時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2004年b (→Index

040623 国王祝賀広告,議決したのか?
040618 編集権の独立
040613 国王誕生日,誰が祝うか?
040609 国王=UML連立デウバ内閣?
040607   LDC軍事大国化
040602 「無能」 デウバ氏,首相任命
040601 1頭は多頭に勝る
040531 ネパール協会の非民主性
040526 ガンドルン虐殺
040515 インド政権交代とネパール
040513 ネパール憲政の常道
040509 神の掌で踊る5政党
040507 マオイスト・ユートピア
040504 党首逮捕、取引か?
040501 性の近現代化と性産業
040429 NATIONの大使解任記事
040428 チャッカリ政党のチャッカリ行動
040425 米新政策,パンドラの箱か?
040423 国家のワナに落ちた筑紫哲也氏
040421b パウエル発言の趣旨
040421a 渡辺氏の勇気と自己責任
040420 自己責任論――朝日&パウエル長官
040418 NGOは「自己責任」宣言を
040416 米大使解任はタカ派政策への転換か?
040415 米大使解任
040414 サハナ・プラダンら大量逮捕継続,国家破綻のおそれも
040412 下院任期満了,タダの人に
040411 800人逮捕,米政府渡航警告
040410b テロ規制処罰令,発令
040410a 市民・政治家大量逮捕vs国王地方巡幸大歓迎
040409 カトマンズ,「暴動地帯」に
040408 ゴビンダ事件特集


040623 国王祝賀広告,議決したのか?

国王誕生日祝賀広告について批判が噴出しているが,ネパール協会は本当にそんな決議をしたのか? 議決もしていないのに空騒ぎしているだけではないのか? 平会員は知りようがないし,ましてや非会員読者は何がなんだか見当もつかない。

ネパール協会は,ネパールでは日本の代表的友好団体と認められている。両国政府との関係も深い。その協会が,国王誕生日祝賀広告を出せば,当然,マオイストからは会員はもちろん非会員であっても,「敵性国民」と見られる。

NGOなどでネパールに深く関わっている人々にとって,これは死活問題だ。すぐ命を狙われることはなくとも,ネパールでの活動が困難になることは明白だ。

ネパール協会は,本当に議決があったのか否か,その基本的事実を直ちに広告すべきだ。


040618 編集権の独立

このところネパール情報は暗いものばかりで気が滅入るが,ただ一つ,大いに評価してよいのがマスコミ。質量ともに,90年革命の頃とは比較にならないほど進歩した。

むろん,ネパールのマスコミはスポンサー付きで党派的だが,言論は本来党派化しきれるものではない。マスコミ記事は,広範な読者公衆の評価を受け,自ずと公論に接近していく。

それとともに「編集権の独立」も高まり,ときとしてスポンサーと対立することもあるが,それを侵害すればスポンサーの自滅だ。

企業宣伝誌を見るとすぐ分かることだが,いくら金をかけても,単なる宣伝誌なんか誰も読みはしない。賢明なスポンサーはそれを知っているから,少々耳が痛いことを書かれても,意に添わなくても,やせ我慢を通し,編集権の独立を容認する。

これは「歴史の狡知」といってよい。ネパールのマスコミは,歴史の神に導かれつつある。

ネパールでも日本でも,意のままにならないからといって「編集権の独立」を取り上げようとするような愚かなスポンサーがもしいるとすれば,歴史の神の神罰を受けるであろう。


040613 国王誕生日,誰が祝うか?

ギャネンドラ国王は,1947年7月7日生まれ。7−7−7の七夕で満57歳。王室呪術師も失神しそうなラッキーセブンが5つ! 「国王万歳」を叫び,提灯行列したいところだが,ネパールでも日本でも世界のどこでも到底そんな気分にはなれない。

(1)王族殺害事件のぬぐえぬ陰影
(2)憲法無視の無議会政治

私は保守主義者だから王制の効用は大いに認めているが,立憲君主の範疇から完全に逸脱した現国王については,とても誕生日を祝う気分にはなれない。

即位以後の新聞・雑誌を見ても誕生日祝賀広告は少なかったし,日本皇室も祝賀は表明しなかったはずだ(そう記憶しているが,間違いであれば,ご訂正ください)。

いったい誰が祝賀表明するか? これは見物だ。王室ファミリー企業,デウバ首相,そして多分権力亡者 UML系も祝賀表明するであろう。それ以外は?

よく見ていよう。ネパール庶民と一緒に! まさか,このHPや「ネパール協会会報」に,祝賀大特集が出たりはしないでしょうね?


040609  国王=UML連立デウバ内閣?

