時 評
谷川昌幸
ネパール協会HP同時掲載

  2005年d (→Index       Top  

050831 晩夏の妖怪――議会復活
050826 ガイジャトラ対談「M大使vsM教授」
050822 石油値上げ反対デモ,警官隊と衝突
050821 元の木阿弥
050813 軍民融合の危険性
050811 おぞましい捕虜虐殺
050810 40人以上戦死,地雷も敷設
050809 カリコットで大規模交戦,死傷者多数か
050808b ミス十代ネパール・コンクール
050808a マオイストに学ぶ自警団
050804 自警団におびえる村人たち
050801 バブラム氏復権とスターリン批判


050831 晩夏の妖怪――議会復活

出そびれたお化けでもあるまいに,いまになってまたぞろ議会復活が蒸し返されている。

お化け呼び出しの呪文を唱えているのは7政党。そして,これに応える素振りを見せているのが,最高裁。新任のディリップ・クマール・ポウデル長官の指揮の下,最高裁が議会再開申し立ての審理を始めた。

議会は2002年5月に解散され,議員任期はとうの昔に満了している。議員はすでに死んであの世に行き,この世でいま騒いでいるのは只の人にすぎない。どうして死んだ議員があの世から復活できるのか?

7政党の大義名分は,マオイストとの和平交渉,選挙実施だそうだが,それだったら1991年選挙後の議会を復活させたらよい。死者には時間はないはずなので,3年前も13年前も同じことだ。面倒な交渉や選挙をやらなくても,マオイストもちゃんと憲法体制に復活できる。

7政党がもう少しましなら,ネパール版名誉革命も可能だろうが,現状ではどうしようもない。復活お化け議会を見るくらいなら,国王専制の方がまだましかもしれない。国王には,権威の威光がかすかに残っているからだ。

(BBC News Nepal, Aug. 25)


050826 ガイジャトラ対談「M大使vsM教授」

M大使――8月9日,シャングリラ国の首都で開催された世界問題研究会に招かれ,民主主義回復を訴え,列席の名士諸賢の大いなる賛同を得た。

M教授――また何か悪事をたくらんでいるな,民主化クーデタの地ならしか?

大使――滅相もない。わが大統領も「絶対悪たる抑圧をとるか,永遠の正義たる自由をとるか,この道徳的選択を,あらゆる統治者,国民は迫られている」と宣言された。そう,地上における神のもう一人の代理人たるわが大統領は,心から自由を切望されているのだ。

教授――アメリカの自由は,神の自由ということだな?

大使――友よ,わがアメリカは,自由が世界にあまねく広がり,シャングリラ国も自由の国になることを願っている。アメリカは,自由,市民的権利,民主主義の3原理の上に建国された。これはシャングリラ国の国是でもあるはずだ。

教授――そりゃ,当たり前だ。1990年革命は,アメリカの陰謀でしょう。日本にアメリカ民主主義を押しつけ大成功したのに味をしめ,シャングリラ国にもアメリカ流の自由・民主主義を押しつけたのだ。

大使――勘ぐりすぎだ。多少,応援しないこともなかったが,それはシャングリラ国のためだ。90年憲法体制の下で諸政党と王室が和解し,自由・民主主義を再建しないと,シャングリラ国は残虐非道なマオイストのアナクロ共産制に転落してしまう。アメリカは,今年度は,4千4百万ドルも,二国間開発援助を供与する予定だ。

教授――赤化防止のためか? そういう崇高な目的のためなら,分からないでもない。世界広しといえども,マルクス,レーニン,スターリン,毛沢東を押し立て,革命まっしぐらのコミュニストは,いまやシャングリラ国マオイストだけだからな。

大使――マオイストがアナクロだから,こちらも多少はアナクロ化せざるを得ない。ご理解願いたい。ご指摘通り,巨額援助は,もちろんシャングリラ国赤化防止のためです。マオイストは,シャングリラ国を共産化し,エベレストに赤旗を立て,この高峰から革命を近隣諸国に波及させようとしている。マオイスト・ドミノだ。

教授――外交官離れした率直さ。頼もしいぞ,神国大使!

