PNNJ 声  明  English

 ネパール平和構築支援ネットワーク(Peace Nepal Network・Japan/略称PNNJ、2003年設立)は、武力紛争下にあるネパールの人々が一日も早く平和な環境のもとで暮らせることを願い、非暴力と政治的中立の立場から、当事者らによる停戦と、対話による紛争解決を訴えてきました。

 2005年2月1日、ネパールでは国家非常事態宣言に基づき憲法の基本的人権に関わる言論・表現の自由、集会の自由、国内移動の自由、(検閲なき)報道・出版の権利、情報を知る権利、所有権、プライバシー権、予防拘禁されない権利、法的救済権(人身保護を除く)が停止され、現在に至っています。

 PNNJは、アムネスティ・インターナショナルが2月18日付で発表したプレスリリース、ASA 31/019/2005, No.039(日本語翻訳文添付)における、ネパール政府、ネパール共産党マオイスト、国際社会に対する勧告を支持します。

 PNNJは、長期に亘るネパールの武力紛争解決に向けて、これらの勧告が受入れられるよう訴えます。

2005年2月25日
ネパール平和構築支援ネットワーク
共同代表 谷川昌幸

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添付書類(日本語訳)

アムネスティ発表国際ニュース
AI INDEX: ASA 31/019/2005
2005年2月18日

ネパール:長年無視されてきた人権の危機は、もはや破局寸前である


(デリー)アムネスティ・インターナショナルのアイリーン・カーン事務総長は、2 月1日にギャネンドラ国王が非常事態を宣言してからというもの、ネパールにおいて、人権の破滅的状況が差し迫っていると語った。

「マオイスト(毛沢東派)と軍の武力衝突が長期化し、山間部の人権状況が悪化しました。そして、今や非常事態が宣言され、都市部の人権も悪化の一途をたどっており、ネパールは破局寸前の状態にあります。」 カーン事務総長は、2月10日から16 日にかけてネパールを訪れたアムネスティ派遣団の調査結果を報告し、そのように述べた。

「非常事態により、治安部隊の権限が強化され、和平に向けた政治プロセスの見通しが薄れ、紛争が激化する可能性が高まりました。このため、人びとがさらに苦しみ、人権侵害を受ける事態へと陥りかねません。」

非常事態宣言直後に逮捕された政治指導者、学生、人権擁護活動家、ジャーナリスト、労働組合運動家は、2週間以上たっても拘禁されたままである。釈放された指導者もいるものの、特に地方において、さらなる逮捕者が出ている。軍が厳しい報道管制を敷き、政治批判を徹底的に弾圧している。多くの指導的な人権擁護活動家、ジャーナリスト、労働組合運動家は、潜伏するか、国外へと脱出した。

「調査団は、行く先々で、人びとの間に深い恐怖感、先行き不透明感、不安感が蔓延しているのを目の当たりにしました」とカーン事務総長は証言した。

「ネパールの活発な市民社会は今回の非常事態によって力を失っています。軍の行き過ぎやマオイストの残虐行為を暴き、非難していた人びとは、今や言論を封じられているのです。このような事態は免責を助長するだけで、治安部隊、マオイスト双方による人権侵害の一層の悪循環を招き、ネパールの一般の人びとにとって破滅的な結果をもたらすでしょう。」

アムネスティ・インターナショナルは、最近の報告書の中で、2003年8月の停戦崩壊以降、拷問、拘禁、失踪、強制的立ち退き、誘拐、国際法違反の殺害などの人権侵害の規模が大幅に拡大したことを明らかにしている。アムネスティ調査団は、ネパールガンジ、ビラトナガル、カトマンズ刑務所を訪問し、強かんの被害者、子ども兵士、拷問被害者など、治安部隊およびマオイストによる人権侵害を最近受けた人びとと対面した。

カーン事務総長はギャネンドラ国王と私的に会見し、一向に止まない武力衝突のせいで悪化し、今回の非常事態により一層ひどくなっているネパールの人権状況について、アムネスティの深刻な懸念を伝えた。国王はそれに応え、人権を擁護し、ネパールの国際的な義務を果たすと確約した。

「国王は、口約束でなく、自らが任命した政府がその約束をいかに実行に移すかによって、判断されることになるでしょう」とカーン事務総長は語った。

「ネパールの主要な同盟国、および軍事支援国として、米国、英国、インドは鍵を握る存在です。これらの国は民主主義の再建を声高に求めてきました。ネパール政府に対し、人権尊重の保証を要求することにも、同様に重きを置くべきです。ネパールの大多数の人びとにとって、民主主義は、人権が守られない限り、意味をなさないのですから。」

