にしてくれ、しかも少額紙幣だから数えるのに少し時間がかかったのを気にしたらしく、札束を渡してくれるとき、なんと、「待たせてごめんなさい」と言ってくれたのだ!

ネパールで、こんな言葉を聞こうとは、夢にも思わなかった。感動する一方、ネパールもとうとう「時は金なり」の某国拝金哲学に毒されはじめたのか、とひどく落胆もした。


030312b. 左翼大連合発足

新聞でも報じられたが、左翼11政党が統一行動に合意した。UML,ML、Unity Centre 等に、なんとマオイストも参加。これは大変だ。

国王=マオイスト連合がなれば政党外しは明白。これはならじと、UMLが巻き返したのだろう。仕掛人はC.P.マイナリ氏。マイナリ氏はUMLとけんか別れしているはずなのに、K=M連合の脅威を前に、やむなく仲直りか。

またマオイストとUMLは、もともと支持層が重なっており、上層部が仲直りすれば、両者の共闘は可能だ。

左翼11党は、チャンド政府とは交渉せず、「国家state」を相手にするといっている。「国家」とは、つまり国王のこと。であれば、これは国王=左翼連合であり、露骨なNC外し。国王は、1昨日の会見でも、UMLのネパール氏とは1時間以上も会ったのに、ギリジャ氏とは30分だけだったそうだ。(マイナリ氏とは、数時間会見したという。)

国王は、K=Mで行きたいのだろうが、ちょっと差し障りがあるので、UMLを含む左翼11党と組むことにしたのではないだろうか?

ネパール政府がマオイストへ供与する食糧のdonor communityとは、米英印(そして日本)のようだ。ということは、米英印(そして日本)が国王に対し、マオイストと手を打ってもよいというシグナルを送ったということになる。

とすると、国王=左翼11党連合による平和実現の可能性が高くなる。問題は、外されてしまうNCがどう出るかだ。大勢力だから、すんなりとはいかないだろう。


030312a 平和声明配布しました

ネパール・ジャーナリスト協会主催の平和構築セミナー(オーキッド・ホテル、3月12日)に出席し、このHPの平和声明(英文)を50枚ばかり配布した。

出席者は、T.N.シュレスタ会長、N.アチャルヤ氏、C.B.シュレシタ氏(警察庁)、スシル・ピャクレル氏 (人権委員会)など、約50名(大半がジャーナリスト)。

議論の中で、和平実現には第3者機関が必要であり、国連がよいが、ちょっと難しいので、北欧諸国が最も可能性が高いということになった。北欧諸国への信頼は極めて高い。アメリカやインドが仲介しても決してうまく行かない。日本は「政治的ではない」と<お褒めの言葉>をいただいたが、仲介役の話になると、一切言及されなかった。さびしい限りだ。

北欧諸国の外交は、憲法遵守の日本政府が平和貢献を進める際のモデルだ。対話交渉による平和構築が必要なとき、まず声をかけられるような国になりたいものだ。

ネパール協会の平和声明が、これからどう利用されるかはわからない。すでにHPに掲載し、世界に向けて宣言したのだから、どの勢力に、どう利用されても仕方ない。どの勢力にも利用されない(完全に非政治的な) 声明なんか無意味だ。

ネパール協会の平和声明を政治的に大いに利用して、平和を早く再建してほしいと願っている。


030311b  先進国は怒るでしょうね

中村さんのような良心的なソフト開発者に怒られるとつらいのですが、MSのような悪どい商法は、特にネパールなんかに居ると、許せない。またちょっと変えただけのオフィスを出すそうじゃないですか。新バージョンで作成した文書は旧バージョンで読めるのかな? リナックスよ頑張れ!

知的所有権で特に問題になるのが、伝統的知識や遺伝情報です。ネパールはこの両者の宝庫。放っておくと、これを先進国が勝手に使い、次々にパテント化しかねない。エイズ治療薬の件で、インドが怒りまくっているでしょう。アメリカの会社が治療薬を作り、アフリカのエイズ患者に売りつけ、大もうけしようとした。さすがに、この件では安価にコピー薬を作れるインドの主張が通り、かなりやすくなったはず。エイズ患者が急増し、人口減で国が滅びかけているのに、「コピーは許さん」はないでしょう。