デウバ首相任命は,今のところ,国王圧勝となりそうな気配だ(KOL,Jun8)。

6月8日,統一共産党(UML)は,デウバ支持を表明,5党連合の解消を示唆した。UMLは支持に3条件を付してはいるが,噴飯もの。1)国王反動を修正せよ,2)マオイスト問題解決を最優先せよ,3)進歩的方向を目指せ。まったく無内容であり,権力参加の口実にすぎない。

もしこのまま国王=UML連合が成立,5党共闘が解体し,NCがハシゴを外されてしまった場合,NCは黙ってはいまい。

たしかにイギリスは,いち早くデウバ政権成立を歓迎し,「英国と国際社会は和平努力を支援する用意がある」と約束したが,和平交渉再開の前提条件は,マオイストのテロリスト指定解除だ。これをアメリカは容認するか? もし容認しないのなら,NCは「反テロ戦争」の同志として,アメリカの強力な支援を期待できる。

で,結局どうなるか? 今のところよく分からない。が,しばらくは新体制下での権力分捕り合戦が続き,NCかUMLのいずれか敗れた側(多分NC)が反政府に回り,再び四分五裂の泥沼に戻る――さんざん見慣れた風景だが,今度もそうなりそうな悪い予感がする。


040607  LDC軍事大国化

ネパールはLDC軍事大国に向かってまっしぐら(NepaliTimes,198)。

  軍事費: 予算の7.3%(3年前)→12%
  王国軍: 45000人(3年前)→75000人(→150000人,5年後)
  武装警察隊 20000人

兵器も,インドから武装ヘリ,装甲車,小銃などを,出血大サービスの70%引きでせっせと購入している。

インド製装甲車はすでに70台あるが,あと30台購入するそうだ。この車は地雷を踏んでも平気だが,少々心配なのは,そんな立派な(重い)車両が通れる道がどれだけあるかということ。宝の持ち腐れとなるので,このような車両は外国援助で道路建設をしてから購入した方がよさそうだ。

それよりも何よりも,軍の近代化は,イラクが教えるように,ゲリラ戦には逆効果だ。重税と開発後回しで住民の不満が高まるし,誤射・誤爆も激増する。マオイストの思うつぼだ。

軍事力で押さえ込めるというのは,幻想。政府軍が正規戦で優勢になれば,マオイストは本来のゲリラ戦に戻るだけだろう。  


040602 「無能」 デウバ氏,首相任命

国王が魔法の玉手箱「憲法127条」を使い,デウバ氏を首相に任命した(KOL, Jun2)。2002年10月の解任取消ではない。

つまり,国王は「無能の故に解任」を取り消したのではないから,デウバ氏は依然として「無能」であるが,国王はその「無能」デウバ氏を再び首相に任命したわけだ。神業といってよい。

(「無能」と判定したのは私ではなく,国王。誤解されませぬように。)


040601 1頭は多頭に勝る

5党は,結局,首相候補を出せなかった。(戦略的拒否なら一つの見識だが,どうもそうではないようだ。)

こんなことだから,ライオンであれトラであれ,頭は1つでよいと思われてしまうのだ。(KOL,May31)


040531 ネパール協会の非民主性

東京に行くたびに,地方搾取の凄まじさに愕然とする。これは日本の構造的暴力であり,その中に組み込まれているネパール協会も例外ではない。

協会会費はすべて東京に吸い上げられ,大半が東京で支出される。権限も情報も東京寡占。これは近代原理によるものであり,特定の誰かの責任ではない。協会が近代的組織である限り,会員の増加と全国化を図り,運営の民主化に努力するのはごく自然なことだが,皮肉なことに,そうすればするほど東京寡占は強化されてしまうのだ。

たとえば,5月29日の協会総会で,「毎月の理事会には2/3以上出席」との意見が出た。この趣旨の意見は以前から繰り返し出され,それ自体は紛れもなく正論だが,地方理事にはこれは無理だ。北海道や九州からだと,わずか2時間の理事会のために2日間の時間と4〜5万円の交通費がいる。協会が休業補償と交通費を負担しなければ,地方理事は首都圏在住理事と比べ,あまりにも不公平であり,事実上出席はできない。だから,ボランティアの美名の下に当然負担すべき経費を負担することなく,協会運営を民主化しようとすればするほど,地方は実際には代表を出せなくなり,中央集権化が進む。

ところが,中央集権化が進むと,今度は「代表なくして納税なし」だから,地方会員の減少は免れず,協会が財政難になる。そこでまた民主化の訴え(地方理事を増員せよ)・・・・という悲喜劇的悪循環に陥る。

地方会員を協会運営から事実上排除し,しかも彼らから集めた会費の大半を東京で使ってしまうことを,地方会員にどのようにして納得させるか?

国家のように権力で強制は出来ないのだから,残るのは権威しかない。私は保守主義者だから,民主的参加よりも,権威による協会運営の方が現実的だし,精神的にも健康だと考えている。

ただし,会員は日々目が肥えてきているので,真鍮メッキのような権威ではすぐ化けの皮がはがれる。地方会員は,金も権限も東京にほぼ白紙委任しているのだから,協会は有難味のある本物らしい権威の育成に努力すべきだと思う。


040526 ガンドルン虐殺

ネパリタイムス(196)によれば,アンナプルナ・トレッキングの拠点,ガンドルン村がひどいことになっているようだ。

5月10日,マオイストが村のロッジ経営者5人を連行し,2人を射殺した。外人宿泊客は追い出され,ロッジは閉鎖。村にはトレッカーは一人もいないそうだ。アンナプルナ周辺では,道路封鎖で外人トレッカーが長距離を徒歩で歩いたり,ヘリコプターをチャーターして脱出しているという。(その後の状況は不明)

