時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2004年a (→Index

040327 マオイスト民族主義,ネパール分解へ?
040325 ポカラ封鎖へ
040323 ベニ戦:マオイスト勝利/住民死亡/国王訪問
040322 ベニ・バザールの惨事
040308 さらにまたバス爆破
040307b そしてまた区役所爆破
040307a 今度はレストラン爆破
040306 タメルのゲストハウス爆破
040305c パタンで時限爆弾
040305b 近代化は戦争から
040305a 庶民,旅行者を脅かす武器援助拡大
040218 入管スパイ局
040216 マオイスト活発化:バス銃撃,バクバザール暗殺ほか
040215 国王夫妻,中西部歴訪
040206 本音ポロリの武器輸出解禁論
040130 日ネ友好を妨げるゴビンダ事件
040129 タイムの「不敬罪」国王インタビュー
040127 自衛隊イラクへ(長崎新聞)
040125 ネパール猿軍,インド大使館襲撃
040121 インテリがつくるネパール史
040118 憲法の布教禁止規定
040117 キリスト教への敵意
040115 そして日本製武器も・・・・
040114 M16ライフル,マオイストへ
040112 拉致行方不明者808人
040111 町村自警団の愚策
040105 外からと内からと
040104b KP・バタライ氏入院
040104a トヨタの野望
040103 タマンの怒り
040102 デゥーリケル初詣
040101 危機の王制


040327 マオイスト民族主義,ネパール分解へ?

マオイストが危険な劇薬に手を出した――民族だ。全国を民族ごとに9分割し,それぞれを自治州(Autonomous Region)にすると宣言した。

Kirant Autonomous Region
Madhes --
Tamsaling (Tamang) --
Newar --
Tambuwan --
Magarant --
Tharuwan --
Bheri-Karnali --
Seti-Mahakali --

しかし,これがいかに危険かはいうまでもない。ネパールは民族混在であり,こんなことをすると,必ず激しい民族紛争,民族浄化が起こる。たとえば,カトマンズ盆地をネワール州にすると,タマン族は弾圧され,隣のタマン州に移住を強いられ,どうしても移住できない人は「浄化」される恐れがある。他州についても同じことだ。

民族は劇薬だ。インドでは,印パ分離独立の時の大惨事があり,今も民族紛争は絶えない。旧ユーゴのおぞましい民族浄化は周知の通りだ。聡明なマオイスト指導者たちがそれを知らないはずはない。しかも本来マルクス主義は超民族の「階級」が大原則のはずだ。それにもかかわらず,なぜ「民族」に手を出してしまったのか?

当初からマオイストは「民族自治」を掲げていたが,それが前面に出始めたのは今年に入ってからだ。マオイストはもともと民族運動だったのか? それとも,何らかの事情で即効性のある劇薬に手を出さざるを得なかったのか?

今のところ,いずれとも判然としないが,後者の可能性が高い。それは,国王によるネオ・パンチャヤト型国民統合強化への対抗策であろう。国王が「民族」を超える「国民統合の中心」たろうとして国内各地を精力的に巡幸し始めたのに対し,マオイストは「民族」によりそれを阻止しようとしているのだ。

「国王」か「民族」か? 現在では,もちろん「民族」の方が求心力は圧倒的につよい。マオイスト民族主義の勝利は間違いない。が,この民族主義には未来はない。敵がいなくなれば,諸民族はバラバラに分解し,止めどもない民族紛争の泥沼に陥るだろう。

一方,これを恐れる外国勢力が国王を支援すると,劇薬を飲んでしまった不屈の民族諸集団を政府が強権で弾圧し続けるということになる。いずれにしても,庶民にとっては悲劇だ。

誰の責任か? もちろん,議会政党だ。そして,最新流行の多文化主義を補助金付きでネパールに輸出し,民族主義をあおり立て,あぶく銭を得てきた先進国の無責任な「知の商人」たちだ。「知の商人」のあとに「死の商人」がくる。


040325 ポカラ封鎖へ

マオイストがポカラを封鎖しつつある。ビルガンジやバイラワからのトラックが阻止され,すでに砂糖,塩が不足し,50%値上がりしたという。灯油もない。ローカルバスも3台の焼き討ち以後,ほとんど走っていないそうだ(Nepali Times,188)。

ネット報道ではよく分からないが,状況はかなり悪そうだ。マオイストにとって,ポカラも例外ではない。


040323 ベニ戦:マオイスト勝利/住民死亡/国王訪問

ベニバザールの交戦は,22日の報道によると,当初の軍発表とは違い,マオイストの優勢ないし勝利であった可能性が高い。内務省発表でもカンチプルTV発表でも,政府側の行方不明者を入れると,人員の損失は大差ない。しかも,政府側は大量の武器弾薬を奪われ,数十人を連行され,その中には郡長官S・M・パラジュリや警察副所長R・B・ゴータムまでも含まれている。まだ断定は出来ないが,夜間のゲリラ戦という状況を考えるなら,マオイスト軍優勢とするのが自然だ。

この戦闘で悲惨だったのは,予想通り,住民に13人もの犠牲者が出たことだ。実際にはもっと多いかもしれない。ベニバザールは小さな村だそうだが,そこで13人も殺された。両軍が,無差別に乱射したにちがいない。恐ろしい。

このベニ攻撃が,28日に予定されている国王のポカラ公式訪問への先制攻撃であることは明白だ。国王は,ネオ・パンチャヤト制樹立のため,ネパールガンジなど各地を歴訪,大規模な官製国王歓迎国民集会を開催している。

28日のポカラ国王歓迎会は,「ポカラ・スタジアム」で挙行の予定。政府は軍や警察を総動員し,近隣住民を大量動員して,国王の威光を示そうとするだろう。これに対し,マオイストはバンダ,脅迫,連行,爆弾など,あらゆる手段でこれを阻止しようとするにちがいない。それは,ネパールガンジなど他の国王訪問地で十二分に実証されているとおりだ。

国王にとって,もはや観光業なんかどうなってもよいのだろう。もし予定通りポカラ訪問を強行すれば,ポカラは危険地帯になる。物見遊山どころではない。観光シーズン真っ只中だが,こんなところに観光ツアーにいく勇敢な団体はあるまい。エベレストと比べるなら,より安全ではあろうが・・・・

    <ベニ戦の犠牲者数>

 (情報源) (政府側・軍/警察)(マオイスト側)(民間人)(行方不明)
軍・グルン大佐  18(7/11)        500     -      -
内務省報道官   28(14/14)      40     -      -
カンチプルTV    30(16/14)      112     -     57(警官)
マオイスト      150            40      -   30-40(政府側)

*出典:Nepalnews.com, Mar22; Peoples Review 03/18032004


040322 ベニ・バザールの惨事

3月20−21日,ベニ・バザールで大規模な戦闘があり,多数の死傷者が出たようだ。詳細はまだ不明だが,国軍報道官D・グルン大佐によると,死者は国軍18名,マオイスト軍500人という(Nepalnews.com,Mar24)。

