時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2003年C (→Index

031214 桃色拝金メディア
031206 解散違憲訴訟,審理開始
031204 24人戦死,そして地雷原へ
031202 雨天より曇天が危険
031201 情報開示責任
031130 ネパール旅行は自己責任で
031122 「日の丸」を消す――中村哲氏
031118 拷問は許されるか? ――スシュマ氏の正論
031116 軍高官,戦死
031115 中国,介入せず――中国大使
031108 「バッタライはゲッペルスだ」米大使
031106 英国の道義的責任
031102 米系攻撃目標へ:マオイストの新戦略
031030 もう一つのPeople Power
031027 外国介入の真の脅威とは?
031022 ゴビンダ氏上告棄却
031001 TimeのTime-worn記事
030924 朝日の優等生的平和アピール
030920 ミスコンテストの錯誤と倒錯
030913 ネパール肉体政治スタディツアーを石原知事に
030911 2度目は茶番
030908 国王インドラ祭欠席/首都圏連続爆破
030905 市民的抵抗で政治家ら1600人逮捕
030902 【回答】 ネパール政治について、いろいろ
030831 高官攻撃リスト――都市攻撃へシフトか?
030830 国王渡英と停戦破棄
030828 カトマンズ攻撃
030827 停戦破棄!


031214 桃色拝金メディア

愛読中のカンティプールを見たら,いつの間にか,怪しげなオンライン・モデルのページができていた。

美女が肌も露わにベッドに横たわっている。その美女の上が株式欄,下が為替レート欄!

退廃の極み。革命でもやらねば,まともな社会にはならないだろう。


031206 解散違憲訴訟,審理開始

12月4日,最高裁は突然,昨年6月の議会解散を無効とする申し立ての審理を開始した(KTM-P,Dec4)。

議会解散から1年半,首相解任から1年すぎ,国王の無議会政治の正統性は,ほとんど消滅した。この正統性危機を打開しようと,何度か選挙実施の観測気球を上げてみたものの,内戦で選挙実施のめどは立たない。そこで,苦肉の策としての解散違憲訴訟の審理開始だ。

これはうまい手だ。解散違憲,議会復活,首相選出となれば,選挙なしに一気に政府の正統性を回復できる。コイララ派NCの筋書き通りだが,UMLも反対ではなかろうから,国王との手打ちが成り,この急展開となったのだろう。

判決がどうなるか分からないが,たとえこの手で議会回復となっても,いずれ議会選挙は避けられず,マオイスト問題も振り出しに戻るだけだ。注目すべき新展開だが,一件落着とは行きそうにない。


031204 24人戦死,そして地雷原へ

Washington Post=Reuters(Dec3)によれば,この24時間で24人が戦死した。日本の1/3の国土の各地で,24人の死者と多数の負傷者。

さらに恐ろしいのは,Nepali Times(171)が警告している,政府軍とマオイスト軍の地雷作戦の拡大。危ないのは,S.B.パンデ准将を爆殺したマオイストのリモコン地雷よりも,むしろ政府軍の埋設地雷だ。村人が地雷を踏み,死傷している。もちろんマオイストの手製地雷も怖い。圧力鍋爆弾の実物写真が出ているが,こんなものが道端に埋められていては,避けようがない。事実,先日,小学生が下校途中,圧力鍋爆弾で爆死した。

登山と戦争では,危険の質が違う。


031202 雨天より曇天が危険

雨天であれば,外出を控えるか雨具を持参する。曇天時は,雨具なしで出かけると,降雨でさんざんな目に遭い,高山だと死ぬ。外国人にとって,ネパールは曇天。地元の天気を知らない人に,“曇天につき雨具持参”と呼びかけるのは当然だ。

東京も危険だが,われわれには周知の事実(インフォームド・コンセント成立)。だが,車も信号もない小島からの客の場合,旅行社は交通戦争の状況を知らせ,「赤信号では止まりましょう」とあらかじめ警告する(実例あり)。

ネパールは危険な曇天。アメリカ情報には大ウソもあるが,それは理由があるときだ。ネパール情報ではウソをつく理由はなく,“危険だから旅行延期せよ”との警告は,信用できる。日本政府も,交戦に巻き込まれかけた実例をあげ,警告している。私は,圧倒的な情報収集力を持つアメリカの警告を信用する。

しかし,曇天であっても,必要な準備さえあれば,“安全で楽しい旅行”は可能。万が一,降雨にあっても,危険は最大限防止できる。ネパールは,危険だが,準備して行くに値する魅力的な国だ。

繰り返しになるが,情報を持つ側がそれをあらかじめ開示していなければ,自己責任は問えない。自己責任は,顧客よりもむしろ企業側の責任なのだ。誤解なきように!


031201 情報開示責任

ネパール専門家の蓮見さんや藤倉さんのような方々にとって,もちろんこんな呼びかけは釈迦に説法。

しかし,幸か不幸か,ネパールは誰でも手軽に行ける普通の国になり,探検家の聖域ではなくなった。旅行社はネパール専門家でも「ネパール好き」でもない,ごく普通の人々を対象にツアーを組む。当然,対応は変えなければならない。

「立山・剣にスカート,ハイヒールで登らないように!」と注意しなければならないのは,誰でも登れるようになってしまったから。

「自己責任」は当然だが,責任を求めるには,判断材料となる情報の明示が必要。いまでは,リスクの説明無くしてタバコ1本売れない。それが企業の責任であり,インフォームド・コンセントとはそういうことだ。(この点で,蓮見さんの旅行社弁護論は誤りです。)

最も不利な情報を明示する勇気ある旅行社――それこそが信頼に足る良い旅行社なのだ。


031130 ネパール旅行は自己責任で

先般,危惧したとおり(No.3208等参照),イラクで11月30日,日本外交官2名が殺害された。まだ詳細は分からないが,大使館銃撃のあとであり,狙われたと見るべきだろう。日本はいまや英国と並ぶ米同盟国。敵視されて当然だ。

ネパールはイラクとは事情が異なるが,対テロ戦争の最前線であり,米支援の日本が「人民の敵」であることにかわりはない。日本人は別と思うのは,甘えにすぎない。

アメリカはこの現実を直視し,“危険だからネパール旅行は延期せよ”とつよく勧告している(米大使館HP)。私自身は,少々危険でも,ネパール人民が戦乱で苦しんでいるからこそ,出来るだけ多くの人にネパールを訪問し,その実情を直に見ていただきたい,と願っている。しかし,その大前提は,いうまでもなく「自己責任」である。

旅行社は,多数のツアー客を集めるため,危険情報は明示せず「美しいヒマラヤ山麓のトレッキング」「素朴な村人との楽しい交流」と宣伝する。でも,誰も読まない旅行約款を読むと,「戦乱被害は免責」などと,自社の安全だけはちゃんと確保している。ネパール旅行は,内戦の現状を直視し,自己責任の下に最大限情報を集め,計画し,実施したい。他人まかせは危ない。

たとえば,もし仮にこの日本ネパール協会がツアーを後援すれば,多くの人は“ネパール事情に詳しい権威ある協会が後援しているのだから大丈夫に違いない”と安心し,安全確認を怠ることになるかもしれない。しかし,協会だって義理やしがらみで名目的に後援しているだけかもしれないのだ。

ネパールのような内戦国に行くには,それなりの慎重さが必要だ。自分でよく調べ,準備し,そして安全に楽しく旅行をしたいものである。


031122 「日の丸」を消す――中村哲氏

「ペシャワール会(PMS)」の中村哲氏の発言には,いつも実践に裏打ちされた圧倒的な重みと説得力がある(No.3122参照)。11月22日付朝日新聞への寄稿「アフガン復興・軍とセットの援助に反発」も,そうだ。

周知のように,11月2日PMSの用水路建設現場を米軍ヘリが攻撃した。17日,米軍は誤射を認め,代理大使と副司令官が謝罪した(朝日11/21)。中村氏によると,「あの程度の米軍の誤爆は多い」。そのため住民の反発は激化し,治安はこの20年間で最悪という。

さらに悪いことに,援助が軍とセットになっているため,国連も赤十字もNGOもみな攻撃対象になる。軍に攻撃された住民が,援助活動を軍とグルと見て敵視するのは当然だ。

そうした中にあって,「ペシャワール会」は一度も攻撃されていない――米軍からの攻撃を除けば! しかし,中村氏は,日本が米英に同調し海外派兵すれば,アフガンでも反日意識が高まることは避けられないと懸念されている。そこで,・・・・

