時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2004年c (→Index

040830b 「ただの人」にされたコイララ氏
040828 人質にされた人材
040823 危険レベルの引き上げ
040827 封鎖は成功(ワシントンポスト)
040830a 圧力鍋爆弾とは?
040826 戦術としての封鎖解除
040824 慣れへの恐れ
040820 カトマンズ封鎖
040819 スワヤンブーの美女軍団
040808 アナクロ・ミスコン
040804 美女軍団
040726 アメリカでネパール人不当拘留
040724 競売に出された「毛沢東主義」
040721 教師・生徒84名,解放される
040720 首都圏の治安悪化――爆破と連行
040717 印ネM連合軍=人民解放ゲリラ軍(PLGA)
040716 「ネパール電力」幹部,銃撃死
040715 暗殺テロと政党エゴ
040714 健全な意見の不健全さ
040713 NC=M連合へ1歩前進
040707 ポカラ市政の混乱
040706 デウバ拡大内閣発足
040703 ポカラ市長,暗殺
040702 国王=共産党連合なるか?
040630 5−1<1+3+α
040628 ロイの闘いと,社会の政治的成熟度
040625 Re: 無責任のネ日文化
040624 無責任のネ日文化



040830b . 「ただの人」にされたコイララ氏

またまた不可思議な事件発生。ネパール政界のドン,NCのコイララ党首が8月28日,トリブバン空港でバイラワ行仏陀航空への搭乗を拒否された。

予定していたNC集会はキャンセル。NCはカンカンに怒って,ビラトナガル・バザールは28日抗議封鎖。29日にはカトマンズも抗議バンダで荒れた。マオイストに出来ることが,NCにできまいことか!

それにしても妙な事件だ。空港警備の国軍は,コイララ氏が予告なしに,黒フィルム張りの車でタクシー停車場所に現れたため,コイララ氏と分からず,国内線ターミナルへの入場を拒否した,規則に従っただけで問題はない,と説明している。

NCの言い分はもちろん異なる。予告はしたし,武装警官隊の車2台に警護されて空港に着き,警備兵にコイララ氏であることを告げたが,阻止されたという。

いずれにせよ,ギリジャ・コイララ氏といえば,誰知らぬものなき超有名人。一目で分かるし,電話で問い合わせれば,すむことだ。だから,「分からなかった」はウソであり,分かっていたが規則を盾に追い返した可能性が高い。

ネパールは人治と法治の国。手続き諸般において「ただの人」は法治に服し,「えらい人」は人治で動く。とくにコイララ氏ほどの超大物ともなれば,空港管理規則は関係ないはずだ。

ところが,追い返された。コイララ氏は「ただの人」扱いされ,規則に従わされたのだ。これは,いかに規則を超越できるかがステータスシンボルであるネパール(D・ビスタ)においては,権力者に対する最大の侮辱だ。ナメられたのだ。

他国であれば,空港警備の美談を称え,権力者は苦笑して諦めざるをえないような事件が,内閣レベルの「真相調査委員会」に持ち込まれ,カトマンズでの抗議デモでは車20台あまりが破壊された。NC過激派が怒り狂っているので,暴力的抗議デモが全国化しかねない。

どう収めるか? やっぱり「ただの人」だったとなれば,NC内の世代交代など,政界への影響は避けられまい。 (KOL&KtmP,Aug28-29)


040828 . 人質にされた人材

「人材」は「物」扱いのような感じがして自分では使わないようにしているが,そんな感傷を許さないのが,グローバル自由市場化に躍起の「帝国」とその便乗組。

ネパールも労働市場自由化に乗り,「人材」の開発と輸出を拡大,いまでは中東に20万人,そのうちの1万7千人がイラクで働いているらしい(StarOnline,Aug22)。

数ヶ月前,パウエル長官は,イラク支援民間人を称賛した。イラクのため危険を覚悟で出かけ,働く。立派だ,というわけだ。しかし,イラクで働く民間外国人の多くは,新自由主義改革で痛めつけられ,イラク行きを選択せざるをえなくされた労働者だ。「立派だ」は動員兼免責用の巧妙な政治的発言であり,実質は「物」扱い,それも消耗品だ。「人材」は「物」としてイラクに送られ,運が悪いと「質」に取られ,最悪の場合,見捨てられ「流される」。