が,常識からいって,こんなことはありえず,甚だしい誇張か,ウソである(説明通りなら,訂正しお詫びする)。

交戦は,20日夜10時半頃から翌朝10時半頃まで継続し,その間,暗視装置付き武装ヘリ6機も参戦したという。国軍守備兵は約1000人。そこを攻撃するのだから,マオイスト軍も相当の兵力だったはずだ。しかし,それにしても,夜間の戦闘で敵を一挙に500人も戦死させることが出来るのだろうか? 国軍が攻撃を予知し待ち伏せしていたとも考えられるが,情報漏れはマオイスト軍も計算済みだろうし,待ち伏せくらいにはゲリラ戦に長けたマオイスト軍は十分に対応できるはずだ。そもそもヘリ6機であわてて援軍を送ったのを見ても,攻撃を十分に察知していたとは考えられない。

常識でいえば,500人殺害がウソか,500人が本当なら,その500人の相当数がマオイスト兵ではないか,のいずれかである。「500人殺害」が国軍のメンツを守るためのネパール式大本営発表なら,まだ救いはある。もしそうでなく,後者なら救いようのない大惨事だ。

夜間の戦闘では,いくらネパール兵の目がよくても,敵を見分けるのは難しいだろう。ベニ・バザールの住民が巻き込まれたのではないか? あるいは,「人間の盾」のようなものとして同行させられていた近隣の住民が殺されたのではないか? 人民「戦争」をやっているのだから,兵士同士であれば,何千人,何万人死のうが,覚悟の上だから仕方ないとも言える。が,犠牲になったのが,非戦闘員だったとしたら,これは絶対に許されない。

また,この交戦については,外国人が巻き込まれていないかどうかも気になるところだ。ベニ・バザールのことはまったく知らないが(ご存じの方,お教えください),ポカラの近く,アンナプルナ周辺らしい。外国人観光地域といってもよいのではないか? ベニやその周辺に,外人トレッカーがいても不思議ではない。そんなところで,夜間,激しい交戦が続いた。おそらく,無差別の乱射状態だっただろう。外人がいても,識別できる状況ではない。 詳細は今後の報道に待たねばならないが,惨事には違いない。こんなことをしていると,ネパールは崩壊する。政府もマオイストも5政党もそれは望んでいないはずだ。議論はあとにして,とにかく停戦を!


040308 さらにまたバス爆破

今度は,7日午後,ラトナパーク旧バス停のバスが爆破された。駐車中のバスらしいが,歩行者3人が負傷し,ビール病院に運ばれた(KOL,Mar7)。

これは,よほど注意しなければならない。もちろん日本でも毎日交通事故死があるから,それより安全という考え方もあるが,そうは考えられない人は,くれぐれもご用心ください。


040307b そしてまた区役所爆破

KOL(Mar7)によれば,今朝,カトマンズのダマイ・トーレ第19区役所前で爆発。また2人組。マオイストだとすると,指令に基づき,市街地の目標をいくつか定め,組織的に2人組で連続爆破しているのではないだろうか?


040307a 今度はレストラン爆破

今朝またまたKOL(Mar6)を見たら,今度はカトマンズのレストランが爆破されていた。ナヤ・バザールの「サンシャイン・キャビン」レストラン。

午前11時45分頃,青年2人が入ってきて,食事後,トイレに行き,代金を払わずに店を出た直後に,トイレで爆発した。先のパタン,タメルと同じく,マオイストの犯行らしいが,詳細は不明。

昨日爆破されたタメルのゲストハウスは,報道によるとホテルというよりはマッサージ・パーラーらしい。ひょっとしたら,マオイストに狙われるような「サービス」をしていたのかもしれない。ご存じの方はお教えいただきたい。

今回のレストラン爆破も,単なる食い逃げか私怨でなければ,協賛金拒否か何かの理由があったのだろう。

いずれにせよ,役所,ホテルに続くレストラン爆破であり,旅行者にとっても怖いことだ。


040306 タメルのゲストハウス爆破

一夜明けてまたKOL(Mar5)を見ると,今度は,タメルのホテルが爆破され,警官1人,民間人1人が怪我をした。

「クラシック・ダウンタウン・ゲストハウス」がどのようなホテルか知らないが,マオイストらしき2人組が夕方7時15分頃侵入し,201号室に手製爆弾を投げ入れた。

特定の部屋を狙ったようなので,マオイストだとするとその部屋に宿泊していた「人民の敵」を狙ったのだろうし,そうでなければ私怨であろう。いずれにせよ,ホテル攻撃だから,もう「タメルは外人租界」なんて呑気なことはいっていられない。

ネパールでは,人民戦争のおかげで,武器や爆発物の使用がますます日常化してきた。国軍は,軍事援助と国費で組織的な殺人教育に励み,マオイストは成人教育だけでなく,少年少女への殺人早期教育さえ導入しているらしい。しかも,「平和ぼけ」日本国軍とちがい,戦場での実践教育を取り入れているから,教育効果は抜群だ。

銃は,いくら最新式でも,「神秘の館」王宮以外では,勝手に発射し人を殺したりしない。ユネスコ憲章がいうように,「戦争は人の心の中で生れる」とすれば,全国あげての殺人教育で暴力主義の国民精神が出来てしまうと,もはや地獄を見るまで,暴力拡大は止められないかもしれない。

とにかく停戦,先を考えるのはそのあとでよい。


040305c パタンで時限爆弾

いまKOL(Mar5)をみたら,パタンで午前9時45分頃,時限爆弾が爆発。仕掛けたのはマオイスト2人(1人は女性)。

本格的にイラク化しなければよいが。


040305b 近代化は戦争から

anuさん,ネパール空爆情報ありがとう。

この爆撃は,敵国人民政府領(ベリ・カルナリ自治区)だし,死傷者も敵国民だから,これは「誤爆」ではなく,戦意をくじくための広島・長崎への原爆投下と同じく,「正当」な行為なのだろう。

2頭の水牛君は気の毒だったが,敵に協力して働いていたのだから,仕方あるまい。

ネパールの発展は遅々として進まないが,戦争技術だけはめざましく近代化し発展している。やはり,近代化は戦争からだ。戦争が,ネパールを近代化する!


040305a 庶民,旅行者を脅かす武器援助拡大

アメリカのコファー・ブラック無任所大使によれば,アメリカは王国軍へのさらなる武器援助を準備中だ(KOL,Mar4)。ブラック大使は,国務省反テロ局企画調整官でもあり,国軍高官と会談し,人権への配慮を求めたものの,武器援助はするという考えだ。

ブラック大使によれば,今のところマオイストはアルカイダとの関係はないようだが,南アジアの共産諸勢力とは連携しており,ネパールと南アジアにとって大きな脅威だ。

ブラック大使の考えは,おそらくこれまでの武器援助により国軍が優勢になってきたので,さらに武器援助を継続し,マオイストを封じ込め,根絶しようということだろう。

しかし,バブラム博士も力説するように,人民戦争は主体的「意志」の戦いでもあり,武器で根絶することは出来ない。国軍が近代化すればするほど,人民軍は本来のゲリラ戦に戻り,非近代的な対抗戦術を多用する。パレスチナ,アフガン,イラク型のゲリラ戦だ。これにはいくら近代兵器を用いても,いや,正確に言えば,高度な兵器に依存すればするほど,対処が難しくなる。比較的安全になるのは国軍兵士だけであり,儲けるのはアメリカの兵器産業と,おこぼれに与る死の商人だけだ。

