時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2005年b (→Index       Top  

050511 軍事援助再開
050507 ポクレル氏殺害とマオイスト内紛
050506 気がかりな宗教問題
050505b クリスチャン教師夫妻,逮捕
050505a 覇権争奪競争下のネパール
050430b 非常事態宣言,終了
050430a 民主主義回復よりもインド国益
050429 中国の裏庭となったネパール
050427b タイムのタイクツ記事
050427a デウバ前首相,逮捕
050426 はや自信過剰か
050425 印軍事援助,無条件再開
050424 ネパールを優先した胡主席
050419 ニューヨークタイムズ社説の危うさ
050416 衝撃の古畑報告(会報)
050415 不安な年末年始
050413 国連人権監視活動に国王,マオイスト同意
050407 もう一つの「外国介入」
050404 国王と中国外交
050324b 抵抗する知識人,メディア,そしてUN
050324a バッタライ博士の大論文
050318 世銀の「人間の不安全保障」
050317 中国カードで綱渡り外交
050321 マオイスト分裂と非常事態宣言終結の可能性
050320 やはり内紛は事実か?
050316 軍虚報,マオイストは4月ゼネスト突入へ
050315 マオイスト分裂,バッタライ夫妻追放か?
050314 冷血「世界銀行」の大罪
050312 パキスタン軍事援助と中国外相訪ネ
050311 猥雑な文化のかおり
050309 「命がけ」のビンティ
050308c ODA調印で国王支援?
050308a 平和アピールと朝日社説の無責任
050306 ライス長官,南ア訪問
050305 それでも国王支持か?
050303 カトマンズポストの抵抗
050302 情報統制強化と平和運動




050511 軍事援助再開

国王のいうとおりだった。非常事態宣言の名目的解除と引き換えに,インドは5月10日,武器供給を再開した。軍用トラック,ジープ,装甲車,防弾チョッキ,弾薬など,よい商売だ。ほどなく米,英なども武器商戦に参戦するだろう。

インドの武器供給再開は,もちろん米国の了解のもとに行われている。米国はもともと軍事援助停止措置をとっていなかった。そして,武器供給再開発表直前の9日午後,クリスチナ・ロッカ国務次官補が,ネパールに向かう途中でニューデリーに立ち寄り,インド高官とネパール情勢について意見交換をしている。ロッカ氏は,インドと最終的な意見調整をした上で,ネパールを訪問したのであり,インドの武器供給再開は米印合作と見るべきだろう。

ロッカ氏は,ネパール訪問中(5/9−11滞在)に国王,ビスタ,ギリ両副首相,パンデ外務大臣と会見し,ヤク&イエティでのアメリカンセンター開所式にも出席した。

米国は,人権・民主主義よりも,対テロ戦争を優先させ,国王―クーデターを追認したのである。

(KOL, May10-11; Rising Nepal, May9; The Hindu, May10)


050507 ポクレル氏殺害とマオイスト内紛

●ポクレル氏殺害の暴挙
BBCによれば,世界ヒンズー協会ネパールのポクレル議長を殺害したのは,マオイスト系のダリット解放戦線 (Dalit Mukti Morcha)だという。殺されたのは自宅ではなく,宗教行事のために滞在していたルパンデヒ郡のホテル。

ポクレル氏は,ゴルカ出身のカリスマ的宗教指導者で,妻2人,息子5人,娘3人。ダリットも宗教行事に招き,儀式に参加させていた。

この暴挙に対し,主要政党,右派諸団体,ヒンズー教諸団体は,マオイストを激しく非難している。 (Nepalnews.com, May6)

●内紛マオイストの冒険か?
それにしても,もしマオイストの犯行とすれば,彼らはなぜ,このような危険な冒険に走ったのか? 一つ考えられるのは,内紛激化である。

BBCによれば,マオイスト内紛はもはや決定的だ。

バブラム・バタライ幹部は,プラチャンダ議長への権力集中に反対し,当初の約束(党決定)と違うと,議長を非難している。そして,プラチャンダ議長の肖像をマルクス,エンゲルス,レーニン,スターリン,毛沢東の肖像と並べて掲げることをやめよ,と要求している。

これに対し,プラチャンダ議長は,バタライ幹部が自己の権力拡大を優先し,党と革命のことをないがしろにしている,と反論している。「プラチャンダの道」からすれば,そのとおりだろう。(BBC, May6)

――マオイスト2幹部の権力闘争は,子供っぽいといえばそうだが,これは左翼の主導権争いの典型であり,こうなると,もう大抵どうにもならない。

内紛は自業自得だが,警戒すべきは,体制維持のため,マオイストが危険な冒険に走ることだ。これまで幾度か指摘したように,マオイストは,この種の運動としては,よく統制がとれていた。その自己抑制が,内紛のためはずれてしまうと,恐ろしい。

もしポクレル氏の殺害がマオイストの犯行だとすると,これは憂慮すべき事態だ。


050506 気がかりな宗教問題

ネパールの宗教界の雲行きが怪しくなってきた。

●WHFネパール議長銃殺
世界ヒンズー教会ネパールのパンデ・ナラヤン・プラサド・ポクレル議長が,5月6日早朝,ブトワルの自宅で銃殺され,同僚のパンデ・カダク・イスワル氏も負傷した。

襲撃したのは,マオイスト集団らしいが,これは大変な事件だ。(KOL, May6)

●キリスト教系女性会議開催
キリスト教については,先述の通り(No.3929)改宗強要罪で教師夫妻が逮捕されたばかりだが,この5月21−23日には,カトマンズで2000人を集め,女性会議を開催するという。スポンサーはNew Directions International,主催はネパールのクリスチャン女性の会(名称不明)。

NDIは,アメリカに本拠を置き,途上国伝道を使命とする団体のようだ。HPによると,次のような活動をしている。

第三世界の指導者に働きかけ,福音への扉を開かせること,貧困者に食料とシェルターを与えること,ケニヤの孤児を養育すること,海外の「ホームレス会衆」のために教会を建設すること,インドの牧師に自転車やバイクを供与すること,ジンバブエの女性にミシンを与えること,ネパールの貧しい家族にヤギを与えること,ブータンの地下教会を援助すること,タンザニアの貧困者に保健医療を与えること,エベレスト山麓に教会をつくりつつある福音伝道者たちを支援すること,等々。

ネパール女性会議は,このような使命を持つNDIがスポンサーになって開催される。アメリカからは, Patt Williams, Hannah Thompsonといった人々が出席し話しをする予定とのこと。

「たった5ドルの寄付で1人のネパール女性を会議に出席させられます! このわずかのお金で,食事,交通費など必要なものはすべてまかなわれます。」「この会議は,何千人ものネパール女性に神を信じる機会と,キリスト者としてのリーダーシップ強化の機会を与えることになるでしょう。・・・・忘れないでください,ネパール女性1人当たり,たったの5ドルなのです。」(www.newdirections.org/)

キリスト教会の善意と熱意は分からぬではないが,クリスチャン教師夫妻が逮捕され,世界ヒンズー協会議長が銃殺されるなど,雲行き怪しい現状の下で,こんな大会を開いても大丈夫なのだろうか。難しく微妙な問題だが,気になるところだ。