事実,人質になったネパール人労働者を送り込んだのは「月光人材会社(Moonlight Manpower Co)」であり,13人も人質にされているのに,日本を含め世界のマスコミの扱いは悲しくなるほど小さい(KOL,Aug25)。

人民戦争犠牲者が5000人に達した頃,人命換算表がどこかのマスコミに出た。正確な比率は覚えていないが,それは次のようなものだった。

1(アメリカ人)=5(ヨーロッパ人)=5000(ネパール人)


040823 . 危険レベルの引き上げ

NS・カドカ氏がネパリタイムズ(209)で,外務省による危険レベル引き上げに対する観光業者の不満を同情的に紹介している。

ネパール危険地図(クリック)

外務省は,最近(たぶん7月28日),カトマンズ,チトワン,カスキを「渡航の是非を検討してください」に一段引き上げた。たしかに米英豪は「不要な訪ネは中止せよ」と強く警告しているが,外国人への意図的攻撃はなかったし,ましてや日本人がターゲットになることもなかった。仏はこんな警告は出さず,「訪ネしたい仏人に,行くなと当局が規制することはしない」と明言している。日本も規制強化はやめて欲しい。

このネパール観光業者の不満はよく分かるが,外務省による危険レベル引き上げは,残念ながら正しい。ただし,外務省は内戦による治安悪化を理由としているが,どうもそれだけではないような気がする。

日本は,今回のアフガン・イラク出兵で事実上,米英豪連合軍と一体化した。交戦相手から見れば,日本は彼らと同類であり,ネパールでだけ例外とは行かない。いや,それよりもむしろ,正義の対テロ戦争に堂々と参戦したのだから,日本人たるもの,攻撃される覚悟が必要だということだろう。

外務省はもちろんそんなことはいっていないし,米英豪から危険レベルの引き上げを求められたわけでもなかろう。しかし,事柄の大筋を見ると,これはグローバル化時代における対テロ戦争への新たな銃後の備えのような気がしてならない。


040827 . 封鎖は成功(ワシントンポスト)

報道は特定の意図の下に行われる。封鎖報道もそうだ。

大物モシン情報相は,就任前後に,「健全な」報道をせよ,と報道機関に圧力をかけた。わが外務省HP でもほぼ全土が赤いのに,大半の庶民は平和に暮らしているから,どうぞ安心して遊びに来てください,といったたぐいの大本営発表は用心しなければならない。

他方,「危機」をつくりたい側の報道にも,警戒が必要だ。そこで,ワシントン・ポスト。

25日付ワシントンポストのサンジブ・ミグラニ氏(ロイター)の記事によれば,今回の封鎖は「成功」であり,マオイストは「力の増大」を見せつけ,これにより革命は次の段階に進むという。パドマラトナ・トゥラダール「政府が交渉に失敗すれば,人民戦争はすぐにエスカレートするだろう。」シャム・シュレスタ「明らかに,マオイストの兵力と組織力は想像できないほど増大している。今回,彼らは首都でもしたいことは何でも出来ることを示した。」人口150万人の首都圏には,食料も燃料もわずか数週間分しかないのだ。

カトマンズ発もワシントン発も,もちろん偏向している。事実は,慎重な比較考量を通して追求していくしかあるまい。


040830a . 圧力鍋爆弾とは?

圧力鍋爆弾とは,こんなものです。手軽に出来るが,結構威力はありそうです。

圧力鍋爆弾の記事 (クリック)


040826. 戦術としての封鎖解除

マオイストは8月24日,カトマンズ封鎖を8月25日から1か月間,解除すると発表した。要求を呑まねば,いつでも封鎖できるよ,とのメッセージであろう。

事実,発表当日の24日にはおよそ信じられないような事件が起きた。真っ昼間の午前10時頃,3人のマオイストがカトマンズのオフィス街(?)にある土地改革局に現れ,職員に銃を突きつけ,強力な3リットル圧力鍋爆弾を設置して立ち去った。

ビル内の約30人はむろんのこと周辺住民もわれ先にと避難した。導火線の火が扇風機の風で消えたため爆発しなかったらしいが,これはいかにもネパールらしいとはいえ,単なる偶然にすぎない。