「すでに私たちは車両から日章旗と『JAPAN』の文字を消し,政府とは無関係だと明言して活動をせざるを得ない状況に至っている」(朝日11/22)

憲法9条の下,営々と築いてきた平和愛好国家日本のイメージは,いまや崩壊寸前だ。「日の丸」と「JAPAN]は,再びアジア民衆の憎悪の的となろうとしている。

イラク派兵,参戦となれば,ネパールでのNGO活動も無関係ではすまない。アメリカは,すでにネパールを対テロ戦争最前線に加えている。日本がイラク戦争に参戦すれば,当然,ネパールでも参戦することになる。そのとき,日本NGOは日本軍とセットになる。もはや,ヒマラヤをバックに無邪気に「日の丸」を振ってはいられなくなるのだ。


031118 拷問は許されるか? ――スシュマ氏の正論

スシュマ・ジョシ「テロリズムによる拷問」(KOL, Oct31)は,短文だが,高水準の興味深い評論だ。彼はいう。

テロのおかげで武器が売れ,戦争が起こり,ハリウッド映画が流行る。おまけに,民主社会の倫理原則まで破壊されようとしている。10月24日ニューヨーク市立大学開催の拷問セミナーを見よ! なんと,テロを避けるための拷問は合法か,が議論されたのだ。

ハーバード大学フレックス・フランクフルター講座アラン・デルショヴィッツ教授は,無実の市民を救うための例外的緊急措置として,情報をもつテロリストを拷問するための「拷問許可書」を出すべきだと主張した。拷問を合法化すれば,手続きは透明化し責任の所在も明らかになり,現にアメリカや世界中で行われている事実上の拷問を削減することができる。

この「有益」な提案には,もちろん多くの反論があった。拷問は法的,道徳的に許されないし,実用的でもない。北アイルランドでのイギリスの拷問は効果がなかったし,米軍マニュアルにも拷問は有効ではないと記されている。

H.シルバゲート弁護士は,もし自分の息子が誘拐・監禁され,他に助ける方法がないのであれば,捉えた誘拐犯から聞き出すため自分は彼を拷問するだろうが,だからといって自分が法的責任を免れるとは考えない,と述べた。民主主義の大原則は,制度(法)の尊重だからだ。拷問の合法化は,反民主主義の悪魔をビンから出すことになる。

アメリカは,テロリズムの妖怪に率先してせっせと生気を吹き込んでいる。おかげで,世界中の庶民がテロの恐怖におびえることになった。そして,庶民はあまり気づいていないが,それよりももっと恐ろしいことが起きている。対テロ世界戦争の中で,法制度順守という民主主義の大原則が失われようとしているのだ。

――スシュマ氏のこの評論は,論点を鋭くついている。ネパール・ジャーナリズムにこのような高水準の評論が掲載されるようになったのは,まことに頼もしいことであり,喜ばしい。

が,いつものくせで,あえて悪魔に魂を売っていえば,スシュマ説はあまりにも正論にすぎる。ハーバード大学法学教授ともあろう人物が,こうした正論を知らずに拷問合法化論を唱えているわけではあるまい。正論を百も承知の上で,正論に挑戦しているはずだ。とすると,シュスマ氏の批判は,正論すぎて,つまり形式論であり,凡百のネパール式議論と同じく,リアリティを欠くことになる。

スシュマ氏の議論は正しいには違いないが,血したたるネパールの現実の中では,為政者たちは,むしろ悪魔をビンから出すようなハーバード大学法学教授の拷問合法化論の方に耳を傾けてしまうような気がしてならない。


031116 軍高官,戦死

15日午後,サガル・パンデ准将が地雷で爆殺された(KtmP. Nov15)。ジープ同乗の妻プシュパさんと兵士2名も死亡。人民戦争戦死者では,最高位の軍人。

パンデ准将は,軍用品製造部門の最高責任者で,この日は軍所有の兵器工場(プラスチック爆弾等製造)の視察中だった。軍当局は,攻撃は無差別だったと説明しているが,何台かのジープの中で准将のジープだけが爆破されたところをみると,リモコン式で正確にねらいを定めて爆破したと考えるべきだ。准将の任務からして,それが自然だ。

現場は,クレカニ水力発電所の近くらしく,プロジェクトへの影響が懸念される。


031115 中国,介入せず――中国大使

新任中国大使スン・ヘピン氏は,11月14日の記者会見で,マオイストを「反政府勢力」と呼び,内政問題だから介入しないと明言した(KOL,Nov14)。アメリカが,マオイストを「テロリスト」と断定,指導者をゲッペルスと罵倒し,「絶対悪」として絶滅しようとするのと,好対照だ。

「反政府勢力」と呼ぶのは,本質的には「陛下の反対党」と同じく「絶対悪」ではなく,「敵」としての存在を認める大人の態度。「政敵」の存在を許容できないアメリカ帝国の非政治的態度とは雲泥の差。さすが4000年の歴史をもつ政治大国だ。

もちろん中国が,ネパール・マオイストを支持しているわけではない。プラチャンダ議長がネパール領内での米軍基地建設を指摘したのに対し,中国大使は「米国自身は否定している」と,これまた大人の返答。立派だ。


031108 「バッタライはゲッペルスだ」米大使

J・ランカスター氏によれば,マリノフスキ大使はマオイストをあからさまに侮蔑し,バブラム・バッタライ人民評議会議長をナチのゲッペルスのようなものだと語ったという(Washington Post, Nov7)。アメリカ人の率直な物言いは大好きだが,この大使発言はいただけない。

先日の米権益排除のマオイスト声明は,アメリカの逆鱗に触れたようだ。米政府は,ネパールを「破綻国家(failed state)」候補とし,反テロ最前線に加えた。ランカスター氏によれば,すでにM16ライフル8千丁が供与され,暗視装置も輸送中とのこと。

たしかに,1700万ドルの軍事援助は大きいが,lootingのプロ相手だから,M16はマオイスト援助になりかねないし,暗視装置もイデオロギー識別装置ではないのだから,ネパールでは役に立たない。マオイストだけ赤く写るとすばらしいのだが,そうでなければ,夜なべ仕事の村人を写すだけのことになりかねない。

しかしそれにも増して,これまで曲がりなりにもネパール政府が国際法上の交戦者としての権利を認めた上で和平交渉をしようとしてきたのに(そうでなければ和平交渉はできない),米国大使が不用意に相手のインテリ指導者を「ゲッペルス」呼ばわりするのは,ぶち壊しであり,まったくもってまずいことだ。アメリカが交渉を断念し,軍事力でテロ集団を断固粉砕する決意をしたのなら仕方ないが,そうでないのなら,もっと慎重であるべきだ。

また,ランカスター氏は「アメリカ支援政府軍(U.S.-backed government forces)」などと平気で書いておられるが,もし本当なら,マオイストの主張にお墨付きを与えるようなものだ。ネパールは大英帝国を勇猛果敢なグルカ兵をもって援助してきたのだ。その誇り高きネパール人民のプライドを傷つけ,人民戦争を結果的に正当化するような言説は逆効果であろう。

公平に見て,プラチャンダ,バッタライ両氏は「ヒトラー」「ゲッペルス」ではなく,2人合わせて「毛沢東」というところだ。アメリカにとっても,「ネパールの毛沢東」として対応した方が有益であろう。


031106 英国の道義的責任

アイアン・ポーター「イギリスはネパール全面戦争を阻止せよ」(ガーディアン,10月18日)を,ネパーリ・タイムズ(167)が転載している。

ポーター氏によれば,人民戦争は,いまや勝利者無き内戦,ないし「受容可能な軍事的解決」の期待できない状況(J・ジェームズ卿)になりつつある。ネパールでは,いまでは主な決定権は軍と国王に移り,特に国軍が外国軍事援助の増大とともに政治的発言権を強めている。危機的状況だ。

軍事援助については,イギリスは抑制しているが,アメリカは急拡大し,鎮圧部隊の訓練も行っている。すでにM16を5千丁供与し,次の5千丁がまもなく到着する。イギリスは,これまで悪役をアメリカにやらせ,硬軟両様で和平交渉を支援してきたが,8月17日の国軍によるラメチャプ住民虐殺により,すべてはご破算になった。停戦継続中で,しかも交渉再開目前のこの時期に,なぜ国軍は無謀なラメチャプ住民虐殺に走ったのか?

