時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2005年a (→Index       Top  

050301 無期限の期限。次は3月14日から
050227 封鎖解除
050228 バラール教授,解放!
050224b どの舌と?
050224a バラール教授らの即時解放を
050223 人民解放軍,精鋭7万8千
050218 アムネスティ声明にネ協会も賛同表明を
050221 3草案作成
050217 エベレストの赤旗と米国知識人
050216 誠実マオイストを愛せない印の苦悩
050215 米印vs中パ露
050214 インドのジレンマとNCの介入要請
050213b 全国ゼネスト開始
050213a 米は国王親政ほぼ容認
050210 パ中は国王容認
050209 ネパール記者&ビンティの勇気とダメ協会
050208b 印米の黙諾はあったか?
050208a 「不敬罪」+検閲+投獄
050207 インドで人民戦争支援大会
050206 開戦記念日に総攻撃か?
050205 不気味な国王委員会
050204b 全体主義的情報統制の恐怖
050204a 国王陛下の民主主義演説
050203 マイナリ大臣に注目
050202d 情報遮断と人権侵害監視
050202c 新内閣発表
050202b マオイストのゼネスト宣言,儀式か本気か?
050202a 無責任政党の無責任弁護
050201c 一発逆転か?
050201b 非常事態宣言
050201a クーデタか?
050129 内で人権侵害,外で人権守護
050128 国連,人道介入への地ならしか
050126b 非暴力平和隊の可能性
050126a 最高裁の政治化と装飾化
050121 イラムで政府軍惨敗
050120 PFN議長宅爆破
050119 プラチャンダ議長の父,停戦・和平を訴える
050116 日本の軍事援助を要請
050115 印ネの因縁とマオ・マッチポンプ
050110 「サダム・フセイン」同志殺害報道の怪
050109 選挙は非民主的原理
050107 カイラリで数百名死傷
050106 祝ビンティ,60万回突破!
050105 小さな不幸と願い

050301 無期限の期限。次は3月14日から

当初から2週間の予定だったのですか? Indefiniteは範囲の無制限ではなく,時間的無制限だと思っていました。でも,プラチャンダ議長の下記宣言を読むと,「無期限」のような気もします。

「一般大衆へのわれわれの大きな責任を考え,実行中のIndefinite全国交通封鎖を土曜から中止(call off)することにした。」
「もし事態が改善しなければ,来月(3月14日)からIndefinite全国ゼネストを実施せざるをえない。」(AFP, Feb26)

どちらとも読めるが,「無期限」とすると,なぜ期限付き? これは学校の「無期停学」と同じようなもの。「無期」だけど,改悛の情が認められたら,復学許可。ずる賢い教師が思いついた実にいやらしい処罰方法で,私は大反対。実際にはたとえば3カ月と最初から決めているのだから,だったら3カ月と,ちゃんと罪刑法定主義で行くべきです。

無期封鎖がスゴイのは,封鎖側が絶対優位にある(と思わせる)ところ。有期だと,期間満了で自動的に終了してしまう。ところが,無期だと,続行,中断,再開がマオイスト側の思い通り。中断で国民に恩を売り(国民思いの慈愛深いマオイスト),再開で国王を悪者にする(再開は国王のせい)。イデオロギー政党や教師の好むやり方だ。このところご無沙汰だが,バブラム先生の入れ知恵ではないか?

Indefiniteが「範囲の無制限」のことなら,マオイストはそれほどもずる賢くはないということなので,訂正しお詫びします。


050227 封鎖解除

マオイストのプラチャンダ議長は26日,2月12日開始の全国封鎖の解除を宣言した。

これで,国王もほっと一息。徐々に規制をゆるめ,逮捕・拘束者を釈放し正常化に向かうか? それとも,チャンスとばかり,大攻勢に出るか?

封鎖解除は,まだ国王は必要だ,国王と和平交渉したいとのシグナルであろう。この呼びかけには応えた方が,国王にとっても,ネパール人民にとっても,よいのではないか?

以前から何度も強調していることだが,マオイストはこの種の運動にしては不思議なくらい統制がよくとれている。国王は,ホッブズも力説したように,もともと1人だから意思は1つだ。おまけにどちらもナショナリスト。

マオイストは,以前から国王との直接交渉を要求していたのだから,外国介入の前に,和平交渉に応じるべきだ。一方,国王も,武力鎮圧強化によりマオイストの統制が乱れアナーキーになる前に,和平に向かった方が得策だ。

状況はせっぱ詰まっている。このままではアナーキーになり,そして本物の軍部クーデター,外国介入ということになりかねない。


050228 バラール教授,解放!

2月25日,バラール教授,CP・マイナリCPN−ML党首ら,著名人9人が解放された。国内・国際世論の圧力も利いたのだろう。

リアリストは,国際法の無力を言い立てるが,国際法と国際世論の力は決して小さくはない。インターネットのおかげで,国際世論は,あっという間に形成できる。

17世紀の昔,J・ロックは世評の法(として理解された自然法)の最終的なsanctionに期待したが,彼の夢はいま実現されようとしている。

ただし,神はしばしば騙られ,世論は操作される。Vox populi, vox dei――よくよく慎重にしないと,世界全体主義による弱小文化,少数派抹殺に加担させられることになる。そこが難しいところだ。


050224b どの舌と?

これは深読みではなく,外交の常識です。テーブルの上で笑顔で握手しつつ,下では蹴り合う。舌を2枚,3枚もたないようでは,国家は国家ではない。

*「どんなに日米安保条約を拡大解釈したってネパールは防衛対象ではありません。」
――「新ガイドライン」以降,ネパールは日本の防衛対象に入っています。アフガン(インド洋),イラクに派兵できるのに,ネパールに派兵できない理由はない。

そして,事実,日本は目下,ネパール戦線を含む対テロ戦争に参戦中。たまたま分担がネパールでないだけです。安保理入りをちらつかせ,ネパール戦線分担を求められたら,おそらく派兵でしょう。だからこそ,ネパール紙に日本の軍事援助を期待する意見が掲載されたりするのです。

*「私達がまっすぐに見つめなければならないことから・・・」
――国家は「国家理性」で生きている。そのため,舌を2枚も3枚ももっている。9.11だって,陰謀だという説がある。とくにペンタゴン攻撃の方は怪しい。あんな自明と思われる事件であっても,政府説明はまず疑ってみる。トンキン湾も大量破壊兵器も真っ赤なウソだった。国家は「国家理性」のためウソをつく習性がある。

そんな国家・政府と市民がおつきあいするのは,難しい。どの舌とキスするか,よほど慎重に見極めないと,すぐ取り込まれ,御用運動になってしまいます。


050224a バラール教授らの即時解放を

Lok Raj Baral教授(1941年生,政治学)が,2月7日インドからの帰途,TIAで逮捕され,まだ拘束されている。

考え方は私とはかなり違うが,訪ネしたとき,バラール教授は歓待してくださり,有益なアドバイスをしてくださった。そのバラール教授が拘束されている。病身と見えただけに,どのような処遇をされているか心配だ。

それにしても,なぜ逮捕か? バラール教授は政治学教員であり,政治家ではない。大学内で最も政治的でないのが政治学者だ(私もそうだ)。教授は知識人であり,政治活動はしていない。もちろん,私のうかがい知れない理由があるかもしれないが,そうだとするなら,証拠を示すべきだ。国際法は,それを当然の義務として国家に課している。

ネパール大学教員組合(NUTA,約8000人)は19日,理由を告げられないまま拘束されているバラール教授ら7,8名の大学教員の即時解放を要求した。他の教員組合も同様の解放要求を出している。

政争はやむを得ない。非常事態宣言も憲法に規定されているのだから,形式的には合憲だろう。しかし,たとえそうだとしても,理由も示さぬ知識人の逮捕は許されない。また,いかなる場合にも保障されるべき絶対的人権は停止できないのだから,病身のバラール教授をはじめ,同様の境遇にある被拘束者の心身の最低限の安全は絶対に保障されなければならない。

いくら情報遮断しようとしても,現代ではそれは無理だ。現に,はるか遠くの日本の片隅にいる私ですら,こうしてバラール教授の情報を得ている。世界中が見ている。人道犯罪は,決して見逃されないことを忘れてはならない。

(Kathmandu Post, Feb18,19; Nepalnews.com, Feb17)


050223 人民解放軍,精鋭7万8千

Colin Consalves, In the Name of Democracy, Go! (The Indian Express, Feb.19)によれば,マオイスト人民解放軍の兵力は,なんと78000人だという。12−22歳の青年中心の精鋭で,装備もよい。つい2,3年前までは,中核5,6千人,民兵1万人位といわれていたので,本当だとすると,勢力急拡大だ。

数字の根拠は不明だし,マオイストも正式発表していないので,兵力7万8千をどこまで信じてよいか分からないが,可能性はある。共産党系諸党派の支持者たちが特権幹部支配に失望し,合流し始めた可能性もあるし,もう一つ考えられるのは,教育だ。

人民戦争開始9年。もし9年間,マオイスト教育を受けてきたら,全身全霊真っ赤の精強マオイスト青年が生まれる。マオイストは教育熱心であり,理論も明快だ。教育勅語で教育された日本人が草の根軍国主義日本を支えたように,イデオロギー教育を受けた子供たちが成人していけば,ネパールは根底から変わらざるをえない。マオイストがちゃんと教育しているなら,彼らこそが,ネパールを近代化することになるだろう。

本当かどうか分からないが,もし7万8千の兵力を持つとすれば,国軍にほぼ匹敵,カトマンズの武力解放も(米印が介入しなければ)夢ではない。


050218 アムネスティ声明にネ協会も賛同表明を

アムネスティのI・カーン事務局長が,2月10〜16日,ネパールの人権状況を調査し,17日,その結果をデリーで発表した。Amnesty International, Press Release, ASA 31/019/2005, No.039.