ネパールが重要なのは、マラリア。地球温暖化で、長崎なんか真冬にも蚊がいる。マラリヤは、世界中の製薬会社がねらっている、次の超大型新薬。どうして作るか? ネパールには、マラリヤに免疫を持つタルーをはじめ多くの民族がいる。その人たちの「血」をサンプルとして集め、分析し、マラリア免疫遺伝子を探し、これをもとに新薬を作のだ。

巧妙なことに、遺伝子はその人、あるいは民族の「財産」ではなく、人類の共有財産と先進諸国は主張する。遺伝子分析なんかできっこない人々は、「血を頂戴」といわれても、拒否しにくいのだ。自分の「血」ですら、自分のものではないから。「血」を集めた先進諸国は、それを分析し、遺伝子構造を解明し、つまり「血」を「知」にかえ、「僕が読んだのだから、僕のものだ」といって登録し、知的所有権を主張する。すでに出始めているが、将来、今の薬が効かない新型マラリヤが発生し、まずネパールなどで流行しはじめたとき、先進諸国の製薬独占企業は、きっと高価で新薬を売りつけることになるだろう。

WIPOは、もっと途上国の立場に立って、知的所有権の範囲を検討しなければならない。そうしないと、先進国は、我利我利亡者の「吸血鬼」になってしまう。「インファームド・コンセント」があればよいという人がいるが、それがいかに非現実的かは、このHPをご覧になる人はとっくにご存知の通りだ。

コンピュータソフトについては、そこまでは言えないだろうが、ソフトが巨大化していけばいくほど、状況は遺伝子と似てくる。生物コンピュータ、遺伝子コンピュータもそう遠くない未来に実現するのではないでしょうか。


030311a  平和構築を求める声明を配布します

拙論は、あまりに拙いので、3月9日採択の「平和構築を求める声明」を配布します。

明日、某ホテルで、どの勢力か知らないが、平和構築に関するセミナーを開催する。そこに、ジャーナリストがくるそうだから、これからこのHPの英文声明を印刷し、出席者に配布する予定。

まだ協会が正式に宣言したわけではないが、協会が公開セミナーに提出し、そこで採択されたのだから、配布してもよいでしょう。

何でも政治性を持つお国柄だから、声明がどう受け取られるかはわからない。が、日本の人々がネパールの平和を願っている、という声明の真意は十分に伝わるのではないかと思います。


030310  両刃の剣の知的所有権

ネパールでも知的所有権が人々の関心を引くようになった(スポットライト3/7)。

たしかにカトマンズではまだ出所の怪しい本、CD、テープなどが結構店に並んでいる。これはけしからん、ということで、昨年、新しい知的所有権法が制定され、今年から細則を定めて施行され、著作権登記所も新設されるらしい。

しかしネパールにとって、知的財産の法的保護は両刃の剣だ。知的所有権によりネパール人の知的創造物が保護される反面、先進諸国のそれも保護しなければならない。グローバルな観点からいって、これは圧倒的にネパールにとって不利だ。

先進国による途上国支配の手段は、いまや軍隊と工業製品ではなく、ソフトウェア、つまりは「知」だ。本来普遍性を持つ「知」を、「知的財産」として囲い込み、金を払わなければ使わせない。しかも、保護される「知」は先進国にとって都合のよいパテントにしうる「知」のみだ。

途上国の人々が持っているパテント化できないような「知」は、決して近代知に劣るわけでないのに、保護されない。それどころか、場合によっては、ありがたくも「人類の共有財産」に祭り上げられ、その知を持つ当の人々のものでさえなく「人類」のものだとされ、先進国によって使い放題にされる。まさしく知的搾取だ。先進国は自分たちの「知」の使用料を途上国から取るのに、途上国は、自分たちの「知」を取り上げられ、勝手に無料で使われ、しかも途上国の「知」にちょっと細工をしパテント化したものにまで使用料を取られる。

僕がネパール人なら、知的所有権なんか当分認めず、知は普遍性を本質とし、万人の共有物だという正論を唱える。そして、コンピュータソフトから、テレビ、本、衣料まですべてコピーしまくり、破格値で世界中に売りまくる。

2月末、カトマンズで知的所有権保護の推進を目的とした大会が開かれたそうだが、その主催者は WIPO (World Intellectual Property Rights Organization)、協賛者はネパール文化省、ネパール著作権保護協会、そして日本著作権事務所(JCO)だった。