こんなことで驚いていては,まだまだ「ネパール通」とは言えない。

同じ24日の午後,カトマンズの東60kmばかりのシンドバルチョーク郡バレフィで国軍兵5人が射殺された。行ったことはないが,観光地デューリケルのすぐ近くであり,軍の大駐屯地も近くにあるはず。そのバルフィのアラニコ・ハイウェイにマオイストが設置した封鎖用ブロックの撤去に出かけた国軍兵が,無差別銃撃を受けたのだ。どの程度の道路か分からないが,ハイウェイだから幹線だろう。とすると,外人客を乗せた車がそこで立ち往生していなかったのは,これまた偶然にすぎない。

こんな状況下でも庶民生活は「平常」だそうだ。オーウェル文士に登場願って,ネパール版ニュースピークを考案してもらいたい。 (KtmP&KOL,Aug24)


040824 . 慣れへの恐れ

この種の議論には一つの傾向がある。地元の人,事情通は「たいしたことはない」と感じ,私のように現地事情に疎い者は「大変だ」と感じる。これは相当程度,慣れの問題だ。

以前,バンダの日,いかにも外人というスタイルで友人運転の車で観光に出かけたら,途中で投石にあった。1個も当たらなかったが,怖かった。これも3回目,4回目となれば,「たいしたことはない」と感じるだろう。爆弾だって,最初は恐怖におののいたが,いまではカトマンズやパタンで爆発しても,「あぁ,またか」と聞き流しがちだ。

短期旅行者の私ですら,この程度には慣れるのだから,地元住民が慣れるのは当然で,慣れないと身がもたない。

昨日,アディカリ蔵相も,「カトマンズ封鎖は失敗した」と力説した。しかし,庶民は慣れで,蔵相は政治的判断で,「大禍なし」といっているにすぎない。車や電化製品があふれ,外部依存の進むネパールの都市生活はますます脆弱となり,その気になれば簡単に破綻させられる。そのことは王国軍自身がよく知っており,たとえ国軍15万人体制が実現しても,到底防衛しきれないと告白している。

だからこそ新旧特権階級はどんな手段を使ってもこの体制を守ろうとする。INSECレポート(ネパリタイムズ,209)によれば,軍はいま「投獄者ゼロ作戦」を取っている。「マオイストおよびその疑いのある者は,通常,その場で射殺される」。つまり,前述の「shoot-to-kill」作戦だ。

たしかに大部分の住民の生活は平穏だろう。だが,こんな状況に慣れてよいのだろうか? 庶民は慣れざるをえない。慣れなければ生きていけない。(慣れることの出来ない高貴な方々は続々と海外逃亡しているらしい。)外人も慣れるべきか?

銃殺,爆殺,強制連行,手足切断,レイプの地に,外人特権に馴れ,霊山ヒマラヤや不可思議な風俗文化を見に行く。このような慣れや馴れは,自分自身の精神と身体の安全にとっても好ましくないような気がする。


040820 . カトマンズ封鎖

18日からのカトマンズ封鎖で,生活や旅行に支障が出始めた。

16日には,Soaltee Crowne Plazaが爆破され,さる高貴な方に関係するコカコーラ工場やタバコ会社も閉鎖に追い込まれたらしい。20日にはディリバザールでも爆発があり負傷者がでた。首都はますます不穏になってきたようだ。

ネパリタイムス(208)転載のHimal Khabarpatrikaによると,マオイストは首都包囲作戦を展開しており,解説地図を見ると,たしかにカトマンズ(白色)はマオイスト地区(赤色)に完全に包囲されている。これに対し,軍はshoot-to-kill作戦などという恐ろしい戦術を使っているらしい。

封鎖破りで攻撃されるのも,shoot-to-killで撃たれるのも怖い。当分は,陸の孤島のような白色地域から外には出ない方がよさそうだ。


040819 スワヤンブーの美女軍団

ネパリタイムズ(208)が,スワヤンブーの麓で整列する美女軍団の写真を載せている。

スワヤンブーに見守られる美女軍団

これとの関連で,ネパリタイムズ(209)がアンケート調査をやっている。こちらも興味深い。
 Q. ミスネパール・コンテストは女性を堕落させるか?