ラメチャプ虐殺について,ネパール人権団体が調査報告を出した。平服姿の国軍兵士80人が村民を拘束,3時間連行し,並ばせ,至近距離から頭部を打ち抜き,殺した。

これに対し,国軍の説明は,マオイストが国軍を待ち伏せ攻撃し,2回の戦闘でそれぞれ5人と12人が戦死したというもの。

アムネスティによれば,ネパール治安部隊は人権侵害無処罰の伝統を持つ。ある高級士官は,志気維持のため,戦闘中の人権侵害行為の処罰は論外だ,とさえ公言している。

この人権侵害無処罰の伝統を持つ治安部隊が米印の軍事援助で軍事力を増強する一方,マオイストも対抗して活動を活発化,全国どこでも攻撃できる実力を見せつけている。援助団体関係者も,給与の5%を人民政府税として徴収されているという。

アムネスティ2003年度報告によれば,「治安部隊は違法殺害を継続した。2001年11月以後に殺された4000人以上のマオイストのうち約半分は違法な殺害だ」。つまり,非戦闘員なのに殺されたか,無実なのに単に軍の成績を上げるために殺されたかのいずれかだという。停戦前で無実の住民2000人がマオイストとして殺されたとすれば,今後の見通しはさらに暗い。アムネスティ報告によると,8月末以降,すでに30件の政府側によるとみられる行方不明事件が発生している。

ラメチャプ虐殺は,軍事援助と人権教育の組み合わせで状況を打開しようとしたイギリス外交の敗北である。アメリカは,軍事的に圧力をかければ,マオイストは交渉テーブルにつくと信じている。しかし,そうはならないだろう。ネパールは,いまやどちらが勝とうが勝利の意味が無くなる寸前まで,荒廃が進んでいる。イギリスは,軍事力に頼らない新しい和平案をつくり,とにかく戦争拡大を阻止しなければならない。それが,歴史的に他のどの国よりも軍事的にはネパールに深くコミットしてきたイギリスの義務である。

――以上のポーター氏の危機感はよく分かる。イギリスがアメリカよりもプルーデンスを持っていることはたしかだ。つい先日も,英国政府は,日本軍捕虜となったグルカ兵(本人または妻)に16700ドルの補償金を支払うことを決めた(Washington Post, Nov5)。さすが紳士の国,英国だ。しかし,ポーター氏は英国政府に具体的には何をせよと,要望しているのだろうか? それがさっぱり分からない。他の山なす和平提案と同じように・・・・。


031102 米系攻撃目標へ:マオイストの新戦略

10月22日の声明で,マオイストは攻撃目標の変更を宣言した(Washington Post, Oct22)。これまでの政府施設攻撃をやめ,今後は米系組織の排除を目指す。また,個々の国軍兵士や警官への攻撃も抑制し,強制寄付は「税」に切り替えるという。本当だとすると,これは何を意味するか?

マオイストの権力獲得には,敵は国内よりも国外にいた方がよい。アメリカを攻撃目標にすれば,これまでのように同国人を主敵にする必要はなく,マオイストへのナショナリズム糾合にとっては好都合だ。

アメリカは,このマオイストの戦略転換に敏感に反応し,10月29日の議会証言でクリスチナ・ロッカ国務省南アジア担当事務次官はマオイストを「アメリカ国益に対する脅威」と断定し,さらにこれを受けて10月31日,米政府は「マオイスト資産」の凍結を命令した。アーミテジ国務副長官によれば,マオイストのテロリズムは「米国人の安全に対する脅威,ないし米国の安全・外交・経済に対する脅威」である(State Dep. 25738pf; Washington Post Oct31)。

常識的に考えて,マオイストにアメリカ本土攻撃の能力も意思もあるはずはないが,10月22日の声明で米系組織が攻撃目標に指定されたので,その意味ではマオイストはアメリカ国益への現実的な脅威となった。米系権益(企業・NGO)攻撃の恐れがあるので,マオイスト資産を凍結するということ。いかにもアメリカらしいドライな対抗策だが,これが有効なのはマオイストに資産がある場合。多分そんなものはスズメの涙ほどもなく,実際にはこの脅しは利かないから,報復には結局帝国主義の用心棒たる米軍が出て行かざるを得ない。つまり,米系権益を攻撃すれば米軍を出すぞ,という脅しである。

もちろん米政府もネオコン一色ではない。ロッカ氏は2万丁のM16ライフル供与で脅しつつも,援助の中心は「内乱の根本原因」たる貧困・腐敗の除去に振り向けるといっている。また,マリノフスキー大使も,マオイストとの和平交渉を支援すると言明している。米国も慎重なのだ。

しかし,米国がネパールを政治的・経済的に重視していることは間違いない。ロシアに代わる21世紀のライバル中国がチベット鉄道建設で北から迫ってくる。その製品はすでにネパール中にあふれ,いずれ政治的影響力も増大するであろう。これに対抗するため,アメリカはインドに急接近,マリノフスキー大使は9月12日開催の「アメリカ・ネパール人会」カトマンズ大会で堂々とインドは「ネパール問題への最大の外部影響力」と述べ,事実上,インド宗主権を認めた(State Dep. 24249pf)。内政干渉でないといいつつも,米印反テロ同盟により,ネパールを米印勢力圏に力ずくで囲い込もうというのだ。

マリノフスキー大使は,ネパールのWTO加盟を手放しで歓迎し,「急拡大するグローバル経済の中で確かな地位と発言権を得るだろう」と称えた。でも,どんな地位と発言権なのか? 米国は,急成長する人口超大国インドの巨大市場を必要とし,インドは辺境の「万里の長城」としてのネパールを必要としている。政治的・経済的に米印にはネパールが必要なのだ。ネパール人民が米印を必要としているわけではない。

マオイストが米系企業やNGOを攻撃すれば,この構図が露わになる。米系権益攻撃により,マオイストはナショナリスト糾合ができるが,やりすぎると米印直接介入により弾圧される。どの程度攻撃するか? おそらく直接介入を招かず,かつ最大限のナショナリズム高揚効果のある程度の攻撃ではないか? コカコーラはすでに爆破したので,次はナショナリズムを動員しやすい,例の方面の援助活動攻撃ではないか?

とすれば,アメリカ反テロ同盟国として急台頭してきた日本権益も安全とは言えない。あれだけ日本製贅沢品があふれ日系組織が活動しているのだ。ナショナリズム高揚にはもってこいのターゲットだ。しかも,アメリカのように怖くはない。邦人権益保護のため日本軍が攻めてくる恐れはまずないのだから,むしろこちらの方が攻撃目標には適している。


031030 もう一つのPeople Power

 ネパリ・タイムス(No.166)が,People Power の特集をしている。People Powerというと,またマオイストかとうんざりされそうだが,これは別のPeople Powerであり,この人民革命が成功すれば,マオイスト問題の解決にもつながるかもしれない。
 話は簡単。さんざん言い尽くされた例の適正技術による自主的・持続的発展の提唱。マオイスト流にいえば,自力更正だ。その具体例としてネパリ・タイムスが紹介しているのが,バイオガスと小規模発電。
 
<ネパール製バイオガス装置>
 建設費は6000(タライ)〜11000(ヒル)ルピー。家畜の糞尿と水を投入すれば,1日平均5時間使用可能なガスと,肥料が自動的に生産される。これにより室内の煙害が無くなり,薪集め(1日2時間)も不要になった。すでに45の会社が65郡で建設を請け負っている。建設が進めば,炭酸ガス排出権も先進国に売却できる。1基で炭酸ガスを年4. 7トン削減。1トン10ドルだから,すぐ元が取れる。
 計画通りいくとすれば,たしかに名案だ。日本でも,つい数十年前の田舎では,燃料・暖房用の薪集めが大変だった。そのころ,私の村でもバイオガス設置が流行し始めたが,不幸にしてプロパンに負けた。もうしばらく日本が貧しかったら,日本はバイオガス先進国になっていたかもしれない。
 ネパールでは,バイオガス装置が1基1万円で設置できるのなら,バイオガス・サポート・プラン(BSP)は有望だ。頑張って,世界最先端プログラムにしていただきたい。

<小規模水力発電>
 先月3基の小規模水力発電所が試運転した。
 ネパールでは,1970年代から外国援助で水力発電所が建設されてきた。それらは大規模のため,資金,建設,維持,管理のあらゆる面で,外国依存にならざるを得なかった。しかも,大規模であり,国際基準にあわせるため,建設・発電コストが高かった。
 これに対し,小規模水力発電は,建設,管理,維持が容易で,コストが安い。
       capacity  cost   cost per unit
Piluwa     3MW    $4m    $1450/kW
Chilime    20MW    $31m   $1550/kW
Kali Gandaki 144MW   $450m   $3125/kW
たしかに安く,こんなものをあちこちにつくられたら,先進国企業は儲からない。
 日本の私の村でも,数十年前まで,小さな水力発電所が稼働していたが,これもバイオガスと同じく,独占電力資本により「合理化」されてしまった。しかし,プロジェクトXで賛美されるような巨大ダムや,わが田舎に都会エゴで押しつけられている原発が,本当に合理的であろうか? 環境,健康も含めて計算して,本当にコストが安いのだろうか?
 ネパールは,先進国資本の奸計に負けず,この小規模水力発電でも世界最先進国を目指して欲しい。

 バイオガス装置も小規模水力発電所も,人民の力(People Power)で建設,管理,維持できる。外国依存の借金地獄に陥る危険はない。こうした適正技術による自力更正こそ,People Powerによる革命だ。血を流さなくても,エベレストに世界最先端ネパール人民の旗が立つ。


031027 外国介入の真の脅威とは?