天国のようだったあのガンドルン村が,こんなことになるとは思いもしなかった。


040515 インド政権交代とネパール

インド下院選挙で大方の予想に反して会議派が勝利し,マルクス派共産党や社会党と連立で新内閣を組織する見通しだ。首相はソニア・ガンジー氏らしい。

ネパールの新聞にはまだ詳しい論評はないが,インド政権交代がネパールに大きな影響を与えることは間違いない(KtmP,May16)。

人民党はもともとヒンズー原理主義なのに,なぜか牛殺し大国アメリカと仲がよく,そのくせ牛守護者ネパール王家とも仲がよかったようだ。

その人民党が下野し,今度は世俗主義・共和主義の会議派や共産党,社会党が政権につく。新政権はきっとネパール5党支持に傾くだろう。

5党万歳! となるとよいが,そう単純でもなさそうだ。インドが5党支持に傾けば,国王とマオイストがナショナリズムつながりで接近し,内戦解決はさらに遠のく。そんな不吉なシナリオも否定できないようだ。


040513 ネパール憲政の常道

この数日,国王はKP・バタライ,MS・シュレスタ,KP・ビスタ(いずれも元首相)ら長老政治家を次々に招き,次期首相の人選を進めている。伝えられるところでは,デウバ氏の復帰が有力らしく,デウバ氏自身すでに何回も国王に会っているようだ(KOL & Nepalnews.com, May12)。

長老KP・バタライ氏は,もし国王がデウバ氏を復帰させたなら,全面的に支持すると明言した。1年半前の「無能の故に解任」を取り消しデウバ内閣復活,あるいは解任には頬被りしてデウバ氏首相再任。

いずれにしても無茶苦茶な論理であり,国王にとってもデウバ氏にとってもカッコ悪いが,これが「ネパール憲政の常道」であり,驚くには当たらない。

ネパール政界には固有の論理があり,それを日本人や西洋人が外在的に批判してみても始まらない。まったくもって「よけいなお世話」だ。

たしかにそうではあるが,この「ネパール憲政の常道」が面白く,見て楽しめることは事実だ。なぜ,そんなことになるのか? その辺のことを探ろうと,マルクスの天敵,M・ウェーバーの「ヒンドゥー教と仏教」をぱらぱら読んでみたら,さすがW先生,ヒントらしきことをいくつか示してくださっていた。

そんなことはネパール専門家には周知の事実かもしれないが,やはりこうしたイロハから勉強しないと,「ネパール憲政の常道」は部外者にとっては永遠の秘密=神秘=奥義=密儀=密議(secret)ということになりそうだ。


040509 神の掌で踊る5政党

タパ首相辞任表明で,もう5党は腰砕け。雁首そろえて国王陛下に拝謁を申し入れるそうだ。所詮,現人神の掌で駄々をこね騒いでいただけ。

要求は実にほほえましい。
(1)拝謁は5党一緒。抜け駆けはダメ。(相互不信丸見え)
(2)3項目要求:王権制限,人民への主権返還,マオイストの体制内化。(空疎なお題目)
(3)次期首相は話題にしない。(情けない!)

反政府行動も一気にトーンダウン。コイララNC党首は「平和的非暴力的運動」を指示,スローガンも15項目に制限し,「共和制」を唱えることを禁止した。

暴力はよろしくないが,共和制要求くらいよいではないか。もしコイララ党首の鶴の一声で従順に共和制スローガンを引っ込めるようなら,公党というよりコイララ私党,解党した方がよい。

国王の無議会政治は,短期間の緊急避難であれば合憲だが,これほど長期になれば明らかに違憲。それへの抵抗は正当だ。だとしたら――

なぜ5党は自主的に協議し,自分たちで代替可能な暫定政府案をつくり首相候補も決めた上で国王と交渉しないのか。相互不信で疑心暗鬼,自分たちでは首相候補も決められない。結局,現人神のお告げを仰がざるをえない。そんな政党には,統治能力は無い。(KtmP & Nepalnews.com,May9)


040507 マオイスト・ユートピア

マガラ自治州では,人民政府が共産主義体制を固めつつあるようだ(Nepali Times,193)。

統治の成否は「空間」と「時間」の支配にかかっている。日本国がちっぽけな竹島やアナクロ天皇時間に固執しているのを見れば,それはよく分かる。

さすがマオイスト。マガラ自治州を空間的に画定し,つぎはマオイスト・カレンダーを普及させ,住民はもうあらかたヒンズー教祭日を忘れてしまったそうだ。この調子であとしばらく持ちこたえれば,空間と時間の脱魔術化は完成し,そこに自治州の近代化,民主主義化は実現する。

すでにマガラ自治政府は,農業省,教育省,産業省等や司法制度を整え,独自の開発プロジェクトにも着手したそうだ。冷戦期のような外国応援団はいないが,心配することはない。中央政界は脱魔術化からほど遠く,マオイストの世俗民主主義の敵ではないからだ。


040504 党首逮捕、取引か?

5月3日、NC,UML2大政党党首らが逮捕、勾留された。いずれも勾留状なしの違憲逮捕。
 NC=GP.コイララ党首、スシル・コイララ書記長
 UML=MK・ネパール書記長、B・ゴータム

逮捕者は同日釈放され、引き替えに集会禁止令が解除された。密約の有無は不明(KOL,May3)。

現状では何があっても不思議ではないが、デモ中でもない平時の両党首逮捕は異常。日本で言えば、自民党の小泉総裁と安部幹事長、民主党の菅代表と岡田書記長が突然逮捕されたようなもの。目的がよく分からない。

想像にすぎないが、せっかく呼んでやっているのだから、文句を言わずチャッカリに来い、ということか?

