時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2003年b (→Index

030827 商品化される生物・ヒト資源――Cancun または Bio-piracy
030821 WTO加盟の得失
030813 アフガン「復興」の教訓
030725b マオイスト放送局開局
030725 傭兵化される日ネ両国軍
030721 人民戦争再開か?
030718 現代版「アヘン戦争」
030715 禁酒と共産党
030704 地雷の恐怖
030626 日本人(?)、危機一髪
030624 中印接近とネパール
030621 痩せ細る国王政府
030614 タパ政権――減退する正統性
030604b タパ氏か
030604 ネパール氏、ネパール首相か?
030601 チャンド首相辞任、なぜ?
030505 議会政党もテロリストに
030502 マオイスト、ついにテロリストに!
030427 議会政党の反「和平交渉」デモ
030421 破綻国家へ
030407 ゴビンダさん支援記事
030329 日本大使も和平支援言明


030827 商品化される生物・ヒト資源――Cancun または Bio-piracy

Q=ネパールのWTO加盟を仕組んだのは誰だろう? A=加盟で儲かる人々。Q=それは誰? A=・・? Q=でも、WTO総会開催地Cancunのcunて、cunningの略でしょう? A=・・?!

ネパール最大の資源が貧困(低開発)であることは公然の秘密だ。NGOを含む開発関連事業を除くと、めぼしい産業は観光関連産業くらいしか残らない。これでは儲からない。もっと他に利用可能な資源はないか?

ネパールが世界に誇れるもの――それは生物とヒトの多様性。従来、これらは物好きな研究者の研究対象ではあっても、金儲け資源ではなかった。が、生命工学(バイオテクノロジー)の発達により、珍しい生物やヒトの遺伝子は、石油以上の潜在的大資源であることに、先進国は気づき始めた。

もちろん、研究と称してこっそり収集し、分析し、新種や新薬をつくってもうけることは可能だし、事実これまでにいくつも実例がある。しかし、こうした山賊的略奪ないし学術帝国主義的搾取は大ぴらにはやれない。生命泥棒(bio-piracy)は文明国の名にそぐわない。もっと上品に、礼儀正しく儲ける方法はないだろうか?

そこで、神の法である「同意」ないし「契約の自由」にお出まし願うことになった。希少生物の遺伝資源は、「原住民」(日本政府公定訳!)の「承認」と、その生物遺伝資源に「主権的権利」をもつ原産国の「同意」をとれば、先進国は公明正大に取得し、分析し、特許をとり、儲けることができる。

ヒトの場合は、本人の同意がいるのでちょっとやっかいだが、本質的には同じだ。すでに生身の人間が労働力として商品化され、自由な売買契約に基づきインドや中東、東南アジアに輸出され、利潤を生んでいるが、これはまだ低レベルの資本主義。高度資本主義社会では、これではあまり儲からない。先進国が欲しいのは、ネパールの諸民族の遺伝情報だ。ヒトの遺伝子は資源であり金になる。

先進国がズル賢いのは、この生物・ヒト遺伝資源の搾取を、二重構造論理によって巧妙に正当化していることだ。WTO関連諸条約により、途上国は生物・ヒト遺伝資源を「人類」の発展・幸福のために提供することを求められ(ヒト遺伝資源は「人類の遺産」!)、提供への「同意」により晴れて先進バイオ文明社会への参加を認められる。これは強制ではなく、任意の「同意」によるバイオ文明社会のルールの受諾である。ところが、参加しメンバーになってみたものの、途上国には遺伝資源を利用する先端技術はない。一方、先端技術の成果である特許は、自分の自由意志で同意したのだから当然、尊重する義務がある。

もちろん途上国の側は、この二重構造論理に気づいており、WTO関連文書に様々な是正措置を書き込ませてきたが、目もくらむような技術・資金格差がある以上、大勢に影響はない。途上国は生命特許尊重義務を自らの自由意志で引き受けたのだ

遺伝資源を途上国は自分では利用できないが、先進国は欲しがっている。とすれば、目先の利く人々がすぐ思いつくのは、これをできるだけ高く売りつけることだ。しかも、提供の条件となっている「事前の情報に基づく同意(prior informed consent)」といっても、こんな最先端情報を途上国の「原住民」(公定訳)が理解できるはずはなく(私自身もほとんど分からない)、しかも多くの場合、途上国の民主主義は未成熟だ。とすると、何が起こるか?

