不思議な鳥

                               (試訳)東北芸術工科大学学生 M. M.


 むかしむかし、ある小さな村に老夫婦が住んでいました。夫婦は米と鶏をたくさん持つお金持ちでしたが、妻はたいへん強欲で、夫のために米と鶏を決して料理しませんでした。妻はこれらの食料を売ってお金に換え、そのお金を少しも使わず、勘定しては貯め込んでいました。年老いた夫は妻のやり方にうんざりしていましたが、何も出来はしなかったのです。彼の家は妻が切り盛りしていて、何でも好きなように決めていました。ある日、夫はとても腹が空いてたまらなくなったとき、食物を得る良い方法を思いつきました。

 夫「あのなぁ、おまえ。今日、不思議な鳥を見たよ。」
 妻「どんな鳥なの?」
 夫「金の卵を生む鳥さ」
 妻「どうして家に持って帰らなかったの?」
 夫「まず初めに、たくさん食べ物を与えて馴らさないといけないいんだ」
 妻「その不思議な鳥は何を食べるの?」
 夫「米と鶏肉だよ」   

 これを聞くと、欲張りな老婆は、不思議な鳥を手に入れたい一心で、毎日、米と鶏1羽をその鳥にあたえることにしました。夫は、不思議な鳥を捕まえるために、毎日、妻からもらった食べ物を鳥のところに運ぶふりをしていましたが、本当は、近くの洞窟に行って自分で美味しく料理し食べていました。こうして、何日か過ぎました。

 そして、とうとう米と鶏が無くなってしまいました。しかし、夫は決して金の卵を生む不思議な鳥を家に連れてきません。「何か鳥に悪いことが起こった違いない」と妻は怪しみました。「はやく不思議な鳥が見たいの。すぐここに持ってきてちょうだい」と彼女は命令しました。「籠を貰えるかい。そしたら、不思議な鳥を持ってくるよ」と夫は答えました。

 妻は言われるとおりにしました。しばらくすると、夫が籠を担いで帰ってきました。そして、暗くなるまで籠の中を見てはいけない、さもないと鳥が飛んでいってしまうぞ、と妻に警告しました。妻は夫の忠告を聞き入れ、市場へ行って時を過ごしました。妻が出かけている間に夫は籠の中に入り、自分の身体を肩掛けで覆い隠しました。やがて妻が帰ってきて、夫を長い間待ちました。外は少し前からすでに暗くなっていたので、妻は籠の中を早く見たくなりました。見たくて見たくてたまらなくなった妻は、もう我慢できなくなり、籠の中をのぞきこみました。すると、そこには何と夫がいるではありませんか。

 「まあ、なんという人! このとんでもない奴が米と鶏を全部食べてしまった!」と妻は叫びました。そして怒り狂って、もうこんな夫とは金輪際別れてしまおうと決心し、自分の持ち物を箱に詰め始めました。荷造りしている途中で、妻は少し水を持っていこうと思い、荷造りをやめ、水をくみに出かけました。妻が出かけている間に、年老いた夫は妻の持ち物を箱から取り出し、自分が中に入りました。妻は水を持って引き返してきました。そして重い箱を持ち上げ、遠くの両親の家をめざして歩き始めました。

 旅の途中で、年老いた妻は激しい嵐に出会いました。雨で服が濡れとても寒くなり始めたので、妻はとても心細くなってきました。あぁ、一人で旅に出なかったらよかった、と妻は悔やみました。ようやく雨が止んだので、妻は箱から暖かい着物を何枚か取り出そう思いました。箱を開くと、驚いたことに夫がそこから飛び出して来ました。妻は夫を見て大喜びし、不思議な鳥のことをすっかり忘れてしまいました。二人は一緒に家に引き返し、その後ずっと幸せに暮らしました。


                 Eva Kipp et. al, Bahadure Kaila and the White Ghosts, 1993