050505b クリスチャン教師夫妻,逮捕

ビルガンジで私立グレース校を運営しているキリスト教徒のインド人夫妻が,生徒80人の大半をキリスト教に改宗させた疑いで逮捕された。

1990年憲法第19条は,信教の自由を認められているが,改宗させることは禁止している。改宗させること(proselytize)は犯罪であり,処罰される。

改宗強要罪による逮捕は,これまでにも少なくない。2003年には聖書を所持していた信者8人が逮捕された。2000年10月には,ノルウェー人宣教師T.ベルクが,インド人信者1名,ネパール人信者3名とともに東ネパールで逮捕された。ベルクの教会が,改宗すれば1000ドルあげる,といってネパール人に改宗を勧めた容疑だ。

信教の自由は最も基本的な人権であり,国連人権委員会ジュネーブ総会でもネパールにおける宗教的自由の侵害が問題にされた。

たしかに,信教の自由の制限は明白な人権侵害だし,proselytize禁止条項は,改宗強要の禁止と説明されていても,実際には宣教・伝道活動との区別は難しく,それ自体人権侵害の疑いが強い。

しかし,だからといって,proselytize禁止条項を撤廃し,宣教・伝道を含む信教の自由を完全に認めよとネパールに対して要求できるかというと,これには議論の余地がある。

ネパールの人々と話していると,キリスト教会は金銭や便宜供与で改宗を勧誘しているという非難をしばしば聞かされる。どこまで事実か分からないが,こうした危機感の背後には,ネパールにおけるキリスト教の急拡大がある。2000年度において,ネパールはキリスト教会の拡大が世界で最も速い国であり,いまでは5000の教会が出来ているという。

キリスト教からすれば,真の教えであるキリスト教が広まるのは当然だということになるのであろうが,「真」が富者・強者の側にあるとき,問題はそう簡単ではない。強者による信教の自由の要求が,ネパールの人々の信教の自由を奪うことになる可能性もあるのだ。

これは信教の自由だけでなく,他の自由や権利についてもいえる。自由,人権,民主主義のイデオロギー性は,押しつける側は無自覚であっても,押しつけられる側は,敏感に感じ取るものだ。人権・民主主義回復運動は,そのことをよく自覚して進められるべきだろう。

(Nepal Detains Christian Couple for “Proselytising” Orphans in India, Cristian Today, May 4)


050505a 覇権争奪競争下のネパール

Ranjit Devraj, Analysts: India’s Resumption of Arms to Nepal Not Due to China (Inter Press Service, Apr27)は,いま一つ歯切れが悪い。こんなことを言わなければならないのは,not due to Chinaではないからではないか。

元駐中国大使(1987−91)C. V. Ranganathan氏によれば,「印中はもはやネパールでもどこでも対立していない」。インドと近隣争奪戦をしないというのが「この数年の中国の政策であり,しばらくはこれは変わらないであろう」。

アジア・アフリカ会議(ジャカルタ)でのマンモハン・シン首相の対ネ軍事援助再開発言(4/23)は,閣外協力の2共産党(CPI-M,CPI)の強い反発を招いた。「インドの圧力はすでに効果を見せ,これを継続すれば,ネパール民主主義の回復は可能だ」(CPI)。

一方,軍関係者は,軍事援助停止を継続すれば,マオイストの権力奪取や,パ中の武器供与の危険性が増すと警告する。「インドは,王国軍近代化に協力してきたのであり,いま手を引くわけにはいかない」(A.Metha元少将)。

しかしながら,4月には温家宝中国首相とムシャラフ・パキスタン大統領が相次いで訪印し,両国とインドとの関係は大きく改善した。中国首相の友好的訪印は,中国にネパール介入の意思がないことの示唆であり,したがってインドは自らの判断で国王との交渉を進めることが出来る立場にある。

アジア人権センター(ニューデリー)S. Chakma所長によれば,「インドが最も恐れているのは,ネパールが破綻国家になることであり,建設的な方法で介入するのがインドの国益である」。

また,南アジア人権資料センターのRavi Nair所長によれば,「民主的多党制がなければ,ネパール・マオイストの権力奪取の可能性が大きくなるが,それはインドを含む国際社会が容認できないことだ」。

いかにも歯切れが悪い。要するに,対ネ交渉は,軍事援助再開も含め,インド国益の観点からやっている,中国の圧力に屈したわけではない,ということだろう。

しかし,5月1日には,カトマンズ−ラサ直通定期バスが運行を開始し,中ネはさらに接近した。また,WTO加盟で,中国製品流入阻止も難しくなった。インドは対中友好促進の一方で,中国の圧力をひしひしと感じているはずだ。

いかにも民衆無視の非民主的な話しだが,この論説は結局は地域覇権防衛を目指すインド国益の弁護論ではないだろうか。


050430b 非常事態宣言,終了

国王は,2月1日発令の非常事態宣言の終了を,期間満了2日前の4月30日,発表した。

これはいうまでもなく,インドネシア,中国,シンガポール外遊の成果を受けたもの。印,米,英が軍事援助を再開するかどうか,注目される。


050430a 民主主義回復よりもインド国益

Dinesh C. Sharma, India blinks, but Gyanendora doesn’t ANALYSIS (Bangkok Post, Apr30, 2005)は,インド外交の勘所をよく押さえている。

シャルマによれば,ギャネンドラ国王のバンドン会議記念大会出席は「外交クーデター」のようなものだ。

国王は,2.1政変の正当性を国際社会に訴え,マンモハン・シン首相との会談を実現し,その後のインドTVインタビューでインド軍事援助再開をバラしてしまった。また,国王の依頼かどうか分からないが,事実上国王に手をさしのべることになる,SAARC会議出席もシン首相は表明した。

軍事援助再開は,インド共産党(M)の反対や,デウバ前首相,学生リーダー逮捕などで,いつ実行されるか分からなくなったが,インド外交も国益第一であり,ネパールについても「インドは民主主義回復よりも,戦略上の利益で動くだろう」。

インドは世界最大の多党制民主主義国であり,ネパールに多党制民主主義の回復を求めるのは,世界最強の民主主義国アメリカが銃剣で世界中を民主化しようとするのと同じく,国益にかなうことであり,ごく自然なことだ。 

もしインドが理念で動いているのであれば,国益に反してもネパールの民主主義回復を支援するだろうが,シャルマのいうとおり事実はそうではないのだから,国益次第で,いつでも国王支援に回る。インドに限らず,国家外交とは,所詮そんなものだろう。


050429 中国の裏庭となったネパール

T. Niaziの「中国の南アジア進出」(“China’s March on South Asia,” Asia Media, China Brief, No. 23468))が面白い。

中国は南アジア進出戦略を着々と進め,インド周辺地域をインド勢力圏から中国の裏庭にしようとしている。

中国の南アジア貿易は拡大し,ネパール,バングラディッシュ,パキスタン,スリランカとは黒字となっているが,中国はこの黒字分をこれらの国々への投資に振り向け,特に低金利融資はネパールなどへの大きな財政的支援になりつつある。

