女性の権利をめぐって

クロスカルチャー3年 岩井 千秋

 第2次世界大戦以後、日本の女性たちの権利は、憲法によって保障されてきたが、まだまだ問題点や徹底されていない点はたくさんある。そのことをアピールし、また、権利を獲得するために数々の裁判が行われてきた。

 そのような裁判の一例として「シャープ裁判」を挙げようと思う。1999年2月、シャープ系列の家電製品販売会社に勤務していた女性(59歳)の訴えに判決が下された。

 彼女は、「学歴が同じ男性社員と比べ、昇進や給与面で著しい差をつけられたのは、法の下の平等に反する」として会社を訴えた。「男性の場合は18年を超えてとどめ置かれた例がない低い格付けに27年も置かれた点については、能力や労働意欲から説明できず、合理性がない。昇格の遅延は男女を理由とする差別というべきである」とし、この女性の訴えは認められたが、判決の内容を読んでみるとかなり疑問が残る。「社内には男女間の昇格・昇進の格差があり、それは男女差別によるものだ」との訴えは退けられた。その理由は「そうした傾向(男女間の昇格・昇進の格差)は多くの企業にみられることで、一般に女性は妻となって夫を支えるため短期間で退職する傾向にあり、女性側にこうした役割分担を肯定し、労働意欲が低いものも多くあることは否定できない」というもので、「格付けや賃金に男女格差が存在することから、直に男女差別が行われていると認めるのは、いささか飛躍がある」と判断された。

まず、裁判官になるほどの教養のある人がこのような偏った考え方しか出来ないことにショックを受けた。寿退社を肯定的に考える女性がいてもそれはそれでいいと思うが、そのことがこの女性と何の関係があるのだろうか。女性が女性の犠牲になっている気がして憤りを感じた。

 しかし戦前の日本では、このように訴えを起こして、権利を主張すること自体できなかった。日本国憲法に、男女平等が明記されたことからすべては始まったのである。

 日本国憲法で、男女の平等について記してあるのは、第14条と第24条で、内容は以下の通りだ。

  第14条 @すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、 経済的又は社会的関係において、差別されない。

  第24条 @婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の 協力により、維持されなければならない。
   A配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法 律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 日本国憲法は、戦後、GHQの憲法草案制定会議で作られたが、その中で、この14条と24条を作ったのは、ベアテ・シロタ・ゴードンという若干22歳の女性だった。

 彼女は5歳から15歳まで日本で過ごし、日本の女性の地位を実際に見て育ち、また、疑問を感じていた。当時の女性たちは、離婚できず、自分の好きな人と自由に結婚することも出来ず、財産権、相続権、選挙権もなかった。つまり、社会的権利はまったく保障されていなかったのである。そのようなことも踏まえて、ベアテは憲法の中に、女性の権利や社会福祉について出来るだけたくさんのことを詳しく入れようとしたが、詳しすぎて憲法には適さない、民法に入れるべき、として最終的にはかなり縮められてしまった。しかし、この2つの条文が、女性が権利を主張する上での土台となっているのは確かだと思う。

 今回、憲法の中にある女性の権利を調べていく中で、自分と同年代の、ましてや日本国籍を持つわけでもない人が日本の女性のために多大な努力をしてくれていたことに驚き、感動した。ベアテが求めていた、男女平等の社会は、まだまだ確立されているとはいえないが、だからこそ私たちは、機会があるごとに自身の権利を主張していかなければならないと思う。 

 参考文献:『1945年のクリスマス』ベアテ・シロタ・ゴードン著、1995年、柏書房