ネパールでは,英米印等々の外交官や使節が開発,平和,行政にさかんに介入し,また裏でも様々なエージェントが暗躍しているらしいが,ダニエル・ラク氏(Nepali Times, No.165)によると,ネパールにとって真の脅威はこれら無答責の外国人どもではなく,世銀,IMFなどの市場原理主義だ。

昨日(10月26日)のNHK「富の攻防(8)知られざる“復興ビジネス”国家の再建を請け負う企業」で,アメリカの恐るべきアフガン復興ビジネスの実態が紹介されていた。

アメリカはアフガン復興を民間企業に請け負わせ,WTO基準に合わせるため関税自主権を奪い,これをその民間企業に事実上委ねているのだ。爆弾で破壊した国を自国の企業に売り渡し,日本など従属資本主義諸国からの供出金を使ってアメリカ好みの国,つまりアメリカの市場に改造しようというのだ。アメリカ帝国は,旧宗主国イギリス帝国の「東インド会社」のマネをしているに違いない。

NHKは,このアメリカの「復興ビジネス」を好意的(!)に描いていた。おそらく強烈なシニシズムであろう――さもなくば,絶望的な悲喜劇だ。

ネパールは,アフガンのように爆弾で経済自主権を奪われたわけではないが,市場原理主義は事実上同じことをネパールに強要している。「見えざる手」に導かれた世銀,IMF,アジア開発銀行の「丸見えの善意の手」の介入。

彼らの世界基準が,なぜLDCのネパールにそのまま妥当するのか? 自由化すれば何が起こるか?
頭脳流出:南から北への人材流出
資本流出:援助をはるかに上回る資本が南から北に流出
失業輸出:資本流出による失業増大
借金地獄:債務救済に米財務省寄りの国際金融機関は拒否権行使
不公正取り引き:途上国産品を人民から奪い安値で買い占め

ネパール国民は,なぜこんな「善意の巨悪」を喜んで受け入れているのか? この問いにうまく答えられたら,ダニエル・ラク氏が「ネパリ・タイムズTシャツ」をお礼にくれるそうだ。答えを知っている方,ぜひ教えてあげてください。Tシャツがもらえますよ。


031022 ゴビンダ氏上告棄却

10月21日,最高裁はいわゆる「東電OL殺害事件」の被告ゴビンダ氏の上告を棄却し,無期懲役が確定した。再審請求は可能にせよ,きわめて厳しい状況になった。

この事件は,1審で無罪になったにもかかわらず,検察が違憲の上訴をし,高裁が逆転有罪としたものだ。今回の判決で最高裁は,違憲上訴も含め検察の主張を全て追認してしまった。

この不当判決は,日ネ友好にとって深い禍根となって長く尾を引くであろう。ODAを大判振る舞いしようが,名士を招いて華やかな友好行事をしようが,この深く刺さったトゲの痛みは消せるものではない。素知らぬ顔で友好ムードを盛り上げようとすればするほど,トゲはさらに深く食い込み,救いようのない痛みをネパールの人々に与えることになろう。

この際,友好行事は全て取りやめ,不当判決に抗議の意思表明をするべきではないだろうか。

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支える会声明(転載)
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声明
最高裁の心ない判決は、一人の人生を破壊し、日本への失望を決定的なものにした。

無実のゴビンダさんを支える会
2003年10月22日

 最高裁判所は、10月20日づけで、無実のネパール人被告ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの上告を棄却し、東京地方裁判所による無罪判決(2000年4月14日)を逆転させた東京高等裁判所の有罪判決(2000年12 月22日)を支持。有罪、無期懲役の判決が確定することになりました。
 裁判に提出されたあらゆる証拠を見る限り、ゴビンダさんは無罪であると確信し、2001年3月以来、彼を支援してきた私たち「無実のゴビンダさんを支える会」は、言いようのない憤りと悲しみをもって、この最高裁判決を聞きました。
 22日午前、弁護団の一人、神田安積弁護士が面会し、それに続いて、支える会事務局メンバー3名が、最高裁判決後はじめて、ゴビンダさんに面会しました。
 「おかしな判決です」
 顔をこわばらせて面会室に現れたゴビンダさんの第一声は、深い怒りをなんとか抑制しようと努力している様子が手にとるように分かるものでした。
 「この最高裁の決定には、私が有罪であるという理由が一言も書かれていません。こんなもので、どうして私が有罪だと分かるのですか?貧しい国から来た人は、軽蔑し、偏見をもっているのですか?」 彼は、前日の午後受け取ったという最高裁からの上告棄却を知らせる一枚の紙を示しながら、矢継ぎ早に私たちに問いかけてきました。
 「被害者の手帳に書かれていた日付と、私の証言は一致していたではないですか、現場では第三者の体毛が発見されたではないですか、体液の鑑定結果も、私の証言が正しいことを立証しているではないですか。どうして有罪なのですか?」
 彼の憤りに、私たちは答える言葉がありませんでした。 日本は経済が発達し、先進的ですばらしい国だ、とあこがれをいだいて来日し、裁判所はその文明国日本の最高の頭脳が真実を解明してくれる場所だと信じてきた彼の思いは、この一片の紙切れによって、みごとなまでにうち砕かれました。
 「こんな決定のために、どうして3年もかかったんですか?ごまかすために時間だけかけてきたとしか思えない」
 「どうか、一つひとつの事実をもう一度きちんと説明して、私が無実であることをみんなに知らせて下さい」
 それでも彼は、一人でも多くの人たちに、自分が罪を犯していないことを知って欲しいと今でも望んでいます。
 「無期懲役というのは、何年我慢すれば出られるのですか?」そう問いかける彼が最も心を痛めているのは、彼の帰りを信じて故郷のイラムで待ちわびている年老いたご両親のことです。
 病身のお母様は76歳、お父様は83歳になられます。どんなに最短の刑期で仮釈放になったとしても、ご両親ともう二度と会うことはできない、と彼は心の中で計算しているようでした。
 懸命に理性を保っていた彼が、ご両親の話をしたとたんに、泣き崩れました。
 二度にわたって来日し、面会してきた妻のラダさんをもう一度呼んで欲しい、と彼は私たちに頼みました。そして、できれば兄のインドラさんにも会って、家族のことを相談したいとも述べました。 「この前ラダが来た時は、いいことばかり考えて話をした。こういう事態になったので、もう一度話をしておきたい」と。そして、以前から何度も、会いたいと述べていた幼い二人の娘たちについては、「こういう状況の中で会ってもいいことはない」と会うことをあきらめようとしています。
 「刑務所は、悪いことをした人が、まじめに良くなるよう生活するところでしょ?悪いことしていない私は、この先どうやって生活すればいいんですか?どうか教えてください」
 無罪判決によって冤罪が晴れたにもかかわらず、罪人のように獄につながれ続けた理不尽の結果が、さらに大きな説明のつかない理不尽として結果したことは、彼一人の不幸ではありません。
 弁護団は、さる10月1日、上告趣意書を補強する補充書を提出したばかりでした。それからわずか3週間足らずの上告棄却は、最高裁が弁護側立証を十分検討したというポーズすらとることもなく、事実に目をふさぎ、拙速な結論を急いだことを示しています。
 偏見と詭弁だけで成立した杜撰きわまりない東京高裁判決(高木俊夫裁判長)に全員一致でお墨付きを与えた最高裁第三小法廷の裁判官、藤田宙靖判事(裁判長)金谷利廣判事、濱田邦夫判事、上田豊三判事は、日本の司法の無能性と人種差別と官僚的硬直によって、日本社会そのものの不幸を立証した点で、特筆されるべき人々です。
 私たち一介の市民の集団である「無実のゴビンダさんを支える会」は、彼が故国ネパールに帰国し、ご家族と再会する日まで、今後もできうる限りの支援を続けることで、私たちの「故国」日本の不幸に、少しでもあがらい続けたいと考えています。
 ゴビンダさんの運命に心を寄せ、司法による暴力である冤罪、外国人への偏見と差別を憎むすべての皆さまに、これからもお力をお貸しいただけますよう、心からお願いいたします。