情けないのは、政党側。足元を見られ、さんざん馬鹿にされている(KtmP,May2)。
 NC=「人民」代表で行ってもいいよ。
 NC-D=デウバ氏の解任を取り消してよ。
 UML=「人民(=UML)」無視のチャッカリはダメ。
 NWPP,NSP,PFN=18項目要求考慮なら、いいよ。

まるでバラバラで、しかも一貫していない。その点、マオイストは立派。国王と密約すれば、楽勝だ。


040501 性の近現代化と性産業

政治、経済の混乱を後目に、成長著しいのが性産業だ。タメルなど繁華街には、それらしき怪しげな店が増えた。ポルノでビデオが進歩・普及したように、性産業はネパール近代化の牽引車たりうるか? 実地調査すべきだが、その勇気はないので、ネパリタイムス(190)のレポートを手がかりに、その一端を紹介する。

営業形態は、個室レストラン(cabin restaurant)、マッサージ・パーラー、街娼。

個室レストランは、店内が個室に仕切られ、女性が待機している。給与はなく、客のチップが収入。店主は法外な飲食料で暴利を得ている。カトマンズ盆地に、この種の女性が3万人もいるという。

マッサージ・パーラーも同じような仕組み。客一人当たり200ルピー(300円)位らしい。

性産業の急成長の背景には、人民戦争による地方からの脱出、貧困、伝統的規範の弛緩、資本主義(=欲望の体系)化、消費社会化、都市化などがある。ネパールにも、売春は古くからあったが、目下急成長中の性産業は近現代的という特徴をもつ。

まず、近代的貧困が性産業資本家と性労働者を生み、前者が後者を搾取している。その一方、近代的貧困を理由としない現代的性取引もあるようだ。アジア諸国でEnjo-kosaiが拡大している(朝日5/1)とすれば、ネパールも例外ではあるまい。

ネパールの悲劇は、他の分野と同じく性の分野においても、近代化と現代化が同時に来襲したことだ。危険きわまりない。

事実、タメル滞在中に近くのマッサージ・パーラーで殺人事件があった。暴力沙汰は珍しくないそうだ。一方、性労働者のHIV感染率も高い(ドラッグ使用者の感染率は50%以上)。社会的規制下の伝統的売春に比べ、放任に近いネパールの近現代的性産業は、リスクが大きい。何があろうと、それこそ顧客の自己責任だ。


040429 NATIONの大使解任記事

創刊に敬意を表し,さっそくNation(May2)を読んでみた。

やはりマリノフスキ大使解任記事が面白い。
・マ大使=解任説を断固否定(→つまり解任)
    =政策変更断固否定(→つまり変更)
・新任モリアーティ大使=中国専門家,ライス補佐官のお友達(→やはり!)

マ大使が,ブッシュ政権の反テロ戦争をネパールで代弁し,「人権派」ヨーロッパと対立を深めてきたことは事実だが,新任大使が和平交渉重視政策に転換するかどうかは,判断が難しい。

「民主主義」が保守主義や貴族主義や封建主義よりもはるかに残忍非道であり得るのと同じく,「人権主義」も平気で人を殺すことがあるからだ。イスラエルの「人権」はパレスチナ人を殺し,アメリカの「自由(=人権)」はイラクの自由ばかりかアメリカ自身の自由をすら殺しているからだ。

ネーションの創刊は,複雑なネパール政治の現状を見るのに大いに役立つ。右でも左でもよい(中立はダメ)。様々な立場からのニュース記事,解説,評論が,私たちには必要なのだ。 


040428 チャッカリ政党のチャッカリ行動

アメリカが政党支持に傾いたとたん,NC−D,RPPなども5政党反政府デモに合流し始めた。チャッカリしたものだ。

政党といっても,ネパールの政党は,近代的イデオロギー政党ではなく,チャッカリ派閥からなるチャッカリ政党だ。チャッカリの見返りがなければ,離合集散,どことでも組む。

民主化以前は,チャッカリ・ハイアラーキーの頂点は,国王に決まっていたが,今は難しい。国王からチャッカリにこいと,お誘いがかかるが,いくべきか否か? いや,民主化の時代だから,アメリカの方がよいのでは?

問題はマオイスト。チャッカリ政党なら,チャッカリの誘いに乗るかもしれないが,もし近代的イデオロギー政党なら,チャッカリ社会の異分子,これは難物だ。

もしマオイストが近代政党なら,外部要因がなければ,チャッカリ政党は負ける。チャッカリ銀行がATM銀行にかなわないように,これはほとんど必然だ。チャッカリ政党は,負けたくなければ,近代政党に脱皮せざるをえない。災い転じて福となしうるか。正念場だ。


040425 米新政策,パンドラの箱か?