アムネスティは長い経験と実績を持ち,その報告はバランスがとれており,私は,最後の部分を一部留保した上で,これに賛同する。日本ネパール協会も,このアムネスティのネパール人権救済提言を早急に検討し,留保すべき点があれば留保した上で,連帯表明をすべきだろう。ダンマリはよくない。

周知のように,自由や権利は,最も基本的なものから,場合によっては制限されざるを得ないものまで多種多様だ。たとえば,奴隷的拘束は絶対禁止だが,財産権は大幅な制限が許されている。

ネパールのような非常事態になった場合,われわれがまず保障要求をしなければならないのは,戦争・内戦であれ非常事態宣言下であれ絶対に侵害されてはならない最も基本的な人権だ。それら以外の自由や権利は,それぞれの重要性の程度に応じて,どの範囲で保障するかを決める権利が,各国政府に認められている。たとえば,土地所有権は,各国ごとに制限を課しており,たとえ社会主義により個人所有を全面禁止しても,それは許されるべきことだ。

現在はまだ,国際社会と主権国家,国際法と国内法という二重の権力関係,規範関係があるので,それを無視して行動することは許されないし,よい結果も得られない。

主権国家の自由に任されている部分にまで,「人権」の名で介入すると,内政干渉になる。よく注意しなければならないのは,先進国が自分たちの価値観,規範,制度を正義,人権,民主主義と同一視し,制裁で脅し,途上国に強制することだ。善意の人権・平和・開発関係者は,善意を信じれば信じるほど,この陥穽に陥りやすい。自戒したい。

ネパールについても,われわれは,ネパールの人々と国家を本当に尊重するのであれば,精神的,物理的強制をちらつかせ,内政干渉,文化侵略をするようなことは厳に慎まなければならない。ネパールが,人民民主主義を採用し,私有財産を全廃しても,それはネパールの人々の選択であり,人権侵害には当たらない。

アムネスティは,西洋偏向がまま見られるが,基本的には,国際社会が強制力を使ってでも守らなければならない人権と,そうでない人権を区別し,行動しようと努力している。ネパールについても,そうだ。

アムネスティ声明は,次の要求を列挙している。

*ネパール政府に対して――
・非常事態宣言により停止された基本的人権の早急な回復と,紛争解決への政治的努力の開始
・人権活動家,ジャーナリスト,労働組合活動家等の人権保障
・治安部隊の無処罰を撤廃し,人権侵害を独立の検察・司法により裁くこと

*マオイストに対して――
・国際人道法の遵守
・民間人を攻撃しないこと

*政府とマオイストは,人権保障のため「人権協定」に同意すること

*国際社会に対して――
・軍事援助の停止
・ネパール人権特別報告官(Special Rapporteur)の任命

*国連に対して――
・ネパール国内で人権侵害に関与した部隊をPKOに雇用しないこと
・国連人権高等弁務官の下にネパール人権委員会を設置して,人権活動家の人権を守り,NHRCを支援し,司法権を強化すること

以上のアムネスティ声明は,人権の軽重,強制力の使用方法をちゃんと区別している。最後の「NHRCの支援」は,アムネスティの「政治性」が現れており,前述のように私はこの部分は無条件には賛同できないが,それ以外については賛同し,支持する。

この種の声明は,完全に意見一致というわけには行かない。それぞれの団体,個々人が,留保する部分は留保した上で,基本的趣旨に賛成なら,積極的に賛同し,平和・人権実現への意思表明をするのがよい。

日本で一番権威のある「日本ネパール協会」にも,ネパールの平和・人権のために,ぜひ賛同表明をしていただきたい。


050221 3草案作成

憲法草案は3つ作成されています。原資料が手元にないので多少不正確かも知れませんが,概略は,下記のようだったと思います。そのころの新聞に出ているかも知れません。

CRRC草案・・・未完成。国王寄り。

CRC草案・・・9月1日。民主運動左派寄り。非常事態権限は内閣の勧告による。

バッタライ内閣案・・・10月11日。NC寄り。非常事態権限は内閣の助言と同意による。

国王草案・・・10月22日。国王寄り。非常事態権限は国王。

現行憲法・・・11月9日。非常事態権限は国王。重要規定なのに,憲法の末尾部分に配置。


050217 エベレストの赤旗と米国知識人

Gary Leupp, Maoism on the March? (Counter Punch, Feb16)は,刺激的な議論だ。著者のことはよく知らないが,タフツ大学歴史学教授で,次のような日本研究がある。 Servants, Shophands and Laborers in in the Cities of Tokugawa Japan; Male Colors: The Construction of Homosexuality in Tokugawa Japan; Interracial Intimacy in Japan: Western Men and Japanese Women, 1543-1900.

議論には小さな事実誤認があるが,論旨はしっかりしており明快。以下は,要訳。

「マオイスト人民解放軍は、いまや国家権力を握ろうとしている。ビレンドラ国王殺害の頃,すでに国土の多くを支配しており,ギャネンドラ国王治世になると,さらに攻撃を激化させた。」

「2002年1月,パウエル長官が訪ネしマオイストを“テロリスト”と呼び,ネパールを対テロ戦争の一部に組み入れ,軍事援助を行った。」

「しかし,マオイストは毛の都市包囲作戦にしたがい,その後も勢力を拡大し,いまや首都を孤立させる実力を持つに至った。先月,ブータン国王が語ったところによると,“いまではマオイストは全土に対する支配権をほぼ手に入れた。”」

「ブータン国王が心配するのは,ブータンでもマオイスト反乱の兆しがあるからである。インドでも,ハイデラバード周辺を中心に,マオイストが強力な影響力を持っている。ネパールとインドのマオイストは,バングラデッシュ,スリランカなど南アジアへの人民戦争の拡大を意図している。」

「インド軍がネパールに介入する手もあるが,そうすると,マオイスト主導の民族解放戦争になるだろうし,インド国内ではマオイスト系反政府運動が激化するだろう。しかも,中国もインド軍のネパール進出に拒絶反応を示すだろう。」

「マオイストの勝利は,次の条件で生じる。つまり,米国が対イスラム・テロ戦争の拡大で泥沼にはまりこみ,死んだはずの妖怪,共産主義との戦いに力を割けなくなったときだ。」

「これは,ブッシュ政権の悪夢だ。マオイストは,9.11をまねたりしないだろうが,平等社会をつくり,拡大し,資本主義を排除していくだろう。」

「世界の過激左翼は,どこかでの勝利を心待ちにしている。プラチャンダ書記長(原文のまま)が唱える,世界の屋根エベレスト山頂の赤旗こそ,まさにそれだ。」

「フィリピン・マオイストは1万4千の強力な人民軍を持ち,8千の村を支配しているペルーの“輝ける道 “も復活しつつある。」

「これはフクヤマの“歴史の終わり”やハンチントンの“文明の衝突”への挑戦だ。すでに歴史の屑籠に捨て去られたと思っていた,資本主義対共産主義の問題が再浮上したのだ。」

――冷戦下のドミノ理論の再来のような感じもするが,冷やかしではなく,かなり本気だ。「エベレストの赤旗」について話しをすると,つい最近まで,南アジア専門家にすら,そんなバカな,とほとんど無視されたものだが,アメリカの知識人たちは決してバカにしたりはしない。

私の見るところ,アメリカ型資本主義は,この先,そう長くは持たない。資本主義の魂である「獲得欲」「所有欲」が内面から空洞化し始めている。資本主義の精神が根っこから枯れ始めている。資本主義の帝国を樹立したアメリカの知識人たちも,それに気づき始めた。

資本主義は早晩枯れ死するだろうが,妖怪の復活はいやだな。どう終わらせたらよいのだろう? そんな不安な思いで,アメリカ知識人たちはネパール人民戦争に目を向け始めたのではないだろうか。


050216 誠実マオイストを愛せない印の苦悩

Bharat Bhushan (The Telegraph, Feb14)の評論が面白い。目先三寸しか見えない人権家,民主運動家の浅薄な空騒ぎに飽きた人向きの,大人の成熟した議論だ。

「インドは当惑している。ネパールの政党は信用を喪失しており,政党指導者たちは彼らが打倒した古い封建勢力と同様腐敗しきっている。その無能は幾度となくいやというほど見せつけられたし,権力は有力家族,有力一族に独占されている。インドは,ネパール庶民と同様,カトマンズの政治エリートに失望しきっている。」

「一方,人民の名で権力を行使する国王は,もっと腐敗し,もっと無責任で,権力分担を嫌がり,支持するに値しない。唯一誠実な政治家は,結局,マオイスト指導者たちだが,インドはもちろん彼らは支持できない。」

「インドは出来ることが限られており,大きなジレンマにある。ギャネンドラを追いつめたくはないが,ちゃんと言うことは聞かせたい。国王にたっぷりお灸をすえてやりたいが,そんなことをすればネパール庶民に塗炭の苦しみを味わわせることになる。交易遮断か石油輸送路閉鎖をせよとの勇ましい議論もあるが,これは愚劣で,無責任で,実行不可能なことだ。」