無実のゴビンダさんを支える会
連絡先:
〒160-0016 東京都新宿区信濃町20 佐藤ビル201
(株)現代人文社気付

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国民救援会声明(転載)
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【声明】
ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏に対する最高裁上告棄却決定に抗議する

10月20日、最高裁第3小法廷(藤田宙靖裁判長)は、通称・東電OL殺人事件で一貫して無実を訴えていたネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の上告を、あろうことか決定で棄却した。 そもそもこの事件では、ゴビンダ氏を「犯人」と断定する直接証拠は何一つない。状況証拠もまた極めて曖昧なもので、ゴビンダ氏と犯行を結びつけるものではない。当然のこととして、東京地裁が30余回もの公判で慎重な審理を行った結果、「疑わしきは被告人の利益」という刑事裁判の原則の上に立って、ゴビンダ氏に無罪を宣告したのである。控訴審において検察は一審の立証をなぞっただけで、意味のある新しい証拠はまったく提出できなかった。しかるに東京高裁は、一審判決がその証明力を一蹴した被害者の手帳メモを「つまみ食い」式に解釈してゴビンダ氏と犯行との結びつきを強弁するなど、証拠を恣意的に捻じ曲げて評価し、ゴビンダ氏に無期懲役を宣告した。

一、二審を通じて最大の争点となったのは、室内水洗トイレに捨てられたコンドーム内に残留していた、ゴビンダ氏の精液中の精子が、その形状から見て、殺害時期のものか、それ以前の時期のものかという問題であった。一審で、検察側鑑定人による鑑定の結果、この精子は、崩れた形状から、事件より20日も前のものであることが明らかになったが、この鑑定人は公判で、鑑定用実験は清水で行い、現物は汚水中にあったから、形状が急速に崩れるかもしれないので、事件当日のものと考えても矛盾しない、とまったく事実にもとづかない意見を述べ、一審判決では当然にその合理性・説得性を否定されたが、東京高裁は、この鑑定人の屁理屈を採用して逆転有罪の根拠としたのである。しかも、弁護側が求めた、この理屈の是非を問う鑑定の請求を採用しないままに、なんら合理的根拠も示さず、ゴビンダ氏を犯人とした。また、被害者の所有物であったJRの定期券などが、被告人が訪れたこともなく、日常生活とは全く無縁であった地域で発見された事実から、別の人物が真犯人ではないかと容易に推測された。これについても高裁は、「・・・未解明であるからといって、それ故被告人の犯人性が疑われるという結論にはならない」と、切り捨てたのである。その他、犯行現場に遺留されていた第三者の体毛の問題や、ゴビンダ氏がアパートの鍵をいつ家主に返還したかに関する問題、ゴビンダ氏が金銭窮状の状況にあったかどうかに関する問題など多くの疑問点について、それらを何ら解明することなく、説得力のない言辞で犯行をゴビンダ氏に結びつけて無期懲役を宣告した。

弁護団は上告にあたり、現場に残されていたコンドームの精液について、清水・汚水の別は精子の形状崩壊に影響しないことを明らかにし、東京高裁の誤った事実認定を科学的に批判する鑑定意見書を提出し、さらにこの10月1日も、その補充鑑定意見書を新たに提出したばかりであった。

最高裁には、東京高裁の事実と証拠に基づかない事実認定の是非が鋭く問われていた。にもかかわらず、これらに何一つ理由を示さずに上告を棄却したことは、著しく正義に反するものである。最高裁は、決定の中で「記録を精査しても重大な事実誤認はなかった」と判示しているが、記録を精査したとは到底言えるものではない。

今回の最高裁決定についてゴビンダ氏は、「なぜ私が有罪なのか最高裁は全く理由を示していない。こんな決定を3年も待ったのではない」と、最高裁決定に強く抗議している。この指摘は、至極当然のことであり、最高裁が人権の砦としての役割を放棄したものとして厳しく糾弾されるべきである。

日本国民救援会は、自ら新たな冤罪事件を完成させた最高裁の不当な決定に、怒りをもって抗議する。
2003年10月22日

最高裁判所第三小法廷
   藤田宙靖裁判長 殿 

日 本 国 民 救 援 会


031001 TimeのTime-worn記事

Time (Sep.15)が、ネパール記事を載せているが、いかにもそれらしい内容で、「そうだろう、そうだろう!」と妙に納得した。こんなTime-worn(時代錯誤、陳腐)な、冷戦期の古着を持ち出すのは、十分承知の上での、先進国読者向けキャンペーンにちがいない。

超豪華ブティック兼レストランの店主はこう嘆く。2002年10月までは、昼間は大使夫人やモデルさんらがアンティークや宝石の買い物に、夜は紳士淑女がエレガントな食事に来てくれたのに、10月政変以後は客は途絶えた。信じられない、泣きたくなる、と。

ワルはマオイストだ。奴らは王制を打倒し、スターリン主義独善国家をつくろうとしている。ゲリラどもは21世紀というのに古めかしい奇怪なドグマにとりつかれ、毛沢東主義ゲリラ戦で、「エベレストに“ハンマー&カマ”の旗印をひるがえしてみせる」(B・バタライ)と豪語している。

マオランドは夢の国と宣伝されているが、よく見て見よ。拷問と即決処刑、教育による洗脳、橋・郵便局・学校などの無差別破壊、等々。まるでポルポトのクメール・ルージュかペルーの「輝ける道」だ。

これに対し、アメリカは50人の軍事専門家を派遣し国軍を訓練し、5000丁のM16ライフル(あと5000丁追加予定)を供与、ベルギーは5500丁の機関銃を売却、イギリスとインドは軍事顧問団を派遣し、政府を援助している。おかげで、カトマンズの治安は小康状態で、めでたく「ミス・ネパール2003」が実施され、超豪華ナイトクラブ ”Platinum” も開店することになった。

が、状況は予断を許さない。政党は目先の権力闘争に明け暮れ、国王は「酔っ払った恋い狂いの皇太子が王族を射殺した」あと王位継承したが、政治に介入し混乱させてしまった。アメリカも、人権団体から国軍の残虐行為を非難され、十分に関与できない。このままでは、ネパールは「失敗国家」になってしまう。

しかし、先の店主や他の実業家たちは、絶望したりしない。彼らは、ネパールをもっと近代化し、いまの苦境を脱出するため頑張るつもりだ。

これがタイム記事の大意だが、マオイストを武力弾圧して得られるのが、「ミス・コンテスト」や超豪華ナイトクラブ、一晩のディナーで数ヶ月分の農民収入が飛びそうな高級レストランや上流階級ご婦人御用達の宝飾店などだとすると、庶民はそんな社会はいらないというのではないだろうか? いや、そんなことをしているからこそ、マオイスト・サポーターが増えるのではないだろうか?

Timeは、ネパール庶民向けの雑誌ではないから、ネパール庶民は読むはずもなく、直接的影響はないだろうが、この雑誌のターゲットとなっている、ネパール事情に疎い先進国の読者には、かなりセンセーショナルに訴えることができそうだ。21世紀の妖怪、ネパール・マオイストを退治せよ!と。武力で征伐できれば話は簡単。それができないから問題なのに、話を単純化し、情緒に訴え、世論の動員をはかる。雑誌は売れればよいし、政治家は票になればよい。

これはちょっと意地悪な読み方かもしれない。Timeの記事は、素直に読めばもっと公平で、上記の読みは曲解だ、と思われる方も少なくないだろう。そうかもしれないが、少なくとも私にはこのように読めてしまったのだから、仕方ない。誤解かもしれないが、感じたままを、書かせていただいた。


030924 朝日の優等生的平和アピール

朝日新聞が9月23日付社説で「ネパール:流血を止めるため動け」と提案している。影響力の大きい新聞であり、歓迎したい。

が、いかにも歯切れが悪い。国王も悪いし、政党、マオイストも悪い。土地改革が何よりも必要なのに王室も政党も改革しようとしないと非難しながら、マオイストの改革は武力による押しつけだという。う〜ん、優等生的! では、どうすればいいの?