マオイストの戦術変化の徴候は明らかだ。顕著なのは,地雷の多用。新年に入ってからの死傷原因を見ると,地雷によるものが目立って増えてきた。国軍は武装ヘリを投入し,低空だと地上から撃たれるので,安全な高空から爆弾を投下するようになった。これにはマオイストは手も足も出ない。近代装備の国軍との陸戦でもますます劣勢となった。

そこで,誰でも思いつくのが,貧者の武器,地雷だ。まだ遠隔操作が多いようだが,これも危ないので,そのうち国軍の通りそうなところに地雷を敷設するようになるだろう。あるいは,郡人民政府の「国境」や,「タルー自治領」の「国境」付近に地雷原を設置することになるかもしれない。丁度,国軍が駐屯地の周辺に地雷原をつくっているのと同じように。

これは,住民や旅行者にとって危険きわまりないことだ。高空からの爆弾投下による「誤爆」報告はまだないが,米軍の精密誘導爆弾でさえ「誤爆」だらけだから,国軍の空軍近代化が進めば進むほど,庶民や旅行者の危険は大きくなる。トレッキング中に上空に軍ヘリが飛来したという話しは多い。高空から,トレッキング隊と平服人民軍部隊をどう識別するのか? 情報先進国アメリカでさえ,結婚式を誤爆したり,大量破壊兵器があるといって爆弾の雨を降らせたのだ。安全圏からの攻撃という卑怯な作戦は,攻撃への敷居を低くし,誤爆,誤射を多発させる。

また,地雷や時限爆弾が旅行者を識別しないことは,これまでにも繰り返し警告したとおりだ。

武器援助が,庶民や旅行者の危険を増大させるのは,マオイストが革命意志を放棄しない限り,自明の理である。


040218 入管スパイ局

いま入管が面白い。入管HPの「情報受付」に入ると,そこはスパイ,密告天国。「情報」とは information,つまり「スパイ」「密告」のことだから,正確に訳せば,「密告受付」となる。あなたもスパイになれる!

だれを密告するか? もちろん,このHPと直接,間接に関係ある外国人,つまりあなたの身の回りの人々だ。残念なのは,本場アメリカの「テロリスト情報」のように懸賞金が明示されていない点だが,スパイ報酬はたいてい裏金だから,重要情報にはきっと大金がもらえるのだろう。頑張ろう!

匿名も可だが,相手はスパイ局,自宅や職場のPCから送信すれば,送信者は丸見え,全部記録されている。パソコン通以外は,これは避けた方がよい。街のネット屋さんや公共機関設置のPCを拝借するとよい。

私も早速,密告しようと思っている。これは重要情報だから,きっと1億円くらいくれるだろう。楽しみだ。
(通報動機)不安
(状況)近所を徘徊
(国籍)火星らしい
(氏名)マースと呼ばれている
(人数)4〜6名
(場所)長崎駅前西通路付近
(住所)不明
(電話)テレパシー利用のようだ
(業種)ヒト堕落の現状調査らしい
(営業時間)薄暮〜未明
(休業日)火曜
 ・・・・以下,指定入力項目は詳細だが,割愛。

<入管HP>
http://www.immi-moj.go.jp/index.html

<情報受付>
http://www.immi-moj.go.jp/cgi- bin/datainput.cgi


040216 マオイスト活発化:バス銃撃,バクバザール暗殺ほか
●バス銃撃
 速報によると,15日東部で旅客バスが銃撃され,4人が死傷した。死者2人のうちの1人は9歳の少女(KOL, Feb15)。無差別銃撃らしく,地雷と同様,外人特権はありえない。外人は数が少なく,たまたまタマに当たらないだけだ。

●バグバザール暗殺
 ネパール通にとっては,もっと怖いのが,バグバザール暗殺。マオイスト犠牲者協会(MVA)の会長が,カトマンズのど真ん中のバグバザールにある協会事務所で,まだ明るい15日夕方5時頃,射殺された(KOL, Feb15)。
 13日の反マオイスト集会でプラチャンダ議長とバタライ博士の肖像を火刑に処したことへの報復らしいが,これは他の平和運動への威圧でもある。内戦犠牲者救援活動ですら,反マオイスト的と見られたら,攻撃されるかもしれないのだ。

●大量連行,再教育
 西部方面では,マオイストが非協力的な村人を数百人単位で強制連行し,再教育しているようだ。
 13−14日には,アッチャム郡バイカーレ村から400人の女性が連行された。同郡内で先週連行された人々のうち700人は,人民政府への協力を条件に解放されたという(KOL, Feb15)。これだけの大量連行,再教育は,マオイスト組織が相当強固でなければ不可能だ。

●国王夫妻の交戦地歴訪
 交戦も,シンズリ,ゴルカ,カリコットなどで断続的に続き,戦死者が毎日のように出ている(KOL, Feb15)。
 その渦中に,国王夫妻は中西部を歴訪し,歓迎を受けている。・・・・??


040215 国王夫妻,中西部歴訪

国王夫妻が,マオイスト本拠地「中西部」を精力的に歴訪している。15日はピュタン郡,16日はロルパ郡。歴訪の意図な何だろう。

鎮圧の成果としての,安全誇示か? それとも,人民政府と手打ちがなり,人民パンチャヤト制への移行準備か? 90年以前のパンチャヤト制も共産党系に支持されていたのだから,ピンク政権成立の可能性も否定できない。

2月18日はもうすぐ。何かあるかもしれない。


040206 本音ポロリの武器輸出解禁論

やはり出た! 石破防衛庁長官談話(No.3278参照)につづき,経団連の武器輸出解禁論(朝日2/5)。武力自衛を考えるなら,兵器自給は大前提。武器生産には膨大な開発費と生産体制維持費が必要だ。内需だけでは引き合わない。

カラシニコフ(AK)は世界中に1億丁出回っているそうだが,それでもイマシュ社の広報担当者はこういっている。

「日本にうちのAKを買って欲しい。わずかな数の小銃を国産していたのではコストが高くなる。・・・・AKは信頼性があって値段も安く,自信を持って進められる商品だ」(朝日 2/5)。

ロシアですら大量生産しなければコストがあわない。ましてや日本は・・・・。

ネパールは金がないから無関係と思われるかもしれないが,そうともいえない。日本には膨大なODA予算があるが,ちまたでは効果がないから見直せ,との声が出始めた。効果の薄いODA予算を武器援助に回せば,援助の「政治的効果」は大きいということにだってなりかねない。

たしかにODAでダムや道路などを造っても,最近では競争激化でたいして儲からない。ましてや教育援助,民主化援助などは,出費一方だ。

これに対し,武器援助は効果大の上に,軍需産業は丸儲けだ。紛争地や交戦地が絶好の市場。たとえばネパールにはすでにAK,M16,Minimi(ベルギー)など,先進国製の武器が出回っている。日本はせっかくの商機を逸しているのだ。「普通の国」になったのだから,商品としての武器を売っても援助してもよいではないか。

そんなことはあり得ないと批判されそうだが,第9条があってもイラク戦争へ派兵する国だ,あり得ない話しではない。沿道の打ち振られる日の丸に送られ,自衛隊員は出征していった。経団連も世界平和のために貢献したいのに違いない。


