ネパール:長年無視されてきた人権の危機は、もはや破局寸前である

AI INDEX: ASA 31/019/2005

(デリー)アムネスティ・インターナショナルのアイリーン・カーン事務総長は、2 月1日にギャネンドラ国王が非常事態を宣言してからというもの、ネパールにおいて、人権の破滅的状況が差し迫っていると語った。

「マオイスト(毛沢東派)と軍の武力衝突が長期化し、山間部の人権状況が悪化しました。そして、今や非常事態が宣言され、都市部の人権も悪化の一途をたどっており、ネパールは破局寸前の状態にあります。」 カーン事務総長は、2月10日から16 日にかけてネパールを訪れたアムネスティ派遣団の調査結果を報告し、そのように述べた。

「非常事態により、治安部隊の権限が強化され、和平に向けた政治プロセスの見通しが薄れ、紛争が激化する可能性が高まりました。このため、人びとがさらに苦しみ、人権侵害を受ける事態へと陥りかねません。」

非常事態宣言直後に逮捕された政治指導者、学生、人権擁護活動家、ジャーナリスト、労働組合運動家は、2週間以上たっても拘禁されたままである。釈放された指導者もいるものの、特に地方において、さらなる逮捕者が出ている。軍が厳しい報道管制を敷き、政治批判を徹底的に弾圧している。多くの指導的な人権擁護活動家、ジャーナリスト、労働組合運動家は、潜伏するか、国外へと脱出した。

「調査団は、行く先々で、人びとの間に深い恐怖感、先行き不透明感、不安感が蔓延しているのを目の当たりにしました」とカーン事務総長は証言した。

「ネパールの活発な市民社会は今回の非常事態によって力を失っています。軍の行き過ぎやマオイストの残虐行為を暴き、非難していた人びとは、今や言論を封じられているのです。このような事態は免責を助長するだけで、治安部隊、マオイスト双方による人権侵害の一層の悪循環を招き、ネパールの一般の人びとにとって破滅的な結果をもたらすでしょう。」

アムネスティ・インターナショナルは、最近の報告書の中で、2003年8月の停戦崩壊以降、拷問、拘禁、失踪、強制的立ち退き、誘拐、国際法違反の殺害などの人権侵害の規模が大幅に拡大したことを明らかにしている。アムネスティ調査団は、ネパールガンジ、ビラトナガル、カトマンズ刑務所を訪問し、強かんの被害者、子ども兵士、拷問被害者など、治安部隊およびマオイストによる人権侵害を最近受けた人びとと対面した。

カーン事務総長はギャネンドラ国王と私的に会見し、一向に止まない武力衝突のせいで悪化し、今回の非常事態により一層ひどくなっているネパールの人権状況について、アムネスティの深刻な懸念を伝えた。国王はそれに応え、人権を擁護し、ネパールの国際的な義務を果たすと確約した。

「国王は、口約束でなく、自らが任命した政府がその約束をいかに実行に移すかによって、判断されることになるでしょう」とカーン事務総長は語った。

「ネパールの主要な同盟国、および軍事支援国として、米国、英国、インドは鍵を握る存在です。これらの国は民主主義の再建を声高に求めてきました。ネパール政府に対し、人権尊重の保証を要求することにも、同様に重きを置くべきです。ネパールの大多数の人びとにとって、民主主義は、人権が守られない限り、意味をなさないのですから。」

「王室と軍の密接な関係、人権を抑圧し侵害する上で治安部隊が果たす役割、そして非常事態下で治安部隊の重要性が増していることを考えれば、ネパールの人権政策を変えさせるための圧力の一環として、支援国は同国政府に対するあらゆる軍事援助を一時停止すべきです。」

近く予定されている英国外務大臣のネパール訪問について、カーン事務総長は、人権や軍事援助の停止に関し断固たる姿勢を示すことにより、英国が欧州連合(EU)における指導力を発揮するまたとない機会だと指摘した。

「時間はもうあまり残されていません。ネパールは悪化の一途をたどっています。国際社会は、過去10年間ずっと、ネパールの人びとを見捨ててきました。もはやそれは許されません。」 カーン事務総長はそのように締めくくった。

アムネスティ・インターナショナルの勧告:

ネパール政府は
- 非常事態下で一時保留とされた基本的人権を直ちに復活させ、紛争解決に向け、正義と人権尊重に基づいた政治プロセスを開始すること
- 国外に一時退避する人びとが安全に通行できるようにし、またネパール国内にとどまる人びとの安全を保証するなどして、人権擁護活動家、ジャーナリスト、労働組合運動家、その他の活動家を保護すること
- 独立した調査を行ない、軍事法廷ではなく文民の判事による裁判で人権に関する罪を裁くなど、治安部隊の免責に終止符を打つための効果的措置を講じること

マオイストは:
- 自ら国際人道法を尊重すると公約すること
- 民間人を標的にするのを止めること

ネパール政府とマオイスト指導部は:
紛争下のいかなる時であっても人権の尊重を保証する人権協定を結ぶこと

国際社会は:
- 人権政策を変えさせるための圧力手段として、ネパール政府に対する軍事援助を一時停止すること
- 近く開催される国連人権委員会の場で、ネパールの人権状況を監視する特別報告者を任命すること

国連は:
- 平和維持活動に配属される予定のネパール軍が、ネパール国内で人権侵害に関わっていないか検証すること
- 人権擁護活動家を守り、国家人権委員会を支援し、司法を強化するため、国連人権高等弁務官のネパール派遣事務所を創設すること

ネパールに関する資料:
http://amnesty-news.c.topica.com/maadcfXabekaDbb0itSb/ [英文