いうまでもなく遺伝資源の利権化であり、地域社会のボスや中央の特権的官僚・政治家がこれを握ることになる。

生身の人間が労働力として売買されるのもつらいが、自分の分身といってもよい自分の遺伝子を利権のタネとされ、売られ、それをつかって特許をとられ、薬などをつくられ、買わされるのはもっと惨めだ。現代の情報化社会では、すでにわれわれの個人情報は官民無数の機関によって収集され、自分の情報といえども利用には金を取られる場合が少なくない。

まさしく自己疎外の完成! そのうちわれわれは、自分の身体も思考も、つまり自分自身を、金を出して外から買わねばならないことになるかもしれない。

「WTOセミナー」(カトマンズ8月23−24日)の声明は、WTOが工場閉鎖、失業、生活苦などをもたらしたと非難しているが、事態は、もっと深刻なのだ(Telegraph, 2 Aug; Nepali Times, No.158)。

ネパールのWTO加盟は、ネパール人だけでなく、人類全体の暗澹たる未来を予告しているように思えてならない。


030821 WTO加盟の得失

     T
ネパールのWTO加盟がほぼ確定した。後発途上国(LDC)では初の快挙らしい。

しかし、貿易障壁を除去し自由貿易の推進を目指すWTOへの加盟は、経済はむろんのこと、文化、社会、政治にも大きな影響を与える。ヒマラヤは、ネパールにとって「障壁」であると同時に「防壁」でもあった。ネパールの経済・社会・政治体制は、誰にとっての「障壁」であり、誰にとっての「防壁」であったのか。WTO加盟による貿易障壁の削減は誰の得になり、誰の損になるか。そこの見極めが大切だ。

     U
グローバル化と経済自由化は、少なくともこれまでのところ、ネパールの大多数の庶民には、生活の悪化と政治紛争の拡大をもたらした。現状では、WTO加盟がこの傾向を加速することは間違いない。WTOは、短期的には伝統産業の衰退や失業が生じても、長期的には利益の方が大きいというが、今日食べられない人々には明日はない。

WTO加盟によりネパールが貿易障壁の削減を急げば、工業はおろか農業ですら、立ちゆかない。

あるいは、経済自由化と対になっている貿易ルール遵守、財産権保護(規制強化!)も、ネパールにとっては要注意だ。先進国にとって、自由化は当然、財産権の不可侵を認めた上での自由化だ。先進国の研究開発した製品を途上国に無断コピーされ、製造販売されてはたまらない。それは特許権、著作権の侵害だから許されない(規制する)というのだ。

先進国がとくに警戒しているのが、知的財産権だ。先進国の貿易は、有体の製品よりも、コンピュータ・ソフトやデザインや製法そのものに比重が移っている。物としての製品よりも、それを作り出す「知識」そのものを財産として所有し、売りつけ、儲けようというのだ。「知識」はもともと普遍的なものであり、いったん公開されれば、「受け売り」は容易だ。しかし、そう簡単に「受け売り」されては、「知識」を発見、発明した先進国は商売にならない。そこで、そうした知識に特許権を与え、「知的財産」として保護し、途上国にも認めさせ、使用する場合には、使用料を取ろうというもくろみだ。もし知的財産権の保護がなければ、マイクロソフトは一瞬にして倒産するだろう。

「知識」を独占し、値札を付け、売りつけて金儲けしようというのは、本来、神をも恐れぬ不遜な所行だが、神の知恵を盗んだ原罪をもつ人間の業だから、ある程度は容認せざるを得ない。しかし、「知的財産権」などという代物はもともと罪であることをわれわれは自覚し、その権利の主張においては謙虚であらねばならない。

たとえば、エイズでアフリカの人々が次々に死亡し、いくつかの国が消滅しかねないようなとき、某超大国は製法特許をたてに安価なコピー薬の使用を禁止しようとした。明らかに権利の乱用である。

同じことが、WTO加盟によりネパールでも起こるおそれがある。ネパールで使用される薬のうちインド製はどのくらいだろうか。想像ではかなり多いと思うが、もしそうだとすると、将来、ネパールの庶民は安価なインド製医薬品を使えなくなるかもしれない。

インドの薬は知的財産権保護制度をもつ国々の薬よりもはるかに安く、なかには1/40くらいのものもある。マレーシアと比べても20〜760%も安い。もしそのインドが経済自由化という名の特許権強化規制に向かえば、インドの医薬品価格は何倍にもなり、貧しいインド・ネパールの人々は使用できなくなる。それでも命には代えられないのやりくり算段して薬を買えば、その儲けの相当部分は特許料として先進国に吸い上げられてしまう。