040130 日ネ友好を妨げるゴビンダ事件

年末年始のカトマンズ滞在中,相当数のネパール人と話しをした。大学教育を受けた人が大半だから,教養市民層といってよい。

彼らと話していてゴビンダ事件にふれると,ほぼ例外なく事件について知っており,強い関心を示した。彼らにとって,最高裁判決で事件は終わったのではなく,まだ継続中なのだ。

それは当然で,彼らはゴビンダ氏=人種差別裁判の被害者と考え,怒っているからだ。ネパリタイムズ年末年始号(176)も,大きなスペースを割き,人種差別裁判の観点からゴビンダ事件を報道している。加害者は忘れても,被害者は決して忘れない。ゴビンダ事件は,日ネ友好に突き刺さったトゲだ。

ネパールにおいてゴビンダ事件への関心(怒り)が継続し,むしろ深化しているのは,「無実のゴビンダさんを支える会」の支援活動によるところが大きい。日本語での国内だけの運動は,影響力が限られ,そのうえ少なくとも潜在意識としては,いやなことは早く忘れたいと思っている加害者側の日本人には,なかなか賛同してもらえない。しかし,「支える会」の英語による様々なアピールは,ネパールでその都度報道され,そして世界に広がりつつある。国際的発信力は,残念ながら,日本よりもネパールの方が大きい。英語帝国主義はケシカランが,ここは涙をのんで敵性言語を使用し,訴えざるを得ない。

今のところ,最も有力な武器は,「支える会」の英文リーフレット”Justice For Govinda”である。私も,友人知人に紹介しているが,反響は大きい。

が,残念なのは,価格である。小冊子500円は少し痛い。日本からだと送料もかかる。そこで提案だが,すでに日本で印刷出版され,原価は計算上消却したのだから,出版権(著作権ではない)を放棄し,自由に複製出版できるようにしてはどうか。ネパール国内であれば,1部100ルピー(140円)以下,おそらく30〜60ルピー(40〜80円)くらいで出版できるはずだ。60円としても100部で6000円。私費で購入し,何かの会の折りに配布し,アピールすることも容易だ。「支える会」には,ぜひ検討していただきたい。

ゴビンダ事件のトゲは,どうなるか? 一番よいのは,再審無罪判決により,トゲを抜き去ることだ。それが出来なければ,トゲがいつまでもしくしく痛み続け,そのうち周囲が化膿し,腐敗した肉片と共に抜け落ちることになる。自然治癒で,致命傷にはならないが,相当の犠牲と後遺症が残る。あるいは,最悪のケースだが,放置したトゲが体内に少しずつ入り込み,致命傷となることもありうる。

“Justice For Govinda”をネパールで大量配布することについては,ネパール好きの人々は賛成されないかもしれない。日本政府が喜ばないことは明白だ。「反友好的行為」と非難されるかもしれない。しかし,このトゲは,少し痛いであろうが,いま思い切って抜く努力をした方がよいと思う。


040129 タイムの「不敬罪」国王インタビュー

TIMEasia (Jan26,2004) が,ギャネンドラ国王インタビューを載せているが,これがとんでもない代物,不敬罪ものだ。ビシュヌの神罰を受けるでもなく,米帝国主義宣伝紙のスキャンダル記事に利用されている。ここまでコケにされてもインタビューに応じざるを得ないのは,国王がそれだけ追い詰められているからであろうか? (以下,要点意訳)

T(タイム): あなたは,兄の故ビレンドラ国王とは,まるで逆だと見られているようだが?
G(ギャネンドラ国王): あまりにもひどい誤解だ。兄は親切を弱さと見られ,さんざん利用されたが,いまでは多くの人が,兄が平和愛好,開発志向だったことに気づいた。私もそうだ。分かって欲しい。
T: 2001年6月1日夜,何があったのか?
G: 私こそ知りたい。ここにはいなかったのだ。報告書によれば,犯人ははっきりしている。陰謀説はナンセンス。
T: 不幸な状況で王位につかれたが,正統性はあるとお考えか?
G: もし皇太子が生命をとりとめていたとしても,彼が受け入れられたとは思えない――すべて事実が知られているのだから。
T: 王族の多くが殺されたこの王宮に住むのは不快だと思うが?
G: 30年前の結婚の時この王宮を離れて以来,ここに戻るとは思いもしなかった。
T: 生き神様の気分は?
G: そう聞かれると思った。ビシュヌ神の化身としての役割だ。私は,自分が神だとは一度もいっていない。

実に失礼なインタビューだ。暗に「あなたが王族殺害事件の犯人だと疑われているが?」とさえ,質問されているのだ。不敬罪で死刑になっても不思議ではない。

国王の権威は地に落ちた。もう駄目かもしれない。おしい。残念だ。


040127 自衛隊イラクへ(長崎新聞)

   <自衛隊イラクへ――非軍事で実績重ねるべき>

この派遣は違憲。派遣先は戦闘地域であり、イラク特措法にすら合致しない。ところが反対する勢力、あるいは護憲派は説得力のある対応策を示せていない。この国民意識の状況では派遣はおろか、憲法改正すらできかねない。

冷戦が終わり、正規戦の時代は去った。戦争はテロ、内戦といった形態をとる。その多くは貧困、差別、偏見などのいわゆる「構造的暴力」が背景にある。この構図はアフガニスタンやイラクだけでなく、ネパールにも当てはまる。

貧困の国ネパールは今、激しい内戦の渦中にある。グローバル化で貧富の差が広がり、諸民族の自己主張も絡み火がついた。ここ数年に限っても政府側、反政府勢力を合わせた死者は八千人を超える。状況は悲惨だ。外国の仲介が必要とされているが、米国はここでも政府側への武器援助という愚を犯している。この米国や隣接の中国やインドは利害の当事者であり仲介役になれない。中立が明らかで、対ネパールのODA(政府開発援助)も世界一の日本は、いい感情を持たれている。適役なのだ。

戦闘停止のテーブルをつくるだけでもネパール国民の、そして国際的な評価は高まる。イラクは石油があるから支援する、ということではないはず。人道支援と言うなら日本はネパールにも関与していい。日本にできることはあるのだ。

憲法前文を語って派遣を正当化する小泉首相の論理はひどい。日本のイラクへの関与の仕方は間違っている。軍事力によらない平和構築の現実策はある。そこで日本にできる国際貢献の形もある。大事なのは非軍事で実績を重ね、それを世論に問うことだ。(谷川昌幸,長崎新聞,2004年1月27日)


040125 ネパール猿軍,インド大使館襲撃

ネパール猿軍(40匹弱)がインド大使館を襲撃し,かなりの損害を与えた(Washington Post, Jan14)。彼らが,ネパール猿のナショナリズムに目覚めたのか,あるいは怒れるネパール人にそそのかされたのか,そこのところは不明。

いずれにせよ,ネパールでは猿ですら政治化し,インド帝国主義へのゲリラ攻撃を敢行するのだから,すさまじい。申年謳歌の飽食「平和ぼけ」日本猿には,ネパール猿の厳しい現実は思いも寄らないだろう。


040121 インテリがつくるネパール史

マスクス先生や民衆史家には叱られれだろうが,ネパールにおいては,インテリや権力エリートが圧倒的な影響力を持ち,ネパール史を造形している。

周知のように,歴史historyとはHis-storyのことであり(異説あり),His(彼=神)の物語,そしてHisの代弁者たるエリート男性の物語であった。つまり,「歴史的事実」はエリートがつくるのであり,歴史は彼らのものだ。