そこでこの提案――「日本は最大の援助国でもある。平和を取り戻せるように動くべきではないか」。至極もっともだし、これを社説でアピールしたことの意義は大きい。

しかし、それを十分認めた上で、やはりもの足りない。考えて動け、ということだろうが、これだけでは叱咤する割には、不親切だ。朝日新聞は、(社)日本ネパール協会のように、あちこちに遠慮する必要はないのだから、「ネパールが平和でありますように!」のような空疎なスローガンではなく、せめて、社説の「真意」をストレートに表明するくらいのことはしてもよいのではないか。

社説の「真意」――「日本政府は、米政府に武器供与の停止を要請し、日本政府として和平仲介に乗り出すべきだ」。


030920 ミスコンテストの錯誤と倒錯

ネパールは、精神的荒廃に向かっているようだ。様々な症状が現れているが、最も痛ましいのが、「ミス・ネパール」コンテストだ。

美しい女性(男性も)は魅力的だ。しかし、「美しさ」は文化的なもので、多文化社会のネパールには、当然、様々な「美しい」女性がいるのが自然だ。それが、古き良きネパールだ。

ところが、民主化以後、しばらくしてミスネパール・コンテストが始まり、年々派手になってきた。

この9月13日のミスコンでは、大学生兼幼稚園教諭のプリティさんが「ミスネパール2003」に輝いた。準ミスのプレナさん、準々ミスのヌマさんを左右に従え、中央でにっこり微笑んでいる表彰式写真がインターネットに掲載されている。

でも、1位、2位、3位だなんて、そんなことをしてもよいのだろうか? たしかにプレティさんは、プレティで「美しい」が、それは1つの「美しさ」であり、どうして「ネパール一の美女」としなければならないのか?

算数の評価基準は明確であり、試験に点数をつけてもよい。が、英語となると、かなり怪しくなり、どの英語を基準とするかで点数は変わってくる。アメリカ英語とインド庶民英語はずいぶんちがう。アメリカ英語で、英語の採点をするのは間違っている。

ましてや「美しさ」である。ミスコン主催者は、1国民には1つの絶対的「美しさ」基準があると、国粋主義的に信じているのだろうか? それとも、無邪気に西洋の「美しさ」基準(ワールド・スタンダード)でネパール女性を品定めし、「ミスワールド」に出品しようとしているのだろうか?

いまさら言うのも気恥ずかしいが、ミス・コンテストは女性の商品化であり、人権侵害であって、ネパールの目標らしい西洋諸国ですら、もう流行らない。時代錯誤なのっだ。

アナクロ・ミスコン輸入は、売れ残りの廃ガス不適合車の輸入より、国民の健康を害する。

ミスコンは、マオイストの主張の正しさを、生々しくビジュアルに、ネパール庶民に印象づけている。

――資本主義全盛になると、女性はあのように、男(近代)の目にさらされ、商品化され、売られるのですよ。でも、「売れる」女性はまだよい。皆さんの大部分は、女としての商品価値はないので、低価格の三流労働力としてしか、売れませんよ。ね! 封建制より、もっと悪い社会でしょう。私たちマオイストは、そんな女性蔑視社会を阻止し、女性を人間として評価する公正な社会の建設を目指しているのですよ。さぁ、武器を取って、一緒に戦いましょう!

ミスコンは、マオイスト支援事業だろうか? 確信的マオイスト(いわゆる過激派)であるネパール共産党(統一センター・マサル)の女性たちが、このミスコンへの抗議行動をしたが、正義は明らかに彼女たちの方にある。西側の人権団体も、少なくともこの問題に関しては、マサル女性を全面的に支持するだろう。

あるいは、それとも、ミスコンはそんな高尚な目的をもつものではなく、単なる精神的荒廃としての倒錯にすぎないのだろうか? 百数十人死傷の悲惨な内戦報道写真や生活苦の農民記事の横で、ミスネパールが絢爛豪華な衣装宝飾に身をつつみ、にっこり微笑んでいる。まともな神経では、とてもみられない。精神の荒廃であり、倒錯であるといわざるを得ない。


030913 ネパール肉体政治スタディツアーを石原知事に

9月10日、石原慎太郎東京都知事が、北朝鮮拉致事件の対話交渉派とされる田中外務審議官宅に爆発物が仕掛けられたことを受け、「田中均というやつ、今度爆弾を仕掛けられて、あったり前の話だ」と発言した。うっかり失言ではなく、知事の本心であり、11,12日の2度の記者会見でも、発言趣旨は変えなかった。11日の会見では、「(爆弾を仕掛けることは)悪いに決まっている。だけど、彼がそういう目に遭う当然のいきさつがあるんじゃないですか」と、弁解にならない弁解をしたにすぎない。

石原知事の発言は、「悪政」責任者は暴力攻撃を受けても仕方ない、受けて「当然」という趣旨だ。

しかし、よく考えていただきたい。民主政治は政敵の頭をたたき割る代わりに頭数を数えること(選挙、多数決)を大原則にしている。政治の場では、つねに利害が錯綜し、様々な政策が競合している。その政治的対立を、制度を媒介にして言論で平和的に調整するのが民主主義だ。もし誰かが、自分と対立する意見や政策を暴力で変えようとすれば、相手も同じく暴力に訴え、民主主義は瓦解する。田中審議官が「爆弾を仕掛けられて、あったり前」だとすれば、石原知事も「爆弾を仕掛けられて、あったり前」だし、「天声人語」(9/13)には背くが、「蛾」を送りつけられても「当然」なのだ。

民主主義は説得と手続きに時間がかかるものだ。それにじれて、いったん直接行動としての暴力に訴えると、暴力による安易な、問答無用の「解決」は別の暴力による「解決」を呼び、もはや回りくどい、問答有用の民主主義には少々のことでは戻れない。民主主義文化は成熟に時を要するが、破壊は一瞬でなり、直接行動主義の暴力文化がはびこる。

石原知事には、ぜひネパールで直接行動主義の政治文化を実地学習していただきたい。1990年革命でせっかく議会制民主主義の制度を作ったのに、政治家たちはこの十数年間、何をしてきたのか? NCもUMLも他の諸政党も、議会で自分たちの主張が通らないと、議決を認めず、議会外の暴力的示威行動や非公式圧力により決定を覆そうとするのが常だった。ネパールの議会政党には、皮肉なことに議会主義の精神が希薄だ。むしろ直接行動主義だ。この直接行動主義政治文化の中で、反対派に対する個別的あるいは集団的抑圧や攻撃(政府テロと反政府テロ)が常態化し、とうとうマオイストによる大々的な直接行動、「人民戦争」になってしまった。

日本も戦前は同じだった。民主主義にじれた国士たちが、直接行動に出て、国益に背く「売国奴」や「国賊」を次々と襲撃していたではないか。その暴力が、日本の対外侵略暴力を生み、そしてアメリカのジェノサイド核暴力を招き、日本は自滅した。もともと短気な日本人は、わかりやすく手っ取り早い直接行動に傾きがちなのだ。

石原知事は、選挙によって選ばれた。その知事が、なぜ自分の地位のそもそもの根拠である民主主義を根底から掘り崩すような発言をするのか。知事には、田中審議官の「誤り」を改めさせる手段がたくさんあるではないか。都知事としての強大な発言力と発言の場、著名な文筆家としての意見発表の機会など、石原氏には政府(外務省)に政策転換を迫る手段はいくらでもある。それなのに、北朝鮮はけしからん、弱腰外交では拉致問題のらちがあかない、といういらだちに負け、直接行動を容認する発言をした。政治家失格だ。

「肉体文学」派ではないはずの石原氏が、本格的「肉体政治」家なろうとしている。もしそうであるなら、石原氏にはぜひネパール政治スタディツアーに参加し、本場の「肉体政治」を見ていただきたい(パレスチナでもイラクでもよいが)。ネパールでは議会は演説パフォーマンスの場と化し、政治問題は「肉体」と「肉体」の実力闘争で決着する。政治家が言論と制度を信じなくなったとき、何が起きるか。ネパールは「肉体政治」の見本市だ。

石原知事だけではない。知事の言動に溜飲を下げ、拍手喝采している少なからぬ市民の皆さんにも(都庁への市民の声の約半数は知事発言支持)、ネパール肉体政治スタディツアーに、ぜひ参加していただきたい。