知識は、貧しい人を救うためでなく、苦しめるために使用される。知的財産権は、長期的に見れば新薬の開発につながり、人類の利益になると説明されるが、今そこで病に苦しんでいる南アジアの多くの人々にとって、それは何の救いにもならない。

     V
WTO加盟は、もちろんデメリットだけではない。10年の猶予期間の間に、国内体制を改め、うまく適応することが出来れば、ネパールにとって利益となることも少なくない。

WTOでは、全加盟国に同一のルールが適用され、小国ネパールも国際的保護が受けられる。1990年革命の直接の引き金は、インドによる1989年の経済封鎖であった。これに対抗するため、ネパールはGATT加盟を試みたが、すでに時遅しであった。今回のWTO加盟により、もしインドが将来、同じようなことをすれば、ネパールは自由貿易ルール違反としてWTOに訴え、有利な解決を期待できる。

また、WTOの説明によれば、途上国の保護主義は不明朗な利権配分による腐敗の温床だが、WTO加盟により透明な国際的自由貿易ルールが適用されるため、法(ルール)の支配が強化され、贈賄などの腐敗の機会がなくなり、良い政府(good governance)が実現される。

     W
ネパールが、WTOの期待通り発展するかどうか、予測は難しい。グローバル化がもはや避けられないのなら、ネパールはWTOへの「適応」の努力をせざるを得ないし、先進国はWTO加盟国の3/4を占める途上国への援助義務を誠実に果たさなければならない。

ネパール政府や先進国がそうした努力を怠れば、マオイストの非難するようなグローバル化の負の効果ばかりが拡大し、体制の維持は困難となるだろう。


030813 アフガン「復興」の教訓

ペシャワール会の中村哲氏が、アフガン復興の現状について報告している(論座2003/9)。外国の軍事介入後の平和再建がいかに難しく問題が大きいかを明快に指摘しており、ネパールの平和について考える場合にも、たいへん参考になる。

(1)地方の実情無視
 アフガンはネパール同様、大半が地方農村社会なのに、西側はカブールの限られた知識層・富裕層とだけ接触し、アフガンを誤認した。
 たとえば、タリバーンの「ブルカ着用令」は西側が飛びついた女性差別というよりは、秩序回復を象徴していた。
 また、アフガンの緊急課題は干魃なのに、援助は教育や女性問題に集中、しかも話題性が無くなるとNGOは早々と撤退、「援助でアフガン人が食いものにされている」という印象を与えた。
 難民は10ドルもらって帰還したものの、大干魃の故郷では生きられず、Uターンしている。

(2)軍閥依存の米軍
 米軍はカブールのカイザル政府を守るのがやっとで、地方は空からの攻撃に依存している。政府は国軍をつくったが、月給30ドルでは首都の自力防衛さえおぼつかない。
 結局、米軍は地方割拠の反タリバーン軍閥に大量の武器と資金を与え、地上作戦を請け負わせた。中村氏は鋭く指摘する。
 「米軍はカイザル政権を擁護しながら、他方で国家統一を阻む地方軍閥を支えるという奇怪な構図になっている。」
 「つまり、米軍がいる限り、カイザル政権は国家統一ができない。」

(3)焼き捨てられた「日の丸」
 中村氏によると、「アフガンでもパキスタンでも『圧倒的多数の反米的な民衆と、一握りの親米的政権』という図式が定着した」という。そして襲撃は、米軍や同盟国だけでなく、NGO、赤十字、国連組織にも向けられ始めた。
 3月のデモでは、「日章旗が英米の国旗と並んで焼き捨てられた」。

――中村氏のアフガン分析は、ネパールにもし外国が軍事介入し力ずくで平和再建をしようとした場合に恐らく起こるであろう事態を、見事に予言している。
 ネパールは幸いなことにまだ、かろうじて正統な国家権力が存在している。権力は自由と人権にとって不可欠だ。支配権力の正当性(正統性への信仰)が無くなってしまえば、ネパールのアフガン化は避けられないだろう。