ネパールのエリートがいかに強力か。これも周知のように,信者はエリートが創り出し,操作している。
 ・役人: パシュパチナートに行ったことがあるか?
 ・庶民: はい。
 ・役人: じぁ,ヒンズー教徒だな。
こうしてヒンズー教徒90%の「歴史的事実」がつくられる。そして,9割もヒンズー教徒がいるのなら,ヒンズー教国でよいし,布教禁止憲法も必要だ,ということになる。

マルクス・毛沢東両先生の弟子も同じことをしている。
 ・農民: 先生,生活が苦しく,やっていけません。
 ・バブラム先生: それは米帝国主義寄生半封建的半植民地的資本主義的階級的搾取のせいだ。
 ・農民: ?・・・・??
 ・B先生: つまり,政府のことだ。地代,利子ばかりか,君らの税金や援助までもネコババし,贅沢三昧している役人,政治家どものせいだと思わないかね。
 ・農民: 思います。本当に,ひどい奴らだ!
 ・B先生: それが分かれば,君は立派なマオバディだ。共に闘おう!
こうして,マオイスト運動という「歴史的事実」がつくられる。

インテリや権力エリートが庶民に影響を与えると言うよりは,彼らこそが人々の宗教やイデオロギーを造形し,動きを方向づけているのだ。先進国の場合は,様々な対抗インテリがいるので,庶民はインテリを競争させ,その中から選ぶそこそこの自由がある(と思わされている)。ところが,ネパールの場合,インテリはほぼ上位カーストの独占だし,庶民にはインテリ選択の経験が乏しい。まざしくfatalismで,ネパール庶民は宿命的にそのもとにある有力インテリの意のままにヒンズー教徒やマオイストに造形されざるを得ないのだ。

こんな風にいうとネパール庶民は無知蒙昧だと誤解されるが,そうではない。インテリや権力エリートと庶民の関係は本質的にはどこでも同じであり,形態が異なるだけだ。ネパール農民と日本農民のいずれがより多くの知恵を持つとも言えない(知恵の種類は異なる)。マオイスト民兵の毛沢東理解度と日本企業戦士の A・スミス理解度はどちらが上とも言い切れない。また,インテリ・権力エリートの主体性も,別の次元で問題となるが,それはややこしいので別の機会に述べることにする。


040118 憲法の布教禁止規定

ヒンズー教へは生まれつくのであって,改宗は出来ないとするなら,憲法19条は他宗教の布教禁止規定である。(ヒンズー教への改宗がなかったとは思わないが,ここでは論じない。)

ネパールの老獪な法律家や政治家たちは,強制ではなく自由意志による自主的改宗(信教の自由)は憲法で認められているといって人権にうるさい西洋諸国の目を欺きつつ,低開発を理由に自国民の自由意志を否定し,実際には布教の自由をほぼ完全に否定している。見事な三百代言だが,そうせざるを得ない彼らの苦しい事情はよく理解できる。

私自身を例に説明すると――
 ・鰯頭教徒: 汝,「鰯の頭」を神とせよ。
 ・私: くだらん。
 ・鰯: わが礼拝には,美女と酒が一杯だ。
 ・私: 行ってみようかな。
 ・鰯: 入信すれば,教団つながりで,就職も出世にも有利だ。
 ・私: そんなに有り難いものなら,入信しよう!

これは,どの段階まで,自由意志を尊重した布教といえるか? 「鰯の頭」説教か,「美女と酒」か,「就職と出世」か? そんな信仰は本物ではないといわれるかもしれないが,そうではない。現世利益があれば,「鰯の頭」も立派な神となり,人は心から信じるようになる。

鰯の頭だって神になるのだから,本物の神様の場合,ヒンズー教徒にとっては,何万倍も恐ろしい。現世利益で誘われたら,ネパール庶民はコロリだ(と権威ある憲法学者が言っている)。つまり,それが,憲法で禁止されている改宗勧誘行為なのだ。

具体的に何が禁止されるかは,状況によって決まる。アメ玉1つでも,改宗効果があれば,強制改宗として禁止されるだろうが,外国語の他宗教文献は,邪宗抵抗力のあるヒンズー教知識人しか読まないので,許される。先の権威ある憲法学者によれば,「布教の下心を持つ宣教師がネパール人ガイドを雇いチベット旅行をすることは憲法が許さない」そうだ。

改宗者が少ないから憲法19条はまだ仮眠しているが,もしキリスト教,イスラム教,仏教――いずれもカースト制を認めない――への改宗が増え始めたら,この布教禁止規定は目覚め猛威を発揮するだろう。


040117 キリスト教への敵意

年末年始2週間カトマンズとその周辺を見て歩き,人心の変化に驚き,このボードでも報告してきたが,一つ,どう評価すべきか迷っていた問題が残っていた。キリスト教への敵意の高まりである。

▼布教禁止の憲法規定
 キリスト教の布教は,憲法第19条で事実上禁止されている。ネパールでは,ラナ政府がイギリスに保護されながらもキリスト教を警戒し,開国・王政復古後も,いやそれどころか1990年民主化以後も,憲法に見られるように,その姿勢を貫いた。ネパールが植民地化を免れ,世界唯一のヒンズー教国として国民統一と独立を維持し得た理由の一つは,敬虔なキリスト者には叱られるであろうが,このキリスト教布教禁止かもしれない。

▼敵意の高まり
 キリスト教嫌悪は,インド嫌悪と同じく,ネパール人の精神構造に深く組み込まれており,誰と話していても折に触れ現れ出る。学校で教えられているわけではなかろうが,批判はワンパターンである。キリスト者やキリスト教系団体は,援助や金品を分配して人々を手なずけ,集会に誘い,そして改宗を迫る,油断ならない,というもの。
 この種の非難は以前からあったし,だからこそ憲法で改宗勧誘を禁止したのだろう。したがって,そうしたキリスト教批判そのものには驚きはしなかったが,今回はそれが従来とは比較にならないほど激しくなっていることに驚き,そして心配になった。

▼アイデンティティの強制
 <カースト>先進国のお節介な近代化の押しつけで,ネパールの有機体的統一性は分解され,分析・分類され,それぞれの部分はアイデンティティの明確化を強制された。Publish or Perishの強迫観念にとりつかれた利己的で不幸な先進国学者たちによって,カースト・アイデンティティを自覚・確定され,「科学的な」カースト別統計さえ公刊された。こんな醜悪な統計調査を計画し,実行し,公表したのは,いったい誰であろうか? ネパール人自身ではないはずだ。
 <民族>そして,そうしてバラバラにしておいた上で,新=善=真という偏見にとりつかれた新しがりやで身勝手な先進国学者どもは,最新流行の多文化主義を押しつけた。各民族,文化,宗教は,自己のアイデンティティを確立し,強化し,維持する権利があるのだそうだ。先日,「マガール自治国」を樹立したマガールの人々は,先進国と迎合的ネパール知識人の教えに忠実に従ったのであり,マオイストはその後押しをしたにすぎない。
 <宗教>宗教もまた,自己を他から分離し,アイデンティティを確立し,自己保存しなければならない。もはや仏陀はビシュヌ化身の一つだから仏教は身内だとか,イエスも神々の一人だからキリスト教もお友達だなんて呑気なことはいっていられない。
 タマン族の仏教については,すでに報告した(No.3265)。一般化には慎重を要するが,少なくとも他文化に接することの多い近郊では,仏教アイデンティティを強化しようという動きが感じられる。仏教はヒンズー教とはちがうのだ!

