マガール族にはなぜ髭がないのか

                              (試訳)東北芸術工科大学学生 M. T.


 むかしむかし、あるブラーマンが修行のためインドのバナラスに行きました。 
彼は長い修行のすえ、サンスクリットの最高の資格を修め、自分の村に偉大な僧と 
して帰れることになりました。 

 ブラーマンは、家に帰る途中、マガール族の村を通らなくてはなりません。彼の
家とマガール族の村の間には、残忍な動物や恐ろしいお化けが住む大きくて深い
ジャングルがありました。彼がマガール族の村に着いたのは、ジャングルに入るには
もう遅すぎる時刻でした。夜のジャングルは特に危険です。そこで彼はマガール族の
一軒の家に泊めてもうことにしました。

 ブラーマンは村人に泊めてくれないかと頼みましたが、驚いたことに、宿を求めて 
村を訪れる外部の僧には守らなければならないきまりがある、といわれました。それは、
マガール族以外の者はマガールの僧との問答に挑戦しなければならない、というものでし
た。もし挑戦者が勝てば、そのときだけ名誉ある客として泊ることを認められます。しかし、
もし勝てなかったら、空缶を縛りつけられジャングルに追い出されてしまいます。空缶
は太鼓の様な音を出すのです。ブラーマンには他に選ぶ途はなく、問答をせざるをえな
いことになりました。

 彼は部屋に通され、マガールの僧に会いました。マガールの僧は部屋の向こう側のソファ
ーに座っていました。彼にはとても長い口髭と顎髭がありました。

 ブラーマンは客として問答を始めるように言われました。そこで、彼はよく知られてい
ることわざを言い始めました。すると、そのことわざが気に入らなかったのか、マガール
の僧はいらいらして、獣のような大きな声でうなりだしました。このマガール僧の様子を
見て、ブラーマンはがっくりと落胆してしました。

 ブラーマンは無知で敗けたのだと思った村人達は、彼をつかまえて縛り上げてしまい
ました。自分はまだ敗けていない、判断するには早すぎる、とブラーマンはマガールの村
人達に頼みましたが、どんなに頼んでも彼等は聞いてくれません。そこで、ブラーマンは勇
敢にも1つの頼事をしました。彼は村人達に、マガールの僧に口髭を一本くれないかと尋
ねてみてくれ、と頼んだのです。急き立てる村人達に、彼はマガールの僧の口髭や顎髭に
は全てのお化けや恐ろしい動物から身を守ってくれる力がある、と説明しました。マガール
の僧はブラーマンに口髭を一本くれました。

 ブラーマンを村から追い出した後、一人の村人が僧の所に行って髭を求めました。僧は
喜んで彼に髭をあげました。そこでマガールの村人は次から次へと一人ずつ僧に同じこ
とを頼みに行きました。

 口髭と顎髭のどちらも、引き抜いた後がとても痛みました。彼はまだ髭をもらっていない村
人達に言いました。「とても痛くてたまらない。明日、来てもらえないだろうか。そうすれば髭
を一本ずつあげるから。」

 しかし、マガール族は短気なので、僧が言うのも聞かず、彼を固く縛り上げ、口髭と顎髭
を一本ずつ全ての髭が無くなるまで引き抜いてしまったのです。その日から、マガール族に
は口髭も顎髭もなくなってしまいました。


*ブラーマン・・・ネパール語でお坊さんのこと


                 Eva Kipp et. al., Bahadure Kaila and the White Ghosts, 1993