ネパールは、先進諸国の老獪な途上国支配戦略に引っかからないように用心した方がよいと思う。


030309  平和貢献としての食糧援助

「平和ぼけ」で、大甘だった。用心しないと、日本の援助食糧はマオイストとの政治取り引きの材料として利用される恐れがある。

「プン大臣が明らかにしたところによると、donor community(供与者組織?)は1500トンの食料をマオイストに与えると約束し、政府がそれを徴発を止めてくれた見返りにマオイスト地方活動家に供与することになる」(スペースタイム3/9)。

もちろん日本政府の「内乱被災民緊急食料供与」プロジェクトは、「中西部」9郡の被災離村民に非常食を送るものであり、それ自体、必要で望ましい援助だ。平和憲法を堅持し、前文にうたう積極的平和への貢献義務を果たそうとする日本政府のこの食糧緊急援助政策を全面的に支持する。

が、難しいのは、この食糧援助の実行だ。紛争地では食料は武器だ。報道によれば、ネパール政府は、マオイストとの取り引き材料にするといっている。日本政府は被災民への緊急援助と考えている。大変な違いだ。日本政府は、援助非常食をどのような方法で被災民に分配するつもりであろうか。これは、かなり厄介な仕事だ。新聞記事からは、そこのところはまったくわからない。

状況から考えて、日本援助の非常食がマオイストに流れる恐れは大いにある。しかし、たとえそうだとしても、人民戦争被災民への緊急援助という立場を明らかにし、被災民へ届けるための最大限の努力をした上で、この食糧援助は、ぜひとも実行してほしい。「恐怖と欠乏」におびえる戦争被災者がそこに間違いなくいるからだ。

これは、憲法遵守の日本政府が世界に誇りうる平和貢献の、小さいが貴重な実践モデルになると思う。


030308b 戦災民への食糧援助

日本政府が人民戦争被災民への食糧援助を決めたことを、カトマンズポスト(3月8日)が好意的に報道している。

援助されるのは、水を加えただけで食べられる非常食36トンと輸送費8万ドル。食料は36万食に相当し、「中西部」を中心に分配される。

提供するのは日本の地方自治体であり、外交推進協会(Society for Promotion of Diplomacy)が仲介する。

これは、今のネパールにとってもっとも必要な緊急援助であり、平和実現を願う日本政府の立場をすべての人の賛成を得られる形で示す効果的な方法だ。某国のような武器援助よりも、この食糧援助はネパールの人々の強い共感を呼び起こすはずだ。それにしても、なぜこんなに重要な平和メッセージが、2面の地方版の片隅にしか載らないのか?

それともう一つ心配なのは、援助食品の質だ。援助食品は、地方自治体が非常用に備蓄していたものらしい。くれぐれも古くなった食品の在庫処分にならないように用心してほしい。かつてコスタリカ難民キャンプへの支援食品が期限切れであったため、問題になったことがある。まさか、とおもうが、よくチェックしてから心を込めて送りたいものだ。


030308a  憂鬱の春

昨日、半年ぶりにカトマンズに来た。菜の花の彼方にヒマラヤが浮かび、町は早春の花々が満開だ。空気は排ガス規制のおかげで見違えるほど良くなり(大阪くらい?)、高原特有の涼風が心地よい。

が、街全体のこの陰鬱な雰囲気はいったいなぜだろう? 総じて街には活気がなく、不機嫌そうに押し黙って急ぎ足で歩いている人が多い。あの陽気なネパール人はどこへ行ったのか?

王宮前はさびれ、観光シーズンだとういのに、シャッターを閉めた店もある。客引きをする元気も感じられない。こんな変なカトマンズは初めてだ。

街にはたしかに平和が戻った。警備の兵隊や警官も少なくなり、ピリピリした停戦以前の緊張感は今はない。

それなのに、この生気の無さはなぜだろう。長期の内戦で人心が変わってしまったのだろうか。それとも、大地には花咲き乱れる喜びの春が訪れようとも、人間界の停戦は所詮小春日和にしか過ぎないと人々が諦めてしまっているからだろうか?


030304 朝日のマオイスト会見

朝日新聞の竹内記者が、マオイストNO.4とされるマハラ氏と単独会見した(3月4日付)。

君主制を容認し、そのかわり国軍にマオイスト軍を統合する方針という。

これは実に興味深い。5千〜1万のゲリラ兵も国軍雇用となれば文句はないはずだ。過去は免責され、生活は安定する。

そして、国王軍とマオイスト軍を、国王とM派幹部が共同指揮する。「勇敢な」国王と、勇敢そのものの「プラチャンダ」議長の共同統治だ。毛沢東主義君主制(ネオ・パンチャヤト)が成立するかもしれない。

はじき飛ばされる「政党」がどうでるか? あせって応援団に駆け込むようだと、この「和平」は頓挫する。その可能性も高い。


030214 バブラム首相?