アメリカの駐ネ大使に,James F. Moriaty氏が任命された。南アジア専門家で,パキスタンの対テロ戦争などに関与してきた人らしい。

大使交替は,前述(No.3375&77)のように,政策変更を意味する。クリスチナ・ロッカ国務次官補(Assistant Secretary)発言(ペンシルベニア大21日)や,国務省プレスリリース(22日)に,それは明らかだ。

(1)全党政府の早期形成,選挙実施
(2)立憲君主制と複数政党制
(3)政党と国王の和解,協力
(4)軍事的解決はない
(5)対テロ軍事援助は継続

慎重な言い回しではあるが,王制を擁護しつつ,軸足を政党側に移している。国王の無議会政治もダメ,政党の共和制もダメ。政党中心で,これに国王は協力せよ,という考え方だ。

一方,軍事援助については,継続を表明。軍事的解決はないといいつつも,実際には,一刻も早く政党政府を再建し,軍事援助を受け,対テロ戦争をやれ,ということのようだ。

これがうまくいくかどうか? そもそも政党政府が迫害,弾圧したから人民戦争は激化した。アメリカの対ネ新政策は,ビンの栓としての国王,パンドラの箱の蓋としての国王を外すことであり,96年以降の政党政府による弾圧,人民戦争激化の悪循環を拡大再生産することになるのではないだろうか?  (KtmP,Apr23;StateDep,Apr22)


040423 国家のワナに落ちた筑紫哲也氏

(1)ネパールと自己責任論
 また「自己責任」か,とウンザリされそうだが,人民戦争下のネパールと関わるわれわれとしては,いくら論じても論じすぎということはない。たとえば,ネパールでNGO活動中やトレッキング中に人民戦争がらみの事件に巻き込まれたら,必ず「自己責任」論がでる。そのとき,どうするか?

(2)2つの国家無限責任論
 ボランティアやNGOは堂々と自己責任を取るべきだというのが,当初からの私の考えだ。 これと真っ向から対立するのが,日本の政府と世論の「家族国家」型国家無限責任論と,欧米型の「主権国家」型国家無限責任論。どちらも国家以外のものの「自己責任」を排除しようとする。

(3)家族国家の無限責任
 日本の家族国家主義は,父や母が自分の子に自己責任を取らせず,子の行為に無限責任を取ろうとするのと同じく,国民に自己責任を取らせようとはしない。 国家への謝罪要求や費用請求は,日本国家への責任であり,自己への責任ではない。それは,ちょうど父親が子供を叱りつけ,お仕置きをしているようなものだ。国家の無限責任は,国民の無限服従義務と対である。もし誰かが自己責任を取ろうとすると,かれは「非国民」となる。

(4)近代国家の無限責任
 このウェットな家族国家論に対し,近代「主権国家」はドライだが,その分,冷酷無比な国家無限責任論だ。
 主権国家論は,世界は国家により分割所有され,国家以外の独立した人間や組織の存在余地を排除しようとする。つまり,人間は必ずどこかの国家に所属する,国家の所有物(property)であり,国家は自分の財産の神聖不可侵の所有権(近代の根本原理)を守るため,全力を尽くす。国家以外の個人や集団に自己責任を取らせたら,国家の存立意義はない。
 アメリカを見よ。4人の生命(アメリカの国家財産)の損失を,700人のイラク人生命をもって損害賠償させた。それは,ちっぽけな領土をめぐって戦争をするのと同じ論理だ。領土と国民はともに国家財産であり,国家が国民を保護するとは,そういうことだ。
 パウエル長官とル・モンド紙が日本の対応を批判したのは,ジメジメ,ベッタリの日本家族国家主義の前近代性を嘲笑したにすぎない。本当は,彼らの近代主権国家主義の方が恐ろしいのだ。

(4)筑紫哲也氏の誤り
 この点,筑紫哲也氏の自己責任否定論は,首肯しかねる。彼の良識は深く尊敬しているが,パウエル長官独占インタビューの成功で,情報評価が甘くなり,判断を誤っているのではないか?

(5)明石康氏とJVCの自己責任論
 これに対し,23日付朝日の特集「再考・イラク日本人拘束」における明石康氏と熊岡路矢氏( JVC代表)の意見は,紛争現場での経験が長いだけに,傾聴に値する。両氏とも,家族国家と主権国家の2種の国家無限責任論に陥ることなく,グローバル化時代におけるNGO活動のあり方を示されている。
 自己責任を取らないNGOはNGOではない。


040421b パウエル発言の趣旨

パウエル発言の趣旨は,インタビュー全体を読むと明瞭だ。残念ながら(当然だが),人質家族の味方ではなく,小泉応援団だ。

パウエル長官は,まず小泉首相と伊首相が共にテロリストに譲歩しなかった勇気をたたえ,次に,危険を引き受け,大義のために行動することの大切さを説く。

日本市民は大義のため「危険を自らに引き受けた」のであり,それはイラクに行っている日本兵(soldiers)と同じく,誇るべきことだ。だから,人質になっても,「危険を承知で行ったのだから,あなたの過失(fault)だ」などとはいわない。同じ市民であり,救出義務はわれわれにある。

論旨は明快。
(1)反テロ戦争は正しい。
(2)テロリストに譲歩してはならない。
(3)「善なる目的(a greater good, a better purpose)」のために危険を引き受け,行動すべきだ。
(4)自衛隊員は,(3)の故に,誇るべきだ。
(5)人質犠牲者も,(3)の故に,誇るべきだ。
(6)だから,国家には救出義務がある。

パウエル長官ともあろう人が,(1)(2)の大原則を曲げるようなことをいうはずがない。要するに,反テロ戦争のために,死を覚悟して,民間人はボランティアとして,自衛隊員は兵隊として,イラクに行け,面倒は見るから,ということだ。