大使――お説の通り,わがアメリカは自由・民主主義の神国だが,極東の似非神国のように空想にとりつかれたりはしない。わが神ははるかに偉大であり,理念を説かれる一方,現実の勇敢な直視も命じられている。
 シャングリラ国の民主主義はこの12年間で大きく前進したが,腐敗,混乱も経験した。しかし,友よ,これは若い民主国にとっては宿命的な試練なのだ。偉大なアメリカでさえ,建国後しばらくは,政治の混迷に苦しめられたものだ。民主化後の混乱はシャングリラ国だけではない。頑張れば,シャングリラ国もこの試練を乗り越えられるはずだ。

教授――救いのための試練か。マオイストは神の計画を妨害する悪魔というわけだ。

大使――マオイストは,疎外された人民の味方だなどという人がいるが,だまされてはいけない。奴らは,農業集団化(本国の大量餓死を知らないらしい)や階級敵の再教育(知識層の抹殺)を企て,これを南アジアに布教するつもりだ。

教授――そうそう,その通り。奴らは,悪魔だ。

大使――マオイストは,いまだにスターリン,マオ,ポルポトに習い,暴力革命を正当化している。穏健な社会民主主義者と見誤ってはならない。残虐な全体主義者であり,民主主義を守るつもりは毛頭ない。戦術として言葉でなにを言おうとも,根は暴力主義であり,信じてはいけない。これまで暴力で選挙を妨害してきたではないか。

教授――とすると,議会政党は善意の犠牲者だな。なぜ,政党をもっと応援しないのだ。

大使――そこを突かれると困る。議会政党もたしかに悪い。悪すぎる! 腐敗,身内優先,党内権威主義など,年中批判されながら,いっこうに改めず,庶民から見放されてしまった。わが神は,大統領の口を通し,「選挙は民主主義なり」という永遠の真理を,アメリカ的率直さで語られているというのに,困ったことだ。政党どもが,このていたらくだから,選挙そのものへの期待も薄れ,庶民は救世主的指導者の登場を待望するようになったのだ。

教授――民主化途上だから仕方ない。英雄の権威的統治には多くの成功例がある。幸いシャングリラ国には国王がいる。政党がダメなら,なぜ国王を応援しないのだ?

大使――いや,国王もダメだ。2.1政変後の国王政府は,4項目計画で腐敗取り締まり,テロ根絶,財政健全化,良き統治を約束したが,これは言葉だけだ。2大臣が債務不履行者だし,ADBメラムチ調査報告書は無視するし,特別法廷RCCCを使って強権を恣にしている。内閣には,なんと刑事犯罪者さえいる。国王は言葉だけで,行動は伴わない。

教授――何たることだ! 政党ばかりか国王ですらダメということか? とすると,いよいよ民主化十字軍を派遣し,直接統治を始めるのだな。

大使――とんでもない! 民主化十字軍は,すでにアフガン,イラクに派遣しているが,どこも思いの外手こずっている。連日のように,わが十字軍兵士が殺され,国内には厭戦気分が広がり始めた。とても,シャングリラ国まで手が回らない。

教授――要するに,アフガン,イラクほど,アメリカにとっては旨味がないということか? 

大使――「悪の親玉」とのうわさ通り,教授は何でも悪意を持ってみる。そんな,ひねくれた見方は良くない。たしかにダメとは言ったが,まったくダメと見限ったわけではない。
 慈悲深いわが神国政府は,国王政府に対し,市民的自由の回復,政治犯の解放,政党との和解,立憲君主制・選挙民主主義への復帰を呼びかけた。政党に対しては,心を開き,互いに協力し,国王とも和解するように訴えた。

教授――民主化十字軍は出せないので,野合してマオイストと戦え,多少のことは大目に見る,ということだな。

大使――それこそ,下司の勘ぐりだ。国王と政党が手を結び,マオイストを打倒することが人民の願いだ。ただし,どのような民主主義を求めているかは,実は,人民自身はまだよく知らないようだ。

教授――つまり,人民はバカだと言うことか?