▼キリスト教のネパール化
 キリスト教にとって,これはチャンスだ。クリスマスは寂しかったと書いたが(No.3243),これは町中のことであり,新聞等では,ド派手なクリスマス宣伝が繰り広げられた。ネパリ・タイムズのクリスマス号(175)は,クリスマスの大宣伝と教会紹介記事を載せているが,それを見ると,キリスト教がヒンズー教や仏教の伝統を巧みに利用しつつ,浸透を図っていることが,よく分かる。
 たとえば,アサンプション教会では,みどりこイエス,聖母マリアなどの「キリスト教の聖像がネパール化(Nepalified)されている」。いわば,ネパール版「マリア観音」だ。建物や装飾もネパール化されているので,他宗教の人々もクリスマスを祝いに来る。「彼らは,寺院にいるのとおなじように,くつろぎを感じている」。そして,ミサに参加し,祈りを捧げ,神の祝福を受け,一人一人献花を戴いて帰る。
 外形的なところは最大限譲ってヒンズー化,仏教化しつつ,肝心の魂だけはキリスト教化してしまう。アサンプション教会のクリスマス・ミサでは花をもらうだけのようだが,もし仮にこれに食事などの供応が伴えば,ヒンズー教徒も仏教徒も大挙してミサに参加するだろう。明らかに,改宗勧誘禁止の憲法違反だ。

▼ヒンズー原理主義の台頭
 こうなれば,当然,ヒンズー教の側も自己のアイデンティティを明確化せざるを得ない。マオイストの世俗化要求という前門の虎に加え,他宗教の自己主張が明確化してきたのだ。
 そこで,本家インドのヒンズー原理主義がネパールにも介入してくる。世界唯一の聖なるヒンズー教国とビシュヌ化身の国王を守れ! キリスト教を撃退せよ!

▼アイデンティティ政治の未来
 近代化と現代化が同時に,そして急激に押し寄せてきたネパールにとって,これは避けられない変化かもしれないが,この「アイデンティティの政治」がこのまま進行すれば,悲劇は免れない。何でもありのネパール型寛容は,潔癖症近代世界では存続し得ないだろう。


040115 そして日本製武器も・・・・

日本軍国化の3悪が一挙に出揃った――派兵,軍事機密(報道規制),そして武器輸出解禁。

武器輸出についてはすでにカトマンズで危惧を表明していたが(No.3259参照),もし1月13日の石破防衛庁長官の発言通り武器輸出三原則が解除されれば,原理的にはネパールへの日本製武器供与の障害はなくなり,危惧が現実化するおそれがある。

安全保障を武力に頼れば,こうなることは小学生にでも分かる。
・自主防衛→兵器自主生産→コストダウンのための大量生産→余剰兵器輸出(供与)

石破長官「日本で古くなった船(艦艇など)を東南アジアの国がほしいと言っても三原則で駄目ですということが本当に国益なのか」(朝日1/15)。

数年前であれば,いや9.11直前あっても,こんな発言をすれば首がいくつあっても足りなかっただろう。ところが,いまでは平気。派兵も,報道規制も,お国のためであれば,やりたい放題。狂気の沙汰だ。

カラシニコフやM16のかわりに,日本の中古武器やコストダウンのために生産された余剰武器が海外に流れ使用され始めたら,世界平和にたいする日本の最後に残された道義的優位――武器輸出をせず死の商人にならない――が根底から崩れてしまう。

そして,それとともに日本NGOの平和構築努力は,格段に難しく危険なものになってしまうであろう。


040114 M16ライフル,マオイストへ

アメリカ供与のM16ライフルが,早くもマオイストの手に渡った。赤旗を背に,誇らしげにM16を掲げているマオイスト西部方面軍大隊副司令官の写真が,ネパリタイムズ177号に掲載されている。

軍からでも供与されたばかりのM16を奪い取れる。ましてや住民自警団の貸与銃を奪うのは,造作もないことであろう。

アメリカによる国軍への武器供与も,国軍による住民への武器貸与も,いずれおとらず危険な愚策だ。


040112 拉致行方不明者808人

国民人権委員会(NHRC)が,2000年以降に拉致(連行)され行方不明になった808人の名前,郡,拉致実行者の一覧をネパリ・タイムズ(176)に掲載している。

行方不明者808人のうち,政府に拉致(連行)されたのが663人。カトマンズ(112人),パタン(25人),バクタプル(14人)といった「外人安全地帯」からの拉致不明者も多い。誰に拉致されたか不明のものもあり,特権外人とはいえ,いつ消えても不思議ではない状況だ。

NHRC調査の信頼性は未検証だが,少なくともこのような具体的な不明者一覧の公表は,たいへんインパクトがある。行方不明者の名前や地区を一つ一つを見ていくと,連行され,おそらくは拷問され,監禁されるか徴用され,ときには殺されてしまう被害者一人一人の怒りと苦しみと無念が,そしてまた突然拉致され所在も生死も不明となってしまった被害者の家族の救いようのない嘆きが,わがことのように思いやられ,いたたまれない気持ちになる。

NHRCリストの不明者の80%以上が,政府による連行だ。マオイストが違法行為をするから政府も法を無視してよいということにはならない。「法の支配」に服さないのなら,より多くを殺し,より多くを拉致している政府のほうが,はるかに不当だ。政府のこのような不当な権力行使が反政府活動の火に油を注いでいることは明白だ。

ネパールには立派な憲法がある。政府が憲法を守ってはじめて,マオイストに対して違法行為をやめよと要求する権利が生じるのだ。


040111 町村自警団の愚策

マオイスト対策に窮した政府が,奇策を実行している。御用自警団の育成だ。カトマンズ・ポスト(Jan3)によると,規模は不明だが,サルラヒ郡のいくつかの村へ実際に武器が分配されたという。国家統一が「刀狩り」から始まるのは常識だから,この「刀の分配」は国家自壊への前奏曲だ。

この奇策というよりは愚策は,「町村安全構想(Village-Town Security Concept=VTSC)」と命名され,地域住民を武装させ訓練しマオイストから自衛させようというもの。セイラ・タマン(Nepali Times,175)によれば,この種の御用自警団はアメリカの支援を得てペルー,グァテマラ等のラテン・アメリカで反政府ゲリラに対抗するため組織され利用されたが,地域の治安を悪化させただけだった。自警団はいったんできあがると武装解除は容易ではなく,グァテマラでは国連の勧告もあり,1996年公式には解散させられたものの,実際には昨年11月市長を誘拐し身代金を要求するなど,いまも活動している。

したがって,VTSCに対しては,アムネスティや国際法律家委員会,そして国内人権諸団体も,その危険性を指摘し,つよく反対しているが,政府は実施を強行する模様だ。

プラディプ・P・マッラ少将(東部軍司令官)の説明はこうだ(Nepali Times,175)。
・軍はすべての村を守りきれない。希望する地域住民には武器を与え,訓練する(ので自衛してほしい)。
・貸与した武器の管理は,しっかりやらせる。
・多くの地域から武器貸与の要請があるが,状況を見極めてから貸与している。治安回復後,武器は返却させる。
・ネパール人は武器使用になれている人が多い。そのような人に自衛用武器を貸与するのだから,問題はない。

名家筋らしいき少将の太鼓判だが,どうも信用しがたい。アメリカやインドが新型銃をくれるので古い銃の行き場がない。捨てるわけにもいかないので,受け皿として住民自警団をつくった。そんなところだろうが,しかし,いくら古いとはいえ鉄砲には違いない。そんな物騒なもので村や地域社会集団が武装したらどうなるか?