040808 . アナクロ・ミスコン

このたび,パヤル・シャキャ嬢がめでたく「ミス・ネパール2004」に選ばれた(KOL,7Aug)。

写真を見ると,たしかに美人だが,「美人」を1つの基準ではかれるとする発想そのものが,アナクロ。まともな感性を持つ社会では,もはやミスコンなんか流行らないし,やっても見向きもされない。

次のミス・アジア太平洋大会は中国開催らしいが,中国もこんな「近代化」はしないようがよい。(もちろん賢明な中国のこと,アナクロは承知の上で,政治的効果大と見ているのだろう。)

先述のように王国軍は「美女軍団」創設で,軍の大胆な近代化に着手した。ミスコン開催のビレンドラ国際会議場に抗議に出かけた女性団体(残念ながら「美人女性団体」ではないらしい)も,報道を見る限りでは,こちらの女性「解放」には反対していないようだ。

そこで提案だが,ミスコンの副賞として「美女軍団」入隊の栄誉を授与することにするとよい。王様の軍隊であり権威が高まるし,うまくすると,女性人権団体の後援さえ受けられるかもしれない。


040804 美女軍団

こんな表現はセクハラかもしれないが,王国軍新設の女性軍の写真を見ると,某国以上の「美女」軍団といってまず間違いはない。

王国軍は,このほど197人の女性を採用し,訓練後,兵役につかせた。さらに251人の女性兵を採用するとのこと。そうなれば,500人の美女軍団となる。

壮観このうえない。快挙というべきだろう。ビャル・タパ将軍によれば,「女性兵編入は女性のエンパワーメントによる社会変革にとって画期的なことだ」。だから,今後さらに増員し,5%を女性兵にする予定だそうだ。

王国軍は15万人構想を持っているから,その5%とすると,7500人。この大「美女軍団」が実現すれば,大抵の敵は戦意を失うだろう。

が,まことにもって遺憾ながら,女性「解放」ではマオイストの方がはるかに先行している。わずか5%では到底マオイスト女性ゲリラ軍には対抗できない。王国軍は,女性をもっともっと「解放」し,エンパワーし,憲法規定の5%など無視して,将兵の50%を女性にしてしまう。そうすれば,あるいはM女性軍団と互角に戦うことが出来るかもしれない。(KOL,2Aug)


040726 アメリカでネパール人不当拘留

プルナ・ラジ・バジラチャリヤ氏の不当逮捕・拘留をネパリ・タイムズ(203)が告発している。9.11以後の人種差別的人権無視には,背筋が寒くなる思いだ。

プルナ氏は,アメリカで6年働き,3万7千ドルの仕送りをし,オーバーステイでもあったので,帰国しようとしていた。帰国に備え,ソニービデオを買い,2001年10月25日,土産話用にクイーンズ街の風景を撮影していた。

と,そこに突然,私服捜査員が現れ,逮捕され,アパートも捜索され,容疑事実は何も発見されなかったのに,3ヶ月間も拘留され虐待された。

プルナ氏は全く知らなかったのだが,何気なく撮っていたビルの中にFBI事務所があった。彼はテロリストの嫌疑で,極秘に拘留されてしまったのだ。

英語はほとんどしゃべれないのに通訳なし。独居房は2×3mで24時間照明されている。裸にもされた。すべての容疑は数日で晴れたのに,3ヶ月間も拘留され虐待されたのだ。アブグレイブは,イラクだけでなく,キューバにも,そしてニューヨークにもあった。

プルナ氏は日本人そっくり。写真好きの日本人も,しばらくは,アメリカには行かない方がよいだろう。


040724 競売に出された「毛沢東主義」

久し振りにマオイストHPを見ようと,maoism.orgをクリックしたら,何とこれが競売に出されていた。

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040721 教師・生徒84名,解放される

20日,マオイストは,警察・国軍の無力さを見せつけた上で,連行した教師・生徒84名を解放した。近辺でのマオイスト集会に参加させられていたらしい。

先生・生徒が連行された公立2校があるChhaimale VDCは,ダクシンカリ寺院の南5km。そこに日曜午後,武装マオイスト兵がやってきて数十名もの教師・生徒を連行した。追跡されないように「圧力鍋爆弾」を2個残していた(他にもあるかもしれない)ので,交通は遮断され,追跡は出来なかった。