「最悪のシナリオはこうだ。諸政党とマオイストが全く相容れず,国王がインドをズルズル武器援助継続に引き込み,内戦が継続すること。紛争が継続拡大すれば,ネパール国境沿いの諸州に大量の難民が流入し,大問題になる。」

「そのとき,インドは完全に破綻した国家と向き合うことになる。この最悪シナリオのようになれば,インド軍は国王救援に出動せざるをえない。そんなことになれば,インドはベトナムを背後に抱え込むことになる。」

「結局,どのような変化であれ,ネパールでは変化は漸進的であるべきだ。さもないと,流血の惨事か,あるいは救いようのない深刻な分裂になってしまう。」

――さすが世界最大の民主国インドの評論だ。人権子供の空騒ぎとは比べものにならない成熟した大人の深さがある。保守主義を深く信奉する私は,この種の議論が大好きだ。

しかし,残念ながら,わが敬愛するマキャベリ先生がどこかで慨嘆していたように,歴史は若者のものであり,歴史の女神は若者の無鉄砲を愛する。

無鉄砲な若者が,鉄砲で歴史を作る。マオ同志も,そう語っていた。歴史がそういうものなら,それも仕方あるまい。


050215 米印vs中パ露

西側諸国が,中ネ大使を次々に呼び戻し始めた。米,英,独,仏,EU。国王親政に西側としてどう対応すべきか,意見調整のためだろう。(AP, Feb14)

西側にとって悩ましいのは,一つは,国王親政はケシカランといってみても,それに代わりうる勢力がないこと。多党制に戻すと言っても,いまの政党ではどうにもならないことは,皆よく知っている。

もう一つ頭が痛いのは,中国・パキスタン・ロシア。これら3国は,ネパール政変を「国内問題」と見て,不介入の立場を取っている。西側が不用意に介入すれば,ややこしいことになりかねない。

西側は,インド同様,マオイスト鎮圧を国王に託すべきか,それとも西側傀儡政党政府をつくってやらせるか,あるいはその折衷で行くか,選択を迫られている。

呼び戻された大使たちが本国で何を決めて帰任するのか,注目される。


050214 インドのジレンマとNCの介入要請

*全国ゼネスト実施
検閲のため情報は乏しいが,ビラトナガル,ジャナクプール,ネパールガンジなど主要都市では,交通ストはほぼ実行されているようだ。カトマンズでも,Nagdhungaを12日に通過した車両は137台(11日は1659台)だったという。(Reuters, Feb13)

グルン大佐は,武装ヘリでタンクローリーなどを護衛しているというが,そんなことをしていては,ヘリ燃費の方が高くつく。軍人は不合理を平気でいう癖がある。

*軍事援助をめぐる外交駆け引き
一方,外交的にきな臭くなってきたのが,軍事援助。インド情報は虚実こもごもで,どこまで信用してよいか分からぬが,The Tribune (Feb12)によると,12日夜,インド外務省筋は対ネ軍事援助を停止するとのべた。軍事援助停止と中ネ印大使の呼び戻しは,国王「クーデター」を許容しないという明確な意思表示だという。

これに対し,South Asia Tribune (Feb12)によると,タパ将軍筋は,インドが軍事援助を停止すれば,武器をパキスタンや中国から買う,と示唆したという。ありうる話しだが,1990年革命のこともある。どこまで信用できるか。

*インド政府のジレンマ
同じくSouth Asia Tribune (Feb12)によれば,ネパール問題に対するインド政府の態度は,大きく動揺しているという。この見方は,当たっていると思う。

S・パティル内相やP・ムケルジー国防相は,軍事援助を継続し,国王政府にマオイストを鎮圧させるべきだと考える。ネパール・マオイストは,インドのナクサライトや左翼過激派と密接な関係を持っているからだ。

これに対し,KN・シン外相や左翼諸政党は,国王に圧力をかけ,早急な多党制復活,選挙実施を要求すべきだと考える。

シン外相は,国際世論を動員し,国王に圧力をかけ,多党制民主主義を復活させないと,インド国内の左翼勢力が反インド政府運動を激化させる,と心配する。

マオイスト鎮圧を国王に託すべきか,それともいまやマオイストとも共闘しようとしているネパール諸政党を援助して,インド国内の左翼勢力をなだめるべきか? インドの立場に立てば,先に述べた武器援助問題(対パ中問題)も含め,たしかにいずれとも決めかねる大きなジレンマだ。

*NCのインド介入要請
インドのジレンマはよく理解できるが,報道が事実だとすれば,無節操としか言えないのが,NCのインド介入要請だ。South Asia Tribune (Feb12)によれば,NC幹部のスジャータ・コイララ氏は,インタビューに次のように答えた。

「いまやインドはネパール問題に積極的に介入(actively intervene)すべきだ。・・・・われわれは,200年の歴史をもつ王制をいま廃止しようとしている。・・・・インドは国王政府に武器を供給すべきではない。・・・・われわれは,マオイストを含む全政党と共同綱領を作りたいと考えているので,インドはその実現を支援してほしい。」

そもそも,マオイスト人民戦争は,NCが国際的非難を浴びながら残虐な弾圧を繰り返したことが最大の原因といってよい。また,選挙に出ようとしていたマオイストから政党資格を剥奪し,選挙に出られなくし,実力闘争をせざるを得なくしたのも,NCやUMLなど大政党が牛耳っていたMainstream体制だ。

そのマオイストとNCが,どうして共闘を組めるのか。インド介入を求めれば,マオイストのNC批判(インドの手先)の正当性を自ら裏付ける様なものではないか。最低限,米印の一切の介入を断固拒否し,ネパール問題はネパール人自身で解決しよう,米印に支えられている国王を協力して打倒しよう――そう訴えかければ,マオイストとの共闘は可能だろう。

それなのに,米印を目の敵にするマオイストとの共闘のためにインド政府の積極的介入を求める。これは矛盾している。武器援助停止を求めるのはよい。だったら,NC政権のとき,そうすべきだったし,また将来NC政権になってもインドからの武器援助は受けないと宣言すべきだ。さらに,軍事援助停止を求めるなら,それ以外の政治介入などの停止も求めるべきだ。

目先の利益だけのために野合で共闘しても信頼関係は生まれない。信頼関係がなければ,共和政府ができても,事態は改善されない。いや,むしろ「共和制」の美名をもつだけに,反体制派の弾圧はより徹底し過酷なものになるだろう。

(以上,ネット新聞記事に依拠して書いた。もし記事が不正確であれば,あとで訂正します。)


050213b 全国ゼネスト開始

検閲のため詳しいゼネスト情報はまだ入ってこない。

BBCやIANSによると,カトマンズ市内はほぼ平静だが,交通遮断はほぼ全国的に実施され,Thankot における物流は,軍の厳重な護衛にもかかわらず,通常の5%程度だという。5%では,カトマンズはもたない。マオイストが本気なら,いくら軍を動員しようが,交通網の確保は無理だろう。

ゼネスト突入と並行して,プラチャンダ議長が2月12日声明を出し,和平交渉を拒否し,人民戦争が「最終段階」に突入したことを宣言した。そして,諸政党に,反国王統一戦線への参加を呼びかけた。

正念場だ。既成政党が,どれだけ呼応するか? 同調しなければ,多分,国王は乗り切れるだろう。同調すれば,王政は崩壊し,大混乱になるだろう。注視していたい。

(IANS & BBC, Feb13)


050213a 米は国王親政ほぼ容認

J・モリアーティ米大使は2月11日,米国が国王親政を事実上容認している,ととれる発言をした。

「この混乱を収めるのに3カ月(100日)必要だと国王はいっている。・・・・だから,われわれとしては,この期間内に国王がこれらの問題に取り組むことを期待したい。・・・・これらの問題とは,憲法上の自由の回復,勾留者の釈放,政党復活への着手である。」(IPS, Feb11)

つまり,100日間,国王親政を認めるから,その間に秩序を回復しなさい,ということ。

国王「クーデター」のような大事件を,国王がアメリカの黙諾なしでやるのは無理。米印の軍軍事顧問,武器援助,軍事訓練を受け入れ,西側からの経済援助に依存しているネパール国王が,米国の意向を無視して行動できるはずがない。

そもそも,タイミングがよすぎる。イラク選挙が「大成功」の内に終了した直後。そして,中国に対しても,ダライ・ラマ駐在事務所やチベット難民センターの閉鎖と引き替えに,黙諾を取っている可能性がある。(The National, Feb11)

さらに国王「クーデター」後も,アメリカはマオイストに対し,停戦・和平を呼びかけている。100日の猶予を与えるから,(アメリカ支援の)国王との和平に応じよ。さもないと,・・・・,という含意だろう。アメリカ武力介入の口実ができた。

アメリカは,口では国王親政に「憂慮」を表明しているが,本音は,国王独裁によるマオイスト問題解決である。これは,パキスタン等に見られるように,アメリカの常套手段であり,パ中両国はこれを容認し,印もたぶん容認した。

アメリカはずる賢い二枚舌国家。国章のイーグルは,右足に平和のオリーブ,左足に戦いの矢を握っている。トンキン湾事件(ベトナム戦争)から「大量破壊兵器」まで平気でウソがつけるし,結婚披露宴にミサイルを撃ち込んでもテロリスト集会としらを切ることができる。基準はズバリ,国益(=政産軍複合体の利益)。国益のためであれば,嘘も方便,国王親政100日が1000日になっても何ら不思議ではない。