ネパールには,バングラディッシュの天然ガス,スリランカのインド洋港湾,パキスタンの戦略的価値のようなものはないが,地政学的な重要性は中国にとって極めて大きい。

中国は,ネパールをチベットの防波堤とし,さらにチベット経済圏に組み込もうとしている。また,マオイスト問題についてみると,ネパール・マオイストは,インド593郡の40%で活動しているナクサライト・マオイストと連携しており,これを理由に印米がネパールに介入してくることを中国は警戒し,国王政府支持の立場を取っている。

こうした中国の南アジア政策は大きな成果を上げ,ネパール・バングラディッシュ・パキスタン・スリランカへの影響力は着実に拡大している。これらの諸国はすべて,台湾・チベットを中国の一部とする「一つの中国」政策を認め,中国のSAARC加盟をも支持している。

しかし他方,あまりやりすぎると,インドは米に接近するので,中国は対印関係改善にも配慮し,「平和と繁栄のための印中戦略的友好協力条約」を提唱し,インド政府の同意を得ることに成功した。

この印中条約は,シッキムとチベットの帰属,印中国境問題をとりあえず現状追認とし,そして,国連については,中国はインドの安保理入りを支持した。(日本の安保理入りには,中国は強く反対している。)

Niaziの分析によれば,中国はネパール,バングラディッシュ,パキスタン,スリランカへの戦略的投資により,「この地域をインドの“近隣”から中国自身の裏庭に変え」,これにより,インドを西側から引き離し,中国へと引き寄せた。南アジアはいまや中国の側に立ち,中国は目障りなライバル日本を押さえつける外交的優位を確立した。

――以上の議論は,虚々実々の外交シュミレーションのようであり,出来すぎのように見えるが,大筋では間違いではないであろう。

日本の時代はすでに峠を越え,アジアは中印の時代に入った。中印がそれぞれの思惑で手を組めば,日本は常任理入りを拒否され,アジアから疎外され,極東の小国という,その本来の位置に戻されるだろう。

日本がそうなら,ましてやネパールは,このままでは中印両巨人の意向に翻弄され続けることになろう。日本,ネパールなどアジアの中小国は,両巨人の暴走を防止するためにも,アジア地域協力機構のようなものの構築を目指すべきだろう。


050427b タイムのタイクツ記事

Time(Apr25)の特集「ネパールを撃ち殺す(Gunning For Nepal)」を読んだ。

ネパール内戦の長文レポート,国王インタビュー,プラチャンダ議長メール・インタビューで構成されており,様にはなっているが,センセーショナルなだけで,事実への肉薄の気迫がなく,まるで穴埋め記事のようだ。

こんなものなら,検閲下のネパールの新聞の方が,はるかに緊張感があり,事実をよく伝えている。米軍介入の地ならし記事ではないか?


050427a デウバ前首相,逮捕

デウバ前首相が,4月27日午前2時,逮捕された。前日には,プラカシ・マン・シン前大臣も逮捕されている。

両氏の容疑は,メラムチ水道プロジェクトなどに絡む汚職。この件では,ほかに高級官僚たちも尋問されている。

強権をふるっているのは,汚職規制国王委員(Royal Commission for Corruption Control)。この委員会は,すでにデウバ内閣が4百万ルピーを支持者らにばらまいた容疑で,前閣僚6人も尋問している。

難しいのは,このような強権発動が,果敢な正義の行為と見えてしまうことだ。多くの人は,政党は腐敗の温床で自浄能力はない,と見ている。そこに,勇敢な国王が登場し,快刀乱麻,情け容赦なく腐敗・汚職を摘発し,一気呵成に政治を浄化する――このような一種の英雄待望論が庶民の側にあることは否定できず,国王も,それを見越して,汚職規制国王委員会による強権発動を強化しているのだろう。

しかし,これは危険な英雄待望論である。歴史を見ると,そうして登場した英雄が人民の真の救済者であったためしは,まずない。迂遠だが,政治家・政党の自浄能力の育成・強化を図る以外に道はないだろう。 (KOL, Apr27)


050426 はや自信過剰か

たしかに最近の国王政府は,やりたい放題,ちょっと自信過剰だ。コングレス系NSU前書記長ガンガ・タパ氏の逮捕(4月26日),UML本部の治安部隊による強制捜査(4月25日)など,本当にそこまでやる必要があるとは思えない。

UML本部は,豪華御殿風で,ブルジョアが入ってもそれほど違和感はないが,覆面武装治安部隊はいかにも無粋,まったく似合わない。

中国首脳は,反日デモ情報を当初は伝えられていなかったらしい。ネパール国王も,正確な(耳障りな)情報を得られなくなりつつあるのではないか。

専制は強力に見えても,実際には情報詰まりの持病があり,倒れるときは案外あっけないものだ。

(KOL, Apr26)


050425 印軍事援助,無条件再開

KOL(Apr25)によれば,インド外務省筋は軍事援助の無条件再開を確認した。

すでにマンモハン・シン首相が,4月23日,ジャカルタでギャネンドラ国王に軍事援助再開を約束したと報道されているので,これを外務大臣が確認したということであろう。

具体的には,5月1日の非常事態宣言期間満了と同時に,軍事援助再開ということか。

それにしても,「世界の平和と協力」を宣言したバンドン会議(1955)の50周年記念大会の場で,軍事援助再開が約束されるとは,皮肉なものだ。まさしく平和は戦争である。


050424 ネパールを優先した胡主席

胡錦濤(フーチンタオ)主席が,アジア・アフリカ(バンドン)会議で,23日の小泉首相より先の22日,ギャネンドラ国王と会談した。22日は靖国神社例大祭なので翌日に回したのかも知れないし,先後は関係ないという見方もあろう。

しかし,アジアの超大国中国と大国日本が,日本の常任理事国入りをにらみながらAA諸国の支持拡大を争っている状況の中で見ると,単なる先後問題とも思えない。支持拡大外交では,中国の方がうまく,優勢のようだ。

中国には中国の思惑があるにせよ,ともかくその中国の支持を得ているギャネンドラ国王は,今回の中国,インドネシア訪問で失地をかなり回復したようだ。

中国では,22日,ビスタ副首相が「中国は最も信頼できる友人の一人だ」と強調した。ダウジョーンズによれば,これは「伝統的なインド依存から離れ,ネパールと中国が接近に向けて動き始めた」ことを意味するという。

これを取引材料にしたかどうかは分からないが,国王は23日,マンモハン・シン印首相と会談することに成功した。しかも,NDTVによれば,シン首相は国王に軍事援助の再開を約束したという。

すでにジュネーブの国連人権委員会年次総会では,国連人権高等弁務官事務所の活動は認めさせられたものの,援助国がネパールに対して「最も決定的な手段」を取ることは回避することに成功した。実質的には,国王政府の勝利だ。

このような国王優勢の状況下で,5月1日に非常事態宣言は期間満了となる。ここで再宣言なしですますことが出来れば,国王の決定的な勝利だが,それは難しく,再宣言となる可能性が高い。そうなっても,よほど無茶をしなければ,中国の支持があるかぎり,この権威主義体制はしばらく続きそうだ。