軍も警察も全く行動せず,圧力鍋爆弾は翌日まで放置されたままだった(KtmP,19Jul;KOL,20Jul)。

最低限の安全ですら守れないことが露呈すれば,首都圏でも西部と同じことが始まる可能性がある。


040720 首都圏の治安悪化――爆破と連行

18日(日)午前10時頃,カトマンズの路上爆破テロで歩行者1人死亡,5人負傷。Koteswar警察署前なので,警察には近づくな,という警告か。

国軍報道官は,「怪しいものを見つけたら,触らずに,直ちに通報せよ。子供にもよく言い聞かせよ」と警戒を呼びかけた。

爆破の他に,ついに首都圏からも,教師と生徒の連行が始まった。18日(日)午後2時30分頃,Sri Krishna Secondary School (Chaimale VDC)の教師12人,生徒50人がマオイストによりどこかに連行された。この種の大量連行,再教育は,地方では頻発しているが,首都圏については,これまで報道されることはなかったはずだ。少年兵・少女兵の補給が,首都圏からも始まる徴候か?

この他に,土日だけでも,マオイストはスパイ容疑で父子射殺(サルラヒ郡),通勤途中の兵士射殺(チトワン郡),映画館爆破(学生1人死亡,カスキ郡)を実行した。

地方だけでなく,首都圏の治安も一段と悪化しているようだ(KtmP&KOL,18Jul)。


040717 印ネM連合軍=人民解放ゲリラ軍(PLGA)

ネパールとインドのマオイストが協力関係にあることは以前から知られていたが、その一つPLGAも「ネパール共産党マオイスト」とインドの「マオイスト共産主義センター(MCC)」からなる印ネ連合軍だ。

このPLGAが7月13日、印ネ国境沿いのインド警察署を襲撃した。PLGA軍は250−300人の大部隊で、スピーカーで「MCC万歳!」「ネパール・マオバディ万歳!」を連呼していた。ゲリラには、モンゴロイド系の女性が多く、ネパール語訛りだったそうだ。

武器を奪い、警察署を爆破して退却。死傷者不明(Times of India, 16Jul)。

資本に国境がなければ、それが生み出す構造的暴力にも国境はない。マオイストに国境がないのは当然だ。


040716 「ネパール電力」幹部,銃撃死

7月13日,カトマンズで「ネパール電力(NEA)]幹部ウラシュ・バイジャ氏が,マオイストに強要された献金を偽札で支払い中に,銃撃され(たぶん警官から),死亡した(KtmP,14Jul)。

15日には,パタンのネパール・テレコム(NT)が爆破され,巻き込まれた老婦人が死亡した(KOL,15Jul)。

マオイストは,首都圏のNEAやNTを狙っているようだ。


040715 暗殺テロと政党エゴ

昨日(7/14)もまた,カトマンズでマオイストらしき2人組が教師を暗殺した(KOL,14Jul)。ゲリラ部隊の半正規攻撃よりもはるかに怖い。

この暗殺続発と政情は,関係あると見るのが自然だ。

国王=UML連立政府は,早くも内紛で崩壊寸前(KtmP,13Jul)。UMLは,解散前の地方議会(すでに2002年任期切れ)をそのまま復活させることを主張。NC優位の解散議会の復活を唱えてきたNCと同じ論法だ。地方議会はUMLが断然優位だったのだから,UMLの魂胆は見え見えだ。

これに対し,NC-D,RPP,NSPは,「全党委員会」なるものの設置を要求。つまり,身内を委員に任命し,UML を牽制しつつ,地方に勢力を拡大しようというのだ。これもあからさまな党利党略。

国王=UML政府がこんなことをしていると,暗殺容認の世情が広がってしまう。かつての日本がそうだったように,もしそうなれば,それは国家崩壊の前兆といわざるを得ない。


040714 健全な意見の不健全さ

7月13日,モハシン情報大臣がマスコミに注文をつけた。いわく――

「メディアは,中立を口実に,反民主主義勢力を鼓舞すべきではない。」メディアは,民主主義強化を主眼とすべきだ(KOL, 13Jul)。

残念なことに,モハシン博士は,民主社会におけるメディアの役割を完全に誤解されている。

非民主的方法で構成された政府に,国王推薦大臣として参加されている情報大臣が,民主主義のための「健全な」報道を要求される。

これは悪手だ。小泉首相も選挙戦劣勢に焦り,「一部の反米マスコミ」批判をやり,墓穴を掘った(朝日7/6)。国家や政府が「健全」意見を唱道するときは,国家や政府が「不健全」になったときだ。