030725b マオイスト放送局開局

人民共和国のFM放送が近日開局。以前にも小規模なFM局はあったが、今回は極西部の大部分をカバーする強力な放送局で、順次全国展開するそうだ。

まさに1国2制度。国王=政府放送局とマオイスト政府放送局との間で、激しいプロパガンダ合戦が始まりそうだ。


030725 傭兵化される日ネ両国軍

自衛隊の実質的指揮権が、最終的には、小泉首相にではなくブッシュ大統領にあることは明白だが、同じことがネパール王国軍についても起こりつつある。

ネパールは、ゴルカ兵という英国傭兵の長い伝統をもち、ウルトラナショナリストのマオイストを除き、傭兵そのものには抵抗がない。大国傭兵となって独立を維持する――これがネパール・リアリズムだ。時は移り、大英帝国の代わりに米帝国が世界覇権を握った。小国ネパールの生存は、宗主国を変え、米帝傭兵となることにある――おそらくネパール支配層は暗黙裏にこの判断に傾き始めたのだろう。

以前から、アメリカはネパール王国軍に武器援助し、軍事顧問団を送り、軍事教練を指導してきた。反テロ協定も結んだ。そして今度は、15〜20名の軍関係者を送り込むという(nepalnews.com, Jul.27)。

もちろん直接介入は下策だ。日本モデルに習い、間接介入により、王国軍を現地傭兵化するのが上策であり、おそらくそれを目指すのだろう。

しかし、目論み通り、うまくいくのだろうか? アメリカ理想主義(観念論)は、イギリスのような歴史と伝統に裏打ちされたリアリズムを持ち合わせていない。大英帝国のように、戦死者に、永遠の名誉である英国王(女王)勲章を贈り、「死」を荘厳に意味づける芸当も出来ない。米指揮下で戦死した場合、「何のための死か?」との疑念が噴出、傭兵化計画は頓挫するだろう。

では、日本国自衛隊の米軍傭兵化は、なぜこんなにうまく進んでいるのか? それはグルカ兵のように、日の丸傭兵軍がまだ実戦を経験していないからにすぎない。もしこれから自衛隊員がイラクで戦死した場合、その「死」にはどんな意味があるのか? 誰が勲章をくれるのか? 小泉首相か? ブッシュ大統領か?

天皇が勲章をくれるのなら、それは「ある意味」では意味があるが、イラク戦争は天皇のための戦争でも日本防衛のための戦争でもないから、天皇が勲章をくれるはずがない。

それでも米軍傭兵として日本軍がイラクに行くのは、日本がアメリカ以上に拝金主義となり、国民的尊厳を失ってしまったからだ。

アメリカはイラク戦争終結を宣言した。当然、法(国内法・国際法)には、万人が従わなければならない。ところが、あろう事か、お尋ね者に大金を懸け、密告で見つけて爆殺、遺体を全世界の前で晒し者にした。逮捕の努力のかけらもない。Justice=裁判=正義には目もくれなかった。アメリカは、国内法、国際法、道徳法、神法――ありとあらゆる法を全て破った。命そのものを商品化し、値札を付け、買い上げ、利権のために消却(抹殺)したのだ。

そこに、日本軍が行くという。


030721 人民戦争再開か?
マオイストが7月20日、カトマンズ和平交渉事務所を閉鎖し、再び地下に潜った。そして同日夜、約50人のマオイスト兵がスゴーリ税務署を衝撃、武器を奪った。 ――これは、人民戦争再開の前兆ではないか?

人民戦争再開の条件は整ってきた。
(1)半年の停戦で、補給、組織補強ができた。
(2)アメリカの苦戦。イラクがベトナム戦争化しそうなばかりか、イラン、北朝鮮問題も切迫し、とてもネパールまで介入する余力がなくなった。
(3)国王=政府の正統性がいっそう減退し、革命が夢ではなくなってきた。

和平継続か人民戦争再開か? またまたネパールは難しい岐路に立っている。 


030718 現代版「アヘン戦争」

酒については、「ネパールのマルクス」バブラム・バタライ氏も怒っている。

外国資本やその手先の国内資本は、開発や生活必需品の生産には投資せず、手っ取り早く儲かる贅沢品生産に投資している。全投資の80%以上が消費財生産向けであり、その中でもビール、ワイン、タバコ、ソフトドリンク(コーラ、ペプシ)等の比率が高い。
  ビール  1人当たり 1リットル/年
  綿布   3人当たり 1メートル/年
  靴    30人当たり 1足/年
これでは、酒屋打ち壊し、コーラ工場爆破も分からないではない。アメリカ某メーカーの、王宮沿いのバカでかいたばこ宣伝看板はまだ健在だろうか? 自国でできないことを、なぜネパールでするのか?