大使――バカだとは言っていない。人民はまだはっきりとは気づいていないだけなのだ。ネパール人民の真の意思は,1990年憲法だ。多党制民主主義,つまり選挙だ。

教授――やれやれ,鰯の頭も信心から,選挙崇拝もここに極まれり,だな。アフガンもイラクも,爆弾で地ならししてから選挙をやり,はい民主化完了,のはずだったが,そうは問屋がおろさなかった。そもそもアテナイ民主政においてもピューリタン民主政においても選挙は民主主義ではない。多くの条件が整ったあと,やむなく使用される必要悪にすぎない。そんなものを崇拝するとは,おぬしこそ悪魔ではないのか? 投票箱は,人民の意思を捏造する魔法の箱なのだろう。

大使――投票箱は神聖であり,タネも仕掛けもない。7党が国王と協力し,マオイストと断固対決すれば,いずれマオイストも合法闘争に復帰し,選挙に参加するだろう。そうすれば,投票箱で人民の意思が判明する。「民主主義は選挙された政府である。」

教授――やれやれ。国王専制,政党腐敗,マオイスト全体主義をあれだけ非難しておきながら,さあ皆さん仲良く投票に行きましょうなどといっても,誰が信じるものか。投票したって,投票箱から出てくるのは,ハトではなく,ワシに決まっている!

大使――まさか,そんなことは・・・・。わが神国政府は,投票箱にどう復帰するかは,シャングリラ国人民が決めるべき事柄だと述べている。アメリカは,民主主義のあり方まで命令するつもりはない。が,最後に警告しておく――シャングリラ国は民主主義であるべきだ。直ちに,民主主義に復帰せよ。レトリックの時は終わった。いまや行動あるのみだ。

(この対談は,次の講演にヒントを得て創作したフィクションです。”Ambassador Moriarty Remarks to the Nepal Council of World Affairs,” Embassy of the US, Kathmandu, Aug. 9, 2005)


050822 石油値上げ反対デモ,警官隊と衝突

20日の土曜日に引き続き,日曜にも学生デモと警官隊が衝突し,数十人が負傷,18人が逮捕された。KOLの写真を見ると,投石が散乱し,市街戦状況だ(ちなみに「次へ」をクリックすると,心温まるパラス皇太子帰国歓迎写真となる)。

学生デモの理由は,国営ネパール石油公社(NOC)による石油値上げ。1リットル当たり5ルピー引き上げ,灯油39,ディーゼル46,ガソリン67,航空燃料53ルピーとした。日本より安いが,物価水準を考えると,これは負担が重い。

このところ原油が急騰し,60ドルを超えてもまだ止まりそうになり。これは途上国にとって恐ろしいことだ。先進国,特に省エネ大国日本にとっては,これはビジネスチャンスであり,事実,トヨタは売れすぎて困っている。

ところが,石油急騰は途上国を直撃する。ネパールについてみても,先進国は近代化と称してネパールの石油依存を促進してきた。いまでは,石油なしでは,ネパールの人々の生活は,特に都市部では,困難であろう。石油が高騰しても,先進国は軍事力と経済力で石油を確保できるし,いざとなれば原発,アルコール,太陽光,風力,潮力,地熱等への転換も不可能ではない。途上国には,そんな余力はない。

NOCの石油値上げは,一見すると,原油高騰のためやむを得ないと見え,したがって学生の要求はムチャだと思える。NOCの腐敗は改められるべきだとしても,自由経済であれば,市場価格に見合う値上げは仕方ないし,もしNOC が政策的に価格を据え置けば,税負担は増大し,財政破綻の危険が高まる。そんなことも分からないとすると,学生はバカだということになろう。

また,口をそろえて石油値上げを非難するNC,NC-D,UML等の諸政党は,分かった上で国難を党利党略のために―― いつものように――利用しようとしているのだから,学生より悪質であり,無責任だということになろう。

しかし,先に断ったように,学生がバカのように見えるのは,勝ち組資本主義国の側から見ているからである。彼らは,市場原理による値上げを否定しているのであり,この論理をあと一歩進めると,原理的な反資本主義となり,マオイストと合流する。現実性を棚上げすれば,学生は決してバカではない。