ソフト全体主義の日本世論も恐ろしいが,アメリカの大義も恐ろしい。


040421a 渡辺氏の勇気と自己責任

(誤った政策で国民を危険に陥れた政府の責任は厳しく追及されてしかるべきだし,人質被害者バッシングの不当性はいうまでもない。以下は,それらを当然の前提にした上での議論。)

NGOの自己責任の取り方を見事に実証したのが,20日帰国された渡辺修好氏。

渡辺氏のことも,ご所属のNGOのこともまったく知らないが,報道では,彼は「準備の甘さ」を認めた上で,世間(そして,たぶん家族)の謝罪要求,謝罪哀願を断固拒否された。

渡辺氏は,日本国家にも家族にも全面依存せず,堂々と自己責任の下に危険を引き受け行動された。帰国時のガッツポーズがそれをよく示している。なかなか出来ることではない。

日本政府は不愉快だろうが,このような人を側面支援してはじめて,国家の品位は上がる。


040420 自己責任論――朝日&パウエル長官

●朝日新聞
20日付朝日新聞が「自己責任」論を満載している。天声人語,ポリティカにっぽん(早野透),文化(高橋源一郎),イラク民間支援の意義は(ペシャワール会ほか)。

上記拙論にほぼ同じなのは,ペシャワール会,「人間の盾」の木村氏。反対が高橋氏。早野氏はいつもは明晰なのに,いささか歯切れが悪い。

まったく意味不明なのが天声人語。「自己責任」は辞書なんか引かなくても日常生活で頻繁に使用され,定着している。「定義は辞書にあり」といった権威主義がそもそもの間違い。正しい語義は辞書にではなく日常生活の中にある。末尾部分は特にひどい。「語れる時を待ちたい」と結んでおきながら,いま語っているではないか! いつもは水準が高いのに,これは「天の声」でも「人の声」でもない。

●パウエル長官
自己責任否定論者の無節操,無邪気を露呈したのが,パウエル国務長官発言礼賛。

パウエル長官「誰も危険を冒さなければ私たちは前進しない。彼らや,危険を承知でイラクに派遣された兵士がいることを,日本の人々は誇りに思うべきだ。」

これを自己責任免責論と錯覚している。アメリカは世界に冠たる「自己責任」大国。自己責任は常識であり,それを前提に,パウエル長官は「自己責任」を引き受け,人のために行為した人は立派だ,といっているにすぎない。文脈無視で飛びつくと,ひどい目に遭う。相手は,米国務長官ですよ!

●NGOの自己責任
ボランティアやNGO(非政府・非国家組織)が「自己責任」を取らなければ,責任を取りたくてウズウズしている政府・国家が,迷惑を装いつつ,内心ではほくそ笑みながら,責任を取る。つまり,国営ボランティア,国営NGO。自殺行為だ。

「自己責任」は,国家の枠を超えた活動の担保。それを見失ってはならない。(自己責任の条件整備は,もちろん国家の義務)


040418 NGOは「自己責任」宣言を

1.イラク人質事件と自己責任
 イラク人質事件を機に,海外活動の「自己責任」が盛んに議論されている。人質とまではいかなくとも,事件や事故はネパールでも起こりうるのであり,自己責任はわれわれも十分考えなければならない問題だ。

2.自己責任の自明性
 個人もNGOも自己の行為に責任を持つのは当然だ。生命,身体,財産の安全については,日本政府による保障範囲内であれば,政府に責任があるが,範囲外では,政府には責任はない。
 したがって,日本政府が危険だから安全は保障しないといっているのに,それを無視して行動すれば,その結果に対する責任は政府にはない。これは自明の論理だ。
 NGOは,これまで,それを当然の前提とし,自ら情報を収集・分析し,万が一,事件や事故が起きたらどうするか,その対策を十分考えてから行動してきたはずだ。

3.自己責任否認は自殺行為
 ところが,今回のイラク人質事件では,海外活動の自己責任を事実上否定するような議論をするNGO関係者が少なくない。
 NGOは非政府(非国家)組織だから,政府による安全保障の範囲以外では,自前で安全確保をしなければならない。緊急救援体制の整備,現地住民との友好信頼関係,国際的救援ネットワーク,国際世論による認知など。個人にせよNGOにせよ,国家的安全保障と非国家的安全保障を総合的に考え,安全と判断すれば,その範囲内で行動すればよい。

4.自己責任の引き受け
 しかし,それでも事件,事故が起き,対処できなくなったときは,自分の判断ミスを詫び,救援を請わざるをえない。
 日本政府は,この救援要請に応えれば称賛されるが,応える義務はない。その場合は,どうしようもない。自分の行為の結果だから,潔く自己責任を認め,粛々と結果を受け入れるだけだ。

5.無限責任論のワナ
 日本政府の渡航自粛勧告や退去勧告の妥当性については,議論されてよい。しかし,相当の妥当性をもって発令され周知されている合法的な勧告を無視した行為の結果については,政府には責任はない。
 政府は恥を忍んで自分の無能力を認め,責任範囲を限定したのだ。もしその政府に対し「責任をとれ」と要求すれば,政府は必ず次のいずれかをする。個々人やNGOの海外活動を政府が責任をとれる範囲内に制限するか,さもなくば,あらゆる手段を使って(つまりは軍隊を送って)「邦人保護」をするかだ。

6.自己責任による国家の相対化
 NGOは,政府無限責任論(=主権国家論)に陥ってはならない。厳しく,また恐ろしいことだが,自己責任を引き受けることによって国家を相対化していく。これがNGOの責務だ。


040416 米大使解任はタカ派政策への転換か?