人民戦争は、マオイストにとっては、現代版「アヘン戦争」かもしれない。 


030715 禁酒と共産党

日本共産党が「自宅外禁酒」通達を出し、アナクロニズムと失笑され、文書無しとして撤回したら、文書が出てきて、撤回説明を撤回して「自主的申し合わせ」との苦し紛れの弁解をした。同情を禁じ得ない。

宗教が民衆のアヘンなら、酒は一般に共産党にとって禁断の媚薬らしい。酒は抗しがたい魅力を持ち、ひとたび手を出すと、理性を失い、革命精神が麻痺、反革命の罠に陥る。酒に手を出すな!

日本共産党ですら「自宅外禁酒」とせざるを得ないのだから、はるかに厳しい状況下のネパール・マオイストが禁酒令を出すのは当然だ。酒なんかにうつつを抜かしていたら、革命は出来ない。禁酒なくして革命なし!

この立派な心がけのマオイストに比べ、別の理由から飲酒規制されているネパール上流階級の道徳的退廃は甚だしい。高級店に並ぶおびただしい輸入洋酒は誰が飲んでいるのか?

禁酒は難しい。それを真面目にやろうとし、酒屋打ち壊しを決行するマオイストを、庶民は畏敬の念をもって見ているに違いない。

しかし、畏敬と恐怖は紙一重。さじ加減が難しい。今の日本では、日本共産党が不用意に禁酒令を出せば、恐怖感を与え庶民の支持を失うが、さりとて赤ら顔で天皇制も自衛隊も日米安保条約も容認する物わかりのよい左党になれば、党の存在意義そのものが失われてしまう。日本共産党にはやはり、当面多少の支持減はあろうとも、禁酒くらいは真面目に唱える物わかりの悪い硬派であってほしい。

日本とはちがい、ヒンズー教国のネパールでは禁酒は最高道徳だから、マオイストの禁酒政策は、本来なら、国家表彰されてもよいくらいだ。禁酒が怖いのは、支配階級の面々が、酒浸りになっているからではないか? 1昨年のあの王族殺害事件も、酒乱が原因と公式発表されている。

禁酒は、マオイストの道徳的優位を示す象徴的政策だ。支配階級が高価な輸入洋酒で国富と理性を失っているとき、国産茶をすすり、人民の解放を真面目に論じ続けるなら、マオイストの道徳的勝利は間違いない。歴史に照らせば、道徳(精神的態度)は、結局は、武器より強い。


030704 地雷の恐怖

K・Dixit氏が対人地雷についてレポートしている(Nepali Times, #150)。

内戦状態(現在停戦中)のネパールでは、政府軍とマオイスト軍がそれぞれ地雷を敷設している。政府軍は基地周辺に約1万発、マオイスト側は個数は不明だが道路付近を中心に相当数仕掛けているらしい。

昨年1年間の地雷犠牲者
  死 者 202人(52人が女性、子供、非戦闘員)
  負傷者 500人(半数は民間人)

地雷は、戦闘員を殺傷する人道的兵器に比べ、無差別に殺さない程度に負傷させる残虐な非人道的兵器。どうしても戦争でしか問題解決できないのなら、それも仕方ないが、少なくとも殺傷は人道的に行うべきだろう。

地雷は人を選ばない。もちろん外国人も。


030626 日本人(?)、危機一髪

Nepalnews.comによれば、6月25日マオイスト攻撃に日本人が巻き込まれたらしい(日本人なのか、日本プロジェクトのネパール人スタッフなのか、詳細はまだ不明)。

ボジプールの学校支援に向かう日本人(?)を運んでいたヘリコプター警備の軍を、マオイストが攻撃、軍がマオイスト兵1名を射殺したという。この攻撃の前の戦闘で、すでに11人のマオイストが殺されている。きわめて危険な状況であった。

このところ再びマオイストと政府との戦闘が増え、毎日のように死者が出ている。外国人にとって気がかりなのは、今回は様相が以前とはかなり異なってきたことだ。

最近、軍が保健、教育、インフラ復興整備などに積極的に関与し始め、これをマオイストが警戒、そして攻撃を始めたのだ。

マオイストは、軍の関与しているヘルス・キャンプ(診療所)のボイコットを住民に呼びかけ、もし診察を受けたら「手足を切り落とすぞ!」と警告しているそうだ。

25日には、カリコットの赤十字職員ら3人が連行されたし、ルクムの小規模水力発電プロジェクトも占拠された。

軍が地方行政の前面に出始め、外国の援助活動は一層危険になってきた。いくら「善意」でも、軍や政府が直接・間接に関与しておれば。スパイ活動(マオイストは強く警告)、反人民的活動として攻撃される可能性が大きくなってきた。


