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菜畑から有田へ――地域民際交流の21世紀的意味

今回の総合演習スタディツア(2005.6.18)は,安部俊二先生に企画・準備・引率をすべてお願いした。早朝出発,夜帰着の強行日程だったが,好天にも恵まれ,充実した実地学習となった。

●末廬館/菜畑遺跡

私は,事前学習なしの劣等参加者だったが,いずれも初めての訪問先3カ所で,それぞれ強い印象を受けた。

「末盧館」では大陸との古くからの交流,稲作文化の伝播,発展が分かりやすく展示,説明され,菜畑遺跡での「田植祭」は古代稲作の興味深い追体験となった。

 
末廬館 正面入口                  末廬館 展示室

 
末廬館 展示室                   末廬館 展示室

   
復元水田             復元水田での田植え


●名護屋城趾
次に訪れた「名護屋城趾」は,菜畑とは対照的に,国内統一の強行と人為的外敵設定との相関を赤裸々に物語る誇大妄想的な巨大遺跡であった。

人間社会が自然集落の範囲を超えて拡大するにつれ,人為的統合のイデオロギー的正当化の必要性が増大し,やがてこれが生活実感から遊離した「神話」ないし「大義」のようなものに抽象化され,16世紀末には秀吉の天下統一,朝鮮出兵へと人々を動員し,残虐行為を働かせ,そして結局は本来の人間の自然や古き伝統とはほど遠い奇怪な八紘一宇の「神国日本」を生み出すことになったのだろう。

 
名護屋城趾/名護屋城博物館     名護屋城趾から壱岐・対馬方面を望む


●有田と李参平
最後の訪問先,有田公民館でのユ・ファジュンさんの実体験に基づくお話は,私には,こうした人為的「近代国家=国民」の残虐性を改めて思い知らしめる一方,その陥穽から抜け出す重要な手掛かりを示唆するものでもあった。
 
日韓両国で暮らし,両「国家=国民」の根深い憎悪・偏見に深く傷つけられ苦しめられてきたユさんが,一筋の希望の光を見いだしたのは,有田の人々の数百年来の伝統的な生き方であった。

ユさんによれば,有田の人々は,秀吉の朝鮮出兵の際つれてこられ,有田焼の基礎を築いた朝鮮陶工・李参平に心から感謝し,没後,陶山神社に陶祖として祭り, 1917年には日韓併合7年後であったにもかかわらず改めて顕彰碑を建て,その功績を高く讃えている。

古代の自然集落の人々がそうであったように,そしてまた植民地主義的時代状況下で有田の人々がそうしたように,近代国家神話の呪縛さえなければ,私たちはもっと自然な形で異文化との交際ができる。

無理の少ない自然な人間関係からなる地域社会が,国境を越えて多元的に相互関係を取り結ぶ。不自然な国家統合神話を必要としない,安定したネットワーク型アジア社会,地球社会の構築である。


ユさんの講演(有田)

今回のスタディツアは,私にとって,地域に根ざした民際交流の古い伝統の21世紀的意味について考えるよい機会となった。参加された方々の感想は様々であろうが,それぞれが何かを感じ学び取ってくださったのではないかと思う。
                             
(総合演習・佐賀スタディツア,2005.6.18)


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