しかし,その一方で,アメリカはやはり畏敬すべき民主主義国家であり,世論には弱い。世論が人権,民主主義に傾くと,あっさり矢をオリーブに持ち替え,平和の使者となる。

さてそこで,もし米印パ中の黙諾の下での国王「クーデター」であったとすると,われわれはどう対応すればよいのだろうか。ネパールを舞台とした米印パ中の外交戦争。マオイストを共通の敵とするが,呉越同舟,それ以外の点では4国の利害は複雑に絡み合っている。国王はおそらく道具として使われ,踊らされているにすぎないのだろう。

そうした状況の下で,ネパール国民の生命,身体,財産の安全を守るにはどうしたらよいのだろうか。これは難しい。


050210 パ中は国王容認

*パキスタン
2月3日,パキスタンのアジズ首相はギャネンドラ国王に電話し,政変は国内問題であり,「パキスタンは非介入,内政不干渉の原則を厳守する」と述べ,事実上の国王支持を表明した。(Down, Feb4)

*中国
コン・クアン外務報道官によれば,これは「ネパールの内政問題」であり,「すべてはネパール人が自分で選択すべきこと」である。中国は,不介入を重ねて明言した。(New Kerala, Feb3)

――印米が,いまのところネパール政変批判を形式的なものにとどめている理由の一つは,上記パキスタン,中国の「内政不干渉」宣言があるからだろう。パ中に国王容認ないし支持に回られると,介入しづらい。


050209 ネパール記者&ビンティの勇気とダメ協会

ネパールで政変がおこり,反体制派が大量拘束され,世界中が注目しているというのに,ダンマリのダメ協会。

これに比べ,ネパールのジャーナリストは立派だ。治安部隊の監視下,銃剣にもひるまずニュースを送る。

。KOL
KOL(Feb8)によれば,治安部隊が7日から行政に直接介入を始めた。旅券局,地税局,カトマンズ郡役所,交通局に査察に入り,パタンで職員1人を拘束。(軍政の開始か?)

また,FMラジオ局は56局あり,そのうち41局がニュースを流していたが,政府がニュース報道を禁止したため,娯楽番組しか流せなくなり,1000人のラジオ・ジャーナリストが失職した。

。・epalnews.com
Nepalnews.com(Feb8)によれば,カトマンズ地区では43人が拘束(18人は自宅軟禁)。名前も所在も不明。会見は内相と軍報道官グルン大佐。(このところ,重要な発表は軍総司令官タパ将軍かグルン大佐の場合が多い。)

――銃剣下で,短いとはいえ,これらのニュースを送ることにどれだけの勇気がいるか。頑張れ,ネパール・ジャーナリスト!

●ビンティ
日本語サイトでは,一番立派なのは,やはりビンティ。「2月8日のニュース」を見よ。記事は具体的であり,分析は鋭く正確。いままさに知りたいことが,短い文章に簡潔にまとめられている。

――このような的確な現状分析と,その迅速な発表は,ほんらいネパール協会の仕事のはずだ。ところが,そんなものは,どこをさがしてもネ協会にはない。

ネパールに関する一歩踏み込んだ日本語記事は,まずビンティ。ネパールのジャーナリストと同様,ビンティも相当の危険を覚悟で,リスクを引き受けて,記事を書いている。

「ネパール」を存在理由とするネ協会が,ネパールの大事にダンマリ。では,この協会の存在理由はどこにあるのか?


050208b 印米の黙諾はあったか?

国王クーデターへの印米の黙諾は,やはりあったのではないか?

インドのプラナブ・ムケルジー国防相は7日,「これはネパール国民が決めること」と述べ,介入を明確に否定した。駐ネ印大使も王国軍タパ将軍と会い,軍事援助継続を話し合っている。

米国は2月1日,国務相声明で「民主主義からの後退」に「深い憂慮」を示し,対マオイスト闘争を危うくすると警告したが,このconcernsを国王と内閣に直接伝えるというだけで,それほどきつい印象は受けない。また,ホワイトハウスも7日,マクレラン報道官が民主主義の後退へのreal concernを「ネパール政府に知らせる努力を続ける」と表明したが,これもそれほど強くはない。

外交だから確かめようもないが,国王非難がいまのところ全く盛り上がらないところを見ると,やはり黙諾はあったような気がする。

(New Kerala, Feb7; Times of India, Feb8; AFP, Feb7; US Dep. of State, Feb1)  


050208a 「不敬罪」+検閲+投獄

2月7日,政府は一切の治安部隊批判を禁止した。また,集会には事前許可が必要で,もちろん「秩序を乱さない」ものだけ。

言論は,もし「直接的あるいは間接的に」「治安部隊の士気を害する恐れのあるもの」は一切禁止で,違反すると逮捕される。そのため治安部隊は,電話,ラジオ,ファックス,Eメール等を検閲できる。

これはまた,すさまじい。事実上,一切の国王=政府批判は禁止。一種の「不敬罪」といってよい。その気になれば,いつでも誰でも逮捕できる。

Eメールも検閲されるから,これからはネパール宛メールは「国王礼賛」か「時候の挨拶」だけにしよう。暗号化なんかすると,かえって「怪しい」ということで,捕まるかも知れない。もちろん,いまのところ外国人は大丈夫だろうが,受け取った人に迷惑がかかる。

「不敬罪」+検閲+投獄。アナクロ・ブラックユーモアに近いが,政府は政府声明を出し,大まじめだ。しかし,こんなことで一番困るのは,経済界と市民社会,いわゆるmainstreamの大政党や穏健労組,学生団体。ローテク・マオイストは全然こたえない。

「法と秩序」の大切さは理解できるが,あまり無茶をすると,海外援助を停止される。国際法律家協会(ICJ)はすでに援助停止を印英米に要請した。日本政府も,目に余る人権侵害があれば援助を停止する,と警告を発してもよいのではないだろうか。

(AP, Feb7: Times of India, Feb8)


050207 インドで人民戦争支援大会

開戦記念日の2月13日,インドのChandigarhでネパール人民戦争支援大会が開かれるそうだ。

「団結して,君主制を歴史のゴミ箱に投げ込もう!」
「ネパール民主共和国へ向けて天地をうごかせ!!」

やけに威勢がよいが,開けるかな?

いずれにせよ,2月13日が大勢を見る最初の機会となりそうだ。
(1)マオイストは本気か?
(2)本気だとすると,NC,UMLがどれだけ同調するか?

2月1日以降,逮捕,拘束されているのは主にNCやUML。経済的に大損害を受けているのも「買弁資本家」。マオイストは何らダメージを受けていない。2〜4日のゼネスト不発を通信遮断の効果とする説があるが,そんなことはあり得ない。カトマンズ封鎖なんか,その気になれば,いつでも出来る。

13日まであと1週間。マオイストも諸政党も内外世論の動きを見ているのだろう。

(逮捕・拘束者)
前大臣: PM・シン労相,H・ダハール農相,B・ニディ教育相,P・マハト外務副大臣
ジャーナリスト:ジャーナリスト協会のタラナート・ダハール会長,ビシュヌ・ニツリ書記長

(The Statesman, Feb5; Sunday Herald, Feb6)


050206 開戦記念日に総攻撃か?

2月13日は,マオイストにとっては,輝かしい人民戦争開戦記念日だ。プラチャンダ議長は,この2月13日から無期限全国封鎖にはいると宣言した。

プラチャンダ議長によれば,国王親政は「ナチ型抑圧」であり,もし直ちに撤回しないなら,「無期限の全国封鎖と交通ストを2月13日から開始する」。

一方,主要政党も,抗議行動を呼びかけているが,非暴力と限定している。また,25の人権団体も人権侵害の増大を厳しく非難している。

これは正念場だ。国王もマオイストも主要政党の出方を見ている。関ヶ原。大勢がどちらに傾くか?

主なシナリオは――
(1)封鎖を儀式に終わらせ,国王と取引
   → 国王・マオイスト連立
(2)封鎖を武力制圧
   → 国王独裁(開発独裁)
(3)国王・政党和解
   → 政党推薦首相任命(UML主導)
   → 解散議会の再開(コイララ派+UML)
(4)マオイストと諸政党との統一戦線成立
   → 革命→憲法制定会議→共和制
(5)政府崩壊
   → 無政府状態(破綻国家)→外国介入

まだ,どの可能性もある。(マオイストが暴力革命で単独の人民政府を樹立することは,現在の国際情勢から見て,まず不可能。)いずれにせよ,危機は高まっている。嵐の前の静けさと見るべきだろう。

何もなければそれでよいが,いざというときのために,準備はしておくべきだろう。

(AFP & Reuters, Feb6)


050205 不気味な国王委員会

2月5日,国王主宰の新内閣が閣議を開き,21箇条の社会,経済計画を採択した。「よき統治と経済成長」が目標らしい。

そして,15日以内に「国王委員会(Royal Commission)」を設立して,腐敗を調査し,怠業,身内優遇,賄賂等を厳しく処罰するという。

「権力乱用調査委員会」など,憲法規定の正規機関があるのに,なぜわざわざ新しい取締機関を設置するのか? これは警戒を要する。国王直結だから,恐怖政治の道具となりうる。

もちろん,治安部隊も要注意だ,蓮見さんが書いているように,4日にはデウバ派集会鎮圧を取材していたAP通信社の記者たちがカメラやビデオを没収された。

独裁が近代化すると,外国人だからといって容赦されない。これまではネパールの治安管理はかなりいい加減であったが,これからは,安易にデモや警官,兵士などの写真を撮ると,危ないかもしれない。ご用心下さい。

(AP,Feb4; AFP,Feb5)


050204b 全体主義的情報統制の恐怖

今回の情報統制は,ネパールらしからぬ徹底ぶりだ。全体主義的とすらいってよい。モシン氏が情報相だったので,準備していたのだろうか?