この状況に対し,日本や先進諸国は,残念ながら,二枚舌だ。ネパールと中国を比較すると,少なくとも政治的,精神的自由は,ネパールの方がはるかに大きい。非常事態宣言下ですら,新聞はかなり自由に記事を書いているし,政治家たちも逮捕,自宅軟禁,移動制限などはされても,大ぴらに政府批判をし,それを新聞,雑誌が書き立てている。こんなことは,中国では出来ないだろう。ネパール程度の圧政に対して外国介入が出来るのなら,いずれ中国にもその矛先が向けられる――この危惧もあって,中国はネパール権威主義体制の支持に回っているのではないか。

そして,わが日本。中国人民が反日デモに立ち上がったとたん,高級紙も含め声高にデモ規制を要求する。反日デモ,日本製品不買・打ち壊し運動,日系企業賃上げストなどは,中国人民の当然の権利だ。人身攻撃は許せないが,窓ガラスを割ることくらい,先進国のデモやストでもよくあることだ。アメリカ人民だって,もっと大規模な日本製品打ち壊し・不買運動をやったではないか。

中国政府非難は大国だし商売にも響くので控え,しかも中国人民が自由や権利を行使し始めたら中国政府に弾圧をお願いする。中国政府に反日デモ規制をお願いしつつ,ネパール政府のデモ禁止を居丈高に非難する。そんな二枚舌では,ネパールに対し,民主主義回復要求など,出来る道理がない。

(Dow Jones Newswires, Apr23; KOL, Apr23; Decca Herald, Apr23)


050419 ニューヨークタイムズ社説の危うさ

ニューヨークタイムズ(NYT)の社説「破綻瀬戸際の国家」(Apr15)は,良識的にみえるが,よく読むとかなりの危うさも感じられる。

社説は,国王の「穏健な政治的中道勢力(the moderate political center)」攻撃が和平を遠のけたと非難する。しかし,これは錯誤だ。いったいどこに,政治的中道=中央=中心(the political center)があるのか? 近代化は合理的中央集権化だが,前近代的政治社会のネパールには,そんな “the center” が存在しないことは,常識だ。”The political center” のようなものがあれば,こんな内戦にはなっていない。

さらにNYTは,軍によるデモ鎮圧やメディア検閲を止め,「選挙された正統政府」がマオイストと和平交渉すべきだと主張するが,現状では,アフガン,イラクの場合と同様,マオイスト支配地域の絨毯爆撃でもしなければ,選挙など実施できそうにない。

そして致命的なのは,「王国の民主主義回復まで軍事援助継続を停止する」と宣言した英印を称え,いまだそれを決断できない米政府を非難していることだ。いかにも良識的に見えるが,ここはよく読む必要がある。

NYTは,軍事援助そのものの停止は要求していない。つまり,民主化すれば,あるいは民主主義の旗を掲げさえすれば,英印も米も晴れて堂々と軍事援助を再開できるという論理が隠されている

周知のように,残虐非道な大量虐殺は君主制よりもむしろ共和制がやってきた。君主は,無差別都市爆撃や原爆投下のような,まさに神か悪魔にしかできないようなことは,躊躇する。そのような責任の重さに,とても一人の人間は耐えきれない。ところが,民主的共和制は,人民主権で皆の責任だから,誰の責任でもなく,非人間的大量虐殺の誘惑にむしろ陥りやすい。

国軍への軍事援助→国王・国軍の独裁化→反国王「民主勢力」への軍事援助

あちこちで繰り返されてきたパターンであり,そのつど犠牲になるのは庶民,儲かるのは先進国企業(NYT広告主)だ。

良識的社説を批判せず,主敵を攻撃せよと言われるかもしれないが,良識的であればあるほど,厳しさが要請されるともいえるであろう。


050416 衝撃の古畑報告(会報)

古畑庸博氏の「ネパール国軍によるマオイストの捜索に遭遇」(会報189)は,短文だが,衝撃的な報告だ。「行って見てきました」といった安直本や,微に入り細にわたるが本質を見ない凡百の現地レポートなど,足下にも及ばなぬ観察力,表現力だ。

内容は,ホテルでの国軍の捜索体験だが,これを読めば,小学生程度の想像力があれば,もし自分が同じような捜索を受けたらどうなるか,と恐怖に駆られるはずだ。

私なら,まず助からない。「カーマスートラ」は卒業したが,そのかわり,法政関係やマオイスト関係資料を収集しているので,面倒なことになる。当分ネパールには行けない。

古畑報告は,警察国家,非常時国家が何たるかを如実に教えてくれている。この国はいま法治国家ではない。法治とは予見可能性である。禁止事項や容疑を受けた場合の手続きがあらかじめ明示され,厳格に守られ,したがって予見できる。ところが,いまのネパールでは,それが不明確で,最も基本的な人権ですら保障されていない。当局がダメと思うものがダメなのだ。外国人も例外ではないことは,古畑報告が実証している。

このような本物のレポートがたまに掲載されるだけでも,会報は購読に価する。


050415 不安な年末年始

情報統制下で正確には分からないが,ネパールでは年末年始だというのに,依然として激しい内乱が続いている。

マオイストの道路封鎖は,予定通り4月2〜12日の11日間実施され,軍がバスやトラックを護衛したが,カトマンズ出入の交通量は半分くらいになったようだ。

この間,ルクム郡カーラ村では,4月7日,大規模な戦闘があり,マオイストの死者148名,負傷者300名,軍の死者3名,負傷者9名の惨事となった。いつもの軍発表だが,今回は,先述(No.3898)の国連人権監視団がこの地域に調査にはいるはずなので,戦闘の実態がある程度分かるかもしれない。

また,同じくルクム郡のダーンフィルでも60名のマオイストが死亡したという(日時不明)。

一方,マオイストは,私学に対し特権教育をやめなければ,閉鎖させるとの要求を出した。
 (1)入学金,授業料を引き下げよ
 (2)政府高官の子供たちの私学入学を禁止し,公立校に強制入学させよ
 (3)国歌斉唱をやめ,国王の写真を撤去せよ
 (4)サンスクリット教育をやめよ

 ●私学   8500校  生徒 150万人
  公立校 25000校  生徒 490万人

(3)(4)はともかく,(1)(2)は,まったくその通り。特権階級の子供たちを強制的に公立校に入学させれば,公立校もよくなるだろう。もちろん,これはマオイスト好みの「人民教育」に近い乱暴な議論だが,そうでもしないと,残念ながら,ネパールの基礎教育の改善は見込めそうもない。

(kathmanndu Post, Apr8-14; AFP, Apr13; Daily Times, Apr11)


050413 国連人権監視活動に国王,マオイスト同意

人権監視(ヒューマンライツウォッチ)によれば,ネ政府と国連人権高等弁務官とが国際的人権監視に合意,カトマンズに常設事務局を設置し,政府とマオイストによる人権侵害の監視と防止を図ることになった。この合意調印に対し,アムネスティ,人権監視,国際法曹協会(ICJ)は4月12日,歓迎を表明した。