これに反し,許せないのは,諸政党だ。世界的な原油高騰を知りながら,値上げ反対で庶民を煽る。赤字補填をするとして,財源はどうするか? 自分たちが政権にあっても,価格据え置きは可能か? 世銀を初めとする国際金融機関の強力な値上げ圧力(財政健全化要求)をどう回避するか? こんな誰でもすぐ思いつく諸課題を全部棚上げし,反政府を情緒的に煽る。およそ政治家,政党とはいえない無責任さだ。

原油高騰は世界経済の構造変化に伴うものであり,当分,納まりそうにない。マオイストにでもならなければ,スッキリした解決策は得られないだろう。可能性(妥協)の技術たる政治を,ネパールの政治家,政党がどこまで使いこなせるか,そこが問題だ。

(Kathmandu Post, Aug18-19; KOL, Aug20-21)


050821 元の木阿弥

マオイスト反乱を抑え込むため2・1クーデターによりネオ・パンチャヤト体制を樹立したはずなのに,国王政府は非情マキャベリアンにもなりきれず,それを見透かすかのように,またまたマオイストが攻撃を活発化させ始めた。

マオイストは,8月7日カリコット大攻撃のあと各地で作戦を展開し,数日前からは,カトマンズ盆地でも攻撃を始めた。16日にはパタンの駐在所を強力爆弾で爆破した。警官も警備兵も夜間は危険なので(!),駐在所警備を放棄していて,無事。同日,ゴルカナではhead constable(巡査長?)パンチ氏が茶店でマオイスト・グループに首を撃たれ重体。14日にもBouddhaで警官が射殺されている。18日には,軍の元総司令官で枢密院議員のシャムシェル・ラナ氏の自宅(Jorpati)が爆破された。18日にはバクタプルのダーバー広場でも爆発があった。

こうした治安悪化以上に実業界が恐れているのは,企業攻撃の本格化だ。ビラトナガルのReliance紡績工場攻撃(7月17日),多くの製茶工場強制閉鎖,マカワンプルのUnilver工場閉鎖(8月17日以降),そしてビルガンジのJyoti紡績工場攻撃・閉鎖(8月17日以降)等々。

ユニリバーは,多国籍企業で,135人以上を雇用し,製造業では最高納税企業だった。ジョティ紡績は攻撃により1億6千万ルピーの損害を受け,1000人以上が失業した。製茶工場の閉鎖では,12万5千人以上の農民が損害を受けているという。

マオイストの要求は,もちろん人民政府への「納税」。また,ユニリバーに対しては,賃金の25%引き上げも要求している。実業界にとって,こうした不合理な経済外強制は耐え難く,危機感を募らせた商工会議所(FNCCI)は「産業治安部隊」の設立さえ要求し始めた。

国王は国税を私物化して国軍8万人を私兵化し,村は村でそれぞれ「自警団」で武装し,今度は大企業が自前の警備兵を要求している。そして,被搾取人民をまもるのは,もちろん人民解放軍2万人だ。そのうち特権外国人は租界地に移り,本国混成軍に警備されることになるかもしれない。

2・1クーデターは何だったのか? 力で押さえ込むはずが,力の分散になり,ますます危険になってきた。元に戻ってさえいない。

(KOL & Kathmandu Post, Aug16-20)


050813 軍民融合の危険性

グルン軍報道官によれば,カリコット戦の戦死者は43人,不明は75人。これに対し,マオイスト側は戦死者26人と発表。

軍の大敗だが,それ以上に問題なのは,今回のカリコット駐留部隊の構成である。総数230人のうち100人は開発(建設)要員だという。グルン大佐は,このような非戦闘部隊への攻撃は許せないと非難しているが,たとえ道路建設をしていようが,軍は軍であり,内戦状況下では攻撃されても仕方ない。

たとえば,イラクでは,武装勢力側から見れば自衛隊は米軍の同盟軍であり,いくら道路補修や給水活動をやろうが敵国軍には違いなく,当然,攻撃対象になる。内戦状況下では,軍は原則として軍事にのみ活動を限定すべきであり,たとえ善意からであれ,非軍事的な事業にまで手を伸ばせば,軍・民の区別がつかなくなり,軍・民無差別の攻撃を誘発することになりかねない。