「王室と軍の密接な関係、人権を抑圧し侵害する上で治安部隊が果たす役割、そして非常事態下で治安部隊の重要性が増していることを考えれば、ネパールの人権政策を変えさせるための圧力の一環として、支援国は同国政府に対するあらゆる軍事援助を一時停止すべきです。」

近く予定されている英国外務大臣のネパール訪問について、カーン事務総長は人権や軍事援助の停止に関し断固たる姿勢を示すことにより、英国が欧州連合(EU)における指導力を発揮するまたとない機会だと指摘した。

「時間はもうあまり残されていません。ネパールは悪化の一途をたどっています。国際社会は、過去10年間ずっと、ネパールの人びとを見捨ててきました。もはやそれは許されません。」 カーン事務総長はそのように締めくくった。

●アムネスティ・インターナショナルの勧告:
ネパール政府は
- 非常事態下で一時保留とされた基本的人権を直ちに復活させ、紛争解決に向け、正義と人権尊重に基づいた政治プロセスを開始すること
- 国外に一時退避する人びとが安全に通行できるようにし、またネパール国内にとどまる人びとの安全を保証するなどして、人権擁護活動家、ジャーナリスト、労働組合運動家、その他の活動家を保護すること
- 独立した調査を行ない、軍事法廷ではなく文民の判事による裁判で人権に関する罪を裁くなど、治安部隊の免責に終止符を打つための効果的措置を講じること

マオイストは:
- 自ら国際人道法を尊重すると公約すること
- 民間人を標的にするのを止めること

ネパール政府とマオイスト指導部は:
紛争下のいかなる時であっても人権の尊重を保証する人権協定を結ぶこと

国際社会は:
- 人権政策を変えさせるための圧力手段として、ネパール政府に対する軍事援助を一時停止すること
- 近く開催される国連人権委員会の場で、ネパールの人権状況を監視する特別報告者を任命すること

国連は:
- 平和維持活動に配属される予定のネパール軍が、ネパール国内で人権侵害に関わっていないか検証すること
- 人権擁護活動家を守り、国家人権委員会を支援し、司法を強化するため、国連人権高等弁務官のネパール派遣事務所を創設すること

以上


情報統制強化と平和運動

3月1日,ネパール情報省は布告を出し,事前許可なしの一切の治安関係情報の報道を禁止した。

*禁止されたこと
  直接的,間接的にテロや破壊活動を助長するすべての報道

*取り締まり
 「出版法2048」「放送法2049」により処罰

これは恐ろしい布告だ。たとえば,先日の「ネパール平和構築支援ネットワーク・声明」を報道すれば,逮捕・拘束される可能性がある。あの声明をネパールの報道機関や様々な関係団体に送ろうと思っていたが,この布告で,配布宣伝方法の再検討が必要になった。

布告の直接の対象は,出版・報道機関だが,広い意味ではインターネットも入るだろう。この種の治安維持法は,どのようにでも拡大解釈できる。

むろん,危険だから人権・平和運動をするな,ということではない。危険を見極めた上で,本物の勇気を持って,行動する。この心構えがますます必要になってきたようだ。

(Rising Nepal, Mar1; KOL, Mar2)


バラール教授らの即時解放を

Lok Raj Baral教授(1941年生,政治学)が,2月7日インドからの帰途,TIAで逮捕され,まだ拘束されている。

考え方は私とはかなり違うが,訪ネしたとき,バラール教授は歓待してくださり,有益なアドバイスをしてくださった。そのバラール教授が拘束されている。病身と見えただけに,どのような処遇をされているか心配だ。

それにしても,なぜ逮捕か? バラール教授は政治学教員であり,政治家ではない。大学内で最も政治的でないのが政治学者だ(私もそうだ)。教授は知識人であり,政治活動はしていない。もちろん,私のうかがい知れない理由があるかもしれないが,そうだとするなら,証拠を示すべきだ。国際法は,それを当然の義務として国家に課している。

ネパール大学教員組合(NUTA,約8000人)は19日,理由を告げられないまま拘束されているバラール教授ら7,8名の大学教員の即時解放を要求した。他の教員組合も同様の解放要求を出している。

政争はやむを得ない。非常事態宣言も憲法に規定されているのだから,形式的には合憲だろう。しかし,たとえそうだとしても,理由も示さぬ知識人の逮捕は許されない。また,いかなる場合にも保障されるべき絶対的人権は停止できないのだから,病身のバラール教授をはじめ,同様の境遇にある被拘束者の心身の最低限の安全は絶対に保障されなければならない。

いくら情報遮断しようとしても,現代ではそれは無理だ。現に,はるか遠くの日本の片隅にいる私ですら,こうしてバラール教授の情報を得ている。世界中が見ている。人道犯罪は,決して見逃されないことを忘れてはならない。(2005.2.24)

(Kathmandu Post, Feb18,19; Nepalnews.com, Feb17)


バラール教授,解放!