今回の国際的人権監視団の設置には,国王政府とマオイストの双方が少なくとも表面的には同意しているようだ。国王政府は,文書に調印したのだから,当然,同意したわけだし,マオイストも4月5日,公式に国際的な人権監視を求め,監視活動への協力を約束した。

このような合意が出来たことは,大いに評価できるが,問題はそれが実行できるかどうかということである。

国の最高法規である憲法ですら守られない状況の下で,合意がどこまで実効性をもつか? 単なる時間稼ぎの空手形に終わらせないよう,国際社会は合意実行への協力を国王政府,マオイスト双方に対して今後も継続的に強く働きかけ続ける必要があろう。

(Human Rights Watch, Nepal: U.N. Human Rights Field Operation a Step Forward, April 12, 2005)


050407 もう一つの「外国介入」

サン・ヘピン中国大使:

国王と主要諸政党が協力さえすれば,「マオイスト問題は内政問題であり,外国介入なしにネパールは自力でそれを解決できる。」(KOL, Apr6)

――外国介入は許さないという中国の強烈なメッセージ。

現在,「国王と主要諸政党の協力」が「外国介入」のため困難になっている。介入している「外国」は手を引くべきだ,というこれも一種の「外国介入」であろう。


050404 国王と中国外交

中国外相の訪ネ(3/31−4/1)は国王と中国にとって大成功であった。

李肇星外相は国王、両副首相と会談し、国王政府の正統性を再確認した。記者会見では、内政不干渉を明言し、武器援助は議題にはなかったと語った。後者は否定的に聞こえるが、国王とすれば、「武器援助」に言及してもらえれば、それで十分のはずだ。

その見返りに、国王は「一つの中国」政策支持を改めて宣言し、外務省は中国のための「特別経済区」設置を表明した。また、国連改革についても、ネパール側は李外相と協議した。

周知のように、日本は常任理入りに躍起になっており、ネパールにも支持を働きかけてきた。その涙ぐましい外交努力は、森首相訪ネの時、現地でさんざん笑いものにされたものだ。これに対し、中国外交は老練、こわもて。ここぞという時の国王支持と引き替えに、日印の常任理入り阻止を働きかけたのではないか?

こうした「成果」を背景に、国王は今月末、中国、インドネシア訪問を決定した。

また、老獪フランスは4月1日、2700万ルピーの供与を決め、中国の天敵インドも3月31日カトマンズ大学への2898万ルピーの援助を発表した。

そして、4月1日、国王政府は、切り札として残しておいたコイララNC党首の自宅軟禁を解除し、拘禁中の257人を釈放した。

事態の展開は、少なくとも今までのところ、大筋では国王政府の目論見通り推移している。やはり、国家主権の壁は高く、またアジア超大国・中国の外交力は強大ということではないだろうか。

(Kathmandu Post, Apr1; RSS Apr1; KOL, Apr1)


050324b 抵抗する知識人,メディア,そしてUN

3月25日,ロックラジ・バラール教授ら3人が,TIAでインドへの出国を拒否され,ゴア開催の会議に出席できなくなった。「もしわれらが国家の敵なら,投獄すべきだ。もしそうでないなら,なぜ拒否するのか?」(バラール教授)。

一方,国連は,いよいよ王国軍(RNA)のPKO雇用を見直すらしい。理由はRNAの人権侵害。現在,国軍兵3000人がPKOに雇用されており,その給与の半分は国軍に召し上げられている。この軍資金が入らないと,RNAにとっては大きな痛手となる。

そして,このような「反国家的」ニュースを伝えているのは,カンチプール。勇気ある抵抗といえよう。

(KOL, Mar26,26)


050324a バッタライ博士の大論文

バブラム・バッタライ博士の「ネパール:国王反動と民主共和制問題」がKrishna Sen News Agency (Mar23, 2005)に掲載された。内容から見て,ごく最近書かれたものだ。博士はこう主張している――

マルクスは「一度は悲劇として,二度目は茶番として」(ルイ・ボナパルトのブリュメール18日)と皮肉ったが,ギャネンドラの場合,2月1日が「悲劇」となるか「茶番」となるかはまだわからない。

プラチャンダ同志は,開戦記念日声明で,「結局,2月1日国王宣言はネパール政治における修正主義の無用性を白日の下にさらし,議会諸勢力の惰眠を粉砕した」と述べた。

国王は,「反テロカード」と「地政学カード」を使うつもりだが,「反テロカード」は効力が薄れてきたし,「地政学カード」としてのパキスタンと中国も口先外交にすぎない。

また国王一派は「3極理論」を使い,2極(国王と議会勢力)が手を結べば勝てるといっているが,これはいまや「新しい2極としての議会勢力と革命的民主主義勢力が協力して時代遅れの腐った第3極である王制の根を断ち切る」という方向に向かっている。このことも,プラチャンダ同志が開戦日記念声明で述べたとおりだ。

「それ故,反国王共同基本綱領に従い,すべての民主的諸勢力――議会勢力・革命的民主主義勢力・国際社会――が受け入れられるスローガンを掲げて闘うことが,いま大切なのだ。CPNマオイストは,選挙による憲法制定会議の開催と民主的共和制の樹立を訴えているが,まさにこれこそが,この目的にとって最善の方法なのである」。

――以上が,バッタライ博士の大論文の要約だが,もしこれが本物なら,プラチャンダ=バッタライ体制は健在であり,マオイスト分裂報道は国軍の謀略宣伝ということになる。

しかし,この論文では,最近の分裂報道については一言も触れられていない。文章も,どことなく不自然な感じがする。本物かどうか,もう少し様子を見る必要がありそうだ。


050318 世銀の「人間の不安全保障」

世界銀行の冷血についてはすでに指摘(No.3864)したが,この傾向はさらに強化され,「人間の不安全保障」となりそうだ。

ブッシュ大統領は,世銀次期総裁にウォルフォウィッツ氏を指名した。最大出資国だから,世銀は米国のものなのだ。

朝日の天声人語(3/18)がいうように,ウ氏はタカ派ネオコンで,アナン事務総長特別顧問サックス教授も「不適切な指名」と非難したが,わが小泉首相はいち早く指名支持を表明した。途上国を敵に回し,冷血政策を米国とともに推進していくつもりだろう。

「人間の安全保障」はもともと要注意の,怪しい政策だったが,世銀のネオコン化で,冷血新自由主義化にますます拍車がかかるだろう。グローバル企業のための経済・労働の規制緩和,民営化(国民財産のたたき売り),庶民増税等々で,途上国の「人間の不安全」が拡大し,ネパールでもマオイストら反体制派勢力が支持を拡大するだろう。

そして,その後始末に,ネオコンの別働隊たる米軍が出動し,お得意の無差別爆撃で一国丸ごと更地にし,ネオコン好みの親米国家を建設することになる。

「人間の安全保障」バンザイ,などといっている場合ではない。ネパールは,ネオコン版「人間の不安全保障」の実験場にされかねない。


050317. 中国カードで綱渡り外交

国王がますます危ない綱渡り外交を始めた。

訪印したライス長官が,軍事援助中止をちらつかせ(まだ停止していない),直ちに民主主義に復帰せよ (it needs to happen very,very soon)と圧力をかけたのに対し,国王は中国カードを切った。