貸与された銃がマオイストだけに向けられるとは限らない。政治的紛争やコミュナル紛争に使われる恐れは大いにある。いや,武器貸与がそれらの紛争を惹起し,激化させるといってもよい。あるいは,お得意の横流しで,マオイストの手に渡り,政府攻撃に使われる可能性さえある。

しかし,アメリカ・モデルに従う限り,マッラ少将は正しい。アメリカは紛争武力鎮圧のためにネパール政府に武器を供与している。同じことを,ネパール政府は国内でやり始めたのにすぎないのだから。


040105 外からと内からと

2週間弱、カトマンズに滞在し、現在(1月5日夜)帰国途中のバンコク。ネパールは、外から見るのと地元で見るのとでは、やはりずいぶん違う。

日本では、新聞、雑誌、インターネットを介して見るから一面的であり、不審部分は推測に頼らざるをえない。その分、具体性を欠き細部は不正確になるが、対象から距離を取れるので、大局はつかみやすい。

これに対し、地元にいると、当然、情報は多いが、大局を見失いがちだ。ちょうど郷土史家が地元の些事にはやたら詳しいが、大局的評価ではバランスを欠きがちなのと同じ事だ。

また、地元にいると、馴れが恐い。あんなに恐ろしかった銃が、毎日見ていると、恐くなくなった。今朝なんか、武装警官数名が引き金に指を置いているその直前を通っても、何も感じなかった。もはや日常的風景だ。銃口から弾が出るなんて、実感が伴わない。だから、ネパール事情に詳しい人ほど、ネパールは危なくないと力説するのだろう。よく分かる。たった2週間で、恐怖はカトマンズの朝霧のように消散してしまったのだから。

でも、警官が何かの拍子に指を引けば、間違いなく弾は出る。客観的に見れば、危険極まりない状況だ。先にも述べたように、やはり私たちは、異常事態に馴れてはいけないのだ。それには、外からの視点も必要だ。外からと内からと−−難しいが、そう努力せざるをえない。


040104b KP・バタライ氏入院

KP・バタライ氏がノルヴィック病院に入院した、と新聞に出ていたので、1月3日、様子を見に行った。この病院は、規模は大きくないが、院内はよく管理され、病室やベッドも清潔だ。日本の病院と比べても遜色ない。

看護婦さんはみな若くて魅力的(ジェンダー差別と叱られそうだが、事実だから仕方ない)。よく訓練されているらしく、採血にも自信と自負が感じられ、頼もしい。医者はインド系のような人もいたが、国籍構成は不明。制服は白衣ではなく普通の服に近いが、看護婦さんも医者も「白衣」に頼らなくても十分に権威を感じさせるから立派だ。ネパールで病気やケガのときは、この病院に運んでもらおうかと思った(万一の時の病院一覧は不可欠)。

カトマンズと主な観光地の衛生状態は、この数年で見違えるほど良くなった。数年前までは、下痢は不可避の通過儀礼だった。このころ一緒に来た学生15人のうち1人を除き全員が激しい下痢になった。だから私が特別に弱かったわけではない。すっかり観念し、早く下痢をし腸内細菌構成をネパール型に改めるのが得策と思い、実践してきた。これはよく利いた。一度、下痢をしてしまえば、極悪細菌はいないらしく、以後は、私の腸内でネパールの細菌が平和共存し、私は楽しく過ごせた。

ところが、数年前、タメルのレストランに「殺菌水で野菜洗浄」と貼り紙が出た頃から、こんな通過儀礼は不要になった。下痢をしなくなったのだ。ちょっと残念だが、2、3年前から、胃腸薬も風邪薬も持ってこなくなった。

カトマンズの衛生状態向上には、日本援助の上水道整備が寄与しているようだ。また、学校での衛生教育も効果をあげているのだろう。近代は清潔だから、この分野ではネパールは確かに近代化=清潔化している。

これに比較し、政治の近代化=清潔化は、前進どころか後退さえしている。なぜなのか?

KP・バタライ氏は、20世紀後半の代表的政治家の一人であり、民主化以降の一時期ガネッシュマン・シン−KP・バタライ−ギリジャ・コイララのコングレス三頭体制の一極として、マンモハン・アディカリのUMLと対峙した。ネパール民主化の責任者の一人だが、病気入院の今、それを問うのは控えよう。

それにしても、バタライ氏の入院風景は寂しかった。支持者が病院前にわんさと集まっていると思ったのに、ほとんどいない。権力争いの中で右往左往しすぎたせいか?

ライバルたちは、それぞれ功なり名を遂げた。ガネッシュマンが亡くなった時、丁度カトマンズにいたが、ネワールということもあり、葬儀はそれはそれは華々しかった。彼は政党を超えた人気があり、たしか前国王夫妻も列席された。先日、リングロードをトヨタ車で走っていたら「ガネッシュマン・ロード」という表示を見かけた。ガネッシュマンの名が付けられたのだとすると、大変名誉なことだ(命名由来は未確認)。

マンモハン・アディカリ氏も、長年の過酷な闘争を乗り越えてきた人だけがもつ本物の包容力をもち、やさしさにあふれていた。彼の死も、全国民に惜しまれ、たしか国葬となり、前国王夫妻も列席されたはずだ。

前国王、ガネッシュマン・シン、マンモハン・アディカリのような、党派を超えて親しまれるような人物は、もはやいなくなった。ギリジャ・コイララ氏は汚職まみれの悪評が絶えないし、KP・バタライ氏は信用を失ってしまっている。

清潔を基準にすれば、マンモハンは、現在のUMLの誰よりもはるかに優れていた。多少はあったかもしれないが、寡聞の限りでは、聞いたことがない。不屈の闘士ガネッシュマンも汚職については聞いた覚えながない。ガネッシュマンの演説は、ほとんど聞こえないような小さな、頼りなさそうな声で始まり、徐々に高まり、最後は確信に満ちた大音声で聴衆を魅了する。こと雄弁に限定すれば、ヒットラー並みの大雄弁家だった。

ガネッシュマンやマンモハンが楽しげに議員仲間と談笑し、誰でも自由に入れ、話し掛けても写真を撮っても咎められなかった議会前広場。もうそれはない。ノルヴィック病院前は閑散とし、シンハ・ダーバーは土嚢と銃で厳重に守られ、市民は近寄りもしない。


040104a トヨタの野望

ネパールでもトヨタの存在感が急激に高まってきた。小型車市場は、あっというまにスズキが独占。つぎは、いよいよ本命トヨタの出番だ。

以前からトヨタ車は多かったが、中古車、古古車だった。新車は公用車、NGO車、そして両者の私物化私用車だけだった。いまやカローラやコロナの新車が、韓国車と先陣を争っているが、トヨタやや優勢か。