これは国家に限らない。どのような集団であれ,オープンな批判を封じれば,自家中毒は免れない。


040713 NC=M連合へ1歩前進

以前,コングレス=マオイスト連合の可能性を指摘したとき(No.3511),「まさか?」の反応が大部分だったが,その可能性はやはり否定できないようだ。

KOL(12Jul)によれば,コイララ党首はマオイストと会い「交渉」を始めたと言明。

一方,7月12日にはコイララ党首は国連代表とも会い,国連仲介について協議。国連仲介は,マオイストの強い希望であり,コイララ党首はこれに応えようとしているともいえる。

どんな形であれ,和平実現は望ましいが,額面通り受け取れないのが難しく残念なところだ。

国連仲介には,国王派は大反対。連立の共産党UMLとRPPは,はっきりしないが,RPPは反対,UMLも多分反対だろう。「ナショナリスト」の彼らは,国連仲介はマオイストに国際法上の交戦者の地位を与えることになるし,国連といっても実際には列強だから外国介入になると考えている。だから,国王=共産党連立政府は,国連仲介を認めないだろう。そして,国連は正統政府が反対する限り,仲介は出来ない。

とすると,コイララ党首の行動は,国王=共産党連立政府に対抗するためのNC=M連合形成という意味合いが強くなる。

7月12日には,マオイストはカイラリ郡のダンガディ市長を暗殺した(Nepalnews.com, 12Jul)。RPPの市長だ。たしかに,軍や武装警察隊を攻撃するよりも,自治体首長や官吏を狙い撃ちする方が効果的だ。今のところ,戦術は変えても,マオイストの実力闘争の方針には変化はない。

NCも,武装闘争の輝かしい歴史を持っている。NC武闘派が,マオイストに習い,実力闘争に向かえば,いよいよ収拾がつかなくなる。


040707 ポカラ市政の混乱

ポカラでは,副市長辞任に続き,7月6日,12人の区長が辞任した。ポカラ市政は大混乱のようだ (KOL,Jul6)。

一方,カトマンズでも,7月6日午前9−10時頃,区長と警察副所長が殺害され,動揺が広がっている (KOL,Jul6)。

マオイストは中間指導者層をターゲットにし始めたようだ。

このところ,NC活動家への攻撃は目にしない。


040706 デウバ拡大内閣発足

7月5日,デウバ首相は31人の大臣からなる拡大内閣を発足させた。NC-D=12, UML=11, RPP=5, Royal rep.=2, NSP=1。

序列は,
 1.首相−−−S. B. Deuba (NC-D)
 2.副首相−−B. M. Ahdikari (UML)
 3.情報相−−M. Mohin (国王推薦,上院前議長)

これは奇妙な内閣だ。国王推薦は,モヒン氏とK.L. Thakali氏。カトマンズポスト(7/5)はこの2人を国王代表(Royal rep.)とさえ呼んでいる。

国王は,これの正当化のために憲法第127条を使ったようだ。第127条は白紙委任的な授権法。この調子では,いずれ憲法は127条により完全に空洞化されてしまうだろう。

この拡大内閣は,前述(No.3508)の通り,実質的には国王=共産党連立内閣。

こんな変な内閣が長続きするとは思えない。もし長続きするのであれば,ネオ・パンチャヤト体制となってしまうだろう。


040703 ポカラ市長,暗殺

2日午前11時45分頃,ポカラでハルカ・B・グルン市長がマオイストに殺害された。グルン市長は,RPPカスキ郡役員。

これとは別にヌワコットではUML党員が殺害された。

マオイストは,明らかに新勢力関係の成立を阻止しようとしている。観光都市ポカラで,白昼堂々と市長を銃殺できるのだから,マオイストの弱体化は信じがたい。


040702 国王=共産党連合なるか?

共産党UMLが,入閣人事に入った。イス取りで分裂しなければ,実質的には,国王=共産党連立政権となる。

NCは拒否。

マオイストも拒否し,UML攻撃を強化。プラチャンダ議長は,国連による和平仲介を繰り返し要求しているが,これは政府が拒否している。

敵の敵は味方。ネパール政治にはこの単純な公式がよく当てはまる。とすると,いよいよNC=マオイスト連合がなるか?