そんなことは当然分かっているはずだが,グルン大佐は今後も軍による開発事業を推進するという。なぜか? ここからは推測にすぎないが,軍15万人計画を実現するには,軍には「戦争」以外の仕事がいるからではないか。外国は,開発名目なら巨額の援助をくれる。これを民間ではなく軍に回せば,15万人体制の実現は夢ではない。軍事独裁になれば,開発も当然軍の事業となる。


050811 おぞましい捕虜虐殺

ネパールニューズが,入手した国軍撮影のビデオ映像に基づき,兵士虐殺は事実だと述べている。

人数は不明だが,何人かの兵士は,性器,舌,手足を切断され,そのあと殺害された。また,手足を縛られ,焼き殺された兵士もいるという。

これとは別に,国軍は,捕虜になった40人の兵士が,並ばされ,頭を撃ち抜かれ,虐殺された,とも主張している。

これに対し,プラチャンダ議長は,捕虜40人虐殺を全面否定し,国連人権高等弁務官ネパール事務所の調査に協力すると発表した。ことば通り,調査にはぜひ協力してほしい。

もし虐殺が事実だとすると,何ともおぞましい状況だ。内戦だから敵兵の殺害は仕方ないが,非人道的な殺し方はしてはいけない。殺しても良いが,人道的に殺しなさいということ――これが国際社会の常識だ。

この最低限のモラルさえ守れないと,国際社会に人道介入の口実を与え,鉄砲のタマなど届かない高空から高性能爆弾の雨を降らせ,それこそ人道的に,下界の人道犯罪者どもを抹殺してしまうことになるだろう。「誤爆」による地域住民の犠牲も出るだろう。

(Nepalnewscom,Aug11; KOL,Aug10)


050810 40人以上戦死,地雷も敷設

9日,軍広報部が,40人以上の戦死を確認。KOLによれば,まだ70人が行方不明ということなので,さらに戦死者は増えるかもしれない。建設作業員の状況は依然として不明。

一方,マオイストは軍の応援部隊を阻止するため,一帯に地雷を敷設した。地域住民にとっては,これは交戦以上の脅威だろう。

(KOL, Aug9; International Herald Tribune, Aug10)


050809 カリコットで大規模交戦,死傷者多数か

7日夜,カリコットでマオイストが,カルナリ道路建設のため駐留していた治安部隊を攻撃,駐留200人のうち150人以上が連絡不能となった。

マオイスト声明=KOL(8日)によれば,治安部隊に大打撃を与え,マオイスト側の戦死者は25人という。またマオイスト声明=ロイター(8日)によると,死者は治安部隊159人,マオイスト26人,捕虜となった治安部隊員は50人だという。同地には建設作業員も約100人いたが,どうなったか不明。検閲下で詳細はまだ分からないが,相当大規模な戦闘があったことは確からしい。

こうした戦闘において,両軍の死傷者が気の毒なことは言うまでもないが,軍人はたとえ事情があるにせよ殺人を職務にしているのだから,戦闘による死傷は覚悟の上だろう。

問題は,民間人。カルナリ道路建設がどこの援助事業か知らないが,もし建設作業員がこの戦闘に巻き込まれ,死傷者が出ているとすると,事態はいよいよ深刻だ。治安悪化で軍民共同事業化が進めば,攻撃リスクの大きい軍隊よりも,協力民間人の方がターゲットになる危険性が大きくなる。

治安悪化→軍による開発事業の分担・警備強化→軍・民の区別不明確化→開発事業従事民間人に対する攻撃激化

イラクで日常化していることが,ネパールでも本格化する可能性がある。

(KOL,Aug8; Nepalnewscom,Aug8; Reuters,Aug8)


050808b ミス十代ネパール・コンクール

KOL(8/6)が,1周遅れの世界最先端,ミスコン写真を掲載している。こんなことをしていると,マオイスト女性解放軍に叱られるぞと思いつつ,もう少し見ようとMorePhotoを押すと,パラス皇太子帰国歓迎写真に誘導された。

人間を生物的特性(性,年齢,体つき,血統)により分類するという,高貴な哲学のロマンチックな映像化だ。日本でも同じことだが,金銭欲,権力欲をロマンで飾ると,人民は夢心地で自ら鉄鎖につくものらしい。