2月4日になっても,電話,モバイル,インターネットはほぼ完全に遮断され,衛星電話がかろうじて使えるくらいらしい。テレビ局,新聞社には,検閲官が入り,厳重にチェックしている。

有力政治家は逮捕か自宅軟禁,あるいは逃亡中。S・パラジュリ(NC)によると,政治指導者の逮捕は約50人(AP,Feb2)。学生や人権活動家も逮捕や予防拘禁され,スシル・ピャクレル人権委員長によると学生の逮捕は150〜250人で,拷問も受けているという(Reuters,Feb4)。が,実際には,どこに何人が拘束されているか,見当もつかない。

ポカラでは1日,国王演説後,抗議学生に向けヘリから発砲,数人が撃たれたという(Reuters,Feb4)。平静が伝えられているが,どこまで本当か?

軍総司令官PJ・タパ将軍は,もしマオイストが国王の呼びかけを無視すれば,「軍はより強い行動をとらざるをえない」と警告した。ヘリからの学生銃撃は「より強い行動」の手始めであろうか?

いずれにせよ,全体主義的情報統制がしかれている。十分に注意した。


050204a 国王陛下の民主主義演説

2月1日の国王演説を読んだ。格調の高い堂々たる内容で,説得力がある。民主主義の守護神,ギャネンドラ国王らしい名演説だ。

演説によれば,1日の内閣解任は,複数政党制民主主義を守るために他ならなかった。これまで諸政党は,国民の塗炭の苦しみをよそに,党利党略にふけり,いつまでたっても一致団結してテロと闘おうとはしなかった。政党は,国民にとっていま何にが大切か,いまのprioritiesは何かを全く考えようとはしなかった。

そこで,憲法の精神および第27条(3)「陛下は,ネパール人民の最大の利益と福祉を念願し,この憲法を保持し擁護しなければならない」との規定に従い,内閣を解任し,国王主宰の新内閣を組織する。その目的は,平和と安全を再建し,3年以内に複数政党制を復活させることである。実現されるべきは,いまのような名目的民主主義ではなく,真のmeaningful democracyである。

そのためには,治安部隊を有効に使い,まずテロを終わらせる。国家とテロリストを同格扱いする考え方は,絶対に認められない。しかし,テロリストが武器を捨て,平和裡に国家社会に復帰するなら,政府は何ら差別せず,彼らに他の市民と同じ諸権利を保障する。

――見事な演説だ。複数政党制への忠誠が幾度も繰り返され,立憲君主制,法の支配,市場経済が固く約束されている。これなら,印米も世界世論もほっとひと安心だろう。

市内にはデモ一つ無く,商店も学校も通常通り。考えてみれば,2002年10月以降,内閣は国王任命だから,首相がいようがいまいが,本質的には違いはない。内閣は国王に対して責任を持つ,国王諮問会議だったのだ。

民主主義は,もともと「財産と教養」を持つエリート支配だった。それは難しいものだ。民主主義総本山の大統領が何といおうと,選挙すれば民主主義というわけには行かない。

民主主義の守護神,ギャネンドラ国王は,その民主主義の難しさをよく理解され,民主主義はmeaningfulでなければならない,と宣言された。その通りだ。1991年以降の民主主義は,全体としてみて,meaninglessだった。ネパール国家と国民の統合の象徴であられるギャネンドラ国王のご威光により,本物のmeaningful democracyへの早期転換が実現するとすれば,それはかならずしも非難されるべきことではないだろう。

ただし,民主主義を非民主主義的方法で実現する,平和を戦争により実現する,という逆説は,しばしば逆説にならないことがある。いや,大抵そうだとすらいってよい。逆説が逆説にならず,弁証法が弁証法にならないときは,悲劇だ。閉塞状況での一発逆転願望は分からぬではないが,一発ねらいは,危険極まりない。そこのところも,国王陛下には十分ご留意いただきたいと願っている。

(Proclamation to the Nation from His Majesty King Gyanendra Bir Bikram Shah Devm, Feb. 1, 2005)


050203 マイナリ大臣に注目

大臣リスト,ありがとうございます。この顔ぶれだと,主席大臣(つまり「首相」)は,RN・パンデイ氏でしょうか? 歴史的には主席大臣が首相になっていく。まるで,内閣制の草創期を見るようで大変興味深い。

内閣人事で注目すべきは,共産党系の入閣。RK・マイナリ氏は元UML幹部。過激なジャパ運動の指導者で,投獄16年のバリバリの大物左翼(だった)。その筋金入りの(はずの)マイナリ氏が入閣とは驚く。

実力はあるはずなので,労働者農民のために大いに働いていただけるものと思う。目を見開いて,注目していたい。

他に共産党系は,BR・バジュラチャルヤ氏。それと,カドガ・バハドールGC氏も古くは共産党系だと思うが,最近は存じ上げない。

あとは,国王に近い方々と,高級官僚ご出身の方のようだ。

Minister for Foreign Affairs:  Ramesh Nath Pandey;
Minister for Education and Sports:   Radha Krishna Mainali;
Minister for General Administration:  Krishna Lal Thakali;
Minister for Culture, Tourism and Civil Aviation:  Buddhi Raj Bajracharya;
Minister for Women, Children and Social Welfare:  Mrs. Durga Shrestha;
Minister for Information and Communications:  Tanka Dhakal;
Minister for Home and Law, Justice and Parliamentary Affairs:  Dan Bahadur Shahi;
Minister for Local Development:  Khadga Bahadur GC;
Minister for Labor and Transport Management:  Ram Narayan Singh;
Minister for Finance:  Madhukar Shumsher JB Rana.


050202d 情報遮断と人権侵害監視

今回の政変の際立った特徴は,情報統制がかなり徹底していることだ。電話切断,ウェッブサイトも閉鎖または更新停止,空港まで事実上閉鎖されている。モシン前情報相の指揮だろうか?

情報遮断されると,ネパール国内で何が起こっているか分からず,不安になる。やはり問題は,人権侵害。ヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)などの人権団体は,国連人権委員会のジュネーブ会議(3月)でネパール人権監視のための特別報告者(Special Rapporteur)の任命を求めるという。これがどのような職か詳細は分からないが,人権監視の権限を国連から授権された監視者であろう。一種の人道介入といってよい。

HRWは,非常事態宣言下でも守られるべき人権を列挙し,国王政府にそれらの擁護を訴えている。

・生命への権利
・拷問,虐待の禁止
・公正な裁判
・不当拘禁の禁止

きわめて謙虚な最低限の要求だが,情報統制下の独裁政府はしばしばこれらの基本的人権を侵害する。 Special Rapporteurのような監視者の設置は,内政干渉と映るかも知れないが,例外状況下の大権行使への理解を求めるのであれば,国際的人権監視は進んで受け入れた方が国王政府にとってはむしろ望ましいことではないだろうか。

(Human Rights Watch, Nepal: State of Emergency Deepens Human Rights Crisis, Feb1, 2005)


050202c 新内閣発表

新内閣(10名)が2月2日,発表された。さすが独裁権力は仕事が速い。この調子で,停戦・和平交渉もテキパキと進めていただきたい。

・首相  なし(国王主宰)
・内相  Dan Bahadur Shahi
・外相  Ramesh Nath Pandey

他の8大臣は,まだ不明。首相はおかず,国王主宰とのことだが,シャヒ氏が事実上首相になるのではないか?弾よけをつくっておかないと危ない。

市内は今のところ平静。学校も開いているそうだ。市民は,案外歓迎しているのではないだろうか?

(Reuters, AP, BBC, Feb2)


050202b マオイストのゼネスト宣言,儀式か本気か?

マオイストは,2月2日(水)から3日間の全国ゼネストを宣言した(Reuters, Feb2)。どの程度の規模になるか不明だが,都市部を含め,旅行等は見合わせた方がよいだろう。

マオイストがこのゼネストをどの程度本気でやるか(儀式的ゼネストか否か),あるいはUML等の既成政党がどこまで同調するか,逆にいえば,国王政府がこのゼネストを押さえ込めるかどうか,が今回の政変の性格を見るための最初の試金石となるだろう。

もし既成政党が同調し騒乱状態になれば,戒厳令,本格的軍部独裁か,王制崩壊,革命,共和制樹立となるだろう。

国王は,当然,印米の了解(黙諾)をとっているはずだから(湾岸戦争時のようにシグナルの読み違いの可能性は否定できないが),おそらく騒乱状態にはならないとの見通しを得て行動したはずだ。

もし既成政党が同調せず,儀式的ゼネストに終われば,今回もまた首相の首のすげ替えにとどまり,たいしたことにはならないだろう。首のすげ替えは,ネパール政治の常道だ。


050202a 無責任政党の無責任弁護

国王の内閣解任,権力掌握に対しては,英米印,国連,アムネスティなど,世界中から非難が殺到している。が,政党政治=善,王政=悪といった善悪二元論や,「民主主義を守れ」の大合唱を,単純に鵜呑みにすべきではない。