030911 2度目は茶番

 一連の反政府行動で有力政治家を含む大量逮捕が続き、9月10日にはとうとうコイララNC党首とネパールUML党首までも逮捕されてしまった。日本でいえば、小泉自民党総裁と菅民主党代表が逮捕されたようなものだ。
 すわ一大事、「議会制民主主義の危機!」ということで、1990年革命の再来を予想する人も少なくないが、少なくとも現在のところ、90年革命時とは状況が大きく異なる。

(1) 希望なき騒乱(争乱)
 1990年革命は、30年に及ぶ国王専制(パンチャヤト制)の打倒が目標であり、国王専制さえ倒せば、明るい未来が開けるという希望があった。政党政治、議会制、民主主義、近代化、自由経済――みな光り輝き、自由と繁栄を約束してくれているように思えた。東欧を開放した民主主義の光明がヒマラヤの奥地ネパールにもようやくやってきた。このチャンスを逃してなるものか。もっと光を!
 が、革命後10年でそれが少数の「勝ち組」を除き、幻想にすぎなかったことを庶民はいやというほど思い知らされた。
 いま、現体制を倒して、何をつくるのか。政党政治? 議会? 議院内閣制? つまり90年代のあれか。だったら、さんざんやってみて、その結果がこの果てしなき騒乱(争乱)ではないか?
 一度はよい。2度目は茶番だ。
 マオイストにはそれなりの「夢」がある。が、議会政党には、ない。パンなき庶民に「夢」すら与えられない。「夢」なき茶番は無茶だ。

 (2) 冷淡な国際世論
 議会政党が反政府行動をやり大量逮捕者が出ているというのに、アムネスティが声明を出したくらいで、国際世論は沈黙している。真っ先に怒りそうな民主主義十字軍のアメリカでさえ、驚くほど冷淡だ。10日のコイララNC 党首とネパールUML書記長の逮捕に、アメリカがどう反応するかはまだ分からないが、形式的な自粛要請くらいは出しても、おそらく本気の非難声明は出さないだろう。
 90年革命時のあの熱狂は、いまはない。

(3) 反体制側の分裂
 90年革命のときは、NC、ULF(穏健左翼連合)、毛沢東主義諸派のいずれも、少なくとも国王専制打倒では一致しており、反体制側の内部分裂はそれほど激しくなかった。みなパンチャヤト制さえ倒せば何とかなると、革命後の「夢」をそれぞれ勝手に思い描き、国王政府打倒では一致して行動した。だから革命は成功した。
 ところが現在は、議会政党は国王だけでなく、マオイストとも敵対している。敵対といっても、真っ向から対立しているのはNCくらいで、UMLは本来共産主義政党であり共和主義だし、他の左翼諸政党にはもっとマオイストに近いものもある。対国王戦略での一致も難しい。
 また、国王政府を打倒すれば、議会諸政党は今度は自分たちがマオイストと真正面から対峙する。国王のクッション抜きで、本当にマオイストと対決できるのか?

(4) 茶番の悲劇
 状況から見て、90年革命の再来はまずない。もちろん国王政府が、議会政党の挑発に乗り、武力弾圧を始めれば、国際世論は政党支持に一変し、形勢は逆転する。
 既成政党のいまの「市民的抵抗(Civil Disobedience)」の目標は、「解散議会の再開」や「首相解任の取り消し」だそうだ。これではマハトマも森の聖者も嘆き悲しむだろう。
 どうせ本気ではないのだから、CDパーフォーマンスには逮捕パーフォーマンスで丁重に対応し、日没前には「別荘」から帰宅させてあげればよい。
 挑発に乗り、武力弾圧や長期拘束に走るのは愚策だ。こんなヘマをやると、革命ではなくアナーキーだ。茶番の喜劇ですめばよいが、今度は誰の安全も保障されない「万人の万人に対する戦争状態」の悲劇が演じられる恐れがつよい。これだけはどうあっても回避してほしい。


030908 国王インドラ祭欠席/首都圏連続爆破

ロンドン滞在中の国王夫妻は、すでに健康チェックが終わったにもかかわらず、まだ帰国されず、9月9日のインドラ祭は欠席の見込み。

インドラ祭は、シャハ王家にとってネパール統一を記念(祈念)する重要な祭り。そのインドラ祭に国王夫妻が出席されない(できない)。

日本の天皇家と同様、ネパール王家にとっても祭祀は決定的に重要であり、それを主催できなければ国王の権威は凋落する。

それが分かっていながら、なぜ国王は帰国しないのか? インドラ祭以上に重要なことがロンドンにはあるのだろうか?

ある、と見るのが自然だろう。その重要任務が具体的に何かはまだ分からないが、現在の苦境の打開策であることはまず間違いない。国王がこれに成功すれば、インドラ祭欠席のダメージは相殺されよう。が、もし失敗すれば、国王の権威は危機に瀕する。

国王がこのような危険なカケに出ざるを得なかったのは、マオイストの攻撃が首都圏に及び始めたからであろう。9月8日には、首都圏の土地税事務所、労働省、交通省、警察署など数カ所が、白昼堂々と爆破され、十数名が死傷した。

中央政府にも危機が迫っている。はたして国王は、ロンドンから何を持ち帰るのだろうか? まさか手ぶらということはあるまい。注視していたい。


030905 市民的抵抗で政治家ら1600人逮捕

4日、NC、UMLら5党の反政府「市民的抵抗」が実施され、UML800人、NC700人が逮捕された。その中には、UMLのバラート・モハン・アディカリ、NCのスシル・コイララ書記長など、多くの有力政治家も含まれていた。

これは大事件には違いないが、この「市民的抵抗(Civil Disobediende)」は、多分にご都合主義だ。ガンディーやHD・ソローを見れば分かるように、CDはもっと厳しいもののはず。これでは信用されない。

90年革命の時と違って、世界は90年代の政官大腐敗を見てしまっているのだ。


030902 【回答】 ネパール政治について、いろいろ

植木さんの質問は次の4点だと思いますので、1つずつ私見を述べます。

(1)憲法は崩壊したか?
 議会解散後1年以上になり、その意味では現行憲法はほとんど崩壊したといってよい。が、すべてが無になったわけではないし、「崩壊した」といってもどうなるものでもない。法治を否定すれば、力の支配しか残らない。これを避けるには、断固憲法に従うという決意を政党も国王も示すべきだ。いまある憲法に従わずして、次の憲法に従えるはずがない。
 重要な憲法機関でまだ残っているのは、国王、上院(ほとんど形だけ)、最高裁の3者。国王はまだかろうじて憲法正統性を保っているので、合法的に事態を打開しようとするなら、国王の憲法権限の下に合法政党が結集する以外に方法はない。幸いなことに、軍は国王への忠誠を保っている。まだ間に合う。
 もしそれができないのであれば、あとは力(暴力)による解決としての「革命」か「反革命(クーデター)」しかない。国軍、人民軍、NC、UML等々それぞれが、武器を取り、殺し合い、大混乱の末に「革命」か「クーデター」を達成し、新体制を樹立する。これも解決には違いないが、犠牲が大きすぎる。どうあっても平和的解決を目指すべきだ。
 その出発点は現行憲法。これはかなりよくできた憲法で、日本国憲法より優れた規定もいくつかある。その憲法を破った張本人が政党だ。憲法を無視し足蹴にしておきながら、憲法が悪いから改憲だ、新憲法だ、といっても誰も信用しない。神が憲法をつくっても、守る気のない人には、お飾りの死文にすぎない。独裁国家、全体主義国家を見れば、憲法で「人権」を保障しようが、「民主主義」を謳おうが、何の意味もないことは自明のことだ。いや他国をあげつらうのはやめよう。わが日本国憲法9条を見よ。政府が憲法を守らないということは、われわれも法を守らなくて良いということだ。このような憲法軽視の極限形態が、今のネパールだ。「法の支配」を掲げ、「権力の憲法正統性」に殉ずる、この決意がネパールには(そしてもちろん日本にも)必要だ。
 ネパールには立派な憲法がある。この憲法を誠実に実現する努力をする。口先だけでなく、行動をもって、その決意を示す。マオイストの要求の大部分は現行憲法の求めていることに他ならない。だから政府が憲法理念実現の明確な姿勢を示せば、マオイストも「平和革命」路線に転換し、地上に出てくるだろう。――ほんの数年前まで、そうであったように。