030624 中印接近とネパール

バジパイ印首相が6月22日訪中、中印友好協力関係を強化することになりそうだ(朝日、2003.6.23-24)。アジア2大国の協調は望ましいことだが、喜んでばかりいられないのが小国ネパールの悲しさ。

ネパールは歴史的に中印の緩衝地帯として存立してきた。中印対立が激化すれば(1962年のように)存在価値(独立性)が高まり、緊張緩和すれば存在価値が下がり外交的選択の幅が狭まる。今後、対印協調のため中国がシッキムのインド領有を承認し、ネパールをそれに準ずるインド勢力圏として容認する姿勢を強めれば、ネパールのインド従属は一層顕著になるだろう。

中印の平和は、ネパールでは、NC、ついでUMLに有利である。インドはネパール・ナショナリズムを喜ばず、経済的実利を通してネパールのインド化を図る。そして、そこから利益を得、生長しつつあるネパール・ブルジョアジーは、それを容認するだろう。ナショナリズムの象徴としての国王は邪魔になる。

もう一つのナショナリスト勢力、マオイストはどうか。国王ほど不利ではないが、さりとて有利ともいえない。たしかに対印従属の進行は、ナショナリズム感情を刺激し、貧困などの構造的矛盾をそこに還元する「わかりやすい」マオイスト理論の説得力は増す。しかも同じナショナリストといっても、「彼ら」=王族ではなく、「われら」=人民=マオイストなのだ。

一方、ネパール資本主義化の好機を捉え、NCやUMLがナショナリズムをコントロールしつつ党近代化を進め、「第2次民主主義革命(運動)」により共和制または近代的立憲君主制を樹立すれば、「国王」軍は「国民」軍となる。従来は、国王の軍であったため、国際世論の全面的支援は得られなかった。これが民主的国民軍になれば、中印接近とも相まって国際世論の支持躊躇はなくなり、マオイストは苦境に立たされることになる。

中印接近は、中長期的にみると、ネパール政治の構造に大きな変化をもたらさざるを得ない。パックス・アメリカーナにみられるように、大国の平和が小国の平和とはかぎらない。アジア2大国の平和を小国ネパールの、庶民の平和に結びつけるにはどうすべきか。難しいが、これから先、避けては通れない課題であろう。


030621 痩せ細る国王政府

6月20日、議会派5党とマオイストがそれぞれ反国王デモを行った。写真を見ると両派とも相当の参加者だったようだが、驚いたのは地上に浮上したマオイストの動員力だ。

デモには、 Gyanodaya, Sidhartha Banasthali, Galaxy といった有名校の生徒たちも制服で参加していたという。もはやエスタブリッシュメントの中心部分ですら、形式的にはマオイスト支持に回った(抵抗できなかった)。

KB・マハラ政治局員によれば、マオイストはすでに地方は制圧し、残っているのは中央の国王権力だけだという。昨日のデモをみると、確かにそんな気がする。

王権を支えているのは、もはやアメリカだけかもしれない。マオイストが議会政党と共闘戦術を採れば、王政は明日にでも倒れるだろう。

しかし、今のところ、マオイストにはその戦術を採る気はないようだ。倒そうと思えばいつでも倒せるのに、倒さない。王政を倒したくないのか、それともアメリカの介入を警戒しているのか?

ここは議会政党にとっても考えどころだ。議会政党に、王政を倒したあとの展望があるのだろうか?


030614 タパ政権――減退する正統性

6月5日、SB・タパ氏が首相に任命され、11日タパ内閣が発足したが、この政権の前途は多難だ。チャンド前政権に比べ、正統性が格段に薄弱だからだ。

チャンド前政権は、非常事態宣言下で、しかも議会も存在しないという例外状況において、2002年10月国王勅令により任命された。多くの人は、これを違憲だと非難したが、私は当初から一貫して合憲と主張してきた。国王は立憲君主として例外状況における勅令発布権(憲法127条)を持ち、チャンド内閣はその国王権限により任命されたからである。

チャンド内閣は、停戦を実現(2003.1.29)し、和平交渉を開始(4.27)した。本来なら、この合憲チャンド政権が和平を実現して選挙を実施し、議会政治の常道に戻るべきであった。

ところが、チャンド内閣の目論見は挫折した。その最大の責任は、この期に及んでも党利党略に終始した議会政党にある。議会政党は、議会政治に戻るチャンスを自らつぶしてしまったのだ。