ネパール外務省声明(3/16)によれば,「ネパールは台湾を中国の不可分の一部と考える」。「中国全人代が制定した反国家分裂法は台湾と中国の再統一に貢献するものであり,ネパールは中国のこの立法を断固支持する」。

ネパールの要人たちが,競って子供たちを中国留学に出していることは周知の事実。ネパール国内における中国の存在感も急速に高まってきている。米国が台湾なら中国はネパール,といった新冷戦構造にならなければよいのだが。

(Statesman, Mar16; The Telegraph, Mar16; Daily Times, Mar17; News.com.au, Mar16)


050321 マオイスト分裂と非常事態宣言終結の可能性

ゴルカパトラ(3/20)によれば、ピュタン郡のマオイストFM局が19日午後7時30分、バタライ夫妻が全役職から解任された、とのビプラブ幹部の声明を放送した。

ピュタン郡各地では、プラチャンダ議長を非難し、停戦・和平交渉を要求する動きが広がっているという。

一方、AP(3/21)によれば、ビスタ副首相は、非常事態宣言がまもなく停止されると語った。

これらはいずれも政府側情報であり、要注意だが、マオイスト分裂が事実だとすると、非常事態宣言停止の可能性は十分に考えられる。


050320 やはり内紛は事実か?

ライジングネパール(3/19)が再びマオイスト内紛の拡大を伝えた。イラムやタプルジュングでは「プラチャンダの道」反対、停戦・和平開始要求を訴える幕が張られ、バブラム・バッタライ夫妻は人民軍に拘束されているという。

国軍情報だから要注意だが、最初に述べたように、たしかにこのところバッタライ氏は表にでていない。それ以前はプラチャンダ氏よりもむしろバブラム氏の方が目立っていたから、何かあったのではという疑念は拭えない。

もしマオイスト内紛が事実なら、人民軍の統制が乱れ、当面はむしろ危険性が増すおそれがある。

謀略合戦で、事実の確認は難しい。事態の推移を注視していたい。


050316 軍虚報,マオイストは4月ゼネスト突入へ

■軍の謀略デマか?
BBC(Mar15)によれば,マオイストは公式声明でバッタライ夫妻追放報道を否定した。軍の発表は「真っ赤なウソ」であり,バッタライ氏は「プラチャンダ議長と協力し変わりなく職責を遂行している」。「これは軍のプロパガンダであり,分割支配を狙う反動の策略だ」。

たしかに続報はなく,軍の謀略デマの可能性大だ。マオイスト分裂の報道は以前からあったし,このところバッタライ氏の名は報道にほとんど出なかった。私自身,前述のように,プラチャンダ=バッタライ体制がいつまでもつか,常に疑わしく思っていた。しかし,それにもかかわらず,両派統一以来,10年間も両頭統治が維持されてきたことは,ネパール政治の革命であり,マオイストは既成政党よりもはるかに近代的だ。分裂しなければ,勝利の目は大いにある。

■四月ゼネスト
New Kerala(Mar13), Yahoo(Mar15)によれば,プラチャンダ議長は声明を出し,闘争拡大を宣言した。
  *3月14日−4月1日 地域レベルの交通スト
  *4月2−4日     全国ゼネスト

すでに14日から地域レベルでは予告通り交通ストが行われ,衝突もあるようだ。これを徐々に盛り上げ,4月のゼネストに持ち込む予定であろう。

計画,予告,実行。近代的支配の見本のようだ。


050315 マオイスト分裂,バッタライ夫妻追放か?

軍報道官によれば,マオイストはバブラム・バッタライ氏とその妻ヒシラ・ヤミ氏を中央委員会から追放した。軍情報で,まだ確認はされていないが,可能性は大だ。

もともとバッタライ氏は,プラチャンダ議長とは,別の系統であり,打算でマオイストを形成したにすぎない。両雄並び立たずというのに,これまで9年間も一緒にいたことがむしろ不思議なくらいだ。

もし分裂が事実とすれば,どの程度の勢力がバッタライ氏に同調するかによって,今後の展開が変わってくる。相当数が同調すれば,人民戦争は挫折し,とりあえずは収束に向かう。

もしバッタライ氏ら少数エリートだけであれば,当面は内ゲバ等で混乱しても人民戦争にそう大きな影響はなく,2,3日前プラチャンダ議長が宣言したように,4月のゼネスト大攻勢突入という事になりそうだ。

いずれにせよ,事実の確認が先。今後の報道に注意していたい。

(KOL, Mar15)


050314 冷血「世界銀行」の大罪

■世銀援助停止の理由
世界銀行(WB)が今年度(7月15日まで)の財政援助7千万ドルの実行を見合わせると発表した。これは,国王親政への抗議のためでもなければ民主主義回復要求のためでもない。無関係とはいわないが,そんな高尚な理念など,世銀にとってはどうでもよいことだ。

中止したのは,ネパール政府が4つの約束を守らなかったから。(1)悪質な債務不履行(willful defaulter)の厳重取り締まり,(2)ガバナンス改革,(3)労働法の自由化,(4)石油値上げ。なんたる冷血! (1)(2)はまだしも,こんな時に(3)(4)の要求をするとは!

世銀のラジブ・ウパダヤ氏によれば,これは以前から繰り返し警告してきたことであって,その期限は2月中旬だった。もっと労働者を自由にこき使い(3),石油値上げで庶民から搾り取る(4),という新自由主義体制への前進が見られなかったので,援助停止ということ。

■3悪人WB・IMF・WTO
この世銀とグルになっているのがIMF。IMFも世銀のこの決定を受け,高官派遣を延期した。金融支援停止で脅すつもりだろう。そして,WTOはいわずとしれた経済自由化の総本山であり,不幸なことにネパールは他の途上国に先駆け加入してしまった。いまやネパールは,3悪人の思うがままだ。

■内戦の真の原因
3悪人の経済自由化,構造調整が90年革命以後のネパールに何をもたらしたか? 従来の「社会主義」的国家規制,社会規制が次々と撤廃させられ,国営(公営)事業は払い下げられるか自由競争にさらされ,労働保護は削減され,ほんの一握りの「勝ち組」とその他大勢の「負け組」をつくりだしてしまった。

人民戦争は,この矛盾の当然の結果にすぎない。直接的にはマオイスト,UML, NC,国王らの責任だろうが,根源的にはこれら3悪人の責任だ。

たとえば,この危機状況の下でも,世銀は石油値上げをせよという。ネパール庶民生活を石油依存にしておいて,値上げしなければ援助停止だと脅す。援助金が庶民のための石油代補填に回されると,援助国が儲からないので,庶民からは金を搾り取り,儲かりそうな部分に金を回させようという魂胆だ(ネパール石油会社NOCの腐敗は別の問題)。労働の規制緩和といい,この庶民搾取といい,まるで人民戦争をせっせと煽り立てているようなものだ。