(2)憲法制定会議の是非
 現行憲法の「改正」か新憲法の「制定」か? 上述の通り、私はまず現行憲法の実行、その上での「改正」が筋だと思う。「改正」の場合、君主制は改正限界を超えるので廃止できないが、国王の象徴化を徹底すれば、ネパールにとってはその方がよいと考える。
 もちろん現行憲法においても、「主権は人民にある」から、主権者人民が民主主義的手続きにより君主制を廃止し、共和制にすることは、不可能ではない。「平和革命」である。非マオイスト共和派の諸氏はむろんのこと、マオイスト諸君にも、是非この平和的戦略を採っていただきたい。
 憲法制定会議についていえば、正統性を生み出すことが出来るような、まともな会議は、現状ではまず開催できない。会議の代表をどう選ぶのか? 民主主義的選挙が出来るのなら、すでに議会選挙が出来ているはずだ。それが出来ないから、ネパールは体制危機になっている。憲法制定会議を呼びかけても、代表選出をめぐる水面下の権力闘争の結果、各党派、各有力者、印・英米等の外国勢力代弁者が集まり、権力分捕り合戦をするだけだ。現行憲法よりよい憲法が出来る保障はない。逆に、アナーキーになる危険は大きい。

(3)王族殺害事件の評価
 公式見解の皇太子犯人説は疑わしいが、誰が犯人か、真相は分らない。ケネディ暗殺、ダイアナ妃事故死、マリリンモンローの死等々、要人の暗殺や死については、分からない場合が多い。分からないことは、無理に早分かりしない方がよいと思う。
 この事件と国王権限との関係だが、犯人が分からないのだから、評価は難しい。が、憲法機関としての国王ないし王制の正統性が大きく傷つき、象徴としての国王の権威の維持が難しくなったことは事実だ。
 むろんギャネンドラ国王だけの責任ではない。国王の権威回復のチャンスは何回かあった。にもかかわらず、諸政党、諸勢力があらそって国王の足を引っ張り、ギャネンドラ国王個人というよりもむしろ憲法機関としての国王ないし王制そのものの権威を失墜させた。王族殺害事件で大きく傷ついた統治の正統性を、諸勢力はそれ以後も目先の利益追求に明け暮れ、回復不可能なほど弱体化させてしまった。
 「法の支配」にせよ「統治の正統性」にせよ、長い歴史の中で形成されるものだ。壊すのは簡単だが、形成は大変だ。あらゆる正統性が破壊されたアナーキーは最悪の政治状況である。

(4)90年民主化運動と外国勢力
 90年革命には外人部隊が直接介入したわけではないので、ネパール人による革命であったことは間違いないが、ネパールの政治諸勢力はインドと深い関係があり、インドの意向が大きく作用したことは事実だ。
 つまり、国王政府の中国接近に怒ったインドが、国境封鎖で経済的にネパールを締め付け、並行して反国王派を支援し、また折からの東欧民主化に自信を深めた欧米諸国の民主化応援もあって、この革命が成功した。
 見方を変えれば、国王政府(パンチャヤト体制)のナショナリズムと保護主義が、インド・欧米の圧力によって否定され、グローバル化、自由化、規制緩和(ネパールの市場経済への編入)を強制され、そしてこれが今のマオイスト人民戦争の原因の一つとなったということである。

【質問】 はてな ネパール政治について、いろいろ
お名前: 植木
投稿日: 9/1(15:57)
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はじめまして 私は、昨年7月中旬から約1年弱、ネパールに滞在していました。ネパールバンダ等日本では経験できないような出来事を経験してきました。ネパール政治を見ていく中で、いくつか疑問点等が出てきたので、お答えいただけるとうれしいです。 滞在中、最も印象に残っているのがやはり10月の、ギャネンドラ国王による首相解任と全権掌握です。私は、10月の「国王大権」は1990年からの民主主義の崩壊を意味する象徴的な出来事と捉えていますが、憲法はその時点ではまだ生き残っていたと考えています。なぜなら1990年の憲法は、国王派と活動家たちとの妥協でできたもので、完全な民主主義憲法ではなかったからです。しかし今年の5月下旬から6月にかけてのチャンド首相辞任からタパ首相就任にいたる出来事で、憲法も崩壊したと考えますが、この捉え方は正しいでしょうか? 次に現在憲法が実質機能していない状況ですが、現在のネパール憲法議論についてどうお考えでしょうか。私は、民衆が今一番望んでいることは平和である、マオイストの支持基盤の広さから考えて、政府は君主制維持の条件付で、憲法制定会議に応じるべきであると思います。ただ難しいのは双方の軍隊の扱いですが。 次に、2001年王族殺害事件についての位置づけですが、現在の状況を見る限りあの事件は、国王の権限を強めたと見ていいのでしょうか。 次にその王族殺害事件についてですが、2年たった今、あの事件の真相をどのように見ることができるでしょうか。このことは推測の域を出ないと思うのですが、私は現状を見ると、急速に影響力を非常に強めるようになったアメリカの関与が疑われると思います。あのような大規模な事件を起こせる勢力はこの地球上にそう多くはないと思いますが、アメリカはその種の事件の「前科」がたくさんある国です。 最後に、90年の民主化は、どの程度、「ネパール国内の勢力による革命」だったといえるでしょうか。 以上、お答えいただけたらうれしいです。 よろしくお願いします。

030831 高官攻撃リスト――都市攻撃へシフトか?

マオイストが都市攻撃へ戦略転換し始めたようだ。カトマンズポスト(8/31)によれば、軍・官・政治家ら要人217人がマオイストの攻撃リストに記載されているという。あり得ることだ。

これまでにマオイストは地方から有力者をほぼ追い払い、地方の実効支配を確立した。地方を追われた有力者は、 NCもUMLも役人もみなカトマンズに避難した。マオイストが彼らを含むカトマンズの有力者たちを次の標的にするのは当然だ。

すでにカトマンズでも有力者たちの安全は保障されていない。「多くの軍高官が役所に公用車を残し、私服に着替え、公共交通機関で移動している」(カトマンズポスト)という。

一方、「治安要員(兵士・警官か?)も、私服でカトマンズ谷に厚く展開している」(同上)という。

攻撃のターゲットとなっている要人も、治安を守る兵隊や警官も一般市民の中に紛れ込んでいるのだ。

これは危ない! 攻撃されたら、市民も外国人もない。マオイストがもし本当に217人を攻撃し始めたら、カトマンズが市街戦になりかねない。

地方要人がカトマンズに避難したように、今度は彼らが外国に避難するのであれば、まだ一般市民の被害は少なかろうが、外国への脱出はたとえインドであっても容易ではない。

27日の停戦破棄以後のマオイストの作戦を見ると、人民戦争の理論通り、都市攻撃に移ったように見えるが、もちろんまだ断定は出来ない。

私たちとしては、少なくともマオイスト側の意図がはっきりするまでは、最悪の事態を想定して行動すべきであろう。


030830  国王渡英と停戦破棄

国王夫妻の長期不在と和平交渉決裂・停戦破棄を無関係と見るのは不自然だ。

国王夫妻は「どこも特に悪くない」のに、この8月24日から9月10日まで、健康チェックのため渡英された。

和平交渉は停滞し、あちこちで衝突が起こり、8月17日には軍がマオイスト19人を殺すという大事件が起きた。国王の渡英決定がいつか分からないが、この緊迫した状況下での渡英は不自然だ。

8月24日の渡英後、なにが起こったか?
(24日)バブラム・バッタライ、実質的な「最後通告」/コイララNC党首「王宮の警備兵3000人は共和派で、王族警備の意志はない」旨の発言。王宮ピケの呼びかけ/各地で戦闘/警察、マオイスト6名逮捕
(25日)各地で戦闘
(26日)デウバ元首相襲撃
(27日)マオイスト、停戦破棄通告/各地で戦闘激化
(28日)マオイストの「テロリスト」再指定/米日、マオイストの停戦破棄非難/各地で外出禁止令/国軍高官2名襲撃される/ロルパで戦闘/ダンで銀行襲撃
(29日)前・内務省副大臣襲撃される

国王渡英と並行して、これだけの大事件が起こった。帰国予定日まであと10日もある。しばらくは首都を中心に、十分用心して行動すべきだろう。


030828  カトマンズ攻撃

マオイスト・ゲリラが28日、市街中心部の New Baneshwar と Samakhusi で、軍高官2名を襲撃、重傷を負わせた。

都市部攻撃が拡大するか否か、要注意だ。


030827 停戦破棄!

プラチャンダ議長が27日、停戦破棄を通告。人民戦争が再開される見込み。

今後の展開はまだ不明だが、マオイスト理論からすると、そろそろ都市攻撃もありうる。ご用心ください。


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