ネパリタイムズ131によれば、政党は国王=マオイストによる政党外しに危機感を強めているそうだ。マオイストと「話ができる」ナラヤン・プン氏の大臣任命は、国王=マオイスト連合を強く予期させた。「政党」が南の応援団と一緒になって介入しなければ、あるいは介入できなければ、前述の通り、めでたく国王=マオイスト連立がなり、バブラム政権が成立、またまた世界は感嘆の声を上げるだろう。

そうなれば、現行の小選挙区制は維持できないだろう。マオイストにとっては、ネオ・パンチャヤトが理想だが、世間の目が気になるから、やはり選挙はやらざるを得ない。とすれば、大政党の牙城、小選挙区制を廃止し、マオイスト候補でも当選できる制度に改めねばならない。王制はマオイストにとって必要だから、本気で倒す気はないだろう。

もしこんな夢のような大連合が無理だとすれば、CK・ラル氏の言うように、MK・ネパール氏が首相になり、再度、赤旗が翻る可能性が高い。が、この旗はピンク気味だから、もう世界はこれには驚かないだろう。


030131 ネオ・パンチャヤト

停戦合意はまだ確認されていないが、そもそも国王とマオイストはともに「政党」嫌いという点では共通している。名目上のイデオロギーさえカッコに入れてしまえば、両者は仲良く共存できる。

国王は、地方選挙を早期実施の腹づもりだ。これには、意図的かどうか分からぬが何度か国王に権力奪取の絶好の口実(10月政変など)を与えたデウバ氏の功績が大きい。デウバ氏は、統一共産党の牙城、地方議会を解散してしまい、地方はすでに非公然パンチャヤト制だ。国王は、世界に冠たる「ネパール型民主主義」を復活させ、「非政党制」選挙の実施により、地方のネオ・パンチャヤト制を公認させるつもりだろう。マオイストさえ協力すれば、これは実現の可能大だ。

マオイストにとっても、ネオ・パンチャヤト制は魅力的だ。「政党」が禁止されてしまえば、根拠地はマオイスト型パンチャヤト制統治の天国。そうなれば、国王と毛沢東の肖像があちこちに並んで掲げられることになろう。めでたい。

が、世界最大の「民主国」で「政党」の本家の隣国が、これを容認するかが問題だ。

1990年体制は、NC−国王−UMLの3極構造だった。21世紀に入って、これが政党(NC、UML他)−国王−マオイストに大きく構造転換しようとしている。これが定着すれば、90年憲法体制は終わり、この新3極構造を追認する新憲法が制定されるだろう。

カギはやはりビッグ・ブラザー。かれがどの極を応援するかで、対立構造の大枠が決まる。世界最大民主国の名にかけて、「政党」を応援すれば、国王=マオイスト連合の夢が正夢になるかもしれない。あるいは、魂に目覚め、「世界唯一のヒンズー国家」のビシュヌ神の化身たる「国王」を守ろうとするなら、政党=マオイストの世俗連合がなるだろう。

とはいえ、1980年代末以降のグローバル化がネパール社会の構造を大きく変えてきたため、上記のような古典的な権力ゲームがこれからも進行するかどうかは分からない。そこが難しい。


030130 憲法制定会議開催なるか

停戦合意は本当らしい。プラチャンダ議長が国王と会う(会った)という噂もある。どんな形にせよ、悲惨な内戦は一刻も早くやめて欲しい。

が、これで解決となるかどうか。上層部がやめたがっていることはたしかだろうが、人民戦争でそれなりの戦果を上げてきた実戦部隊が納得するか。イデオロギー教育の成果が上がり、「人民」が目覚めているとすると、リーダーたちが、用済みの「人民」を見捨て、体制内に入りたいと思っても、すんなりとはいかないだろう。

それとも、地域分割(割拠)で手打ちがなったか。根拠地の黙認だ。

あるいはマオイストも参加したネオ・パンチャヤット制もあり得ない話しではない。国王は地方選挙を非政党制で実施するつもりだ。マオイストがこれを容認すれば、ネオ・パンチャヤット制に近くなる。旧パンチャヤット制の時も国王と共産党(の一部)は大変親密だった。

