国王の財産隠し

谷川昌幸(C)

議会自然資源委員会が8月27日,国王投資の調査概要を明らかにした。それによると,国王はソルティーグループなど,18の会社,ホテルを所有しているが,最近それらを家族に分散移転させ,資産隠しに躍起という。議会側調査だから割り引くとしても,君主にあるまじき情けない話しだ。

王家所有地については,「世俗断念が王制の条件」参照 

1.王の家政と国政
ネパール王制は,ウェーバーのいう伝統的支配の中の家産制(Patrimonialismus)の要素をまだかなり色濃く残している。国王は,国家を自分の家産と考え,国政は王家の家政の拡大と考えてきたように思われる。

事実,これまで国王は公私の区別をしようとはせず,政治も経済もしばしば国王の非合理的介入を受けてきた。こうした伝統的家産制的支配においては,資本主義は発達しない。ウェーバーは,『支配の諸類型』において,こう述べている。

「これらすべての理由からして,通常の家産制的な権力の支配下においては,確かに, (a)商人資本主義,(b)租税賃貸借的,官職賃貸借的,官職売買的資本主義,(c)御用商人的,戦費調達的資本主義,(d)事情によっては,プランテーション的,植民地的資本主義,は土着的であり,またしばしば盛んな繁栄を遂げることがあるが,これに反して,司法・行政・課税の非合理性に対しては――それが計算可能性を攪乱するが故に――極度に敏感な・私的消費者の市場状況に志向した・固定資本と自由な労働の合理的組織化とを備えた営利企業は,根を下ろしえない。」(邦訳,p.63-64)

逆にいえば,資本主義にとって,伝統的支配や家産制は,その支配の非合理性・予測不能性の故に,発展の致命的な障害になるということである。

2.資本主義化の障害となったネパール王制
ネパールは1990年革命で自由民主主義を選択し,それ以後,都市部を中心に急速に資本主義化が進んだ。

その資本主義化から利益を得つつある人々にとって,伝統的家産制的支配に固執する国王は,邪魔になってきた。たとえば,王家の都合で,何の予告もなく,突然休日になることが,90年革命以降もしばしばあった。このような予測不能性,非合理性こそ,近代資本主義の最も嫌うところだ。

先の2006年4月革命は,資本主義化した新興都市有産階級と,資本主義化で没落しつつある地方農民との暗黙の共闘と考えてよいだろう。

この状況下で国王が王制の存続を図るには,資本主義化の邪魔にならないように自己の世俗的権力を全面的に放棄し,ナショナリズム感情に訴えるしかあるまい。同床異夢の7党とマオイストでは代表しきれない「国民」感情,それにすがるしか国王には道はなさそうだ。

* eKantipur, Aug.27
* M・ウェバー『支配の諸類型』世良晃志郎訳,創文社,1970