2月25日,バラール教授,CP・マイナリCPN−ML党首ら,著名人9人が解放された。国内・国際世論の圧力も利いたのだろう。

リアリストは,国際法の無力を言い立てるが,国際法と国際世論の力は決して小さくはない。インターネットのおかげで,国際世論は,あっという間に形成できる。

17世紀の昔,J・ロックは世評の法(として理解された自然法)の最終的なsanctionに期待したが,彼の夢はいま実現されようとしている。

ただし,神はしばしば騙られ,世論は操作される。Vox populi, vox dei――よくよく慎重にしないと,世界全体主義による弱小文化,少数派抹殺に加担させられることになる。そこが難しいところだ。 (2005.2.28)


アムネスティ声明にネ協会も賛同表明を

アムネスティのI・カーン事務局長が,2月10〜16日,ネパールの人権状況を調査し,17日,その結果をデリーで発表した。Amnesty International, Press Release, ASA 31/019/2005, No.039. (→日本語訳声明

アムネスティは長い経験と実績を持ち,その報告はバランスがとれており,私は,これに賛同する。日本ネパール協会も,このアムネスティのネパール人権救済提言を早急に検討し,留保すべき点があれば留保した上で,連帯表明をすべきだろう。ダンマリはよくない。

周知のように,自由や権利は,最も基本的なものから,場合によっては制限されざるを得ないものまで多種多様だ。たとえば,奴隷的拘束は絶対禁止だが,財産権は大幅な制限が許されている。

ネパールのような非常事態になった場合,われわれがまず保障要求をしなければならないのは,戦争・内戦であれ非常事態宣言下であれ絶対に侵害されてはならない最も基本的な人権だ。それら以外の自由や権利は,それぞれの重要性の程度に応じて,どの範囲で保障するかを決める権利が,各国政府に認められている。たとえば,土地所有権は,各国ごとに制限を課しており,たとえ社会主義により個人所有を全面禁止しても,それは許されるべきことだ。

現在はまだ,国際社会と主権国家,国際法と国内法という二重の権力関係,規範関係があるので,それを無視して行動することは許されないし,よい結果も得られない。

主権国家の自由に任されている部分にまで,「人権」の名で介入すると,内政干渉になる。よく注意しなければならないのは,先進国が自分たちの価値観,規範,制度を正義,人権,民主主義と同一視し,制裁で脅し,途上国に強制することだ。善意の人権・平和・開発関係者は,善意を信じれば信じるほど,この陥穽に陥りやすい。自戒したい。

ネパールについても,われわれは,ネパールの人々と国家を本当に尊重するのであれば,精神的,物理的強制をちらつかせ,内政干渉,文化侵略をするようなことは厳に慎まなければならない。ネパールが,人民民主主義を採用し,私有財産を全廃しても,それはネパールの人々の選択であり,人権侵害には当たらない。

アムネスティは,西洋偏向がまま見られるが,基本的には,国際社会が強制力を使ってでも守らなければならない人権と,そうでない人権を区別し,行動しようと努力している。ネパールについても,そうだ。

アムネスティ声明は,次の要求を列挙している。

*ネパール政府に対して――
・非常事態宣言により停止された基本的人権の早急な回復と,紛争解決への政治的努力の開始
・人権活動家,ジャーナリスト,労働組合活動家等の人権保障
・治安部隊の無処罰を撤廃し,人権侵害を独立の検察・司法により裁くこと

*マオイストに対して――
・国際人道法の遵守
・民間人を攻撃しないこと

*政府とマオイストは,人権保障のため「人権協定」に同意すること

*国際社会に対して――
・軍事援助の停止
・ネパール人権特別報告官(Special Rapporteur)の任命

*国連に対して――
・ネパール国内で人権侵害に関与した部隊をPKOに雇用しないこと
・国連人権高等弁務官の下にネパール人権委員会を設置して,人権活動家の人権を守り,NHRCを支援し,司法権を強化すること

以上のアムネスティ声明は,人権の軽重,強制力の使用方法をちゃんと区別している。最後の部分のNHRCはネパール議会設置機関であり,私は機関そのものを無条件に支援するわけではないが,少なくとも現在のところNHRCの活動は適切であり,非常事態宣言下における人権救済にとって不可欠のものである。私は,このアムネスティ声明に賛同し,支持する。

この種の声明は,完全に意見一致というわけには行かない。それぞれの団体,個々人が,留保する部分は留保した上で,基本的趣旨に賛成なら,積極的に賛同し,平和・人権実現への意思表明をするのがよい。

日本で一番権威のある「日本ネパール協会」にも,ネパールの平和・人権のために,ぜひ賛同表明をしていただきたい。(2005.2.18) (一部修正,2005.2.26)


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