もちろん、議会政党だけの責任ではないかもしれない。2年前の王族殺害(2001.6.1)は大惨事であり、その深い傷を癒すには相当の時間を要する。王族殺害を誰がやったにせよ、事件後の国家統合の維持には「危機」が必要だ。悲しいことに、平和になれば、傷が開き、国の存立が危なくなるおそれがある。

こうした「危機」による権力維持は、ありふれた策略であり、あの超大国アメリカですら、ありもしない「脅威」をでっち上げ、政権延命に利用した。ネパールでも、ひょっとしたら奥深いどこかで諸勢力が暗黙裏に共謀し、「危機」による国民統合を図っている可能性がある。

が、いずれにせよ、少なくとも表向きは、チャンド前政権は、例外状況における危機管理型権力統治から「憲政の常道」への早期復帰を目標にしていたのであり、その限りではギリギリ合憲であり、最低限の正統性は有していた。

ところが、タパ内閣にとっては残念なことに、もはやそのような正統性の根拠はあらかた失われてしまっている。すでに議会解散後1年をすぎ、無議会政治が常態化しつつある。この例外状況が常態化すれば、立憲君主制の正統性は失われる。正統な権利であっても、乱用されれば、正統性はなくなるからだ。

国王=タパ内閣には、残された時間は多くはない。早期に和平を達成し、選挙実施、議会再開が実現できないと、正統性が枯渇し、体制は崩壊するだろう。

一方、議会政党にとっては、選挙延期による国王=タパ内閣の正統性の衰退とともに権力奪取のチャンスが大きくなる。皮肉なことに、議会選挙をさせないことが、議会政党の利益になるのだ。(いま一番選挙を欲しているのは国王だろう。)老獪な議会政治家たちは、表では選挙を叫びながら、裏では、それをねらっているのではないか? たしかに、17世紀イギリスでは、チャールズ1世の無議会政治の後、議会が開かれると、国王糾弾の「長期議会」となり、国王処刑、共和制樹立となった。

ネパールはどうなるか? 現憲法下での憲政復帰か、ネパール「長期議会」革命か、軍事クーデターか、はたまた米印直接介入か。ネパールの国民にとって、最善の選択はどれだろうか?


030604b タパ氏か

今朝の朝日報道では次期首相はネパール氏だが、どうも無理がある。やはりRPPのSB.タパ氏の方が有力だ。

マオイストは憲法制定会議なんて言っているが、本当は選挙なんかしたくないのではないか。小選挙区制でいま選挙をやれば、圧倒的に有利なのはUML、次がNC。マオイストは、まともにやっては勝ち目がない。民主主義選挙で、マオイストは間違いなく負ける。

選挙をせずにマオイストに応分の権力を分配できる人、そんな人物を国王とマオイストは次期首相にする可能性が高い。


030604 ネパール氏、ネパール首相か?

4日付朝日新聞(共同)は「ネパール統一共産党書記長が首相就任へ」と報じているが、スンナリ行くかどうか、まだ分からない。

マオイストとの間に何らかの密約が出来ているのならネパール氏は引き受けるだろうが、そうでなければ、この状況下で首相になるのは危険が大きすぎる。

どうなるか、注視していたい。


030601 チャンド首相辞任、なぜ?

5月30日、チャンド首相が辞任した。朝日新聞は大々的に報道したが、ほぼ予定通りで、辞任自体は大事件ではない。在任中に停戦と和平交渉を実現したのだから立派(彼のイニシアティブがどれだけかは疑問だが)。

次の首相選びで、またまた国王の権威が増しそうだが、初回の謁見者リストにUMLのネパール氏の名がないのが不思議。

今回の首相辞任は、政府(国王)がちょっと頑張りすぎたことが、原因の一つかも知れない。このところ政府はCIAA (権力乱用調査委員会)を使って、NC、UMLなどの大物政治家たちの取調べをやり、失脚させかねない勢いだった。庶民は誰でも政治家達が甘い汁を吸っていることを知っているので、内心ではCIAAの強権発動に反対ではなかっただろう。

政治家達は、これに危機感を持ち、同床異夢の灰色同盟を結成して、「民の下僕」たる「絶対王政」に必死で抵抗し始めたのではないか?

歴史的に、専制はある時期、「清潔」を好む。「清潔」マオイストの対抗勢力は、もっと「清潔」でなければならない。マオイストが灰色になれば別だが、そうでない限り、既成灰色勢力にあまり勝ち目はないのではないだろうか?