050808a マオイストに学ぶ自警団

村自警団VDF=Village Defence Forcesの構想は,2003年11月のCMNC=Civil Military National Campaignに始まる。この計画については内外から厳しい批判を受け,表向きは計画通りには実行されなかったようだが,実際には翌2004年1月にサルラヒ郡にVDFが設置され,武器も貸与された。同様の要望が各地から寄せられていると当時の東部軍司令官が述べているので,おそらく,その後もVDF活動は拡大していったのだろう。

アムネスティ報告によると,2005年2月には,Kapilvastu郡でVDFも加わった攻撃により31人が死亡,708家屋が焼かれた。「それ以後,村自警団は政府,治安部隊の支援を得て,いたるところに活動を拡大していった。・・・・村人たちは自警団のテロに脅され,強制入団させられ,殴られ,家宅捜索され,女性はセクハラを受けてきた。」

同報告によれば,開発予算がVDFに流用され,武器も貸与されている。VDFに140ドル寄付(強制?)すれば,ピストル1丁が与えられる。1家族1名の強制加入,拒否すれば虐待拷問。マオイストそっくりだ。

VDFは軍との共同パトロールを行い,地雷も使用しているという。敵/味方,戦闘員/非戦闘員,戦闘地域/非戦闘地域といった区別は,ますます困難になってきた。

(Amnesty, Nepal: Fractured country, shattered lives, 2005)


050804 自警団におびえる村人たち

軍,警察の力不足を補うため「村落自警団」が結成されているが,アムネスティによると,これらの自警団が村人たちを見境なく攻撃する事例が増えているという。

これは予想されたことだ。相当の訓練を積み,統制もとれ,国際監視下にある正規の軍や警察でさえ,事実上免責特権が与えられている現状では,虐待,拷問に走りがちであり,アムネスティも「軍の拷問は制度化,日常化している」と警告している。

軍・警察にしてそうであれば,自警団が法など無視し,いわば公認暴力団と化し,残虐行為に走ることは目に見えている。そうなると,村人は軍・警察――自警団――マオイストという3暴力集団に包囲され,攻撃されることになり,いよいよ逃げ場がなくなる。

国王政府が自警団支援を打ち出したのはたしか1年ほど前からだ。「正当な暴力行使の独占」を本質とする国家が,自らそれを否定し,国家解体,アナーキーへと先導する。「刀狩り」ではなく「刀ばらまき」。末期症状だ。

(Reuters, Aug3)


050801 バブラム氏復権とスターリン批判

ワシントン・タイムズ(7/30)のインタビューに,バブラム・バタライ政治局員が応えている。スターリン批判を明確化し,民主主義革命を目指すという内容だ。

周知のように,ネパールではスターリン批判は修正主義者どもの反動的策動だとされ,まともに議論されることはなかった。UML事務所にはスターリンの肖像が掛けてあったし,UMLカレンダーにもスターリンが載っていた(本年度版は未見)。

マオイストもむろんスターリン肯定だったが,今回のインタビューによると,「21世紀における民主主義の発展について」(2003)において民主主義革命を目標にすることを明確化し,多党制も認めたという。

インタビューでもバブラム政治局員は,「スターリン時代の歪みを除去した新しい形のプロレタリア的社会主義的民主主義を発展させる」,「封建的君主制を廃棄し,ブルジョア民主主義革命を完成させる」と明言している。

バブラム政治局員は,最近,党内に激しい路線対立があったことを正直に認めている。これは,おそらくスターリン主義的主戦派とバブラム派が対立し,一旦はバブラム派が敗退したが,再び復権したことを意味するであろう。

バブラム政治局員はいう。「ブルジョア民主主義の基本的諸要素,つまり競争的多党制,定期的選挙,普通選挙制,法の支配,言論出版の自由等は,大きな妥当性を持つものだ。われらは将来の民主制の中にこれらを組み込もうと努力してきた。」

このように,少なくともバブラム派マオイストは,ブルジョア民主主義革命を目指している。アメリカ独立革命と同じものだ。とすると,アメリカは,スキャンダル王族や金権政党よりも,いっそうのことバブラム派マオイストと手を組んだ方がよいかもしれない。その方がネパールの民主化は早く実現するのではないか?


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