岩波講座「開発と文化」全7巻、岩波書店、1997-98、各3000円


 ネパールは世界で最も開発の遅れた国「the least developed countries」の一つであり、その文化を学ぼうとするとき、私たちは何らかの形でこの「低開発」の問題に直面せざるを得ない。
 1人あたりGDPが日本の100分の1以下、平均余命50数歳、識字率30%程度という現実を見ると、なぜそうなのか、改善のために何か出来ることはないのか、と考えるようになる人は少なくない。これは自然な正義感の表れであり、この動機と、それに基づく行動は尊敬に値するものである。
 しかし、現実に低開発国に対する開発援助、開発協力に関わりはじめると、善意だけでは済まない多くの問題に直面する。そうした様々な問題のうち、おそらく「文化」の問題は最も根本的なものであろう。「開発」とは何を実現することか。開発援助とは先進国の文化帝国主義ではないのか。すべての人に共通の何らかの普遍的価値がないとすれば、文化相対主義になってしまうのではないか。こうして私たちは、当初の低開発国の人々のために「何か出来ることをしたい」という善意の内容を反省することを迫られることになる。
 岩波講座「開発と文化」は、この反省を理論的に深めていこうとする人にとって参考になる。個別的事例についての研究もあるが、とりあえず総論的な以下の論文を読んで欲しい。

・川田順造「いま、なぜ『開発と文化』なのか」第1巻
・山内昌之「開発主義と文化――差異と差別をめぐって――」第1巻
・岩井克人「夏目漱石と『開発と文化』」第7巻
・山内昌之「開発と文化の共存をめざして」
                                   (谷川昌幸2000.6.19)