030505 会政党もテロリストに

5大政党の反政府集会が4日開催され、数千人が参加。つぎは9〜11日に一連の抗議行動をするらしいが、戦術はいつもの通り。というか、プチ・マオイストという感じ。

集会にコイララ氏と仲良く出席していたMK・ネパール氏が、こう述べたそうだ――

「政府は、平和的に抗議行動をしている人々に、テロリストのラベルを貼るべきではない。」

政府がマオイストからはがしたテロリスト札を、ただちにアメリカがマオイストに貼り直した。これはならじと、政府はとっておきのテロリスト札を(ネパール氏の発言によれば)議会政党に貼り付けるかもしれないのだ。

テロリストの議会政党とテロリストのマオイスト。対立しても手を結んでも、ややこしいこと限りない。密かにほくそ笑む人がいるかもしれないが・・・・。


030502 マオイスト、ついにテロリストに!

マオイストが、ついにアメリカの「テロリスト」リストに載った。

アメリカはこれまで人民戦争については慎重な態度をとってきたが、イラク戦争も終わったので、今度は対テロ戦争の矛先を、ネパールに向けたようだ。叩き潰せそうなところから、次々に「テロの温床」を潰していくつもりらしい

きっと脅しではないだろう。

マオイストは、ネパール人民のために、よく考えて行動し、少々無理でも和平を実現して欲しい。アメリカが本気になったとしたら、これまでのようには行かない。


030427 議会政党の反「和平交渉」デモ

国王、マオイストの2大勢力にバイパスされ、面目丸つぶれの守旧派、議会諸政党が5月3日、反「和平交渉」デモをするそうだ。新聞の扱いは今のところ小さいが、各派の動員力は今後の和平交渉に大きく影響する。各党の集合場所は下記の通り。もしご覧になったら、各派の動員状況をお知らせください。

NC = RNAC
UML = Ratna Park
NWPP = Maitghar
People's Front = Sundhara
NSP = Bhadrakali


030421 破綻国家へ

ネパールの学生暴動はよく分からない。人民戦争はそれなりに統制がとれていて理解可能だが、学生暴動は、政党の手先であるような、ないような、訳が分からない。田畑を売り、借金をし、一族郎党の期待を一身に背負い大学を出ても、職はない。どうしてくれるんだ! 「悪の帝国」は海の彼方。やけくそで八つ当たりし、タイヤを燃やす。主権は人民にあるのだから、「あなたの政府」ですよ! 

マオイストが庶民の不満を引き受けてくれている間は、まだましだ。権威は残存し、不満は組織され統制がとれている。

ところが、マオイストが地上に現れ、体制内化すると、「ウソつき」マオイストとなってしまい、不満の統合者がいなくなる。不満は情緒的に噴出し、ネパールは「破綻国家」になる。

権威はイヤだが、権威消失の「破綻国家」はもっとイヤだ。人民戦争はやめてほしいが、学生暴動の状況を聞くと、和平後が心配になる。

――もっとも、日本も経済的「破綻国家」寸前だから、こっちも危ない。経済破綻、それ「一億火の玉」となる前にどう脱出するか、目下、研究中。


030407 ゴビンダさん支援記事

ネパリタイムス138号が、東京で開催されたゴビンダさん支援集会を取り上げ、「警察と検察がグルになって不法滞在者に無実の罪を着せる場合が多い」という支援弁護士さんらの発言を紹介している。

Manyがどれ位の「多さ」か分からないが、ネパールでこの記事を読む人のmanyは、外国人にとって日本は恐ろしい無法国家だという印象を持つことだろう。

最高裁が「法の番人」の名誉にかけて、こんな「誤解」をキッパリと解いてくれることを期待している。


030329 日本大使も和平支援言明

スポットライト3月21日号の日本特集に神長大使のインタビュー記事が出ている。その中で大使は、和平交渉を歓迎し、平和が実現するようネパール政府を支援するという趣旨の発言をされている。

ネパール協会も平和「声明」を出して頑張っているようなので、日本大使館も平和実現に努力をしていただきたい。

ところで、この日本特集のトップ記事に「日本の援助:付帯条件なしの(ひものつかない)持続的援助」という、なにやらよく分からない見出しが付いている。これまでの外国援助総額52億ドルのうち22億ドルが日本援助だそうだから「ひものつかない寛大さ」と有り難がられるのは当然だが、万が一、金を出すだけのGenerosityと皮肉られているのなら、少し考えなければならない。

その点、ネパール協会の平和「声明」には、やんわりとではあるが、「ひも」がついている。日本政府の場合、内政干渉との関係で難しいところだが、援助においても外交理念としての人権、民主主義、平和をもう少し明確に打ち出した方がよいのではないだろうか?


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