040630  5−1<1+3+α

デウバ政権の勢力関係が徐々に明らかになってきた。国王派指導下に,NC−D,UML,RPP連立となりそうだ。

反政府側はNC,UPF,NWPP,SPの4党派で,両派同数だが,もしUMLが分裂せず,何人か入閣することになれば,政府側有利となる。

鍵は,やはりこの権力構造をマオイストが認めるか否かだ。容認し,和平に向かうのであれば,NCは分裂か,過激化する。容認しなければ,今度はNC=マオイスト連合だ(すでにコイララ氏がインドでマオイストと会談したという噂がある)。

この国には,「国民」も「人民」も存在しない。そこが問題だ。


040628 ロイの闘いと,社会の政治的成熟度

アルンダティ・ロイのグローバル化に対する怒りはすさまじい。(Arundhati Roi, Collected Essays, 2001,2002,「誇りと抵抗」集英社新書)

「貧困とは金のなる木」。それをグローバル化の名の下にむさぼり食う先進国と途上国特権階級を言葉の限りを尽くして完膚無きまでに批判している。罵詈雑言スレスレのきわどい攻撃だ。

これに対し,米英はブッカー賞と多額の著作料で応え,インドは逮捕や訴追で応えた。インドでの闘争という点を割り引いても,全体として,社会の政治的成熟度が違うと言わざるを得ない。

しかし,際どいことは,ロイ自身が認めている。傾聴に値する考え方だ――

「強くてほんものの鮮やかな想像力と,つくりもので騒々しい子供だましとを隔てるラインはとても細い。そのラインはどこにあるのか? どうやって見分けるのか? 踏み越えたことをどうやって知るのか? 難解で謎めいた言い方をあえてするなら,わかるときにはわかる。」(p.12)


040625 Re: 無責任のネ日文化

Thank you for reply.

I said that both Nepal and Japan have a culture of irresponsibility though type is different.

Japanese “system of irresponsibilities” is so deep-seated and dangerous that, in the worst case, it may take Japanese people to war once again. (See, Maruyama, “Thought and Behaviour of Japan’s Wartime Leaders”)

Nepalese type of irresponsibility is different in type. Many Nepalese scholars and journalists criticize it in various books and journals. For example, D. B. Bista says in his “Fatalism and Development”:

“Fatalism contributes to the development of a personality which is devoid of a sense of internalized responsibility towards society at large. Under fatalism, responsibility is continually disposed to the outside, typically to the supernatural.”(p.80)

“People with a choice would not feel guilty for not working. Yet, ironically, the same people do not feel bad about criticizing others for not doing what they themselves would not do. This means that everybody ends up being critical of everybody else but does not necessarily feel guilty for not fulfilling his own formal duties.”(p.81)

I only paraphrased their self-image of Nepal. In Japan, we always welcome the severest criticism against our own culture of irresponsibility.

Thank you.


040624 無責任のネ日文化

ネパールと日本には,「無責任の文化」がある。

日本の「無責任の体系」の下では,社会現象がまるで自然現象であるかのように発生し,結果に対し誰も責任をとらない。先日も,わが大学で誰も掲揚を希望せず決定もしないのに,摩訶不思議,「日の丸」が式場に自ずと現れた。物事は自ずと成り行くままになり,個人ではどうしようもない。実に奥ゆかしく,詩的だ。

これに対しネパールでは,無責任はもっと散文的だ。「それは私の責任ではない」,「私は頑張ったが,○ ○のせいで失敗した。責任は○○にある」,「私は有能だが,周りの連中が愚かだから失敗した。責任は連中にある」。

ネパールで,このような「責任転嫁」を経験した人は多いと思う。ビスタ氏も嘆くように,責任転嫁型無責任は,ネパール文化といってよい。

わが敬愛するM.ウェーバー先生はこういっている。

「愚かで卑俗なのは世間であって私ではない。こうなった責任は私にではなく他人にある」,こんなことを言うのは,「自分の負っている責任を本当に感ぜずロマンチックな感動に酔いしれたほら吹きだ」。「現実の世の中がどんなに愚かであり卑俗であっても断じて挫けない人間」,それが本物の英雄だ。

ネパールに関わっていると,責任転嫁型無責任文化に染まりがちだが,たまにはリアリストのものを読み,小児的空威張りと,その裏返しとしての小児的責任転嫁への逃避を自戒し回避したいものだ。


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