谷川昌幸
内閣不信任案の否決 事実は小説よりも奇なりというが、昨年末のネパール
政局は奇想天外、波瀾万丈で部外者の私には大いに楽しめた。 12月11日、
共産党(UML)と国民民主党(RPP)チャンド派を中心とする102議員署名の内
閣不信任案が提出され、与野党の激しい議員争奪戦が始まった。友愛党(NSP)
は反党的2議員の除籍を憲法49条(f)により要求し、コングレス党(NC)は
チャンド派が300万ルピーでUMLに買収されたと非難した。UML=チャンド派は
、労農党(NWPP)の1議員がNC議員によってビナトナガルへ拉致された様子や、
政府が反デウバ派5大臣をバンコクへ強制連行した経緯を事細かに説明し、デウ
バ派を攻撃した。手に汗を握る劇画まがいのこれらの事件がどこまで事実か定か
ではないが、1、2票の移動で結果が逆転するだけに、すべてが作り話とはいえ
ないだろう。 こうして12月23日、不信任案への投票が行われることになっ
たが、混迷は投票日になっても深まるばかりであった。パウデル議長はNSP2議
員の除籍問題をいずれとも決められず、NWPP議員拉致事件や不在5大臣問題もむ
し返され、議論は翌24日にもつれ込んだ。この大混乱の中、夜8時前になって
ようやく議長は首相の反対討論を許可し、投票が行われた。 投票結果は、賛成
101、反対84、棄権14(議長1、欠員5)と、過半数の103に2票不足
し、不信任案は通らなかった。しかしデウバ内閣にとって、積極的支持はわずか
84であり、これは厳しい結果である。RPPもデウバ支持3に対し不支持8と、
これまた深刻だ。不信任投票は、現状の打開ではなく、現政権の不安定さを暴露
しただけの空騒ぎに終わった。 さらに、この12月の「政治活劇」を受けて行
われた1月24日の補欠選挙では、NC2議席に対しUMLは3議席を獲得し、勢力
を拡大した。この状態では、デウバ首相は信任投票を求めることも解散に打って
出ることもできない。しかし、首相の意向に関わりなく、解散総選挙の観測が広
がりつつあるのも事実だ。「政治の混乱と不安定の唯一の解決策は総選挙である
。政権担当者を決めることができるのは主権者人民のみだ」(B・B・カルキ)
。(参考資料)Kathmandu Post, Explore Nepal, Spotlight, Independent
〔ネパール協会・会報、141、March 1997〕