マリノフスキ大使はなぜ解任されたか? おそらく対マオイスト政策の失敗が原因であろうが,それ以上のことは現地情報も裏情報もない私にはよく分からない。従って,以下も表情報からの推測にすぎない。

マリノフスキ大使も国王も,対マオイストという点では,相対的にはハト派である。米国務省はこれが気に入らず,国王支持のマ大使を解任したのではないか? もしそうだとすると,米は次はタカ派大使を任命し,力によるマオイスト鎮圧に向かう可能性が高い。

保守主義者の私からすれば,本来,国王はそれほど強権的でなく,大規模な残虐行為は断行できないものだ。暴君はいても,せいぜい不興を買った者の首をはねる程度だ。

歴史が物語るように,いかなる権力行使もいとわず,平気で残虐行為を断行するのは,民主主義者だ。アイルランド大虐殺も,ユダヤ人抹殺も,階級敵大粛正も,大躍進大量餓死も,みな民主主義者の仕業だ。民主主義者には,国王のような権力行使の限界はない。

民主主義国アメリカがマ大使を解任したのは,権力行使を渋る国王を見限り,政党支持へ方向転換するためではないか? イデオロギー的にも,非民主的国王よりも民主主義を叫ぶ政党の方がアメリカには自然だ。

その結果は,もちろん5政党とマオイストの和解の可能性もなくはないが,それよりもむしろ,国王を排除し権力行使の制約を取り払った民主主義諸政党が,アメリカの大量武器援助を得て,反政府勢力の大弾圧に向かう可能性の方がはるかに大きい。

これまで国王がアメリカからもらったのは,せいぜいM16小銃くらい。たかがしれている。もし民主主義政党が国権を独占し,民主主義のためにテロリストと戦い始めたら,とてもこんなものでは済まない。テロリスト(=悪魔)抹殺に必要な武器弾薬の援助を求め,アメリカは民主主義のためにそれに応えざるを得ない。いや積極的に悪魔抹殺のために武器援助するだろう。

ギャネンドラ国王は名君ではないかもしれないが,少なくとも民主主義の暴走は阻止している。保守主義者として,私はギャネンドラ国王が一刻も早く立憲君主の王道に復帰され,ネパールの民主化を堂々と阻止されることを期待している。


040415 米大使解任

4月15日,マリノフスキ大使が解任された。国務省当局との意見の対立らしい(KOL,Apr15)。

現在の基本構造は国王・5政党・マオイストの三角関係。三すくみ。そこにアメリカが絡んでいる。

 米=国王(非政党的能動的王政)←→5政党(議会制民主主義,共和制も)

もし大使解任が事実なら,政策転換であり,おそらくそれは国王支持から5政党支持への転換であろう。そうなれば,ネパール情勢は一気に変わる。


040414 サハナ・プラダンら大量逮捕継続,国家破綻のおそれも

国王は4月11日,西部歴訪からカトマンズに戻ったが,反政府デモは継続,13日にはサハナ・プラダンら女性40人,身障者25人など,5政党系諸団体の数百人が逮捕された(KOL,Apr13)。

12日付タイム記事の写真を見ると,女性警官隊(!)に包囲された女性デモ隊がコブシを振り上げ何か叫んでいる。

タイム記事のタイトルは「危機の王国」。「ギャネンドラ国王は権力を維持できるだろうか?・・・・多くの外人が荷造りを始めたのは当然だ。国連機関も引き上げると警告している。・・・・もはや問題はネパールが破綻国家になるかではなく,破綻がいかに悲惨なものになるかである。」

いかにもアメリカ好みのショッキングな記事だ。読者は,「これはいかん,早く介入し破綻を防止せよ」と思うだろう。たしかに,世界最強グルカ兵の勇猛とマオイストの世界救済イデオロギーが先進国供与の近代兵器で武装すれば,ネパールが世界最強テロリスト国家になることはまず間違いない。

しかし,いくらなんでも,国家破綻にほぼ決まり,というのは言い過ぎだ。植民地化に抵抗し,しぶとく生き延びてきたネパールが,この程度のことで破綻するとは思えない。

が,「5人以上の集会禁止」などという某国某時代の悪夢を思わせるような命令を出し,連日数百人以上の逮捕者を出している現状を見ると,国家破綻は近いかとの懸念も,残念ながら払拭しきれない。


040412 下院任期満了,タダの人に

5政党はこれまでよく頑張ったが,本日,めでたく5年の任期満了(たしか,そのはず)。議会再開しようにも,タダの人になってしまっては,どうにもならない。

ラナバート下院議長によれば,「いまや解散議会の再開要求は不適切となった」のであり,選挙しかない。国王も「(立派な)君主になられる訓練中」だそうだ(KOL,Apr12)。

ちょっと国王に甘いか?