■日本の戦争責任
WB・IMF・WTOは,ネパール内戦への責任を免れない。そして,その有力メンバーとしての日本も,同罪だ。

世銀の議決権は米16.4%,日7.9%,IMFの出資比率は米17.5%,日6.3%であり,米主導,日追従の関係にある。したがって,ネパール内戦に対する戦争責任も,日本は米の次に大きい。

世銀のネパール担当役員は,日本が派遣していることを忘れてはならない。

(KOL, Mar10; Kathmandu Post, Feb25)


050312 パキスタン軍事援助と中国外相訪ネ

英印の軍事援助停止をついて,パキスタンが武器とハイテク軍事技術の供与を申し出た。「イスラマバードは,8万の国軍兵の軍靴から兵員輸送用ヘリまで,何でもネパールに喜んで供与する」(パキスタン大使)。

一方,中国外相は,パンデ外相の招待を受け入れ,来月訪ネし,2国間関係について協議する。招かれてくるのだから,当然,手みやげ(経済援助)はあるはずだ。道路,ダム,あるいは催事場の建設か? 

このように,ネパール政治はややこしい。いま議論されているODA停止(=経済制裁)にしても,どのような結果を招くか,予測は容易ではない。

北朝鮮経済制裁については,中国・ロシアを含む国際合意がないと難しいことがほぼ明らかとなった。対ネODA停止の場合も,パ中を含む国際合意がないと,むしろ状況を悪化させる危険性さえ考えられる。

日本は,3月7日のODA供与調印に続き,12日には平岡大使が人道援助継続を表明した。インドも12日,ムカルジー大使が教育,保健,インフラ開発援助の継続を表明した。政府レベルでは,国際情勢,国内情勢を見ながら,国王政府と政治取引をしているのであろう。

そこに,NGOや人権・平和団体がどう関与するか? ODA停止という強制力の行使を要請するだけに,それなりの準備と覚悟がいる。

(PTI, Mar11; Nepalnews.com, Mar12; KOL, Mar12)


050311 猥雑な文化のかおり

猥雑な,あまりにも猥雑な文化のかおりがする。いいなぁ。

日本も,つい数十年前までは,同じような風景があちこちで見られた。昔々,奈良のとある村に行ったら,鎮守の森で露骨な生殖儀式が演じられ,大人も子供も皆大喜びしていた。日本版リンガもあちこちにあった。

わが村でも,その頃の村祭りは無礼講。何でも有りの猥雑なロマンチックな時代だった。

でも,そんなロマンは,近代化とともに抑圧され,ほぼ抹殺された。

そして,その結果,合理的計算により結婚をやめ子供を産まなくなったので,いまやお役所が税金でお見合いパーティーを開き,デートさせ,子づくりを指南している。全くの倒錯。自分の根っこを切った理性の悪あがきだ。

性,生,死のコントロールは,前近代社会の方がはるかにうまかった。文化的豊かさといってよいだろう。


050309 「命がけ」のビンティ

この社説を書く前に,朝日はビンティ「命がけ,というと大げさですが」(binti2005-3-7)を読むべきだった。著者のことは全く存じ上げないし,ブロッブも不慣れでどのような文脈での発言かも分からないが,それでも「命がけ」でなにがいいたいのかはよくわかる。

人権・民主主義(回復)要求は正しいことだが,「でも引っかかりを感じる」と著者はいう。これはきわめて健全な感覚だ。朝日社説は,そんな「引っかかり」を少しも感じていない。これはダメだ。

私はネパール語も分からないし,ビンティ氏のようにネパール事情にも詳しくなく,単なる外部からの観察者にすぎないが,それでもやはり「引っかかり」は感じる。その理由は,ビンティ氏とは少し違うかも知れない(同じかも知れないが)。

私の「引っかかり」は,人権・民主主義要求をする場合,自分も多かれ少なかれ暴力を行使せざるをえないという罪意識があるからだ。暴力を止めさせるために暴力を行使するという罪悪感。

ODA停止の場合,甚大な影響を与える。しわ寄せはまず弱者にくるだろうから,そうでなくても苦しい彼らの生活は悲惨なことになる。これは暴力,いわゆる構造的暴力に他ならない。

あるいは,それほど直接的でなくても,国際世論を喚起し,現体制を倒したとして,そのあとがもしアナーキーになれば(その可能性大),ネパールの人々の悲惨はいうまでもない。国際世論という強制力=暴力を行使した結果への怖れ,それもまた「引っかかり」を感じさせる原因だ。

しかし,たとえそうであっても,そうした暴力を行使してでも守らなければない自由や権利,つまり人間の尊厳はある。暴力行使の結果を完全に予測することは出来ない。が,人間の尊厳を守るには,いま暴力行使を決断しなければならない。そういった時が,私たちには必ずある。

私自身は,軍事援助停止だけでなく,状況によってはODA停止という暴力行使にも訴えざるを得ない場合があると考えている。自分の手を汚さず他人を救うことなど,人間には出来るはずがない。

「引っかかる」のは,どんな小さなことであれ,罪を犯すこと,手を汚すことへの恐れがあるからであり,だからこそ「命がけ」で決断し,その結果には当然「責任」を引き受けることになる。

そして,忘れてはならないのは,「なにもしない」のも(消極的)決断であり,責任は免れないということである。目の前で友人が殴られているのに,助けようとしない。この場合,たとえ刑事罰は免れても,道徳法廷か,あるいは最後の審判で裁かれ,厳しく責任を追求され処罰されることは間違いない。


050308c ODA調印で国王支援?

2月政変後,初の本格的ODA(grant)供与は,やはり日本であった。他の先進諸国が躊躇しているのを後目に,最大の援助国日本が,援助とはかくあるべし,との見本を示した。

3月7日,平岡大使とアチャルヤ財務大臣の間で調印されたODA供与の内容は――
Rising Nepal (Mar7)によると
  Non-Project Grant Aid (NPGA)= Rp 1.05b.
  Increase of Food Production (2KR)= Rp 201.67m.
Statesman (Mar7)によると
  経済調整=1400万ドル
  社会経済開発=1700万ドル

この内容(数字はRising Nepalが正しい)がどのようなものか,この方面にうとい私には分からないが,2004年度分ということなので,国王政府はホッと一安心というところだろう。Rising Nepalは,日本側が述べたという民主主義回復要請など素知らぬ顔で,日本の援助決定を称賛している。

援助するのだから,もちろん政治的取引があったのだろう。日本が独自の判断で援助決定をしたとは,到底思えない。時期が時期だ。

来週,ライス長官が乗り込んでくる。やはり,日米協力して,当面は国王を支えよう,という意思表示ではなかろうか?

(Rising Nepal, Mar7; Kathmandu Post, Mar7; Statesman, Mar7)

050308b 日本政府,援助継続発表

3月7日,日本政府は,国王に民主主義回復を求める一方,1710万ドルの援助継続を約束した。

微妙なタイミングだ。どのような政治的取引があったのだろうか?