フォードも派手なショーウインドに新車をならべているが、走っているのはほとんど見かけない。トヨタはバス停にデカデカとTOYOTAと宣伝し、バスなんかケチなものに乗らず、トヨタ車に乗れ、と勧誘している。こんなちっぽけな市場ですら見逃さない。トヨタ魂は健在だ。

すでにテレビ、ラジオ、パソコンなどの家電はほぼ韓国、台湾などのメーカーに席巻された。SONYはまだブランド力を保持し、SONNYなどのまがい物が出ているが、これはご愛敬。性能的にはSONNYで十分なのだから、いずれSONYも敗退するだろう。WTOがいくら怒っても、どうしようもない。日本もそうして成長してきたのだ。

さすがにTOYOTAは、ちょっと真似ができない。バイクはすでにHONDOだかHONDEだか、確かそんなロゴの製品が出ているが、車の場合、TOYYOTA車を展示しても、誰も買わないだろう。

バスやトラックは、まだ多くがTATA製(バスにはベンツもあるが)。TATAはいかにもインド製らしく、窓が閉まらなかったり、椅子が外れたりするが、無骨で頑丈で、どついても、けとばしても壊れそうにない。先日、崖下に転落したバスを見た(遠出するとよく目にする)が、壊れるでも燃えるでもなく、平然と田圃の中で車輪を上に寝っ転がっていた。さすが不屈のインド魂。

が、いかにも燃費が悪そう。乗心地もよろしくない。そこで、わがトヨタ車の登場。先日、ついにトヨタのバスを見た。きゃしゃで、乗心地が良さそうで、これに乗ろうかと思ったが、崖下のバスを思い出し、窓の閉まらないTATAに乗った。

先端日本車を売るには、道路を建設、補修せねばならん。道路を造り車を売れば、ハイテク信号も設置せねばならん。TOYOTAもNIPPON国も、いまや本気なのだ。

カトマンズからデューリケルまでローカル・TATAバスで2時間弱。その料金は、なんと20ルピー。市内でスズキ・タクシーに乗れば、数分で50ルピー。最新ヤザキ(?)メーター導入で、停滞中も加算される。時は金なり! 悪路とTATAバスは、やはり、よろしくない。

(PS)カトマンズ・デューリケル間は、たしか日本援助で8割ほど拡幅補修工事が完了。TATAをトヨタ、ニッサン、スズキがスイスイ抜いていく。デューリケルのホテル駐車場は、日本製と韓国製の新車ばかり。高級リゾートホテルに、ローカル・TATAバスと徒歩で行ったのは、わが夫婦だけ。カッコ悪かった。


040103 タマンの怒り

1月2日、デゥーリケルからヒマラヤを眺めながら数時間歩いて、ごく普通のタマン族の村に行った。小さな村で、小さな小学校とヒンズー教の祠(専門用語は?)があった。

タマン族の家や村は、もともと美しい。赤や黄の土壁がヒマラヤとよくマッチする。が、人々は貧しい。その村でも、住民は見るからに貧しく、高校(11年生)に進学したのは今年の1人がはじめてだという。

チャイをごちそうになりながら世間話をしていると、政府への不満を次々に語る。差別され、上級学校へいけない。仏教徒ばかりの村なのに、仏教寺院の建設を事実上禁止され、ヒンズー教の祠を造られた。けしからん。皆で運動して、仏教寺院を建設するつもりだ、等々。

カトマンズ近郊で、情報が多く、その分、村人は政治化している。何の変哲も無い村で、村人は闖入した外国人にも親切だ。古き良きネパールの村と何ら変わりはない。が、村人の政治化は進み、不満は高まっている。

デゥーリケルは、カブレ郡だが、隣のシンドバルチョーク郡では、1月1日、マオイストの地雷が爆発し、子供を含む十数人が重軽傷を負った。たまたま訪れたタマン族の村を見たにすぎないが、そこに典型的に見られたような不満がマオイストの勢力拡大を助長しているようだ。


040102 デゥーリケル初詣

初詣にマナカマナに行く予定だったが、経路の一部がマオイストの交通ストのため中止。スト宣言は突然出るので、遠出するとカトマンズに戻れず、帰国便に間に合わないことがある。要注意だ。

初詣は、マナカマナの替わりにデゥーリケルに行った。1月1日、快晴。菜の花畑の上にヒマラヤ連山が望める。デゥーリケル旧市街は保存状態も良く、中世にタイムスリップしたようだ。ホテルは、カトマンズに近く、幹線道路沿いなので、設備が整い、快適。

ヒマラヤを眺めながら、ぶらぶらカブレ郡役所の方へ行くと、例のごとく武装警官や兵隊がいっぱい。郡役所を覗きに入ったら、武装警官に「何か用か」と詰問された。軍駐屯地はもちろん厳戒態勢。軍施設は、金があるので、たいてい美しい庭や建物がある。つい、うっかり写真を撮りそうになるので、くれぐれもご用心を。

郡警察署の隣が、郡裁判所。開店休業なのか、裁判所には自由に入れた。目隠しをして秤と剣を持つ正義の女神が壁に大きく描かれている。残念ながら異国の神だが、神様には違いないのだから、差別せず、ぜひとも罪と罰を秤で正確に計り、正義を実現して欲しいものだ。


040101 危機の王制

王制の評価がこの半年で劇的に変化した。例外状況における国王大権は半年が限度だと幾度か書いたが、予想通り、王制の正統性は現在ほとんど失われ、危機状態にある。

前国王暗殺について、これまでは多くの人が疑いながら、はばかられて決して口にできなかったことを、地位のある人が平然と発言する。さすがにまだ文章にはなっていないが、絶対禁句のはずのことを周囲を気にすることなく、大声でしゃべる。むしろ私が心配して制するくらいだ。

人と制度は別だ。首相が専制だからといって議会制民主主義を否定するのは、短絡的思考だ。同じく、国王自身と王制は別だ。王制は歴史の叡智であり、安易に否定すべきではない、と述べると、猛反撃された。ここでは私は王党派になってしまった。

正統性を失ってしまった国王が、なぜまだ権力を保持しているのだろうか? 一言で断言すれば、マオイストのおかげである。アメリカはマオイストを「テロリスト」に指定して、これのせん滅のため国王=軍を政治的、軍事的に支持している。NCもUMLも根っこはインドと繋がっており、インドはアメリカの影響力拡大を警戒している。それに、これら既成政党は90年代の体たらくを見れば、まったく信用できない。政党が軍に介入すれば、軍は政治化され、軍閥割拠、ネパールのバルカン化となり、危険極まりない。アメリカは、対テロ戦争では、国王が一番安全で使いやすいと見ているのだ。

今の状況では、王制は、アメリカの支援がなくなれば、倒れる可能性が高い。アメリカの支援はマオイスト問題が解決すればなくなる。王制の存在理由は人民戦争という皮肉な逆説が、成立しているのだ。

もちろん、以上の分析は説明のための単純化であり、事態はもっと複雑かつ流動的だ。中印両大国、宗教勢力などの動きにネパール情勢は大きく左右される。カトマンズは、2日間の降雨後、昨日(30日)、今日と、深い霧に包まれた。ネパール政治も、目先のことは見当がついても、五里も先となると、まるで霧中だ。


Index, Top