■印外相
国王の行為は違憲。政党指導者の安全を保障せよ。
「政党は憲法上のすべての権利の行使を許されるべきだ。」

■英外相
国王の行為は,立憲君主制に反し違憲。複数政党制に復帰せよ。

●国王
政党は「派閥抗争に明け暮れている。」
「すべての民主勢力と政治指導者は国の民主主義を守るために結束すべきだ。」
「私は,現行憲法が国王に付与している権利を行使し,人民の利益のために政府を解散した。」
そして,ネパール人民のために「私の主導(主宰)の下に新政府を組織する。」
「3年以内に民主主義および法と秩序を再建する。」

民主化以後のネパール政党政治の実情を見れば,残念ながら,国王のいう通りであり,インドをはじめとする諸外国の国王非難は無責任政党の無責任弁護にすぎない。(むろん各国の立派な国益弁護論ではあるが。)

一握りの勝ち組以外の大多数の庶民にとって,「民主主義」や「政党」は利権,特権,売国の実態を隠す美称にすぎない。その構造を温存したまま,政党制民主主義を守れといわれても,ネパール庶民はしらけるだけだろう。

ネパールの立憲君主制では,議会が機能しないときは,国王が大権を行使できる。憲法は,非常事態権限やその他の大権を国王に認めており,政府解散,統治権掌握が違憲とは必ずしも言えない。

しかし,それはもちろん例外状況でのことであり,もしそれが3年も継続するとなると,もはや例外状況とは言えなくなる。

また,国王直接統治は,国王に信望がないと,困難だ。「権威」のない国王は,「権力(暴力)」に依存せざるをえない。

ギャネンドラ国王は,権威を認められ,直接統治を短期間で終わらせることを目指されているのだろうか? そうであればよいが,もしそうでないなら,ぜひそれを目指されることを願いたい。

(AP, Reuters, AFP, Feb2)


050201c 一発逆転か?

今日のデウバ内閣解任は,現時点では確かなことはいえないが,先述の通り,マオイストの同意(黙諾)があった可能性がある。もしそうであれば,これは一発逆転,内戦終結は早い。

マオイストは,このところしきりに国王との直接交渉を要求していた。国王がNC,UMLを押さえ,主導権を確立すれば,交渉の条件は整う。停戦,和平となれば,国王は絶大な威信,マオイストは権力参与の巨利を得られる。

そもそも内戦の最大の責任は既成政党にある。国王でもマオイストでもない。もしそうだとすると,既成政党を排除した方が,内戦終結は早い。

しかし,もしマオイストの同意がなく,国王が力でマオイストを抹殺するために内閣解任,直接統治に打って出たとすると,これはやっかいだ。米印の援助を得て軍事力を増強し,攻撃を強化すれば,マオイストはゲリラ戦をさらに拡散し,さらに多くの民間人が犠牲になるだろう。

マオイストはどう出るか? 既成政党が大動員をかけ,反政府運動を開始してアナーキー状態になるか? それとも,反国王統一戦線が出来て,王制が崩壊するか? はたまた,いつもの通り,首相の首のすげ替えでおわり,内戦状態がズルズル継続するか?

1,2日で,どの方向に向かうか,大体の見当はつくであろう。


050201b. 非常事態宣言

非常事態宣言発令。平時の自由や権利が制限され,治安部隊に大幅な権限が与えられるので,くれぐれも行動にはご用心下さい。

電話切断,空港閉鎖。商店には生活物資を求める人々が殺到している。

国王は,新内閣を「国王主導で組閣し」,「3年以内に平和と民主主義を再建する」と言明した。政党禁止,ないし政党外しを目指していることは間違いないが,うまくいくか? 選挙はどうするか? 筋書きは,たぶん次のいずれか――

(1)国王大権で政党を当面押さえ込み,早期に選挙実施。その後,徐々に3年かけて正常な政党政治に復帰。
(2)3年間,非政党的(パンチャヤット的)強権政治を実施し,国権を強化安定化した上で,政党政治へ復帰。

しかし,いずれも無理なような気がする。もっと可能性が高いのは――

(3)反国王勢力が統一戦線を結成し,王制打倒,共和制樹立に向かう可能性。

以上のいずれでもないとすれば,

(4)国王とマオイストの間で,取引が成立している可能性もある。中間政党を排除し,国王主導で和平を実現し,その代わりマオイストに権力を分与する。

いずれにせよ,国王の大権行使で,マオイストにキャスチングボートを握られてしまったのではないだろうか? マオイストが,政党側につけば反国王派の勝ち,国王につけば国王側の勝ち。マオイストにとっては,どちらでも権力に参与できるので損にはならない。

(以上は,現時点でのごく限られた情報によるもの。ご了承下さい。典拠:BBC; AP; CNN; Yahoo)


050201a クーデタか?

2月1日,国王はデウバ政府を解任し,全権を握った。一種のクーデタ。

デウバ首相をはじめ主立った政治家たちは,自宅軟禁。兵士が取り囲んでいる。

通信は遮断状態で,まだ詳細は分からない。イラク選挙直後だから,アメリカの「承認」があったものと推測される。とすれば,それほど無茶は出来ないだろうが,何が起こるか,予断は許さない。


050129 内で人権侵害,外で人権守護

やはりPKO要員解雇警告はこたえた。D・グルン大佐があわてて記者会見を開き,打ち消しに躍起だ。アーバー委員長は勘所を押さえている。えらい。

たしかに国内で人権侵害を非難されている軍隊が,国外で人権守護というのは変だ。国連は,人権侵害が無くなるまでネパールのPKO要員3000人を一旦解雇すべきだ。

国際社会も,人権・人道を守るつもりなら,国内で人権侵害をしているような軍隊の使用に対して,はっきりと反対の声を上げるべきだろう。

(Nepalnews.com, Jan28)


050128 国連,人道介入への地ならしか

国連人権委員会(UNCHR)のL・アーバー委員長が1月22日から訪ネし,精力的に各界に停戦和平,人権遵守を働きかけている。アーバー委員長は,ルワンダ,ユーゴ両人道裁判の主任検事を務めていたので,きっと辣腕法律家なのだろう。

委員長は,ネパール人権委員会(NHRC)を強力にサポートし,政府とマオイストに「人権協定Human Rights Accord」への調印,遵守を求めた。これは当然とも言えるが,NHRCがどの程度機能するかは疑問。NHRC委員長のナヤン・バハドル・カトリ氏は,旧体制下で要職を占めておられたようだ。

アーバー委員長は,最高裁のハリプラサド・シャルマ長官にも会い,「司法の独立」「人権保護」を求めたが,前述の通り,長官は任期半年ではや死に体。検事総長にも会ったが,会談内容は不明。

これらの正攻法よりも,はるかに有効と思われるのが,PKO要員解任の脅し。さすが辣腕。ネパールは大量の国軍兵(たしか3千人位)をPKO要員として提供している。その給料は国軍収入。アーバー委員長は,治安部隊が人権侵害を続けたらPKO解任と脅したのだ。一種の経済制裁であり,これは利くかも知れない。

国連は,人道介入を考え始めたのかも知れない。

(KOL, Jan26; Nepalnews.com, Jan23,24,26)


050126b 非暴力平和隊の可能性

ネパール平和構築支援フォーラム(東京1/23)で,非暴力平和隊の紹介があった。先の見えない泥沼の内戦状態を打開する方法の一つとして,注目に値する。

活動(非暴力平和隊HPより)

■手 法
世界各地で起きている紛争の非暴力直接介入による解決をめざします。そのために次のような手法を用います。

護衛的同行:
暗殺・誘拐等の危険な立場におかれている活動家等に同行します。

国際的プレゼンス:
フィールド・ワーカーは紛争地帯にある村落や境界線、非武装地帯に「世界の目」として滞在します。これによって武力行使は国際的な非難の的となるというメッセージを武装組織に送ります。

情報発信:
フィールド・ワーカーは暴力的行為が政治的に受け入れられないような環境をつくることによって暴力を抑止します。「世界中が注目している」ことを徹底するために、平和隊は従来のメディアに加え、インターネットを使いリアルタイムで情報を配信します。

「割り込み」:
平和隊は、対峙しているグループの間に物理的に割って入り、暴力の抑止に努め、当事者が平和的に紛争を解決するような環境をつくります。


050126a 最高裁の政治化と装飾化

新しい最高裁長官にハリプラサド・シャルマ氏が1月14日就任した。おめでたいことだが,任期はなんと停年となる7月31日まで。三権の一つの長に定年前6カ月の人を任命する。シャルマ氏の経歴は存じ上げないが,いかに有能な方であれ,わずか半年では何もできまい。

いや半年後に辞めると分かっているから思い切った判決が出せるのだ,という反論もあろうが,シャルマ氏は会見で司法積極主義は取らない,と明言した。無難に半年務め,箔をつけて退職されるのだろう。

もちろん司法積極主義には功罪両面ある。司法積極主義とは,政治的意味を持つ事柄についても司法が積極的に介入し,判断する考え方を言う。インドは,この傾向が強い。本来は政党間の政治交渉や選挙で解決されるべき問題を,政治の場では解決できないので司法に丸投げしてしまう。法と司法の権威が絶大であれば,政治問題を裁判所が裁き,判決を出せば,それで決着が付く。しかし,もしそうでなければ,裁判所がどんな判決を出そうが無視され司法は権威を失うか,それとも司法が政治化し政治勢力の道具となるかである。

ネパールの場合,法が秘教的ヒンズー法でありブラーマンが解釈権を独占しておれば,司法積極主義は可能であろうが,法の世俗化で,それは難しくなっている。

ネパールの司法積極主義らしき実例は,共産党のアディカリ首相が下院を解散したのに対し,最高裁が違憲判決を出し,解散を取り消した事例が上げられるが,これは無茶な判決であり,司法積極主義と言うより政治的判決であり,司法の政治化を天下に示すことになってしまった。