いずれにせよ、当面の課題は憲法制定会議の開催がなるかどうかだろう。注視していたい。


030117 国家テロ

ネパリタイムズ(126)が「経済・社会開発センター(CESOD)」の全国調査報告の抜粋を掲載している。(調査実施:2002.2−7)それによると−−

●村の現状は?
   恐ろしい(Terrifying)・・・・男 70%、 女 67%
●恐ろしいのは
   マオイスト26.4%、政府機関4.8%、両方60.2%
●人民戦争参加理由
   貧困・失業27%、行政の無責任19%、差別16%

CESOD調査でこの結果だ。「恐ろしいのは両方」60.2%をどう読むか難しいが、全体としてみると、政府はあまり信用されておらず、むしろ予想以上にマオイスト支持が広がっているように思われる。


030118 信号:うれしいやら悲しいやら

信号(ルール)は強者(車)の手を縛るためにあるのだから、弱者(歩行者)は守らなくてもよい、と考え、実践している。(No.2805参照)

昨日も赤信号を無視して横断していたら、女子学生3人に見とがめられ、「信号を守れ」「決められた規則を守れないような非常識人には教えられたくない」と大変な剣幕で叱られた。買い物帰りの奥様方や下校途中の小学生たちも、「あれで教師?」とあきれ顔。

ひたすら恐縮し、こそこそ逃げ帰った。藤本氏のメールを読むと、そのうちネパールでも「信号(規則)を守れ!」と叱られることになりそうだ。

うれしいやら、悲しいやら。


030117 テロルにおびえる人民

ニューズウィーク(1/13)がテロルにおびえるネパールをレポートしている。それによると――

現在、国土の約40%がマオイスト支配(コントロール)の下にあり、国軍6万はインフラの警備で手一杯。対するに、マオイスト人民軍はゲリラ兵5000人と民兵15,000人。装備も写真を見る限りなかなか立派で、とてもゲリラ兵には見えない。兵力2万とすると、国土の40%支配は本当かもしれない。

ところが、政党政府も評判がよろしくない。つねに政権不安定だし、そもそも軍の統制がとれていない。事実上、治外法権で、レイプ、虐殺、拷問を繰り返している。昨年3月父をマオイストに虐殺されたS.ギャワリ氏でさえ、アメリカの軍事援助を批判し、こう述べたという。

「(軍事援助で)高性能の武器を手に入れたら、軍はもっと多くの無実の人民を殺すことになるだろう。」


030107 66%でした
放浪から戻り手元の資料を見たら、15歳以上の成人識字率は

 男 65.8%  女 35.4% (2000年)
  (UNDP, Nepal Human Development Report 2001)

でした。「高い」は思いこみ。朝日さん、ゴメンナサイ!

ちなみに、CBS, Population Census 2001 では、識字率が年齢別にメチャ詳しく出ているが、6歳児の識字率がどんな意味を持つのかちょっと分かりかねるので、民主化以後教育を受けた 20〜24歳の世代についてみると、「読み書きできる」人の数は

 男 740490人(78.22%) 女 570077人(53.38%) (2001年)

となっている。政党政府の教育行政はすばらしい。
もっとも、CBS(政府統計局)自身がNHDR1998にこんな留保を付けるくらいなので、数字の読みには、少々用心が必要かもしれません。

「アジアの識字率は、(実用識字率に比べ)一般に10〜25%高めに出されている。」


030102 Re:Re: 識字率60%?
年末年始、秘境放浪中のため、「識字率60%?」は印象にすぎません。どこか
の調査の結果でしょうが、・・・・

(1)朝日記事には出典がない。UNDPらしいが、はっきりしない。出典なし数字?
(2)男女平均が問題ではなく、ここでは女性差別を際立たせるための数字。

60%対24%。事実と確認できたら、私自身、大いに利用させていただくつも
りです。


021229 識字率60%?
12月29日付朝日新聞が、「環境救うジェンダーの目」という特集記事でネパールを大きく扱っている。いかにもネパールものらしい記事で結構だが、1カ所、「あれ、本当かな?」と考えさせられるところがあった。

「ネパール人の識字率(00年)は男性が60%、女性が24%」

ネパールの統計はバラバラで、識字率も様々だが、全国識字率で60%という高率は初めて目にした。出典はUNDPらしいが、本当だろうか?


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