(AFP,Mar7)


050308a 平和アピールと朝日社説の無責任

朝日新聞(3/8)が,社説「ネパール:ヒマラヤに広がる暗雲」でネパール情勢への懸念と日本政府への要望を表明した。影響力の大きな新聞だけに,社説でネパール問題を取り上げたことは評価できるが,あいかわらずの「逃げ」にはがっかりした。結びは――

「日本政府も立憲君主制への復帰を求める談話を出した。最大の援助国だ。もっと明確な意思を示してほしい。」

「もっと明確な意思」とは何か? 何をせよというのか? 具体案を何も示さず,通俗版カントのように「汝,善をなせ」では,あまりにも無責任だ。

具体案を示せば,リスクを負う。たとえば,対ネODAを停止せよ,軍事援助停止を米国に要求せよ,国連人権報告者を任命せよ,国軍のPKO雇用を中止せよ,等々。どれ一つとっても,社説でアピールすれば,たちまち反撃を受ける。良識派,朝日は,それが怖いのだ。

何の危険も自らに引き受けることなく,「皆さん仲良くしましょう」と言っても,血相を変えて殺し合っている人々が「はい,わかりました」と言うはずがない。

ネパール関係者の間では,平和アピールの内容をめぐって,大変な議論があるそうだ。たとえば,ODA停止を要求するか否か。ODA停止は,PKO雇用中止と並んで,国際社会が行使しうる最強の制裁手段だ。強力なだけに,反発や犠牲も大きい。それだけの危険を覚悟で,民主主義復活のためにそれを要求すべきか否か。判断は分かれるだろう。苦慮の末,ODA停止を要求するとすれば,それはその結果生じるかも知れない危険を自らに引き受けた上での決断であり,立派な行為だ。

これは,他の具体的な内容を含むアピールの場合も,みな同じことだ。結果として生じるかも知れない危険を,引き受けることが出来るか否か,この難問に悩んだ末,引き受ける覚悟をして,アピールを出したり,出そうとしたりしているのだ。

アピールの内容について激しい議論があるのは,皆が真剣な証拠だ。皆,ネパールの平和を願っているのだから,大いに議論して合意できた部分から,それぞれが平和アピールを出せばよい。無理して統一する必要はない。

こうしたネパール関係者の議論に比べ,朝日社説はレベルが低い。何の危険も引き受けず,何の責任も取る覚悟がなく,社説を書けば,カントもどきのお説教になってしまう。


050306 ライス長官,南ア訪問

ライス長官が来週,インド(16−17日),パキスタン,アフガニスタン歴訪の予定。主目的は,対テロ戦線引き締めと,武器輸出。

インドでは,ミサイル防衛共同研究,F16,パトリオット売却の交渉をするらしい。パキスタンは猛反対だが,巨大武器市場インドを見逃すはずがない。対抗上,パキスタンが買ってくれたら,2倍儲かる。どちらも友好国だから,まさかフランスから買ったりしないだろう。

対テロ戦争では,当然,ネパールも検討されるだろう。いまの王制も,インド(ネルー)の意向で残されたにすぎないから,存廃は結局,これらビッグ・ブラザーズか決めるだろう。

しかし,これはアジアの盟主,中国にとっては許し難いこと。対抗上,武器はフランスから買うだろうし,ネパールへも介入してくるかも知れない。

これは,偶然の一致かも知れないが,チャイナ・ポスト(台湾)が,仏教僧の国王支持行進を伝えた(情報源は AP).

仏教僧2000人が,3月5日,国王支持行進を行い,国務院の高官も参加し,警官が護衛したという。これは,官製デモと言い切れないところが,難しい。マイノリティは,多数派に対抗するため,国王を支持することが少なくなかった。そして,中国も対印米のため,国王を応援する。そんな構図になると,国際政治の荒波が,もろに庶民に襲いかかる。喜ぶのは,マオイストのみ。

米は,軍事援助停止どころか,この不安定な南アジアに武器を大量輸出し,ここを次の巨大火薬庫にしようとしているのではないだろうか。

(UPI, Mar4; China Post, Mar5)


050305 それでも国王支持か?

全体としてみると,もうダメという感じ。裸の王様になっているのか?

しかし,どうも解せない。国軍には米印軍事顧問がついてちゃんと指導しているはずだし,英国もグルカ兵のよしみで善導しているはずだ。国庫も外国援助で何とか破綻を免れている。

圧倒的に外国に依存している王国政府が,どうしてこれほど強気でいられるのか? 本当に根拠はないのか? 強力助っ人がいるのでは?

ロイター(3月2日)によれば,ドナルド・キャンプ国務副長官補(南アジア担当)は,いま米国は軍事援助継続か否かでジレンマにある,と語った。

「軍事援助停止は決めていない。状況を見ながら検討しているが,停止はしたくない(ここのニュアンス微妙)。」

国連人権委員会の介入にも消極的だ。

「(政府とマオイストの)双方を対等視するような決議には,絶対に加わりたくなかった。それはいまも同じだ。」

対テロ戦争の構図に固執する限り,アメリカは国王政府支援を止められない。国王は,それを見て,ギリギリのカケをしているのではないか? キャンプ氏とのギャンブル?


050303 カトマンズポストの抵抗

旭日のRising Nepalに対抗して,カトマンズポストが見事な抵抗を続けている。

誤解している人も少なくないが,非常事態宣言下でも最も基本的な人権は停止されない。非常事態宣言の是非については議論の余地はありうるが,それらの人権は憲法上も国際法上も議論の余地のない万人の権利だ。

ウパダヤ元最高裁長官「非常事態宣言下でも停止されない権利を完全に行使する権利を人民は持つ。」
DN・ドゥンガーナ弁護士「非常事態宣言は合憲的であるべきだ。」(Kathmandu Post, Mar2)

圧政には,このような明確な憲法と国際法の根拠によって,まず抵抗するのが,賢明だ。2人の長老弁護士も,それを伝えるカトマンズポストも,そして,ささやかながら,わが「ネパール平和構築支援ネットワーク」の声明も,この立場に立っている。

これは法的根拠がある非政治的な人道的要求である。広く訴え,人道的権利の保障を求めるネパールの人々への支持の輪を拡げていきたいと願っている。


050302 情報統制強化と平和運動

3月1日,情報省は布告を出し,事前許可なしの一切の治安関係情報の報道を禁止した。

*禁止されたこと
  直接的,間接的にテロや破壊活動を助長するすべての報道

*取り締まり
 「出版法2048」「放送法2049」により処罰

これは恐ろしい布告だ。たとえば,先日の「ネパール平和構築支援ネットワーク・声明」を報道すれば,逮捕・拘束される可能性がある。あの声明をネパールの報道機関や様々な関係団体に送ろうと思っていたが,この布告で,配布宣伝方法の再検討が必要になった。

布告の直接の対象は,出版・報道機関だが,広い意味ではインターネットも入るだろう。この種の治安維持法は,どのようにでも拡大解釈できる。

むろん,危険だから人権・平和運動をするな,ということではない。危険を見極めた上で,本物の勇気を持って,行動する。この心構えがますます必要になってきたようだ。

(Rising Nepal, Mar1; KOL, Mar2)


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