いまや立法部は解散され長期不在。司法部は装飾化し政治化。行政部は,立法部・司法部のコントロールからほぼ解放され,国王に権力集中。

もう末期症状。国王というより,statesmanshipを見失った有力政党の責任である。

(KOL,Jan14)


050121 イラムで政府軍惨敗

1月19日午後,イラムで激戦があり,政府側が惨敗した。治安部隊40人が道路封鎖解除からの帰途,マオイストの奇襲に会い,22人の応援を出したが,死者23人(国軍17,警官6),不明4人(あるいは22人),負傷5人の大損害を出した。マオイスト側の死者は6人。

攻撃はワナであろうが,それにしても62〜72人もの治安部隊が,これだけ一方的に撃滅されたのだから,マオイストはおそらく数百人(Nepalnews.com)はいたであろう。

数百人もの人民解放軍大部隊が,イラム郡都イラム・バザール近郊に展開していた。はるばる中西部から遠征してきたわけではあるまい。東部のマオイスト勢力の趨勢が気がかりだ。

(KOL & Nepalnews.com, Jan20)


050120 PFN議長宅爆破

1月19日早朝,カトマンズの人民戦線(PFN)リラマニ・ポクレル議長宅に爆弾が投げ込まれ,窓などが大破したが,議長らは無事だった。

犯人はマオイストらしい。PFNは最近,全国で反マオイスト闘争を始めたので,議長が狙われたようだ。

PFNもマオイストも,第4会議派系で,いわば兄弟。イデオロギー政党の分裂,内ゲバは宿命とはいえ,「人民」を人質にした殺し合いは陰惨だ。

先述の通り,「マオイスト犠牲者同盟」の会長,副会長もカトマンズ市内で暗殺された。シバセナ幹部も暗殺された。

地雷,拉致,暗殺とくれば,次は自爆テロ。この禁断の戦法を食う前に,内戦を止めないと大変だ。

(KOL & Nepalnews.com, Jan19)


050119 プラチャンダ議長の父,停戦・和平を訴える

プラチャンダ議長の父ムクチラム・ダハール氏(76歳)が,平和キャンペーンへの参加を表明,大きな反響を呼んでいる。

提案したのは,ネパール人権協会(HURON)のS.パタク氏。ムクチラム氏は,提案に共鳴し,全国に停戦・和平を訴えるという。そして,息子プラチャンダ氏にも,この9年間音信はないが,「もし連絡があれば,人々は平和を切望していると伝えるつもりだ」という。

これは解釈が難しい。「平和」は誰かが何かをいうときの枕詞だ。また,英字紙は記者クラブ的に同じ記事を載せるのが通例なのに,今のところNepalnews.comの特ダネで,KOLやカトマンズ・ポストは載せていない。

もっと難しいのが,ムクチラム氏発言の真意。現状では,お尋ね者プラチャンダ氏から便りがあるなどとは言えない。また,事実,音信不通なのかも知れない。しかし,たとえそうだとしても,状況からして,父は何らかの形で息子の考えを知り,息子の意を体して発言した,と見るのが自然だ。そして,もしそうだとすると,プラチャンダ議長は,相当本気で和平を考えていることになる。

父ムクチラム氏は,息子とは音信不通,政治とは関わらないといっておれば,何とかこれまでと同じように平穏に過ごせたはずだ。すでに老齢で病身。しかし,その老人にすら,いまのネパールは老後の平安を許さない。

老父の訴えで和平が進めばよい。私も,もちろんそれを願い,応援したい。しかし,もしそうならなければ,彼の残された人生は厳しいものになるだろう。

ムクチラム氏は,それを分かった上で決断したのだろう。状況がそうさせたとはいえ,勇気ある政治的決断である。

(Nepalnews.com, Jan18)


050116  日本の軍事援助を要請

ついに日本への軍事援助要請が始まった。Jan Sharma, "Nepal-Japan security cooperation is long overdue," Nepalnews.com, Jan5. むろん政府見解ではない。著者のシャルマ氏はカトマンズ在住の著述家。が,遺憾ながら,彼の議論は客観的情勢分析の上に立っており,非常に説得力がある。

(1)日本の軍事的役割は小さすぎる
 ネパールと日本は良好な友好関係にあり,日本はネパールの最大の援助国だが,援助は農業経済支援に偏重し,安全保障については「日本の役割はピグミー(原文のまま)より小さい」。

(2)ネ日軍事協議の実施(2004.10)
 しかし,日本政府はネパール情勢につよい関心を持っている。そうした中,王国軍のピヤル・ジュング・タパ将軍が2004年10月,日本を訪れ,東京で開催された第7回防衛首脳会議に出席した。これは,日本自衛隊,合同担当者会議(Joint Staff Council),米太平洋軍司令部の協力の下に開催されたものである。
 ネ日両国の公式発表はないが,「ネパールと日本の安全保障協力の可能性を探る機会はあったはずだ」。
 (シャルマ氏がいうように,状況から見て,タパ将軍と日本の防衛庁,自衛隊関係者との間で何らかの協議があった可能性は大だ。そう見るのが自然だろう。)

(3)日本の軍事貢献拡大はチャンスだ
 日経新聞によると,日本政府は自衛隊を「対テロ戦争協力」にあてる準備をしている。そのため小泉首相は改憲により,軍隊を無条件保有し,防衛庁を国防省に格上げしようとしている。自衛隊はすでに世界最強の軍隊の一つだし,PKOだけでなく,イラクにも派遣されている。さらにスマトラ沖地震津波の被災地に1000人の兵員を派遣し,タイには地域司令部を設置し,国連やアメリカと連携して活動している。
 「日本は世界最善の状態で維持されている軍隊を持ち,南アジアを含む世界において,これまでよりもはるかに積極的な軍事的役割を果たすようになるに違いない。ネパールは,この絶好のチャンスをつかみ,日本との安全保障協力を促進すべきである。」

(4)世界の軍事バランスとネ日軍事協力
 さらにネパールの不安定は近隣諸国にとっては危険なので,軍近代化を進めている世界最大の陸軍国,中国もネ日安全保障協力には反対しないだろう。
 (この部分は微妙であり曖昧。推測では,軍近代化を進める中国の「脅威」に対抗するため,日米はネパールに関心を持ち軍事援助をするはずだ,といいたいのではないか?)

 ――以上がシャルマ氏の文章の概略だが,これが彼の私的見解か,それ以上のものかは分からない。
 しかし,彼の見解が,客観的な情勢分析に基づいており,大きな説得力を持つことは疑いえない事実である。日本は,政府開発援助を削減する一方,日米軍事同盟を強化しつつ,自衛隊の現代化に着手し,米軍と協力してグローバル展開をしようとしている。非軍事的開発援助から軍事援助への転換。これは客観的事実であり,外国援助に頼らざるをえないネパールがこの変化を機敏に捉え,軍事援助への期待を表明するのは,当然といえる。
 ネ日軍事協力は,ネパール王国政府にとって大いに利益があるし,「中国の脅威」に対抗しようとする日米国益論者にとっても大いに利益がある。
 60年の平和ボケで,そんなことはありえないと思いこんでいる人も多いと思うが,9条がありながら日本は戦地イラクに派兵し,そして,かつての侵略地東南アジアへの日本軍の本格的派遣も実現したのだ。新年早々,岸壁で派遣兵士を見送る妻子の感動的情景が流されたが,「勝ってくるぞと勇ましく・・・・」の構図とうり二つだ。権力者も報道機関も,そして,それを見ているわれわれも,タイムスリップしてしまったようだ。
 だから,ヒマラヤ山麓の日の丸ダンプやブルトーザーが,対テロ戦争のための日の丸戦車,ヘリコプターに入れ替わっても,なんら不思議ではないのである。


050115 印ネの因縁とマオ・マッチポンプ
印ネ関係がきな臭くなってきた。マオイストが14日朝,インド車両4台をネワルパラシで焼き討ちした。理由はバンダ破り。

一方,KOLによれば,インド準軍隊「特別治安局SSB」が,マオイスト監視を理由に,イラムに基地を造り始め,すでにいくつかコンクリート建造物を造り,SSB要員を配置しているらしい。

90年革命のときも,インド警察がカトマンズまで侵入し,自在に活動した。今度はいよいよ軍のお出ましか?