040411 800人逮捕,米政府渡航警告

10日,5党による反政府デモで800人逮捕。このうち有名政治家は以下の通り。

NC= Susil Koirala(書記長)
UML= B.M. Adhikari
PFN= L Pokhrel(副議長)
NWPP= Prem Suwal
NSP= R. Mahato(書記長)

パドマカンヤ女子大からは終日,投石(淑女たちが?)。警察は催涙ガス弾で応戦。ラトナパーク,バグバザール付近は,混乱状態のようだ。

これを,「民主主義の帝国」が見過ごすはずはない。普段はネパールには無関心のニューヨークタイムズまでが,反政府デモを詳しく伝え,国務省の
  「アメリカ人はネパール旅行を控えよ」
という警告(4月7日付)を付け加えている。事実,アメリカ人トレッカー2組がマオイストに拘束されたし,別の何人かの外人トレッカーへの傷害事件も発生したそうだ。

「民主主義」の危機に米権益への攻撃。介入の条件は整いつつある。(KTMP,Apr10;NYT,Apr10)


040410b テロ規制処罰令,発令

10日,国王が「テロ騒乱規制処罰令」を発令した。治安当局に強大な取り締まり権限をあたえるもの。これにより,もし5政党が「テロリスト」扱いされるようになれば,いよいよ全面対決となる。

要注意だ。


040410a 市民・政治家大量逮捕vs国王地方巡幸大歓迎

9日,5政党による反政府デモ参加者2万5千人のうち,1500人(APによれば,1000人以上)が逮捕され,そこには有力政治家も多数含まれていた(KTMP,Apr9;KOL,Apr9;AP.Apr9)。
  MK. Nepal(UML書記長)
  A.Sherchan(人民戦線代表)
  NM. Bijukche(労農党党首)
  BB. Yadav(サドババナ党)
  S.Acharya(NC中央委員)
  RC. Paudel(NC中央委員)
  

これは大事件には違いないが,デモを指導した政党政治家たちの「真意」は必ずしも判然とはしない。少なくとも彼らは同日夜には釈放されたのであり,彼らに限れば,これは文字通りデモンストレーション=やらせデモだったのではないか? NCのコイララ党首が脱出時に頭を負傷するなど,かなりの危険はあったので完全な「やらせ」とは言えないにしても,その要素が相当程度あったように思われる。

「やらせ」の疑念がぬぐえないのは,ネパールでは特権階級の政党指導者たちが民衆や学生を煽って不安状況をつくり,これを自分たちの政治取引に利用してきた過去があるからだ。

「民主主義」はネパールの非民主的政党政治家のメシの種,最強の安全保障だ。「民主主義」で身を守り,「民主主義」で稼ぐ。その手段が民衆だ。

しかし,この「民主主義」ゲームは危険だ。民衆はいつも都合よく操縦できるとは限らない。火をつけ,煽り,そのあげく操縦できなくなって混乱状態になると,議会政党よりはるかに民主的・近代的・組織的なマオイストにとって絶好のチャンス到来となるし,またこれを民主主義の危機とみる「民主主義の帝国」が介入してくることも必至だ。「民主主義」のために庶民の生命と財産を恣に破壊している,あの大帝国が,ネパールでも同じことを始めかねない。

それともう一つ,ここで見落としてはならないのは,首都が騒乱状態にあるのに,国王夫妻がゆうゆうと中西部を歴訪し,パルパ(6日)やナワルパラシ(8日)などで大歓迎を受けていることだ。摩訶不思議? 首都は当面5政党に譲り,地方(国土の大半)を国王とマオイストで折半ないし共同統治するつもりなのか?(NC,UMLの地方ボスはほとんど都市部に逃れ,都市部=議会政党,地方=非政党となりつつある。)それとも,国王の首都不在の裏には,重大な陰謀があるのか?

カトマンズはますます混沌とし,何が起こるか予断を許さない状況になってきた。予見困難ほど,不安なことはない。


040409 カトマンズ,「暴動地帯」に

内務省がカトマンズとパタンの一部を「暴動地帯(riot affected area)」に指定した。また,両市当局もリング道路内を「暴力多発地帯(violence affected)」と宣言した(KOL, Apr8)。

両宣言の詳細は分からないが,人身保護は停止され,5人以上の集会(?!)は禁止。夜間外出禁止令も出ており,「違反者は撃つ」とさえ治安当局は宣言。戒厳令に近い感じがする。

5政党と政府の対立抗争にマオイストがつけ込み,カトマンズの治安も急速に悪化しているようだ。


040408 ゴビンダ事件特集

ネパリタイムス(189)がゴビンダ事件の特集をしている。タイムスによる事件の概略説明と,佐野真一氏の長文記事だ。

事件概要では,M.Kyakuno氏の「日本の司法は『根深い人種嫌悪感』をもっている」という発言が目を引く。この判決がracial xenophobia(外人嫌い,人種嫌悪)によるものかどうか,その立証は難しい。しかし,こうした明白な不法捜査,不当裁判に対して抵抗するすべが全くないなら,危険と分かっていても「人種差別」という劇薬に走らざるをえない,その苦しい心情はよく理解できる。責任は,あげて日本国家の側にある。

本文は佐野氏のものであり,これまた心情に強く訴える文章だ。解説記事のracial xenophobiaとあわせると,強力な相乗効果を発揮するだろう。

はじめの方には,こんな文章さえある。「日本のレポーターはだれも,渋谷区円山町の殺害現場には実際には行かなかった」。事実は全く逆だったが,ネパール人読者は,日本のマスコミは現場にも行かずゴビンダ犯人説を流したのか,と怒るに違いない。この部分は誤訳だろう(きっと,そうに違いない)が,これまた先のracial xenophobia説を煽ることになる。

不吉な悪循環だ。どうすればよいのだろうか?


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