マオイスト(他の共産主義者も同じ)は,インターナショナルのくせにナショナリストだ。「万国のマオイストよ,団結せよ」と檄を飛ばし,印ネ国境を無視して体制攻撃を展開,そのくせ怒ったインドがネパールに介入してくると,インド帝国主義を非難し,子供まで動員して校庭にタコツボを掘らせている(対印「トンネル作戦」)。

マオイスト・マッチポンプ! 「インドの脅威」を自ら主導の国民統合に利用するのは,国王,NC,UMLみなお互い様だが,今度はこのままいくと危険な気がする。PWGなど過激派に悩むインド政府が,本気で介入するのではないか? マオイスト=PWGがインターナショナルなら,印ネ資本がインターナショナルでどこが悪いか? 印ネ資本は,協力して,インド軍を用心棒として雇い,ふらちなマオを撲滅する。

歴史は,農民・労働者よりも資本の方がはるかにインターナショナルであることを実証した。マッチポンプをもてあそんでいると,マオイストは祖国を失うことになりかねない。

(KOL, Jan14)


050110  「サダム・フセイン」同志殺害報道の怪

マオイストは1月9日,バラ,パルサ,ラウタート3郡の交通ストを宣言,これを無視したバス3台を止め,乗客200人をジャングルに連行した。

数時間後,人権活動家の要請に応え,マオイストはジャーナリストを呼び乗客を解放,交通ストも10日朝,中止した。

これだけであれば,住民は困ったであろうが,いまのネパールではよくあることだ。問題は,この交通ストの理由である。

KOL, Nepalnews.comは,「治安部隊がマオイスト活動家たちを勾留後殺害した」ことへの抗議が理由と報じた。文章も両メディアはほぼ同じ。これまでも,こうしたケースはしばしば報道された。

ところが,Indo-Asian News Serviceの9日付カトマンズ発記事によると,交通ストの理由は,マオイスト民兵隊の指導者「サダム・フセイン」の殺害に対する抗議となっている。

「サダム・フセイン」は「プラチャンダ」と同様もちろん偽名だが,もし報道通りだとすると,この地方のマオイストは「サダム・フセイン」同志に指揮されていたことになる。治安部隊が「サダム・フセイン」同志を殺害したので,報復として3郡の無期限交通ストを宣言したということ。

これは重大な意味を持つ。すでに12月28日,「シバセナ」ネパールガンジ支部長が殺され,犯人はマオイストとされている(No.3701参照)。もしそうだとすると,事実はどうであれ,文脈から見て,「サダム・フセイン」同志殺害はその報復と受け取られる危険性が大である。

問題は,本当に「サダム・フセイン」を名乗るマオイスト幹部がいたかどうかである。実在したとすれば,マオイストの変質を示すものであり,それを報道しなかったネパールメディアの報道姿勢も含め,重大な関心を持たざるをえない。

もし実在しなかったとすれば,これほどまで具体的な「サダム・フセイン」同志殺害のカトマンズ発記事を,なぜ Indo-Asian News Serviceが配信したかが問題になる。

ネパール問題もその報道も,いよいよ錯綜してきた。慎重に観察したい。

(Indo-Asian News service, Jan9; Nepalnews.com, Jan9-10; KOL,Jan9)


050109 選挙は非民主的原理

選挙はもともと民主的でも善政でもない。これは政治学のイロハであり,それを教えないような「公民」(天皇の「おほみ・たから」)や「政治学」の授業は,廃止した方がよいだろう。

古代ギリシャでは,民主主義は市民自身の直接政治のことであり,選挙は反民主的エリート政治。近代では,選挙は周知のように「教養と財産」階級の独裁手段となる。だからルソーは,「イギリス人の自由は投票時だけで,あとは奴隷だ」と嘲笑したのだ。

さらに悪いことに,もし仮に選挙をしたとしても,民主政はそれ自体善政ではない。チャーチルが喝破したように,民主政は悪政の中で相対的にましなものにすぎない。民主政よりよい政治はほかにいくつもある。

アメリカは,もちろんそんなことは百も承知だが,選挙と民主政が民主主義教総本山アメリカの国益にかなうから,軍事力でアフガンに選挙を押しつけ,そしてまたイラクにも押しつけようとしているのだ。

ネパールでは,こともあろうに国王陛下が年末(4月)までに選挙をせよと,これまた強権的に命令している。銃口下の投票となれば,ルソーが嘲笑した投票時の自由すらないではないか。

しかも,小選挙区制は,ネパールには全く適さない。それが誰を利するかは,子供にもわかる。近代民主主義の根本原理は,選挙ではなく,選挙をすることができる政治体を創立すること。とすれば,誠に遺憾ながら,銃を突きつけ選挙をせよと強要している国王政府よりも,憲法制定会議を唱えるマオイストの方が民主的である。

もっとも,マオイストの方も,憲法制定会議メンバーの民主的選出は主張していない。テロで脅し,憲法制定会議における権力分捕り合戦への特権的参加を要求しているのであれば,マオイストも既存の前近代的権力集団と本質的には何ら変わりはない。


050107  カイラリで数百名死傷

1月5日,極西部のカイラリ郡で大規模な戦闘があり,数百名が死傷したようだ。マオイストの死者約140名,治安部隊は死者0,負傷者数名という(大本営発表か?)。

5日朝10時頃,マオイスト200〜300名がバンケト村の広場で食事をしていた。そこを治安部隊が急襲,マオイストはジャングルへ退却し,訓練中の約650名と合流した。治安部隊は,カトマンズ,ネパールガンジからも援軍を出し,武装ヘリを動員してジャングル内のマオイストを攻撃,交戦は午後2時まで続いた。治安部隊の兵力は不明だが,数百人の大部隊を一方的に撃破したのだから,きっと数千人の大兵力だったのだろう。

この戦闘を見ても,国軍の近代化が進み,機動力が格段に向上していることは明らかだ。カトマンズから極西部まで素速く兵力を移動させている。

しかし,以前にも述べたように,国軍ハイテク化と人民軍ローテク化は比例する。この原則通り両軍が動けば,いずれの側も勝利は望めず,庶民の犠牲は増えるばかりだ。この悪循環を止めるのは議会政党のはずだが,彼らもまた何が理由か全く見当もつかないが,何かの理由で四分五裂している。「民主主義の日」も近いというのに,どうしようもない。

(KtmP,Jan5;Nepalnews.com,Jan6)


050106 祝ビンティ,60万回突破!

ビンティがアクセス60万回を突破した。日本語ではもっともよく読まれているHPだろう。なぜ,これほど支持されているのか?

デザインはきわめてシンプルであり,むしろ素っ気ないくらいだ。HP作成者はあれもこれもと大盛りにしたがるが,ビンティは見事に禁欲し,必要最小限のものしか表示しないようにしている。この清貧型HPは私の好みだが,むろんデザインだけで60万回も閲覧されるわけはない。

支持されているのは,何といっても中身(コンテンツ)である。どの頁がよく読まれているかは部外者の私には分からないが,おそらくNEPAL WATCHであろう。トップ頁にNEPAL WATCHとして重要ニュースが一覧表示される。一番知りたいことがアクセスと同時にパッとわかる。これはよい。

もちろんニュースそのものであれば,英語やネパール語のHPの方がはるかに速く詳しい。ビンティといえども,とてもそれらに太刀打ちできない。ではなぜ読者はビンティを読むのか?

それは,おそらく著者が一定の立場を堅持され,その見識により,多くの出来事の中から重要なものを取捨選択し,再構成して示してくださっているからだろう。

しかもその際,著者はあくまでも事実に即して記述し,事実をして語らしめるという禁欲的姿勢を崩されていない。読者はわがままなものであり,事実選択(価値判断)の的確性と記述の客観性を同時に要求する。この無理難題にネパールウォッチの著者はよく応え,読者の信頼を勝ち取られているようだ。

HPの成否判断には,アクセスの質も無視できないが,何といっても量が先決だ。それには,トップ頁に読者が一番欲している情報をまず出すことが肝要だ。もしビンティがトップにビンティからのメッセージや宣伝を大々的に載せていたら,これほど成功はしなかっただろう。それらは,ビンティが伝えたいことではあっても,読者が欲していることではないからだ。ビンティを見たら,パッといまの重要問題が表示される。このシンプルさが,読者に支持されている。

「ネパール情報なら,ビンティ!」は,ビンティの宣伝文句だが,どうやら正夢になりそうな気配だ。ご健闘を祈る。


050105 小さな不幸と願い

正月、故郷の村に帰り掃除をしていたら自宅前の崖から転落、足の骨にひびが入り、顔はタレパンダのようになってしまった。最悪の正月。

ネパールに目を転じると、私の小さな不幸など比較にもならないほど悲惨な紛争で、2005年も明けた。1月1日、ダンクタで大規模な戦闘があり、治安部隊十数名とマオイスト相当数が死亡した。

それ以後も各地で戦闘が続き、3日夕方にはカトマンズの繁華街で、マオイスト被害者協会(MVA)副会長が至近距離から銃撃され、死亡した。MVAは、会長も昨年カトマンズで、暗殺されている。

「法と秩序」は当局の常套句だが、今の政府には最低限の治安さえ守ることが出来ない。憲法や法律の内容の善悪うんぬんの前に、順法精神そのものが崩壊しつつある。

この状況下では、人々はシニシズムの悪循環に陥りやすい。12月31日、人権委員会(NHRC)が政府とマオイストに人権協定締結を提案したが、双方に協定を結んだところで守られはしないという不信がある限り、冷笑されるだけで、あまり意味はないだろう。

あるいは、主要道が「殺人街道」になっているのにたまりかねた運送業協会ヨゲンドラ会長が1月4日、ハイウェイを「平和ゾーン」にするように呼びかけたが、これも不信のシニシズムの前ではむなしい呼びかけにすぎないであろう。まことにもって不幸なことだ。

正月の私の不幸は、ネパール庶民から見れば取るに足りないものだ。私の村は辺地だが、それでも車で30分もいくと病院があり、正月休みにもかかわらず外科医と眼科医がいて、親切に診てくれた。辺地でも最低限の生活インフラが整い、機能している。

もし今のネパールの地方で、このようなケガをしたら、どうなるだろう? もともと貧弱な交通・医療インフラが内戦で機能不全に陥っている。タレパンダの様な顔で痛い痛いと泣きながら、村で何日も救助を待たねばならなかったかもしれない。

医療一つとってみても、ネパール庶民の日々の不安は想像に難くない。新年を機に、不信のこれ以上の悪循環だけは何としてでもくい止めてほしいものだ。


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